講師;早稲田大学 総長 田中 愛治 先生
演題;「ともに育てる世界に輝く人材」
日時;2023年5月20日(土) 15:10~15:35
場所;大隈記念講堂 小講堂
はじめに
早稲田応用化学会 100周年記念講演として歴史ある大隈記念小講堂に「早稲田大学総長」田中愛治先生をお招きし、『ともに育てる世界に輝く人材』と題してご講演いただきました。
参加者:260名(ご招待者6名、教員16名、OB/OG 207名(STAFF24名含む)、学生31名)
椎名交流委員長
本間敬之先生
まず椎名交流委員長による開会宣言、視聴に当たっての依頼事項、記念講演の司会を務めていただいた本間敬之先生(教務担当理事)のご紹介がありました。
本間先生より、濱会長のご紹介が行われた後、講演に先立って早稲田応用化学会の濱会長からご挨拶を頂きました。
濱会長の開会ご挨拶
本日はこの小講堂がほぼ満員になる方々にお集まりいただきありがとうございました。
コロナ禍でリアル開催すらどうなるか分からない中での準備ではありましたが、準備にあたった皆さんの想い、そして応化会メンバーの想いが叶い、最高のタイミングで応化会100周年記念講演会、そして祝賀会の日を迎えることが出来ました。大変感慨深い想いです。
この記念講演会では、先ず何としても田中総長にお話し頂きたいとの思いで、一昨年の年末、未だ早稲田大学の総長選の前でしたが、総長室にお邪魔して、本日の講演をお願いしました。大変お忙しい中、快く講演をお引き受け頂き、また間違いないとは思っていましたが、総長にも再選され、今日を迎えることが出来ました。正にこれからの早稲田大学が何を目指しているのかを熱くお話し頂けると思います。田中総長、宜しくお願い致します。
丁度6年前の応用化学科100周年では、これまでの歴史を振り返り、創立百周年記念誌として、応用化学科100年の歩みがまとめられました。
そしてこの応化会100周年記念では、これからの100年、すなわち次世代の応化会をどんな魅力的なものしていくか、と言うことを大きなテーマに、記念事業の内容やこの記念講演会のテーマを決めてきました。後半のパネルディスカッションでは、次世代を担う若い応化会メンバーがパネラーになり、応化会の未来を語ってもらいます。彼らの想いを聞いて頂き、これを全世代でバックアップして行きたいと思いますので、宜しくお願い致します。
続いて本間先生より、田中愛治総長の略歴が紹介された後、記念講演が始まりました。
講演の概要
皆様、こんにちは。ただ今ご紹介頂きました、早稲田大学総長 田中愛治 でございます。
濱会長によるご挨拶、また本間教授によるご紹介、有難うございました。私が教授であった頃から、竜田先生や西出先生にはずいぶんご指導頂き、本日は懐かしくお目にかかっております。伝統ある早稲田応用化学会の100周年記念ということで、誠におめでとうございます。講演は「ともに育てる世界に輝く人材」ということで、私は2018年に総長に就任して以来、「世界に輝く早稲田」を目指すということを申し上げて来ました。ここでは応化会と共に世界に輝く人材を育てたい、ということであります。
私は学生時代、政治学では当時異端と言われていた計量分析をやりたかったのですが、今のようにパソコンはなかったですから大型計算機を用いて数量を使い統計解析により政治を分析したい、と思っていました。それに対して政治経済学部の教授から、それは早稲田というか日本では無理、ということで米国のOhio State Universityに入りました。そこで政治学博士号を取るのに9年以上かかりましたが、当時Harvard Universityでの政治学博士号取得の平均年数が10.3年でしたので、それに比べると同じ位かなと思っています。その頃から相当勉強したお陰でInternational Political Science Associationの会長も勤めることが出来たと思っています。
本日お話ししたいのは、正に「ともに育てる早稲田」でありまして、今年は早稲田にとって勝負の年であると考えています。ご承知のように、政府は10兆円ファンドを用意し、年利3%の運用益である3,000億円の大部分を、選ばれた大学に与えると言っています。このことは、日本政府の考え方が明らかに転換したと考えます。日本の産業競争力は1980年代から1990年代初頭まで世界No.1と言われていました。それが衰退してきた原因の1つに、大学の在り方、大学院の育て方に問題があるのではないか、ということです。すなわち大学で人材を育てることが日本の力を再興させることである、という思想になったわけで、これは大きな、また大変有難い転換だと思っています。それだけ我々大学としても責任は大きいと思います。
国際卓越研究大学の基準ですが、世界最高水準の研究大学になる覚悟があるか、ということです。そして、これまでにない大学になるという決意と覚悟を示した大学が認定される、ということです。その中で最も重要となる点が産学連携です。このことを考える時に、早稲田大学として、というよりも日本が直面している2つの問題をしっかり考える必要があると思います。このことについて少し申し述べたいと思います。
Part Ⅰ.日本社会の改革を牽引する大学になる
日本が直面している課題は2つあり、長期的には18歳人口の衰退、中期・短期的には国際競争力の低下であります。
A.長期的課題--18歳人口の減少--
これにより日本の国際競争力は限りなく衰退すると予想されます。解決策としては、大学進学率を上昇させるとともに、海外から優秀な学生を受け入れ、卒業後も日本に留まってもらえる環境を提供する、ということです。
⇒政治経済学部の例を紹介.英語学位プログラム(EDP)や教員の人事・給与等について
B.中期的課題--産業競争力の衰退--
日本の産業競争力は1990年から2020年までに世界のトップから34位に落ちています。原因の1つとして次のようなことが考えられます。すなわち、日本は1980年代半ばまでは科学技術・経済力で米国に追いつくことが暗黙の目標であったと言えます。そのためには答えが決まっている問題、正解が1つである問題をいち早く解く人材が優秀であるという神話があって、その呪縛から逃れていないのだと思います。すなわち、答えのある問題を早く解ける人材を評価する、という基準だけで大学の入試を行ってきたのではないか、そしてその基準だけで人材育成をすると、世界と戦うときに苦しくなるのではないか、というのが私の仮説です。
この仮説への解答として、文理連携・横断・融合の教育が必要です。今までは文理分離の教育をしてきました。このことが日本の力を弱めているのであろうと思います。
⇒この解決策として設けた基盤教育について紹介.日本語と英語の論理的書き方、文系の学生への数学的思考とデータ科学の教育、全員の学生への情報科学の教育
こうして2050年までには世界中の人々が、アジアで最も効果的な教育を受けられるのは早稲田である、と思ってもらえるような大学になる、ということを目指したい。
Part Ⅱ.社会のニーズに応える大学になる
戦略A.カーボンニュートラルの実現へのアプローチ
カーボンニュートラルの実現は、人類が直面している最大の、かつ最も長期的な課題であると考えます。これが達成出来なければ地球自体が滅び、人類が滅亡する可能性があると考えます。その解決のためには総合知が必要でして、2021年11月1日にカーボンニュートラル宣言をしました。そして2022年12月1日に、カーボンニュートラル社会研究教育センターを設立しました。
⇒上記センターについて紹介.研究×人材×社会の三位一体での取り組み、等
戦略B.私学最強の財務体質を更に強化
(1) 早稲田エンダウメントの実績
早稲田は私学で一番金融財産が多く、2018年までに1,500億円貯めていました。その運用益だけで積極的な投資運用をしています。見込みでは2050年に資金運用時価残高が3,200億円となります。但し、世界ランキング50位以内の大学は5,000億円以上を保有しています。国際卓越研究大学に認定されれば、早稲田エンダウメントの運用により2050年には5,400億円の基金の蓄積が可能になり、世界ランキング50位以内を達成出来ます。
(2) 募金
国際卓越研究大学に対しては産学連携と寄付金だけで集めたお金の1.3倍を渡す、というのが政府の方針です。従いまして寄付と産学連携を強めなければ、国際卓越研究大学に選ばれたとしても研究力は強まらないことになります。この点は皆様のご協力をお願いしたいと思います。2022年4月1日に早稲田大学応援基金の募集を開始しました。
戦略C.産学連携の飛躍的拡充
(1)Waseda University Ventures
Oxford大学出身の山本哲也氏と京都大学出身の太田裕朗氏に早稲田大学ベンチャーズの共同代表となって頂きました。Limited Partner型のファンドを集め、Venture Businessに投資します。下記の( )内は投資時期です。
WUV1号;青木 隆朗 教授の量子コンピューター(2022年8月)
WUV2号;川原田 洋 教授のダイアモンド半導体デバイス(2022年10月)
WUV3号;戸川 望 教授の量子計算ソフトウェア(2023年3月)
WUV4号;プレスリリース待ち
今後は応用化学、生命化学分野への投資も行われると思いますので、期待して下さい。
(2)産学連携を推進する体制を確立
リサーチイノベーションセンター(121号館)にて産学連携を目指す体制を整えています。国際卓越研究大学に認定され、このような建物を増やし、産学連携を進め、社会実装する、社会に貢献する研究を進めて行きたいと考えております。
以上で私の講演を終わらせて頂きますが、皆様の益々のご健康とご成長、また後輩へのご支援、またご指導を頂きながら、より素晴らしい学生を早稲田から輩出したいと思っております。ご清聴、どうも有難うございました。
<備考>下線部 は、田中総長が使用された説明資料を元に、講演内容の区切りや解説のため注記したものです。なお、田中総長が使用された説明資料(PDF FILE)は、応化会HP内の資料庫に格納されています。詳細はこちらのファイルも是非ご覧下さい。
(閲覧には資料庫のパスワードが必要です。)
資料庫
濱会長の閉会ご挨拶
田中総長には、世界に輝く人材を育てるために、我々応化会がどう大学や社会とも連携して、世界で活躍できるトップ人材をつくり出して行かねばならないと言う明確なご示唆を頂きました。
正に我が意を得たりであり、日本を輝ける人材の宝庫にする為に、改めて応化会の活動を進化させて行きたいと思いました。田中総長、本当に素晴らしいご講演ありがとうございました。
(文責:交流委員 新23 小林 幸治)
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