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第44回早桜会懇話会(報告)

第44回早桜会懇話会を2023年12月23日(土)中央電気倶楽部にて開催しました。
今回は関西支部役員である古田武史様(新61,カネカ)に講師をして頂きました。古田様は西出・小柳津研で修士号を取得した後、カネカに就職されて研究開発の道を歩まれてきました。会社の概要をご説明して頂いた後、ご自身のカネカでの研究内容の一部をお話しして頂きました。特にJAXAに駐在して’高耐熱ポリイミド複合材料の研究開発’をしていた時のご経験を詳しく話して頂きました。

基本となるのは炭素繊維強化樹脂(CFRP)です。現在航空機にもCFRPが使用されていますがエンジン内部は金属が中心です。全体の軽量化を図ってエンジンの内部にもCFRPを使用したい、というのがJAXAとの共同研究の目的でした。耐熱CFRPの研究は1970年代からNASAで行われておりましたが、耐熱性と機械的強度の両立が困難でした。JAXAとカネカの共同研研究により、TriA-Xという熱硬化性ポリイミドが開発されその性能はNASAが開発した樹脂の性能を凌駕する物でした。

航空機のエンジンに求められる性能として、高温での機械特性、耐久性、熱サイクル耐性があります。TriA-XのCFRPは300℃でも室温での強度の60%を維持しており、3000hの耐久性試験においては、270℃の大気中では酸化劣化により強度が50%に低下したものの、240℃においては目立った劣化および強度低下は観察されませんでした。航空機に求められる信頼性の観点から実用化はまだですが、初期のデータとしては有用な物が得られたとのことでした。

講演後は質疑応答も活発に行われました。JAXAは機械・材料工学系の出身者がほとんどであり、その中で応用化学出身者が意思疎通を取っていくのに大変苦労したという話は特に印象に残りました。今後益々、分野横断型の研究開発は増えていくと思いますのでそういった部分も今後改善していく必要があると改めて感じました。暗いニュースや将来の不安を煽るようなニュースに目が行きがちですが、こういった日本発の技術で世の中に貢献していくのが我々理工系出身者の責務だということを再認識でき、私自身にとっても他の参加者の方にとっても大変有意義な講演だったと思います。講師を快く引き受けてくださった古田様に改めてお礼を申し上げます。

(文責:三品)
【出席者(13名):敬称略】
井上征四郎(新12),田中航次(新17),加藤文義(新20), 篠崎匡巳(新30), 斎藤幸一(新33),和田昭英(新34), 古川 直樹(新36), 高田隆裕(新37), 髙島 圭介(新48), 陳鴻(新59),三品建吾(新59), 柴田俊(新59) ,古田武史(新61)

第2回 応化卒の多様なキャリア形成 報告

【イベント詳細】
開催日時:2023年12月16日(土)
開催場所:63号館202室および63号館ロームスクエア
開催形式:対面開催
15:00- OBOG・博士学生による講演
16:30- 座談会 兼 懇親会

コロナ禍以降、オンラインにて開催してきた本イベントは、今回の「第2回 応化卒の多様なキャリア形成」にて、久しぶりの対面開催となった。今回は学位取得後、企業にて活躍されているOBおよび現役の博士後期課程学生からの博士課程での研究や博士取得後の企業研究に関する講演を実施し、博士課程進学というキャリアパスに対する解像度を上げてもらった。また、座談会兼懇親会では、久しぶりの対面開催ということで、学部生と博士人材間のみならず、博士人材同士も交流する場を得ることができた。

開会挨拶: 下村副会長:

下村 副会長

今年は応用化学会創立100周年として様々な取り組みをしている。先日発行された応化会会報にも執筆したように、“早稲田応用化学会は次の100年に向けてどのようなことに取り組んでいったらいいのか“ということが、現在の我々が考えるべきテーマである。特に次の100年に向けて、「多くの人が集まる場を作ること」と「応化会会員のキャリアの育成」が重要と考えている。本イベントもこのような趣旨に沿ったものである。「応化卒の多様なキャリア形成」ということで、博士関係の参加者が多いが、博士進学の有無に関わらず、博士の世界がどのようなものなのかをぜひ知っていただきたい。

OBOG・博士学生による講演:
今回、企業で働く博士OBと現役の博士学生の2名に、これまでの自身の博士研究での経験・博士進学の動機などについてご講演いただいた。尚、司会進行は、応化会 基盤委員会 斎藤ひとみ委員に行っていただいた。

講演者①;小池 正和さん(三菱ケミカル,黒田・下嶋・和田研究室(無機化学部門), 2021年博士修了)

題目:「博士進学と企業研究の魅力」

小池正和さん

小池正和さんは、無機化学研究室に所属され、日本学術振興会特別研究員(DC1)として博士研究を行われていた。現在は、三菱ケミカル株式会社 Science & Innovation Center 分析物性研究所 先端解析グループにて、無機材料の各種分析と新規分析技術の導入に従事されている。

講演において伝えたいメッセージ
学部・修士学生への一番のメッセージとして「自分自身のキャリアを主体的に形成してほしい」、そのうえで博士進学を一つのプランと考え、研究が好きなら是非博士へ。と最初にメッセージをいただいた。

学生実験と研究の違い・博士進学での経験について
学生実験は実験項目が皆同じで、ノルマも目標も必要な器具や試薬も最初から用意されている。一方で、研究室での活動では、一人一人に異なるテーマが与えられ、ノルマや目標は最初からあるのではなく実際に実験を進める過程で得られた結果から見えてくるものである。そして、そのための準備は先輩から教わりつつ自分でしていく必要がある。
小池さん自身が学部4年時に与えられた層状ケイ酸塩の作製というテーマは挑戦的であり、なかなか成果が得られずに苦しんだ。卒論執筆の頃にようやく成果が出始める。その中で、自分の研究の立ち位置(意義や周辺の研究と差別化される点)を知り、研究に、ひいては博士課程に興味が生じた。博士進学を決断した理由としては、自身の研究テーマを突き詰めたいという想いが強くなったことが最大の理由であったとのこと。また、研究室内での活発なディスカッションに楽しさを感じていたこと、分析装置を使いこなしたいというモチベーションがあったこと、さらにはM1での学会発表の経験や、博士進学(LD)を早期に決めていた同期からの影響もあったそうだ。一方、博士進学に対する経済的な不安もあったが、応用化学科関連の奨学金やDC1からの支援が充実していた。
博士課程での経験としては、研究の中で得られた結果からフィードバックして次の展開や課題を見出すなかで、研究の方針を自分で設定できること。その中で実験スキルの向上や、新規技術の取り込みなどを行い成長していく。また、自身で見つけた課題から他の学生の研究テーマを提案し、後輩の面倒を見る経験をできた。これらの経験は、課題探索能力やマネジメント力を得ることに繋がったとのこと。

企業での研究について
現在、企業では無機材料の各種分析と新規分析技術の導入を中心に業務を行っている。他部署から依頼を受けて分析を行うことが大半だが、材料合成のR&Dの部署との連携も行っている。そのなかでは分析側から材料合成側に方針の提案をすることもあるという。企業での研究の特徴として、研究資源が充実していることや、周囲にいる様々なバックグラウンドを持った人を巻き込んで仕事をできる、ということが挙げられる。ノルマや目標(例えば材料の性能の目標値)は明確になっている点も企業研究の特徴である。
ChatGPTに「企業研究の魅力とは」と質問した結果、社会貢献・自己実現・キャリアアップ・チームワーク・実践的の五つが回答された。この中で、社会貢献・自己実現・キャリアアップについては博士課程に限らない大学全般での経験が活きる。一方でチームワーク、つまり様々な人を巻き込むというのは博士の経験が活きる点だと思う。実践的な研究、つまり事業化に耐え得る製品や技術の開発という点に関しては、原理原則に基づく考え方が必須であり、これも博士課程での経験が活きる。最近の企業研究では「性能の向上や新材料の合成」だけでは売れない。世の中の(潜在的・顕在的)なニーズにあった製品を作ることが大事。だから、潜在的なニーズを見つけ出す力は必須であり、それは博士課程でこそ培われるものである。

講演者②;重本 彩香さん(博士後期課程2年,関根研究室(触媒化学部門))

題目:「博士課程に進学して得た経験」

重本彩香さん

重本彩香さんは、触媒化学研究室の博士学生として研究に従事される中、早稲田大学の助手として、大学授業や応用化学科の業務を兼任されている。また、今年度はオランダとスイスに海外研究留学をされ、博士課程中に幅広い経験をされている。

博士進学を決めたきっかけ
修士課程ではしっかりと就活に力を入れており早期から準備をして、企業に就職するつもりでいた。そこから一転して博士進学を決めたきっかけは、論文を出版したことと、さらにカバーピクチャーに選定されたことである。海外から自身の研究を認められたことがとても嬉しく、このような経験をさらに重ねたいという想いが芽生えたそうだ。進学の決め手となった理由は3つあるとのこと。1つ目は、仮説を立てて実験し、分からないことを解明していく、という毎日の研究がとても楽しく感じられたこと。2つ目は、博士号の取得や研究活動により自身の価値を高め、自分が何者であるかを明確にしたいということ。3つ目は、将来の選択肢や可能性を広げたいということ。であったとのこと。

研究室での研究について
学生実験と研究は明確に異なり、学生実験は新しい発見のためでなく、実験手法や原理を学ぶためのものだが、研究では未知の知見の創出のために誰もやったことのないことに挑戦する。自分で実験計画を組み、必要な装置も自分で用意する。上手くいかないことも当たり前であるが、そこに楽しさがあるのが研究である。

博士課程での研究や助手について
博士課程での1日のスケジュールとしては、助手業務がない日(週4-5日)は、朝から夕方まで自身の実験を行った後、研究室の学生や先生とディスカッションを行い、データ整理をして帰宅するとのこと。一方、助手業務がある日は、朝実験を行った後、基礎実験などの助手業務を行っているそうだ。助手のメリットとして、金銭的な不安がなくなること、科研費に応募できること、教育の現場に立って学生との交流が可能なことが挙げられる。学生との交流による発見もあり、忘れていた内容の復習にもなるとのこと。
また、自身の研究を世の中に発信する方法のひとつとして、学会発表がある。修士課程までの学会は国内がメインだったが、博士になってからは海外の学会に頻繁に参加する機会が増えた。また、海外に研究留学に行けることも博士課程の良いところであるとのこと。今年、オランダのデルフト工科大学とスイスのスイス連邦工科大学(ETH)付属のポール・シェラー研究所に留学したそうだ。日本の研究室の違いとして、博士学生・ポスドク・テクニシャンの多さに驚いたことや様々な分野の様々な国籍の研究者が所属していたことを紹介いただいた。また、ドッジボールやBBQなど、研究以外の思い出もできたそうだ。また、国内学会においても若手会のコミュニティに属しており、国内の様々な博士学生や先生と交流をしているそうだ。

博士課程での研究において大切なこと
まずは、一人で抱え込まないこと。周囲との相談によって精神的にも安定するし、自分では思いつかなかったことや見落としていたこと、意外なアドバイスから研究の突破口を見つけられることが多々ある。次に、研究や博士課程、ひいては人生の目標を持つこと。博士号を取得したのちのキャリアプランを持つことで博士課程でのモチベーションを維持できる。最後に、息抜きと健康管理がとても大事であるとのこと。重本さん自身、ランニング、料理教室、スキーなどの趣味を持っている。以上を踏まえて、博士課程に進みたい!研究を続けたい!と思ったら、自分のその気持ちを一番大切にしてください。というメッセージをいただいた。

応用化学科及び応化会関連の奨学金説明:須賀先生

須賀 先生

早稲田応用化学会は1923年5月に設立された会員数11000人超えの組織であり、卒業生との太いパイプがある。「先輩からのメッセージ」「企業が求める人物像」などのイベントがある。今回もそのイベントの一つ。博士後期課程に進学する学生にとって、関心事の一つが経済的なサポートである。応用化学科及び応用化学会の充実した奨学金制度について、また、博士後期課程への進学率とその後の進路先の割合について紹介した。博士後期課程修了者は、2010年以降2022年までの間で約90名である。博士号取得者のおよそ6割は企業で活躍している。次いで国内大学、海外大学、省庁・研究機関となっている。

博士後期課程の支援体制として、学内外の奨学金制度は、貸与型と給付型がある。まずは学外として、JASSO、早稲田学内全体として早稲田オープンイノベーションエコシステム挑戦的研究プログラム(W-SPRING)がある。一方、応用化学科および応化会独自の奨学制度はとても充実しており、学科内の奨学金制度は全て給付型となっている。また、最近では「応用化学科卒業生による優秀な人材の発掘と育成の支援」の実現のために、学部生を対象にした奨学金も拡充している。早期から優秀な人材を発掘・支援したいという目的から、すそ野を広げる形となった。そのため、各人の状況に応じて充実した奨学金制度を有効活用し、研究に集中できる環境を是非整えて頂きたい。博士で専門性を深めるのもキャリアアップの一つとして関心のある学生はふるって応募してほしい。一方、まだ研究について全くわからなくても、このような支援の存在を早い段階から知っておいてほしい。そして、研究が面白いが第一。自分のこととしてとらえ将来の活躍に役立ててほしい。

閉会挨拶:橋本副会長

橋本 副会長

今日の講演におけるおふたりの話は説得力がありとてもわかりやすかった。私の経験からも、博士号はこれからの時代においてとても重要であると感じる。特に海外では、日本とは異なってドクターを持っているかどうかでチャンスの違いが大きく、私自身ドクターをとっておけば良かったと思ったことがたびたびあった。
学生時代に私は「博士になると狭い領域の研究だけを深く行うことになり、世の中に出るとつぶしが効かなくなるのではないか」と考えていたがそれは大きな間違いであり、博士になるためには周辺の研究がどのようになっているのかを把握できる総説(Review Article)的な高い視点と広い視野を持たなければならない。そうした視点や視野を持つことは、大学から社会に出たとしても、例えば企業において企業戦略や、研究戦略を建てたり議論する場合においても必要かつ重要である。
本日の発表者の体験に基づいた説得力のあるメッセージによって、博士のイメージや理解が高まってきたと思うので、博士進学のチャンスがあるのであれば是非真剣に考えて挑戦して欲しい。将来的にはきっとドクターをとっておいて良かった、チャンスが広がったと思い返すことがあるのではないかと思う。

座談会 兼 懇親会:

博士学生と学部修士の学生が交互に座り、博士での生活の様子や、学生の悩みや不安について相談に乗っていた。また、修士課程以下の学生からの相談だけではなく、博士学生も博士号取得者や社会人ドクターの方に様々な相談を投げかけていた。初めて交流する人同士が多い中で最後まで話が尽きず、様々な人との交流が行われ、盛会に終わった。


座談会 兼 懇親会の様子

学内講演会のお知らせ
「Atomic structures of SWNTs and DWNTs from FC-CVD synthesis」

下記の要領で学内講演会が開催されます。

演 題 「Atomic structures of SWNTs and DWNTs from FC-CVD synthesis」
講 師 Esko I. Kauppinen
所属・資格 Professor Aalto University
日 時 2024年1月26日(金)15:00-16:40
場 所 西早稲田キャンパス 55号館S棟610室
参加方法 入場無料、直接会場へお越しください。
対 象 学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
主 催 先進理工学部 応用化学科
問合せ先 早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000

参考:https://www.waseda.jp/fsci/news/2024/01/11/29145/

平沢泉教授 最終講義および記念行事のご案内

平沢先生が古希を迎えられ、2024年3月にご退任されることとなりました。
平沢先生のご退任にあたり、以下の日程で最終講義および記念パーティーが予定されています。

最終講義:
2024年3月16日(土)
14:00-16:00
西早稲田キャンパス57号館201教室
記念パーティー:
2024年3月16日(土)
18:00-20:00
リーガロイヤルホテル東京

上記の行事に参加を希望する方、および平沢先生への記念品贈呈のための醵金のご案内を希望する方は、メールでご連絡ください(記念行事に欠席の方も、醵金にご参加いただけます)。
詳細は、こちらです。

学内講演会のお知らせ
「芳香族アセチレンからの共役ポリマーの合成と機能設計」

下記の要領で学内講演会が開催されます。

演 題 芳香族アセチレンからの共役ポリマーの合成と機能設計
講 師 金子 隆司
所属・資格 新潟大学教授
日 時 2024年1月19日(金) 16:00-17:40
場 所 西早稲田キャンパス 55号館S棟510室
参加方法 入場無料、直接会場へお越しください。
対 象 学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
主 催 早稲田大学先進理工学部 応用化学科
問合せ先 早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000

参考:https://www.waseda.jp/fsci/news/2023/12/28/29102/

早稲田応化会中部支部 第20回交流講演会のご報告

開催日時;2023年11月18日(土) 15:00~17:00
開催場所;“ウインクあいち”1207号室
出席者; 21名(オンライン・トライアルでの出席者3名を含む)
講師;小柳津研一教授
ご略歴;

1990.3早稲田大学 理工学部 応用化学科 卒業

1995.3早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻 博士後期課程 終了

1995.4-1997.3早稲田大学 理工学部 助手

1997.4-2003.9早稲田大学 理工学総合研究センター 講師

2003.10-2007.3東京理科大学 総合研究機構 助教授

2007.4-2012.3早稲田大学 理工学術院 准教授

2012.4-現在早稲田大学 理工学術院 教授

主な研究テーマ:
機能性高分子、特に高密度レドックス高分子を用いた有機電池、水素キャリア高分子、高屈折率高分子、低誘電損失高分子など

受賞

1995.3水野学術賞(早稲田大学)

2002.3日本化学会進歩賞

2013.4科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞

2022.5高分子学会賞

演題;「エネルギー貯蔵機能性高分子、および早稲田のエネルギー・ナノマテリアル研究」
要旨;

●初めに早稲田大学の現在、キャンパスの変化など、ご自身/研究室/応用化学科の状況を含めて、
ユーモアを交えながらご紹介がありました。

トピックスとしては、西早稲田キャンパスに加えて早稲田キャンパスの研究開発センターエリアに2020年に竣工した新研究開発棟「リサーチイノベーションセンター(121号館)」があり、小柳津先生の研究室も機能高分子実験を行なっておられるとのこと。
早稲田大学としては、カーボンニュートラル「Waseda Carbon Net Zero Challenge」1)を2021年11月1日に宣言し、文理融合の研究推進体制によりカーボンニュートラルの実現を目指して2022年12月1日には「カーボンニュートラル社会教育研究センター」2)が設立されました。
1) https://www.waseda.jp/netzero/
2) https://www.waseda.jp/inst/wcans/research/realize

●Storing Energy in Organic Material:

1.有機電極活物質の設計・合成と有機電池の研究動向

エネルギー貯蔵機能を有する有機・高分子材料の科学とそのデバイス技術についての研究の基本として、高分子はレドックス部位の結晶化を防ぎ、多くの量を溶かすことができるので、材料として有用です。電荷蓄積のためのレドックス高分子として、密度が高く反応性を高く保つことができるのも大切な点です。電極の反応過程は、単分子吸着のような挙動から厚みのある高分子層の拡散過程まで多様です。

エネルギー貯蔵のための高分子研究のレビューとしては、1997年2月に発刊されたPetr Novákらの “Electrochemically Active Polymers for Rechargeable Batteries” [Chem. Rev. 1997, 97, 1, 207–282] が例に挙げられます。また、西出先生や小柳津先生も中心となったドーハでのセッション “Polymers in Energy” をきっかけとして、早稲田大学での国際会議 ”Organic Battery Days 2021”3) 等でコミュニティが広がってきており、論文も急増しています。
3) https://w3.waseda.jp/assoc-obd2021/ ・・実際は、オンライン形式

近年注目されている有機空気二次電池は、ラジカルではなくキノン体が電荷を担います。有機物は分子設計が容易であり、性能も多様性があり予測もできます。また、伸縮性・柔軟性・屈曲性にも優れています。エネルギー貯蔵機能には双安定性(Bistability)が必要で、蓄電特性を示す高分子の性能指針の一つになっています。

一方、リチウムイオン電池の充電速度を短縮するために、高分子物質による「電池触媒」が有効であることが分かってきました。少量のレドックス高分子を含む酸化物ハイブリッド電極の構成で、電子移動メディエーション効果による高速充放電が可能となります。

2.水素キャリア高分子の展開

既に見出していた水素を可逆的に貯蔵する水素キャリア高分子をアノードに適用し、プロトン導電膜との組み合わせにより、充電可能な燃料電池を山梨大学との共同研究で開発しました。通常の燃料電池では電解膜でのO2/H2分離が必要ですが、高分子によるGreen水素製造では蒸気圧の無い物体から水素をガス状態で取り出せるので膜が不要です。種々の利点があり、将来は家庭への展開も目指しています。

3.実践的MIによるLiイオン電池の新しい固体電解質

イオン伝導度が高く、安定性、強度、合成難易度、コストの点で優位な物質を作成するために、オリジナルのデータベース(DB)を作成しました。材料実験のデータは104のオーダーで保有しており、また数百件の文献も含めて、繰り返し単位の化学構造/分子量/共重合比/共重合の構造など、選定したパラメータを記録しました。AIシステムを使用して実験結果や文献データを自動解析することで、新材料の製造を想定しうる重要な構造や実験因子を抽出できました。

このMIにより導出したLiイオン高伝導性高分子は、芳香族系高分子の電荷移動錯体からなるこれまでに無い材料となりました。

4.早稲田のエネルギーナノマテリアル研究4)

早稲田大学のスーパーグローバル大学(SGU)創成支援「Waseda Ocean 構想」における7つのモデル拠点の1つである「エネルギー・ナノマテリアル拠点」では、応用化学の多くの先生方が参加されカーボンニュートラル社会の実現を目指した様々なエネルギー・マテリアル関連の研究が行われています。当研究室での有機電池や水素を安定かつ可逆的に貯蔵できる高分子もその例です。また、国際化を推進するために、Joint Appointment Professor 制度を採り入れ、海外教員が長期間早稲田に滞在して教育・研究を行っています。最近はその流れで「高屈折率高分子に関する共同研究」をドイツのミュンヘン工科大学と進めています。機能性高分子の可能性を見出すことにより、革新的科学技術を応用し、地球規模の課題解決に向けて、これからも挑戦していきたいと思います。
4) https://www.waseda.jp/inst/sgu/unit/

●質疑応答(Q&A)

Q:水素貯蔵について、吸脱着の繰り返しは?

A:実験上は50回。材料として具体的にはこれから詰めていく必要があります。家庭用へ展開する目安としては1000回は必要でしょう。値段や経済性も検討しなければなりません。

Q:触媒開発について、水素は固体高分子とどのように反応しますか?

A:高分子はGel(ゲル)状で、触媒は溶媒に可溶性です。

Q:電池のなかで高分子はどのように分散していますか?

A:元素マッピングで解析すると、顕微鏡レベルでは充分に分散しています。実験室では乳鉢で粉砕し、溶媒を投入します。分散している固体に溶存する高分子という状態でしょう。形態を問わず、繰り返し特性もOKです。

Q:Gel状の固体に水素を吹き付けて、どのように内部に溶解させますか?

A:実際は架橋体なので細孔があります。表面拡散律速状態だと思います。

Q:セラミックス系では固いですが、高分子系は耐久性が高いのが利点ですね。有機・無機材料へのアプローチも検討されていますか?

A:ソフトマテリアルとしての特徴を活かして,様々な材料・デバイスとの界面形成が容易である点は高分子の良さです。構造の詳細はこれからです。

まだまだ質問が続きましたが、懇親会の場でお願いすることとなりました。
なお、今回の交流講演会には、関西支部より和田支部長および三品幹事が出席されました。
また、中部支部としては初めて「ZoomによるNet配信」を試験的に行ないました。次回、2024年4月の交流講演会から、会場とNet配信のハイブリッド形式での開催となります。 (文責 浜名)

ご講演中の小柳津教授

ご講演後に、出席者と記念撮影

懇親会で談笑。 和田_関西支部長と友野_中部支部長

以上

学内講演会のお知らせ
「Chemical modification revives nitroxide radicals in catalysis and energy storage」

下記の要領で学内講演会が開催されます。

演 題 Chemical modification revives nitroxide radicals in catalysis and energy storage
講 師 Zhongfan Jia
所属・資格 フリンダース大学准教授
日 時 2024年1月22日(月)10:00-11:40
場 所 西早稲田キャンパス 55号館S棟610教室
参加方法 入場無料、直接会場へお越しください。
対 象 学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
主 催 早稲田大学先進理工学部 応用化学科
問合せ先 早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000

参考:https://www.waseda.jp/fsci/news/2023/12/15/28977/

応用化学会報 No.108 December 2023 を会報アーカイブスに収納しました

2023年12月13日付で「応用化学会報 No.108 December 2023(早稲田大学応用化学会100周年記念誌)」を会報アーカイブスに収納しました。

入室はこちらから ⇒  会報アーカイブス

早稲田応用化学会事務局/広報委員会