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第36回早桜会懇話会報告

第36回早桜会懇話会を2021年2月6日(土)にWEB形式(ZOOM)にて開催いたしました。今回の講師には野田優先生(早稲田大学大学院先進理工学研究科 応用化学専攻 教授)をお迎えし、持続可能なモノづくりとヒトづくりというテーマでご講演頂きました。

 昨今のコロナ禍の影響でのオンライン講義、オンデマンド講義の取り組みのお話をして頂き、良い面もあったことなどをご説明して頂きました。2021年度は対面を増やしていく予定である中、このコロナ禍での教育の取り組みを今後どう活かしていくかについては質疑応答の時間でも活発に議論が行われました。

 また野田先生の現在の研究テーマであるカーボンナノチューブについてご説明して頂きました。豊富な資源から高機能なナノ材料を実用的に創り社会を支えたいという先生の研究理念は持続可能な社会の実現に向けて重要なまさにタイムリーな内容でした。自分で考えて道具・装置から作るものづくりの研究を推進されており、普段我々が仕事を進めていくうえでも参考になる内容でした。また、具体的な応用事例として高エネルギー密度と高耐熱性を両立した電池の話をして頂きました。

 持続可能な社会の実現にむけては低環境負荷合成が重要であり、LCAによる定量的な評価が必要となります。現在、開発に成功しても社会実装されない技術もある中で萌芽技術の開発と評価の両輪が必要であるというお話は、SDGsという国際社会が共有すべきビジョンに研究開発で貢献するための根幹となる部分だと改めて実感致しました。

 化学工学は実学であり、社会実装されてこそ役割を果たしているといえる中、現在は研究開発と実用化にギャップが生じているというお話がありました。オリジナリティーが強調されすぎているために社会の要請とずれてしまっていることや論文の引用回数で研究業績が評価されるために論文を書くことに終始して社会実装が疎かになっている現状について、質疑応答の時間でも活発な議論が交わされました。

 そのような背景もあり、先端化学知の社会実装研究所(所長:松方先生、副所長:野田先生)のご紹介もありました。多様な考えを持つ人との真剣な議論と協働を行い、大事だが誰にも行われていないことに取り組むことが大切ではないかというお話は流行に流されがちな現代社会に私達全員が心に留め置くべきことだと強く感じました。あらゆる分野で米中が先行し、人口や市場規模では日本に勝機は無いであろう昨今、日本が国際社会で生き残るにはそれが1番ではないかと思います。持続可能な社会の実現にむけて微力ながら私も精進していきたいと改めて感じました。(文責:三品)

【出席者(18名)】

津田實(新7),井上征四郎(新12),前田泰昭(新14),市橋宏(新17),田中航次(新17),岡野泰則(新33),斎藤幸一(新33),和田昭英(新34),原敬(新36),脇田克也(新36),高田隆裕氏(新37),中野哲也(新37),數田昭典(新51),澤村健一(新53),陳鴻(新59),三品建吾(新59),古田武史(新61),桜井沙織(新64)


【講演スライドの一部】


2020年度 学位記・褒賞授与式

応用化学科学位記授与式

応用化学科および応用化学専攻研究科の2020年度学位記・褒賞授与式は、2021年3月26日(金)10時より、西早稲田キャンパス57号館202教室にて式次第に従い須賀 健雄専任講師の司会で執り行なわれました。なお、昨今の新型コロナウィルスによる感染拡大に伴い本会は教職員、主賓及び学部卒業生、修士課程修了生のみ対面での出席とし、父兄、関係者はオンラインでの参加となりました。

司会 須賀先生

  • 学士学位記授与

黒田・下嶋・和田研究室(片山 穂南以下11名)、菅原研究室(江波戸 直也以下10名)、小柳津・須賀研究室(相田 郁馬以下14名)、松方研究室(稲村 翔以下8名)、関根研究室(七種 紘規以下8名)、木野研究室(卯野 宏幸以下9名)、桐村研究室(新井 菜月以下9名)、細川研究室(井田 友里花以下9名)、山口研究室(上部 耀大以下8名)、本間・福永研究室(高橋 士以下11名)、門間研究室(伊藤 陸哉以下8名)、平沢・小堀研究室(青木 優真以下14名)、野田・花田研究室(蛭子 蒼太以下11名)、社会文化領域(笹谷 実夢以下3名)以上133名

  • 修士学位記授与

黒田・下嶋・和田研究室(岡 洋介以下12名)、菅原研究室(伊東 泰河以下5名)、小柳津・須賀研究室(⼤和⽥ 毬加以下10名)、松方研究室(五⼗嵐 怜以下11名)、関根研究室(伊東 ⼀陽以下7名)、木野研究室(荻野 綾花以下6名)、桐村研究室(飯塚 恭平以下8名)、細川研究室(キム ジェヒョン以下8名)、山口研究室(稲⼭ 奈保実以下9名)、本間・福永研究室(⼯藤 亮介以下7名)、門間研究室(榎本 拓⺒以下9名)、平沢・小堀研究室(太⽥ 俊平以下7名)、野田・花田研究室(⾚⽊ 夏帆以下13名)、以上107名 (+ナノ理工学専攻 応化教員が指導6名)

学位記授与式

 

  • 応用化学科褒賞授与式 

応用化学科主任・小柳津研一教授

授与式次第

「応用化学科褒賞は、2013年に設定されて今年が第8回になり、卒業生の中で功績のあったと考えられるものに授与される」との説明があったあとで、授与式が行われました。

応用化学科4年:鈴木舞

褒賞授与

化学の尊さを熱心に指導して下さった先生方への感謝、実験では講義で教えて頂いた知識の反映、実験操作に加えて事前講義や安全性講義などで多くを学び、レポート作成には多くの工数を割いたものの事前課題や考察のために文献を調べることで未知の科学知識に触れることも出来ました。研究室では研究の難しさに直面することもあったが先生方や諸先輩方のアドバイスで困難を乗り越え、自ら考えることで研究の本質を学びました。今後も一層の努力を重ねて社会に貢献できる人材へ成長したいと考えていますとの言葉を頂きました。 (詳細 ⇒ こちら

  • 祝辞

応用化学科主任・小柳津研一教授

小柳津先生祝辞

応用化学科、学科主任として皆さんに心よりお祝いを申し上げます。
皆さんが入学された時には、応用化学科の歴史を述べ、また将来を担う人材となって頂きたいとの希望を述べさせて頂いたが、本日を迎えて皆さんが期待した通りの「研究者としての顔」に成長されていることが伺え、教員の立場として頼もしさと満足感を得ています。昨今の技術革新を考えると、少し前までは想定していなかったAI等の進化を目の当たりにし、今後も技術の変革の時代が来ることが予見されます。しかしリアルな世界における化学の重要性に関しては不変であり、卒業される皆さんが様々な分野で自分の実力を如何なく発揮されることを確信しています。一方で変革に対する柔軟性も持ち合わせる必要があり、リーダーシップを発揮して率先して成果を出していく人材になってほしい。研究の推進にあたっては強靭な意思と、周囲を同じベクトルに導き成果を出していく人材に育って有意義な日々を送られることを願っています。

早稲田応用化学会副会長 ENEOS株式会社常務執行役員 川崎製油所 下村啓所長

下村副会長祝辞

応用化学科を卒業して35年になります。会社に入ると文化の違いに驚き、改めて勉強することの大切さを痛感しました。実社会においては想定外の事態や段取りが悪くて失敗する様なことも経験しましたが、早稲田で学んだ6年間の経験が生かされていたように思います。現在の私たちを取り巻く環境が大きな転換期に差し掛かっているのを私自身も感じ、これから新たなガス・エネルギーの時代に入る実感がします。
皆さんには、早稲田の応用化学科の卒業生として、変化の時代に中でこれから実現されるであろう素晴らしい世界を作り上げながら頑張って頂きたいと思います。
応用化学会はユニークな組織で、応用化学科の発展に寄与する役割を担っています。既に学生時代から応用化学会の活動に従事されていた方もおり、諸先輩方との繋がりを作って頂きました。卒業生は企業においてもリーダーシップを発揮していただいております。物事を正しく見極めて判断していく訓練を積み重ねて社会において活躍して頂くとともに応用化学会のこれからの発展にも寄与していただければと思います。
今日を迎えることが出来たのには、周りの方々の熱いサポートがあったということを忘れずに、これからも頑張って下さい。

  • 送辞

応用化学科3年 岡順也

応用化学科でのこれまでの勉学やプライベートでの多くの経験を振り返り、後輩として送る立場から指導や相談に適切なアドバイスのフィードバックを頂いたことへの感謝、今後自分たちが後輩を引っ張って行く抱負、また、今年一年が新型コロナ禍という特殊な環境の下で、通常の状況とは異なる大変さを経験しながら、役立つ化学を実践出来た卒業生の未来は明るいものと確信していること、卒業後も自分たち後輩の目標であり続けてほしいことをエールに込めて挨拶されました。( 送辞詳細 ⇒ こちら )

  • 答辞

応用化学科4年 新井菜月

今般の新型コロナ禍の中、授与式を開催頂いたことへの感謝を申し上げます。
この4年間で先生方からのハイレベルな講義や数多くの実験、レポート作成を通じ様々な視点から化学を学ぶことが出来ました。研究室に配属された後は様々な専門的な研究分野において先生方や諸先輩方の指導のもと、今の自分に何が出来るかということを考えながら研究に取り組むことの重要性を認識しました。4月からの針路は皆それぞれになりますが、社会発展への貢献を信念として持ちつつ頑張る所存との力強い所信表明を頂きました。 (答辞詳細 ⇒ こちら )

大学院修士課程2年 田中雄太

濃密で瞬く間に過ぎた6年間でした。入学当初は新たなる学問の世界への期待と膨大な量の実験やレポートへの戸惑いも感じることもあったが先生方の専門性高い授業などを通じて化学の楽しさや奥深さも同時に学ぶことが出来ました。能動的に実験に臨むことを通して人間的成長にもなったこと、研究室に配属になり、現代社会への寄与を志し未知なる挑戦の連続でしたが、先生方や先輩方からの指導、仲間たちと切磋琢磨することで無事にここまでやって来れたように思います。国際学会を含めて対外的な発表の場を経験したことも新たな刺激になりました。自分自身で実験を組み立て多くの方との議論を深めて知識を深化させていくことにより研究成果を社会へ還元することも出来たように思います。
今後博士後期課程に進学するものや企業に就職するものなど方向性は様々ですが応用化学専攻で得た知識や知恵を活かし経験を糧として修了生としての誇りをもって生きていきたいと思います、との力強い宣言を頂きました。 (答辞詳細 ⇒ こちら )

  • 退職教員挨拶

黒田一幸教授

黒田先生挨拶

応用化学科での50年間を振り返り、大学キャンパスの変遷、当時植樹された中庭の木が成長する様を見てきたことと合わせ、それ以前からの変遷を今後の50年に重ね合わせ想定出来ない様な未来を思い卒業生にはポジティブなマインドで向かってほしいとのエールを頂きました。

和田宏明教授

大隈重信が私学で初めて応用化学科を設立して100年目の入学生が今日の卒業生であること、今後100年の礎になってほしいこと、自分自身もオンライン授業など想定外の経験もしたが卒業生の皆さんには想定外のことがあってものそれを乗り越えていく人材であることを信じており、人々より先に憂い最後に皆で喜ぶという「先憂後楽」のリーダーシップを発揮してほしいとのエールを頂きました。

和田先生挨拶

花束贈呈のあと、黒田先生御発声による乾杯(密集密接をさけるためにジェスチャーだけの乾杯となりました)があり、応用化学科4年鷹尾一成さん主導で校歌斉唱を行い閉式となりました。

校歌斉唱

 

第35回交流会講演会の報告

早稲田応用化学会 交流委員会主催 第35回交流会講演会
2021年4月24日(土)15:00~17:00 (Zoomによるリモート開催)

講演者   桜井公美氏  プレモパートナー株式会社 創業者・代表取締役
演題      『デザイン思考で医療機器開発を!』
副題      「テクノロジーPushか、ニーズDrivenか」

講演者 桜井公美氏

講演者略歴

はじめに:
今回は、交流会講演会として初のリモート方式による開催となりました。
参加者:83名(卒業生64名[講演者、先生を含む]、在校生19名)
本講演会には早稲田応用化学会の濱会長、及び講演者の恩師である酒井名誉教授にもご参加頂きました。お二人から頂きましたご挨拶の内容については、本講演会の進行に合わせまして本文の最後のところに掲載させて頂きました。

濱逸夫会長 と 酒井清孝名誉教授

また、本文の後半に記載しましたパネルディスカッションにおきまして、その司会は講演者と同じ酒井研究室出身の吉見靖男先生(芝浦工業大学工学部応用化学科教授、新制40回)にお願いしました。

吉見靖男教授 と 椎名聡交流委員長

まず椎名交流委員長による開会宣言、及び講演者の略歴紹介が行われた後、講演が始まりました。
なお、本講演会におきまして講演者が作成し、説明のために使用されましたプレゼンテーションファイルが応化会HP内の資料庫に格納されています。こちらのファイルも是非ご覧ください。(閲覧には資料庫のパスワードが必要です。)

講演会

医療機器について

医療機器の範疇は広く、非侵襲であるMRIやPETなど診断機器、メスの様な治療上のリスクが小さいものからステントや人工弁の様な体内に植え込むリスクの大きいものまであり、医療現場で使用されるまでの承認プロセスは異なっています。
演者がこれまで携わってきた治療領域や製品は主に循環器内科、心臓血管外科、脳外科などで使用される治療機器で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の厳しい審査を経て厚生労働大臣の製造販売承認が必要な治療上のリスクの大きなものになります。
世界的には医療機器の市場規模は拡大を続けていますが、日本に関しては世界の市場拡大の伸びに比べると直近の5年で3%と微増、加えて貿易収支でも輸入額の伸びが顕著で日本発の機器輸出額が大きくないのが現状です。
厚生労働大臣の承認が必要な医療機器は医薬品と同様に、開発過程が複雑で医療上のニーズを検討、機器の試作にテストを重ねた後に非臨床試験、臨床試験を経て、この間に品質マネジメントも確認しながら承認に到りますが承認後も品質上の不具合の確認など多くの専門家による検証が必要になってきます。従って、開発期間を経て承認に到るまでのプロセスで5~6年、さらに承認後も成長維持から次世代への転換まで5~10年の長いライフサイクルとなる製品開発には

  • 簡単に後戻りできない
  • ニーズの見極めが重要で多くの医療関係者の協力が必要
  • 医学的根拠に基づき開発する
  • 臨床的意義・臨床的価値がないと判断されると承認が取れない
  • 技術力・製品力が市場浸透に不可欠
  • 開発に薬事(承認に向けた審査やPMDAへ提出する資料の取りまとめなど)、品質マネジメントなど専門的知識が不可欠

と言えます。

ベンチャー企業の活用

米国における大手の医療機器メーカーはこれらの複雑な開発プロセスをすべて自前で推進せず、ベンチャー企業を活用しています。大手ベンチャー企業はいくつもの異業種ベンチャーへ投資し、その成果として製品やライセンス、知的財産を買収することで回収しています。それぞれで以下の様な役割や性質分けがされています。

社会環境が大きく変わりつつある状況で従来型のビジネスモデルに固執することなく革新的な商品やビジネスモデルを実現していくためには自前主義からベンチャー企業への投資や買収、売却により他社技術の積極的活用によるオープンイノベーションの発想が重要になります。

昨今の医療機器のトレンド

体に装着できるウェアラブル医療機器が市場に新しいトレンドを生み出しています。
治療用機器としてはリハビリ用、呼吸器治療用、疼痛管理(ペインマネジメント)や糖尿病治療としてのインスリンポンプなど、診断機器としては胎児、睡眠、神経、バイタルサインなどのモニタリングを行うウェアラブル機器が開発されています。例えばアップルウォッチに搭載出来る心電図や心拍数を計測するアプリケーションも医療機器として認可されています。
また、AIの活用も重要な視点になります。健康維持や病気予防には、診断機器と健康データや生活習慣データ(ビッグデータ)へのAIの活用、治療期においては検査や診断支援としてのAI活用や、論文、集積された個別の症例データへのAIの活用による新薬開発の加速化などがあり、既に胸部CT、脳MRI、消化器内視鏡による病変検出に応用が進んでいます。

日本の医療機器開発事情

米国では、ベンチャー企業に対して、製品の開発段階に応じ、ベンチャーキャピタルからの投資やベンチャーが創生した技術を孵化させる(インキュベーション)など必要な支援が実施される体制が出来ているのに反して、日本においてはベンチャー企業がとても少なく、投資環境も支援体制も十分に整っておらず、米国の様な成熟した分業体制は確立されていません。従って少数のベンチャー企業を確実に育成していくことが不可欠だと考えられます。

バイオデザインとデザイン思考

バイオデザインは、医療現場のニーズを出発点として、医学や工学、ビジネスなど分野横断的な視点から革新的な医療機器の創出を目指す2001年からスタンフォード大学で開始されたプログラムです。医療従事者やエンジニアなど多彩な人材がチームを形成し、医療現場のニーズを探索しながらその解決に向けたアイデアを出し合い、プロトタイプ開発やその検証を行います。事業化の視点を取り入れて医療現場で実際に必要とされる医療機器の開発を実施することから、スタンフォード大学発ベンチャーは60社以上で、今や270万人以上の患者の治療に寄与しています。
このバイオデザインの根幹にあるデザイン思考とは、問題解決に向けた従来の分析思考(カイゼン思考)と異なり、プロセス自体や新しい価値を生み出すことを本質とした課題解決のための設計方法で、目的を設定してそのための攻略方法、戦略を立てていくやりかたではなく、顧客を観察し、ニーズを理解して新たな価値を生み出す思考法になります。

プロセスとしては、

1)注意深く観察し、出来るだけ多くの問題点をピックアップし
2)その問題点を吟味し問題の本質がどこにあるかを見極め、
3)可能な限り多くの解決法を考察し、
4)その中からいくつかのアイデアを抽出して研ぎすます
5)そのアイデアを検証し試作する(プロトタイプの作成)
6)試作品のテストを実施してフィードバックを得てブラッシュアップする

になります。

バイオデザインの取り掛かりとしては、最初の問題点の特定が重要なポイントで、チームは臨床現場に2か月ほど張りつき医療現場を様々な視点から観察したうえで200項目以上のニーズをリストアップします。これを何度も議論をかさねることで解決策を創出していきますが、対象となる患者、ニーズに対してアウトカムをどう評価するかまで明確に定義したうえで個別のニーズについては市場規模や患者や医療従事者へのインパクトなども調査、評価した上でそれらをスコア化(可視化)し最終的に4つほどにふるい分けをしていくことになります。
一般的に、ベンチャー企業は10社中1社しか残らないとされています。しかし、バイオデザインを取り入れて起業したケースでは成功確率が高くなっています(61社中でM&Aまで持っていったのが11社(M&Aまでの中央値が5年ほど)で上市まで進んだのが2社)。

社会貢献の観点からも成功した例として発展途上国の新生児を救う保温器「Embrace」の例があります。
現在、約1500万人の早産児と低体重児が生まれておりそのうち100万人ほどが低体温症のために生後24時間以内に死亡する実態がありますが、体温を保つための保育器は1台当たり2万ドル(200万円)もしていたことから開発途上国では導入が中々進まない問題がありました。そのために安価な(2万円)保育器の製作について検討が行われましたが、実際には安価な保育器を導入しても実際に使用される例が顕著に増大しませんでした。なぜなら、低体温症で死亡する新生児の多くが都市部ではなく医療機関から離れた農村部や郊外に多かったからです。自宅分娩で使用できる装置という観点が重要でした。誰の何を解決したいのかという視点で作られたものが、実際に使われるためには重要である事例であったと思います。
一方で失敗しがちな例として「イノベーションのジレンマ」を紹介します。エンジニアは常に改善を思考していくために持続的なイノベーションの進化が顧客の求めている性能ニーズを超えて行き、この両者の乖離が大きくなってしまう点で、顧客目線での開発を置き去りにしてしまうことによるリスクが増大します。製品開発に必要な視点は人がなぜその製品やサービスを購入して製品をどう使うのかにあり、人間の生活を中心とした考え方が重要です。
私たちを取り巻く環境はAIやビッグデータの活用といった技術革新や、グローバル化にともなう人の流れや高齢化、新興市場の都市化といった人口統計学的属性の変化、技術革新や社会情勢にともなう行動様式の変化など加速度的に進んでいます。課題解決と価値創出のプロセスはより重要なものになると思います。

パネルディスカッション:「未来をつくる人になろう」

司会進行:吉見靖男・芝浦工業大学工学部応用化学科教授
パネラー:西尾博道(M1)、本村彩香(M1)、五十嵐優翔(B4)

※詳細は学生委員会HPに掲載予定の記事を参照ください。

  • 講演を受けて起業に対する意識は

演者からは、「年齢を重ねて考えが変化した。就職当時はバブルで、企業に就職するのが既定路線で、学生だった当時は、起業など想定していなかった。」と。
現役学生からは、「演者の話を聞いて、一般企業の就職を考えているが将来的に環境変化や共同作業する人たちとの出会いのチャンスがあれば多様性が生かせる時代にもなりベンチャーも選択肢になると思う。」とのコメントがありました。

  • デザイン思考について

日本人が得意なところは「戦略思考」だと思う。一つのパイを取りに行く戦略的勝ち抜きのための一定のセオリーに基づいた行動など、日本人は実直に対応していける能力を発揮している様に思います。
「改善思考」については課題解決について検討するプロセスとしてはデザイン思考にも通じる部分があるもののPDCAサイクルを回して現在ある課題を解決してクオリティを高めていく点では、「現在」にフォーカスしたもので、デザイン思考は今ある課題を分析検討してこれからに活かす未来志向の考え方になります。
大学の授業では思考プロセスについて詳細に教えてもらう機会がないかも知れませんが、研究室生活で自分自身が従事している研究の最終的な目的や成果物がどの様に社会で活かされるかを考えながら研究することも大切だと思います。
アントレプレナーシップ教育も大学で取り入れられ始めています。テクノロジープッシュに偏らないように、前向きに起業家精神も身につけてほしいです。

  • 今の普通が将来的な普通ではない

ビジネスの環境は激変しています。現在おこなっている研究開発はそれが結実する頃には既に時代遅れになっているケースもあるので、「未来にこのような状況だったらいいな」といった変化を見据えて将来を考えるのがポイントだと思います。社会環境は自分で変えられるものではないため、起業してから環境変化を意識するようになりました。ベンチャーを立ち上げるとキャッシュフローも自分自身で考えるようになります。中長期的な戦略は短期的なキャッシュフローの影響も受けるため投資のタイミングや成功確率の見極めも考慮する必要があります。これらを解決するには一人の力では出来ないため、チームで動かして行く必要があります。
環境変化の見極めの重要性について、外資系のフィルムメーカーの例を紹介します。その会社はデジタル化の波がくることを予想して他社に先行してデジタルカメラを開発していました。しかし、フィルム市場でマーケットリーダーだったため、自社のコアテクノロジーに固執し、新規技術を封印してしまいました。戦略思考にフォーカスした結果として社会動向についていけなくなったのです。(イノベーションのジレンマの一例)。
大企業がベンチャー企業を買収する際にdue diligenceを実施します。その際には、知的財産がどれくらいあるかという点も重視します。ベンチャーの価値を高めるために、全方向的な視点での考慮と資金援助は不可欠ですが、それをアクセレレートさせるインキュベーターのパワーの必要性を認識しています。自分が今起業してモチベーションが維持できている理由としては、自分の好きなことをやっているという意識と、社会的環境は変えられないがプロセスは変えられるという意識がポジティブに働いているように思います。

質疑応答

Q1 日本の医療機器メーカーが世界上位に入るためには、環境含め様々な課題があると考えますが、その中でも日本企業の強みについて、ご意見頂ければ幸いです。

A1 日本企業もオープンイノベーションに舵を切っているように思います。M&Aや他社で切り離しをされた部門の買収なども進んでいるように思います。新規事業については従来の事業形態からは切り離して考えていく必要があります。品質など日本人の真面目な部分や協調性など日本の強みに成り得る部分かも知れません。

Q2 様々な人や情報に触れることで問題を発見したり、知識・考えを広げていったりすると思うのですが、それらをうまく整理する方法等、ご教示願えませんでしょうか。

A2 他の人の話は積極的に聞こうと考えています。自分自身が知らない分野の話はそれ自体が新しい気付きですし積極的に他の人との交流をするように努めています。「知の深化」と「知の探索」の両方がイノベーションには必要と言われていますが、探索にはコミュニケーションが必須であるので一つのコミュニケーションで一つの学びがあることを意識づけしています。

Q3 アカデミアの方々は論文を数多く出したいと考え、産業は儲けることを第一に考える。アカデミアはコストのことをあまり意識しないが、産業はコストが重要課題になってきますがこの相違をどう解消しますか。

A3 学術で考えることと産業のプロセスは全く違うのでその隙間を埋める必要がありインキュベーターにその役割が課せられているように思います。調整を適切に実施していくにはそれぞれでの経験が双方の立場を理解する上で重要だったと思います。

質疑応答後、恩師である酒井清孝名誉教授からご挨拶を頂きました。

酒井名誉教授からのご挨拶:

酒井清孝先生の挨拶

医療機器の開発において医工連携は重要で米国では医学部のスタッフも工学部など他学部から進んだ方も多いため連携は進みやすいが日本では厳しい面もあったことを踏まえて演者へ熱いエールが送られました。

本講演会の最後に、早稲田応用化学会の濱逸夫会長からご挨拶を頂きました。

濱会長からの閉会のご挨拶:

濱会長の挨拶

本講演について演者、関係者への謝辞とともに自社戦略でもデザイン思考について検討していた経験についてコメントを頂き、また学生向けメッセージとして多くの方とコミュニケーションをとって知見を広めて知識の探索も深めていただきたいとのエールも頂きました。

 

――― 以上 ―――

(文責;交流委員会)

2021年度早桜会総会議事録

2021年度早桜会総会議事録

日時:2021年4月10日(土)14:30~15:00

会場:オンライン(ZOOM)にて実施

出席者:20名
関西支部:
津田實(新7回), 島雄(新7回),井上征四郎(新12回),前田泰昭(新14回),市橋宏(新17回),田中航次(新17回),井上昭夫(新17回),岡野泰則(新33回),斎藤幸一(新33回),和田昭英(新34回),脇田克也(新36回),高田隆裕(新37回),中野哲也(新37回),髙島圭介(新48回),數田昭典(新51回),澤村健一(新53回),陳鴻(新59回),三品建吾(新59回),古田武史(新61回),桜井沙織(新64回)  議長:
議案の前半(3)まで田中2020年度支部長、後半(4)以降斎藤2021年度支部長

議案
(1)2019,2020年度事業活動実績報告
[2019年総会及び特別講演会]:
       2019年3月16日実施(神戸大学六甲)
       講師:早稲田大学応用化学科 松方正彦教授、和田宏明教授
       演題:早稲田応用化学科100年史
[2020年度総会]:
       2020年9月26日実施(第1回役員会にて代替しZOOMにて実施)  [2019年度講演会]:
       2019年9月28日実施(中央電気倶楽部)
       講師:JXTGエネルギー 原敬氏(新36回)
       演題:石油精製技術の歴史と今後の展望 
[2020年度講演会]:未実施
[2019年度懇話会3回] (中央電気倶楽部)
       2019年6月1日
     講師:高田隆裕氏(新37回 村田製作所)
       演題:(株)村田製作所の電子部品とそれを支える材料技術
       2019年12月7日
    講師:前田泰昭氏(新14回 大阪府立大学)
       演題:原料をカスケード利用して軽油より安価なBDF (バイオディーゼル燃料)とバイオマス化成品を製造するプロセスの開発
      2020年2月15日 
      講師:市橋宏氏(新17回 元住友化学)
      演題:小学校理科教育の現状と課題
[2020年度懇話会2回] (ZOOM)
      2020年10月31日
      講師:岡野泰則氏(新33回 大阪大学)
      演題:当世学生気質
     2021年2月6日
   講師:野田優氏(早稲田大学)
     演題:持続可能なモノづくりとヒトづくり -化学工学者の試み-

 →2019年第1回以外は役員会も同時実施
 [中部支部との交流] :
     2019年3月26日 支部幹部意見交換会実施
     2019年4月6日 中部支部総会出席

(2)2019, 2020年度予算実行報告
    2019年・・・予算:198,000円,決算:88,025円
 2020年・・・通信費で460円

(3)関西支部(早桜会)役員改選
2020年度役員は本日をもって任期満了になることから、田中支部長より新役員候補として下記各位の推薦があった。

支部長:斎藤幸一(新33回)
副支部長:和田昭英(新34回)
監事:中野哲也(新37回)
事務局長:澤村健一(新53回)
理事:脇田克也(新36回),高田隆裕(新37回),數田昭典(新51回),陳鴻(新59回), 三品建吾(新59回),古田武文(新61回),桜井沙織(新64回)田中現支部長、市橋現副支部長は2021年度より顧問に就任

(4)2021年度事業計画
     2021.4.10 総会, 特別講演会(本日開催)
     2021.9~10 講演会(講師:新46回 大宮氏)
     2021.6, 2021.12, 2022.2の計3回懇話会及び役員会を実施予定
      ※2021年6月の中野氏の懇話会では哲学をテーマにした懇話を予定(6/26を候補日)
     ※中部支部会、懇親会に支部を代表して2名派遣予定

(5)2021年度予算(案)
2020年度予算案と同様に198,000円にて申請

議案はすべて承認された。

以上

 

卒業生へのインタビュー(第2回)

北九州アッシュリサイクルシステムズ(株) 山形武さん

卒業生へのインタビュー企画:
多くの応用化学科卒業生が社会に出られて活躍されています。実社会での経験は業種や職種によっても様々であり、卒業生の体験談は実社会で日々活躍されている卒業生の新たな視点への着眼点になったり、在校生にもこれから進むべき未来において貴重な体験が含まれていると思います。 そこで、各方面で活躍している卒業生に現在の自分の立ち位置について語っていただくとともに、インタビュー形式をとることで現役学生を含めた各世代の応化会会員間のコミュニケーションラインの構築と、社会における経験値をほかの卒業生にも共有していただくことを目的とした企画になります。

山形武さんには、近年注目されている環境に配慮したSDGs(持続可能な開発目標)に関連したこれまでの取り組みや、企業内起業に際して自らの考えを実現していくための仕事に対する信念やそれを実行するためのキーワード、社内起業後の苦労した点やこれから社会で活躍が期待される若手に向けてのメッセージなど伺いました。

 

山形武さん 《ご略歴》
1994年3月 応用化学科 豊倉・平沢研究室(修了) 1994年4月 三菱マテリアル(株)入社 入社後、北九州の黒崎地区事業所に配属、セメント開発センターで下水汚泥処理事業に始まりセメント事業カンパニーでリサイクル全般の営業・新規事業を模索され、全国のセメント工場のリサイクル営業統括、主に汚染土壌対応に従事されたのちに生産技術部・地球環境エネルギー室にて会社全体の地球温暖化対策の立案実行、太陽光発電事業にも携われました。その間、セメント協会において生産環境幹事会幹事としても活躍されました。 2015年4月 環境エネルギー事業本部のリサイクル事業部・リサイクル統括部の配属となり、現業であるごみ焼却飛灰のセメント資源化事業のプロジェクトマネージャーを拝命 2017年12月 北九州アッシュリサイクルズシステム(株)取締役工場長、2018年4月に代表取締役社長、現在に至る。 行動の規範として「セレンディピリティ」「マドルスルー」「アサーティブ」「セキュアベース」の4つの柱を大切にしておられます。

Q. 会社の志望動機などについてお聞かせください。

A: 学生時代は電導性塗料に興味があり、化学系の学生として化成品製造を担っていきたいという希望もありました。就職時は自分の思いだけではなく事業開発も含めて幅広く自分が活躍できる場を求めるのもいいかも知れないと思いながら社会に出て行きました。

Q. SDGsが定着して循環型社会の実現が企業にも課せられる課題となってきました。これまでの取り組みについてご説明頂けますでしょうか

A: セメント事業に配属となり、SDGsが提唱されるずっと前からセメント工場を活用した埋立処分場の要らないリサイクルに非常に魅力を感じそれを推進したいと思いました。難しい技術ではありましたが、だからこそ挑戦する意欲もわいたと思います。
ロンドン条約で海洋投棄が禁止になった下水汚泥、土壌汚染対策法から産まれた汚染土壌など時代のニーズとセメント工場のシーズがマッチしたリサイクルに取り組んできました。社会的には廃棄物として扱われる物質が素材として社会のために役立つのは素晴らしいことで、常に社会の変化がつきまとう中で自分が持っている知識や技術で何が出来るかを一生懸命考えました。今ではSDGsとして注目されるようにはなりましたがこれは結果としてこれまで自分が手掛けてきたものについてきてくれたものだと思っています。

Q. 仕事に対する信念はどのように構築されたのでしょうか

A: 行きついた仕事に対する信念は、「賢慮」です。
それを実行するためには、「セレンディピティ1)、「マドルスルー2)、「アサーティブ3)、「セキュアベース4)という4つの行動を大切にしてきました。
様々な本を読み、様々な人と出会い、いろいろな経験をして構築されてきたと思います。
もちろん、妻や子供たちの支えに依るものも大きいです。
必要な情報はインターネットで容易に取得出来るようになりましたが、逆に得られる情報の見極めという意味でもセレンティピティは重要なポイントになってくるように思います。また、仕事をしていると開き直りが必要な場面にも遭遇します。従来のやり方に拘らずプロセスをどう構築していくか考える力が求められる場面もありマドルスルーを意識しています。コミュニケーションにおいては、異分野で従事されている方々とも積極的に会話するように心掛けています。自分に足りない武器をどん欲に収集するように努めることでステップアップしていく道が開けると思うからです。
(学生委員からの「研究を進めていくうえでどう実用化を意識していますか」、の質問に対して)消費者を意識しながら最終製品を作るようにイメージしています。さらにその製品がどの様に役立つのかも意識するとそこに到るプロセスも見えてくる様に思います。製品の性能のみに目を奪われないようにする視点が重要と考えています。

1)  セレンディピティ:常に何か目的を意識することで偶然の発見などに結びつくものでポロニウム抽出後の鉱物残渣に強い電離作用があることを見逃さなかったことからラジウムを発見したキュリー夫妻、やノーベルのダイナマイト開発、フレミングによるペニシリンの発見など事例は多い。意識しているとチャンスは必ずやってくるという事例に使われます
2)  マドルスルー:行動することで大きな山を突破することが出来る解決方法でブレークスルーの対極にある課題に対する突破方法で起業に対して深い知己を与える言葉です
3)  アサーティブ:相手の気持ちを尊重しつつ自分の意見を率直に主張できる状態で、誠実、率直、対等、自己責任を明確にしたチームビルディングに欠かせないコミュニケーションスタイル
4)  セキュアベース:挑戦や変化に二の足を踏んだり不安に駆られる状況で安心感を与える場になることで、積極的な行動を通した組織の成長につなげるために有用な概念

Q. 起業後現在に至るまで苦労した点など教えてください

A: 最初は前任者の異動に伴い、それまでの自分自身の経歴から白羽が立った事業ではありましたが、実際にプロジェクトを立ち上げてみると技術の構築だけではなく、組織構築(採用、育成、定着)や集荷のための営業など、何でもやる必要がありました。
特に、歴史のある会社になるほど新規事業に対しては保守的に振り子が振れることもあるように思われ、その中で運よく巡ってきたチャンスに周囲をうまく巻き込んで、社外関係者とのコミュニケーションも構築することで難関を突破することが出来たのだと思います。実際にプロジェクトが頓挫するのではと思うこともありました。スピード的にパイロットプラントを作ることが出来ない事業であったため手探りでプロセス構築する必要もあり、完璧さを求めるのではなく妥協も加えながらとにかく前進することを考えたこともあります。

Q: 今振り返ってみて達成感や楽しかったことも教えてください

A: 現在の組織は専門的な知識を持ったスタッフが配属されてもいますが、現地採用しているスタッフもいます。組織構築の中で、地元採用した人が育ってきたのを実感したり、安全目標である「休業災害ゼロ一年」(現在、2年以上継続中)を達成した時は達成感があります。

Q. 学生時代にもっとやっておけばよかったと思うことは

A: 起業についてもっと勉強すればよかったし、機会を見つけて、在学時に起業すればよかったのかもしれません。研究室時代には恩師が「社長になれ」と説いてくださっていましたが、その当時は自分自身がそのポジションにつくことは想像だにしていませんでした。知識を知恵に変えていくのが大学での研究における違う考え方を持つ人との協業であったりしますのでより広いコミュニケーションラインを作ってもよかったと思います。

Q. 後輩に対して伝えたいことを教えて下さい。

A: 今は、新型コロナ禍により誰も知らない難しい時代になっています。
それでも、Webミーティングなど生の情報を交換する機会はいくらでも存在しますので、まずは行動を起こしてほしいと思います。行動を起こした分だけ何か得られると思います。
実体験の事例ですが、国内では希少な自動車に興味を持ち、いろいろ調べたり買ったら何しようと思いを馳せたりしていると、いつもの通勤路で今まで見たことがない(目に入らなかった)その車種をしばしば見かけるようになったということがありました。アイディアについても同様だと思います。
リサイクル事業に関しては、一時期日本が最先端を走っていた時期がありましたが、現在は北欧にその中心が移っています。リサイクルに対する意識づけなど世界を見てコミュニケーションを取り、知恵を取り入れていくことの重要性を感じています。

インタビュー後記:

山形武さんが分かりやすく、前向きに多くの経験談を語ってくださったことで学生委員の方からもそれぞれ活発な質問があり刺激の多い経験が出来たのではないかと思います。インタビュー後にも、参考になる書籍など学生委員へ紹介頂き、その言葉の一つ一つの重みを体感できたと思います。

(聞き手) B4.西尾博道、B4.伊藤陸哉、B1.庄司萌華、B1.高藤茜、新39.加来恭彦(広報委員)

応化会元会長の里見多一氏 テレビ出演

応化会元会長の里見多一氏(新22回)が代表取締役会長を務める日本パーカライジング株式会社が、今週土曜日のテレビ東京「知られざるガリバー ~エクセレントカンパニーファイル~」で放映されます。
本番組は、世界に誇れる優れた”知る人ぞ知る”日本の企業の姿にスポットを当て、その魅力を伝えるドキュメンタリー番組です。番組中に代表取締役会長として里見多一氏の登場もあります。

放映時間 2021年2月6日(土)18:00〜18:30

放送局  テレビ東京系列 TXNネットワーク(6局)
     テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、 TVQ九州放送 
     https://www.parker.co.jp/news/20210130.html

卒業生へのインタビュー(第1回) アステラス製薬・Rx+事業創生部 向井華さん

卒業生へのインタビュー企画:
多くの応用化学科卒業生が社会に出られて活躍されています。実社会での経験は業種や職種によっても様々であり、卒業生の体験談は実社会で日々活躍されている卒業生の新たな視点への着眼点になったり、在校生にもこれから進むべき未来において貴重な体験が含まれていると思います。

そこで、各方面で活躍している卒業生に現在の自分の立ち位置について語っていただくとともに、インタビュー形式をとることで現役学生を含めた各世代の応化会会員間のコミュニケーションラインの構築と、社会における経験値をほかの卒業生にも共有していただくことを目的とした企画になります。

向井華さんには、一億総活躍の旗印のもと人材活躍推進の制度として整備されているジョブリターン制度*について話を伺いました。転居、留学や介護などの理由により離職を選択された方がそのスキルを活かすために復職できる制度としてもジョブリターン制度は注目されるべきものであり、向井華さんにはその制度活用の先駆けとなった卒業生です。

*ジョブリターン制度は一般的に使われている用語ですが、各企業においては「re-member制度」、「キャリアリターン制度」など会社固有の呼称を用いている例もあります。厚生労働省の調査によると、生産年齢人口は今後20年で約1,400万人減少することが予想されており、企業による優秀な人材の獲得競争がシビアになること見込まれることから企業側でも注目されている制度です。

向井(三沢)華さん 《ご略歴》
1996年 早稲田大学入学 (理工学部応用化学科)
1999年 竜田研究室 配属 (有機合成化学)
2000年 早稲田大学大学院理工学研究科
2002年 アステラス製薬(株)入社 (旧山之内製薬) 創薬化学研究所、知的財産部、ファーマコヴィジランス部を経て2020年より現職

*2013年-2016年:退職期間(再雇用制度・シンガポール在住)、2017年:アステラス製薬へ再雇用登録制度により復職

大切にしていることは、「人/場所/経験、あの時を・毎日を、大切に」、アジア料理や旅行が趣味だそうです。

Q. 向井さんはアステラス製薬を一度退職後にまた復職されていますが、大学に入られた頃から医薬品についての興味などあったのでしょうか

A. 私は早稲田大学入学前から数学やサイエンスに興味があり、迷いなく早くから研究職を希望していました。複雑な化学骨格を構築していくことができる精密有機合成に興味をもち、研修室は有機合成化学の竜田研究室を志望しました。不斉点の導入や天然化合物の全合成や修飾の面白さを研究室で知りました。そこで当時の山之内製薬から竜田邦明先生に開発候補品を見出すための化合物として全合成のご相談のあった化合物(Quinolactacin)を卒業研究対象にすることになったのが山之内製薬への就職のきっかけです。

Q. 産休・育児休暇制度の充実は進んできましたが、ジョブリターン制度はまだ3割程度の企業のみにおいてに導入されている(厚生労働省の「平成29年度雇用均等基本調査」による)段階でこれから整備が進む制度と感じています。アステラス製薬を退職されるにあたり、復職を考えられた経緯について教えて下さい。また、この制度の認知度はいかがでしょうか。

A. アステラス製薬では退職後5年以内に復職を希望し、会社とのニーズがマッチした場合に、退職時に所属していた部署への再雇用の可能性があるいるということを、退職手続きの際に説明を受けていました。復職を希望する社員に対して連絡先を会社に届出しておくことにより退職後の連絡が取れるように運用されています。私自身、アステラス製薬から離れて違う針路を進みたいと思ったことは一度もなく、復職は退職前から希望しておりました。

退職の理由は家族とともにシンガポールへの転居によるものでしたが、その海外赴任も5年以内には帰任となる見込みでしたし、退職中の海外経験を復職時に活かせるのではという発想が私には自然でしたので、新しいことに挑戦したいという気持ちから退職を決意しました。

再雇用登録制度に関してはまだ事例は少ないようでしたが、退職時の元先輩と連絡をとれていたことから私の復職に向けた相談を元上司としてくださいました。復職後、私以外にも再雇用制度で同じように復職された社員たちとも再会することも出来、とても嬉しい経験でした。当時弊社では、退職時に再雇用登録申請フォームが退職届に添付されていたことから、自己都合で退職される社員にはこの制度は知られていたものだと思います。

働き方の多様化で、育児休暇に関しても女性も男性も取得する例が見られるようになりました。育児休暇についても周囲の理解が大切で復帰後も仕事との両立で苦労する点はありますが自分が明るく頑張ることによって家庭内も含めていい影響があると思いますし、私の周囲では夢を諦めてしまう方は数年前と比べてだいぶ減ったように思います。

復職制度につきましても私が知る限りですが数名程度の社員がこの制度で復帰されていると思います。アステラス製薬でも制度そのものは早い時期に導入されていましたが、前例が少ないなか、復職させて頂けたことは大変有難いと思います。

Q. 退職から復職までの道のりについて教えて下さい。

A. 海外生活3年目くらいに帰任が決まり、退職時の元先輩に帰国と復職希望について伝えました。再雇用はキャリア入社と同様、履歴書提出、面接(一次~三次)の審査がございました。一次は在職時の上長、続いて二次は在籍していた部署がグローバル組織でありそのグローバルリードが米国拠点にいましたので、グローバルリードと、最後に三次は人事部門の担当者を交えた面接であり、業務内容や採用に向けた確認に到るまで、各面接での内容はそれぞれ異なりました。復職の確定後、契約社員として半年間の試用期間を経て、正社員に復職できました。

Q. 復職してよかったと思われることは何ですか

A. 数年離れていてもたくさんの同僚、仲間がそこにいてくださっていることが一番よかったです。仕事や職場に慣れるのも早かったと思います。仕事上のコミュニケーションも復職直後からスムーズに進むこともあり、業務の効率もよいと感じています。また、復職後に同期や元同僚などと交流する機会もあり、制度そのものが社内において認知されてきたように思います。

Q. 実際にジョブリターンを活用して何か感じることはありましたか

A. 退職前に在籍していた部署に戻ることになりますので、かつて自分が担当していた業務にひもづいて実戦に戻るまでの勘を取り戻すのは早かったと思います。また、キャリア採用と比べて、ジョブリターンの場合は職場の同僚と復職者が初対面ではないので、相互理解が進んでいることで安心感もあるのだと思いました。

Q. 海外では転職を繰り返してキャリアアップしていくケースが多いように思いますが、その点でも日本のジョブリターン制度は独特な印象がありますね。日本ではキャリア入社(転職者)は採用された部署での業務を継続しているケースも多いように思いますが、復職者のキャリアプランも転職者と同様なのでしょうか。

A. キャリアアップに関しては、キャリアビジョンを部下が上長と相談できる機会があります。また、社内リクルートシステムもあり、人材を必要としている組織、及び応募したい社員が随時、システムを介してお互い連携できるようになりました。日本にいても様々な可能性や選択肢が広がったのではと思います。私も実際に入社後に知的財産部に移籍、また女性が多く活躍している職場としてファーマコヴィジジランス部(注)を希望し、現職についても新たに会社が立ち上げる業務への興味で応募し現在に到っています。
(注:ファーマコヴィジランスは医薬品の副反応(副作用)の情報収集と評価、上市後の医薬品のリスク検証などを行い患者さんへ医薬品を安全かつ適正に使用していただくための知見を構築する業務になります)

Q. 後輩に対して伝えたいことを教えて下さい。

A. 不確実で多様で曖昧な時代のなか、人間は孤立しがちです。様々な制限があるなかでも、機会を逃さずチャレンジや周囲との出会いを大切にしてください。小さな出会いもその場限りのものではなく繋がっていくことで意外なことが数年後大きな意味をもつことがあります。10代、20代で見える世界にはやはり限りがあってその中で自分の将来などを決めていかなければ行けない難しさはあると思いますが、だからこそ果敢にチャレンジすることで多くのものが得られると思います。また、大学時代の過ごし方として、日々のレポート課題や試験対策を早めにやっておくことも大切だと思います。何事も時間的余裕をもって楽しみながら準備する習慣をつけておくとよいと思います。
大学時代の同級生とは日本全国各地で仕事をされている関係で定期的に連絡を取る機会は少なくなってしまいましたが、仲間とのコミュニケーションは社会人経験が長くなるとその重さが実感できる様になると思います。

学生時代にはもっと勉強しておけばよかったと思うこともあります。研究室に入ると実験などで時間がたくさん必要です。空いた時間が少しで勉強することが難しい時期もありましたが、就職後に業務が変わるなどで段々とサイエンスの世界から離れていくようになると、最近の論文を読み直して科学者としての心得を持ち続けていると、自分の専門分野だけでなく幅広い知識への興味が湧いて、自身の生活も楽しくなると思います。

インタビュー後記:
インタビュー当日は、設定させて頂いた設問以外にグローバル化する業務や、今後の目標などについて闊達な議論があり、在校生にも新たな刺激になったのではないかと思います。

(聞き手) B3.甲斐田敬済、M1.内田梨花、LD1.疋野拓也、新39.加来恭彦(広報委員)

第3回応化給付奨学金受給者の集いは今年度は中止いたします

 

本件に付きましては、第2回開催報告でも 本年8月29日(土)に開催予定としておりましたが、新型コロナウイルス感染拡大が収束を見ない中、本集いの目的の一つである 「横・縦の関係構築」のための懇親会(飲食を伴う会合)を行う状況ではなく、来年度以降へ延期とさせて頂きます。
 尚、皆さんもリモートワーク等 新しい常態を模索中とは思いますが、個人レベルでの「横・縦の関係構築」を継続して頂き、再会の時には 更なる成果を語り合えることを願っています。

早稲田応用化学会会長 西出 宏之

岡野光夫氏(新24 東京女子医大名誉教授)TV対談番組出演報告

岡野光夫氏(新24 東京女子医大名誉教授)は7月11日、18日(再放送)、BSテレ東において「最先端医療から考える前例主義とイノベーション」と題して対談番組「一柳良雄が問う 日本の未来」に出演されました。以下その趣旨を報告します。

岡野光夫先生には、応用化学会第4回交流委員会講演会(2006年3月22日、早稲田国際会議場)でご講演を頂いております。
本番組においては岡野先生の現在の活動状況として、再生医療としての細胞シートを用いた従来の医薬品に依らない疾患の根本治療のための研究を継続されていることを説明され、細胞シートを三次元に積み重ねていくことにより臓器の代替としても使用可能になること、また一つの細胞から多人数への移植も可能とする臨床実験も開始していることを説明されました。

ユタ大学CSTEC提供

医療におけるテクノロジー活用の重要性

外科領域において「神の手」を持つスーパー外科医の技術に治療を委ねていたようなものも、5、6年の教育期間を経て神の手を持つ外科医の養成と手技の向上に外科医の視点が集中すると、その技術を支える周辺のテクノロジーへの注意が鈍化してしまうことへの懸念、日本の医学において医療技術の産業化という視点が弱いことを岡野先生は述べられておりました。テクノロジーが多くの患者を救うことにより医療も進歩していくという視点は斬新でした。
日本には技術の種は多く優秀な研究者も多いが、これらの種をどう使っていくかという戦略はこれから考慮していく余地があり、異なる分野の技術の組み合わせによる再発明は重要とのことでした。

将来的な視点

内視鏡など日本の技術が海外に進出している分野がある反面、人工呼吸器や手術用ロボットといった医療機器、医療デバイスについては欧米の製品を導入するのがまだ日本においては主流である。
日本には技術そのものはあるが医療機器の創生などへ日本のシステムはまだハードルが高く、医療システムの変革が必要。ただ、日本においては日本医療研究開発機構(AMED)といった新しい組織、システムを作る環境整備が進みつつあり意識改革は進んできているように思う。

日本人は前例のあるものについては緻密で高度な回答を作成していくが、現在の様に社会構造が変革する時期において前例主義に捉われない発想を進めていく教育の必要性についても不可欠である。細胞に関してはこれまで医薬品という概念で考慮する土台がなく、人、場所、資金の確保を戦略的に仕組み立てしていくのが国家の対応で重要だが日本人は従来から非連続的な進化についての対応が弱く、欧米との大きな違いがある様に思う。先端医療はグローバル展開していかないと進まないので、日本の技術を活かす為に欧米との連動による産業化への活動も重要とのこと。
研究成果においては従来の成功体験や規則に基づいて評価される傾向はまだ残っており自由闊達な議論と長期的な戦略として医学専門家が新しいテクノロジーを学習、あるいは医師とエンジニアが一体となって新たな治療法を考えることが重要。そのためには長期的なゴールを設定して目標達成のための異なる分野の専門家との連携を、より強化していく必要がある。

医療においては現在でも治癒不能とされる疾患領域が存在し、現在の技術で現在の患者を救命する医療と、治癒できない未来の患者を救命していく医療との融合が全体的な医療として求められている点であり世界に誇れるシステムを作っていきたい。そのためにはまずは岡野先生自身が風穴をいま開けて、次の時代を牽引する人材やテクノロジーの育成につなげて行きたいということを強調されていました。

文責:広報委員(新39 加来恭彦)

 

新制36回オンライン同期会開催報告

新36回 On-line同期会

2020年6月27日(土)開催

6月27日(土)に1986年学士卒業および1988年修士修了の新制36回期は、2017年の第1回同期会から3年振りにZoomを利用したオンライン同期会を開催しました。
今回はメールで連絡が取れる仲間に協力してもらい、語学クラスや研究室の仲間に連絡を取り合ってもらう事で連絡網を作成しました。
同期120名のうち約50名の連絡先を確認し、最終的に17名の参加となりました。
オンライン同期会は、遠方の仲間が気軽に参加出来る点が最大のメリットであり、卒業以来久しぶりに再会した仲間、学生時代あまりお付き合いのなかった仲間とも話すことも出来て楽しく有意義な会となりました。
皆さんから卒業以来の業務、趣味、家族、運動不足解消で始めた運動、転職、応化会活動、コロナウィルス対策などの近況報告があり、予定の2時間はあっという間に過ぎて、有志でさらに1時間延長して歓談しました。
「つながる」というのは大事で、久しぶりに仲間と連絡を取り合えた事は、コミュニケーションを広げる意味で大きな成果だったと思います。
今後、同期会で飲み会、ゴルフ、早慶戦観戦など交流活動のリクエストもありましたので、企画して参りたいと思います。
今回参加出来なかった同期の皆様、次回は是非ご参加ください!
(参加者(敬称略):相田、井村、臼田、梅澤、加藤(幾)、叶内、北岡、兒玉、鈴木、高橋、辻浦(矢内)、原、原村、廣渡、古川、水野、椎名)

(文責:幹事 椎名 聡)