第5回 未来社会創成フォーラム ―低炭素社会に貢献する材料技術の最前線と展望- が下記にて開催された。
日時:2017年6月2日(金)13:30~19:30
場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス63号館2F-03, -04, -05室、及び1F-Rohm Square
主催:早稲田大学 先進理工学部 応用化学科
早稲田応用化学会
参加数:参加企業/団体/組織等総数=40
フォーラム参加者(講演者は除く)=71名 (内 応用化学科OB/OGは10名、14%)
応用化学科研究室の参加学生・教員=48名
1. 今回のフォーラムについて
「未来社会創成フォーラム」は平成25年に第1回を開催し、今回で第5回目を迎えた。
(未来社会創成フォーラムの趣旨は、こちら)。
今回のフォーラムは、早稲田大学応用化学科創立100周年記念事業の1つとして開催されたもので、Worldwideな対応が必要とされている「地球温暖化対策のために実行すべき低炭素化と、それを支える材料技術」をテーマとして設定し、従来のフォーラムと同様に産学官の各方面から次のような視点に立った講演が行われた。
今回のフォーラムは応用化学科 野田教授が主管となり、また先進理工学部 若尾学部長を講師としてお招きする等、産学官の多彩な講師陣にて多方面からの切り口により本テーマに関する講演が行われた。
2. 今回のフォーラムのプログラム
1) 13:30-14:15
「航空機用炭素繊維複合材料の開発と多用途展開」
大皷 寛(東レ株式会社 ACM技術部 航空・宇宙技術室 主席部員)
2) 14:15-15:00
「リチウムイオン電池黒鉛負極材の開発動向と将来展開」
西田達也(日立化成株式会社
機能材料事業部 開発統括部 蓄電摺動材料開発 部長)
3) 15:00-15:45
「 材料とデバイスの革新を目指した萌芽技術:
カーボンナノチューブ・シリコンと蓄電池・太陽電池」
野田 優(早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 教授)
**15:45-16:00 休憩
4) 16:00-16:45
「太陽光発電におけるシステム技術の現状と展望
~さらなる大量導入に向けて~ 」
若尾真治(早稲田大学 先進理工学部 学部長、同研究科長)
5) 16:45-17:30
「低炭素社会創成に向けた新しい素材産業の戦略」
井上悟志(経済産業省 製造産業局 素材産業課 革新素材室長)
6) 17:30-17:45 おわりに
松方正彦(早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 主任教授)
##18:00-19:30交流懇親会(名刺交換および質問・懇談):63号館1F-Rohm Square
3. 各講演の内容について
参加者には各テーマの講演の内容を一冊に纏めた要旨集が配布され、各講演は基本的にそこに記載された内容に沿ってご説明頂いた。ここでは各講演における概要を記した。
1) 「航空機用炭素繊維複合材料の開発と多用途展開」 大皷 寛 主席部員
大皷 寛氏
炭素繊維の開発の歴史、市場の現状(航空機中心)から今後の展開まで、幅広く講演を頂いた。炭素繊維の素材本体の構造制御と高強度化に加えてマトリクス樹脂および犠牲粒子層などとの複合化など、技術的な積み上げにより多くの課題を解決し航空機への本格採用を実現した経緯は、我が国のものづくりの強みの根源を理解する上で貴重であった。また、現在注目されている航空機での省エネルギーと低炭素化に加え、風力発電でのブレードによる創エネルギーや建築物の構造体による快適・安全など多様な展開があることが限られた時間内で紹介され、他の追従を許さない世界トップの材料技術は東レという大企業の事業の新しい柱になることが良く分かる講演であった。
2)「リチウムイオン電池黒鉛負極材の開発動向と将来展開」 西田達也 部長
西田達也 氏
リチウムイオン電池と負極の開発の歴史、市場の現状(モバイル中心)と今後の予測(自動車)まで、幅広く講演を頂いた。リチウムイオン電池は日本発の技術で当初は日本がシェアを独占していたものの、中韓との厳しい競争にさらされていること、日立化成も厳しい競争の中で日進月歩の高容量化と高出力化により負極材料のトップシェアを維持してることが紹介された。高容量化は充填率向上により可能だが、一方で空隙減少と黒鉛の面内配向化により低出力化を招くこと、このトレードオフを面直配向という理想ではなく不規則化という現実解で解決した技術思想も紹介された。更なる高容量化に向けた新材料の動向やそれに対する取り組みなど、トップを維持するものづくりの在り方が良く分かる講演であった。
3)「 材料とデバイスの革新を目指した萌芽技術:
カーボンナノチューブ・シリコンと蓄電池・太陽電池」
野田 優 教授
野田 優 教授
注目を集める新材料の概略と実用化への取り組み、蓄・創エネルギーの革新を目指した萌芽技術など、大学の最新の研究開発の一端が紹介された。カーボンナノチューブに期待される多様な応用、製造技術の現状と課題、および高速高収率な独自の合成技術が紹介された。また、リチウムイオン電池や電気化学キャパシタの現状、新材料の適用の際の課題、ナノチューブを基盤とした新構造の電池の構想と開発状況が紹介された。現在の太陽電池技術の概略、鍵となる高結晶性シリコン膜の独創的な高速製膜技術、簡易なシリコン-ナノチューブヘテロ接合の萌芽技術とフレキシブル太陽電池への挑戦の状況が紹介された。低炭素化とそれを担う材料技術の次の一手と、1を100にする化学工学の貢献と展開が分かる講演であった。
4)「太陽光発電におけるシステム技術の現状と展望 ~さらなる大量導入に向けて~」
若尾真治 学部長
若尾真治 先進理工学部学部長
太陽光発電の世界情勢と我が国の現状・課題から、更なる大規模導入と電力安定供給まで、包括的な視点とシステムの立場から講演を頂いた。海外での太陽光発電の急速な低コストと我が国の割高な現状、その低コスト化に向けた多様な取り組みの重要性、今後の目標、および太陽光発電以外への多角化の重要性などが説明された。また、太陽光発電の大規模導入に向け、狭域および広域での異なる問題、電力システム全体での安定化、負荷追従制御から負荷予測制御、さらには柔軟なシステム設計のための蓄電技術の重要性なども解説された。化学が担う材料・デバイスのハードを社会で活かすソフト・システム面と、両者の協働の重要性が良く分かる講演であった。
5)「低炭素社会創成に向けた新しい素材産業の戦略」
井上悟志 室長
井上悟志 氏
低炭素化と材料技術の具体論から、オープン・イノベーションの方法論まで、幅広く経済産業省の戦略を講演頂いた。まず、低炭素化での環境制約と成長の両立の重要性と、それに対するマルチマテリアル化の機運が紹介された。続けて、川上の素材企業に対して積極的・主体的な提案を期待する川下のユーザー企業の要望と、そのためのオープン・イノベーションの重要性と大企業の抱える課題が紹介された。それに対し、材料の革新ではなく材料による革新という考えが示され、研究開発の加速のためのシミュレーションやAIの重要性が説明された。最後にSociety 5.0を実現するためのConnected Industriesというパラダイムが解説され、経済産業省の戦略が良く分かる講演であった。
6)「おわりに」 松方正彦 主任教授
松方正彦 応用化学科 主任教授
フォーラムに御参加いただいた方へのご挨拶と御礼、および応用化学科の紹介があった。
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4. 講演後の交流会について
各テーマの講演の後、63号館1F-Rohm Squareに場所を移して名刺交換・質問・懇談等による活発な交流会が行われた。講師側としては講演で伝え切れなかった情報の提供、また参加者側としては聴講だけでは不十分と感じた情報の獲得が出来たのではないかと考える。また、当然ながら今後進展が期待される新しい人と人との繋がりが得られたと考える。
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5. 総括
各講師の講演とも本フォーラムの趣旨に沿った広範囲のもので、且つ本フォーラムのテーマにあるように「最前線」の情報を盛り込んだものであり、参加者に対して極めて説得力のある講演が行われたと考える。従ってこれまでの4回のフォーラムと同様、「研究活動の価値ある展開と研究成果の社会への還元」というフォーラムの目的達成のために、今後大いに貢献することを期待したい。
<参加者よりのアンケート結果概要>
本フォーラムの参加者にはアンケートの記入をお願いした。特筆すべきコメントの幾つかを下記する。
*先端材料の知見を得ることができた。
*他企業との交流が図れた。
*開発、研究、世の中の動きが見えて、バランスのあるフォーラムだと思う。
*産官学の講演をまとめて聴講できた。
*中・長期かつ広い範囲の視点やアカデミックな内容に触れることができた。
~~等々
総じて、前回と同様参加者には本フォーラムの趣旨について認めて頂き、開催が有意義であったことについて賛同が得られたと考える。
その他多くの参加者から、本フォーラムに対する好意的なコメントや、今後もこのような企画を期待する旨の言葉をいただいた。
(文責:未来社会創成フォーラム実行委員会)