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パネラー:長谷川 閑史氏
参加学生:田中 徳裕(Facilitator)、石原 真由、福井 宏佳(以上 M!1)
政本 浩幸、柳川 洋晟(以上 B4)
田中「こんにちは。今回司会をさせていただく田中徳裕です。本日は、よろしくお願い致します。早速、質問をさせていただきたいと思います。まず、私たちを取り巻くパラダイムシフトですが、このパラダイムシフトに対して私たちはどのように向き合っていけばいいでしょうか?」
長谷川さん「それは、まず自分たちで考えることが大切。それから、一番いい方法は、日本の中だけに目を限定しないこと。パラダイムシフトが起きている最先端の現場に自分で飛び込んで肌身感覚で感じとるというのが大切です。」
田中「ありがとうございます。次に政本さんどうでしょうか?」
政本「AI(人工知能)に関して、悲観論、楽観論、中立論というそれぞれの考えがありますが、長谷川さんはどのようにお考えですか?」
長谷川さん「これはまだ起こっていないことだからわからない。新しいテクノロジーが、新しい仕事の創生に繋がると言われている。だから、そういった点においてはあまり心配する必要はないと思います。新たに現れた仕事に対して、新たに社会に出ていく人がチャレンジするのは何とかなるかもしれない。実際に仕事について10年や20年たった人たちの仕事が置き換えられてしまったらどのように仕事を維持するかが難しい。そこはまだ答えはない。だから、悲観論と楽観論のどちらかに決めつけるのは早計かなと思う。」
田中「ありがとうございます。次に石原さんどうでしょうか?」
石原「パラダイムシフトの中で必要とされる素養というのは変わっていくと思いますが、具体的に世界で活躍するためにはどのような能力が必要なのかと、将来的に日本人が活躍できるために行っている人材育成の方法などがありましたら教えていただきたいなと思います。」
長谷川さん「日本の教育システムの弱点として、与えられた問題を解く、あるいは設問に対する答えを最速で見つけ出す、そういった能力には結構長けているかもしれないが、問題を与えられるのではなく、状況を観察してそこから問題点を見つけ出し、解決に導く方法を見つけ出して実行に移す、こういうことが出来る能力が、ベーシックな部分で言えば、世界に通用するためには必要。例えば、人口増加によって生ずる問題など、今見えている問題に対してどういう答えを自分なりに考えだし、どう貢献できるか考えることは無駄ではないし、一つのやり方であると思う。」
田中「ありがとうございます。今度は学生時代のことや人生観についてお聞きしていきたいと思います。柳川さんどうでしょうか?」
柳川「これからどうなるのかという不安があります。長谷川さんが学生時代に思い描いていた将来像と現状でどのような差異があるのかお教えください。」
長谷川さん「前にスタンフォードで講演をした時に、どのようにしたらCEOになれるのかと質問されたことがある。その時に、そんなフォーマットがあるならば誰でもするだろう、そしたらみんな同じスタートから行うので全く意味のない質問であるよと答えた。柳川さんの質問に戻るが、私が大学を卒業したのは1970年です。半世紀も前と今とで皆さんの参考になれるようなそういう答えは出せません。時間の流れ方も違っていたし、ちょうど日本は、高度成長の真っ盛りだった。そういう時代に育つと、明日は今日よりも豊かであると、企業というものは成長するものだと、物価も毎年上がるものだと、そういうのが当たり前であった時代に育った人間が、そんなに将来を深刻に考えない。しかも、私は1966年に入学しましたから、試験を受けたときは機動隊に守られて、正門はロックアウトされており、細い道から入って試験を受けた。4月に大学の入学式もなければ、学校が始まっている時期になっても授業は始まらなくて、5月の半ばころから授業が始まった。姉と一緒に下宿していたため、姉に勧められたバイトが本業となり、あいつは留年するとか言われていた。このように時代の背景も違うし、みんなが明日は今日よりも豊かになると、そう思っていた時代に描いていたことを、いくら言ってもあなたたちの参考にはならないと思う。ただ、一つだけ言えるのは、授業がないときに本をしっかり読んだ。乱読と言われるくらい、いろんなあらゆる本を読みました。そういうことが少しは役に立った。だから、自分たちが何を目標にしたらいいかというのは自分たちが置かれている環境と現実を見て、考えるしかない。」
田中「ありがとうございます。次に人生観についてお聞きしたいと思います。福井さんどうですか?」
福井「長谷川さんが、今振り返った時にこれをやっておけばよかったということが何かあればお伺いしたいです。」
長谷川さん「いくつかありますが、もう少し勉強しておいたらよかったなというのと、それから本当は運動部に入りたかったが、入れなかったので、もう一度やり直せるのであったら、大学でも運動部に入って仲間を作るということをやりたいなと思います。ちなみにもう一つ言い忘れましたが、入学は第一次早稲田紛争時で、卒業は第二次早稲田紛争時でしたので、入学式もなければ卒業式もない。そういう特殊な時代に学校に来ましたから、前総長の白井さんからは、あんたたちの世代が一番勉強していない世代だと言われている。それでも通用した私はいい見本で、いい社会であると思っています。」
田中「ありがとうございます。柳川さんどうですか?」
柳川「自分には行動の軸になるようなものがなくて、長谷川さんご自身に座右の銘などがあればお伺いしたいと思います。」
長谷川さん「推薦図書のセブンマスターズを是非お読みになることをお勧めします。できれば瞑想をおやりになることをお勧めします。瞑想をやるということは、自分との対話です。だいたい瞑想をやっていると自然に考え付くのは、自分はやっぱりどんな人生を送りたいであるとか、自分の生きる目的って何だろうかとか、紆余曲折あってもたどり着くものであると思います。そのうえで、私の経験から言うと、多くの人が、自分の職業や行動を通じて人の役に立ちたい、あるいは社会をいいものにしたいと思うようにできているのではないかと思う。そこは自分で確立をすれば、どんなことが与えられてもチャレンジしても、軸はぶれないと思う。例えば会社の経営者として、部下を昇進させるときに見るのは、業績、実績を上げた人が大事ではあるが、もっと大事なのは価値観が確立をしていて、ぶれない人。ぶれる人は状況によって臨機応変に変わるという見方もあるが、肝心のところで、経営者としてはまずい判断をする可能性がある。一つの例として、私が経営企画部長をしていた時に、医薬非関連事業を売却するという交渉をやっていた。某化学品会社と交渉が大詰めに来た時に、その製品を生産している工場から問題が生じた。どうするかとなった時に、周りは混乱していた。私はその時に問題を隠さず、先方にそれを伝えて、そのうえでまだ処理方法は確立していませんが、処理方法が確立した段階で私どもが責任をもって対処させて頂きますから、それでご了解いただけませんかと話をした経験がある。そういうことの一つ一つです。だから、単純に言えば正直に生きるということだと思いますよ」
田中「ありがとうございます。次に政本さん何かありますか?」
政本「今まで多くの方のご講演を聞く機会を頂きましたが、中々失敗談を聞く機会というのはありませんでしたので、もし宜しければお聞かせください。」
長谷川さん「失敗談はいっぱいありますよ。いっぱいあるが、結論から先に言うと失敗を認めて、ダメージを最小限にするように一生懸命にやる。これしかない。入社して2年目くらいに私は工場の勤労課というところにいた。500人くらいの従業員がいる工場で、ボーナスの査定結果に基づいて個人の計算をしていく。それに対して本社から予算が来る。予算の連絡が電話で来るのですが書き間違えて、かなりの金額を多めに配布してしまった。本社の方に連絡して、正直に話し何とかしてもらいました。また、一番の冷や汗をかいた失敗は、私がアメリカの現地法人のジョイントベンチャー、アメリカのパートナーと50:50のジョイントベンチャーだったんですけど、そこの副社長をしていて、社長はポーランド人の2 mくらいあるハイパーアクティブな男だった。しかし、残念なことにアル中でした。ナショナルセールスミーティングなんかでも酔っていたりして、問題が何回もあったため、私は手に負えなくなって、パートナーの親会社の人事部長に相談をした。そのあと、その本人の車に乗せてもらって、親会社の方に向かっている途中に人事部長から電話がかかってきて、こないだの話と言ってきた。当時は今の携帯ではなくカーフォンで、そのパートナーの本人が取って、人事部長から電話だけど、お前はいったい俺の会社の人事部長に何の用があるのだと。とりあえず、後で電話すると切った時にしつこく聞かれたから、全部言いました。お前が、あまりにも手に負えないので相談しに行ったのだと。そう言ったら、本人もムッとはしたけど、それで終わってしまいましたけどね。だけど予想もしない二つの例は、数多くあることの例ですが、そういうことは起きますよ。やはり常に真正面から向き合って、ごまかしたり隠したりしないで、ベストの選択をしていったほうが良い。そうじゃないと後悔する。後悔しない方がいいと思いますよ。皆さんにはそれぞれやり方があると思いますからこういうのも参考にしながら、適宜対応してください。」
田中「ありがとうございます。最後に早稲田の学生に向けて何かメッセージがありましたらよろしくお願い致します。」
長谷川さん「自分が4年間身を置いて感じたのは、結構自立していていろんなことにチャレンジする人が多いように感じます。どこに行っても稲門会というのはある。あと三田会も。どこ行っても三田会とゴルフやソフトボールをしたりする。早稲田は大体負ける。というのは数はいるのに来ない。あまり協力もしない。では学校を嫌っているかというと、そうではなくてそれなりの誇りは持っている。私は、それは決して悪いことではないと思っています。見方を変えれば、別にそういうところでみんな集まってやることを否定はしないけれど、他に予定があれば自分がやりたいことをやって、ただ誰かが本当に困っているときは、ずいぶん私も助けられましたが、助けてくれる。そういうやり方の方がいいのかなというのが一つ。もう一つは、私が学生時代、社会人生活を始めた時よりもはるかに世界は狭くなりグローバル化は進み、日本は自国だけではリソースは人材だけしかない国だから、海外とビジネスをやらないと生きていけないと、あるいは豊かさを維持していけないというのは間違いはないので、そういった意味で皆さんは全員が飛び出せと言っているわけではないですが、ある程度チャレンジ精神と冒険心がある人は、世界で是非飛躍して頂きたいなというのが一先輩からのメッセージです。」
田中「本日は長谷川さんありがとうございました。」
(文責:交流委員会)
「江戸後期 知の探究者たちが切り拓いた世界」
2017年10月5日より11月9日まで
10:00~18:00
早稲田大学総合学術情報センター2F
応用化学科の創立100周年を記念して題記記念展示が開催されます。会場は早稲田大学総合学術情報センター(早稲田大学中央図書館の建物)の2階展示室です。
江戸末期の貴重な文物が展示されます。
特に宇田川榕菴は江戸末期(1798 – 1846)の蘭学者で、今日我々が使っている基本的な化学用語を翻訳し、日本に定着させた人です。
その宇田川榕菴の主要著作である『舎密開宗』(せいみかいそう)も展示されます。
またシーボルトから榕菴に贈られた顕微鏡なども展示される予定です。
江戸末期には本草学をはじめ多くの自然科学者たちが知のネットワークを作って活躍しました。
日本の化学も、そうした知の探求者たちによって基礎が作られました。
我々の学問のルーツを是非この機会に訪ねてみましょう。
応用化学科の創立100周年につきましては、いろいろな催しや行事が企画されています。10月7日(土)には記念祝賀会も開催されます。下のLinkの応用化学科のHPにて詳細をご参照の上、本記念事業への積極的なご参加をお願いいたします。
明治41年(1908)早稲田大学に理工科が設置され、機械、電気、採鉱、建築の各科に続く五番目の学科として大正6年(1917)9月に応用化学科1期生の授業が始まりました。これを以て発足の時とし、本年は創立100周年になります。
これを記念し、応用化学科では下記のような記念事業を計画しております。
寄付・寄贈
下のLinkの応用化学科のHPにて詳細をご参照の上、本記念事業への積極的なご参加をお願いいたします。
『タケダのグローバル化への挑戦』
~ 世界をとりまくパラダイムシフトのなかで ~
講演日時:2017年7月13日(木)17:00~19:00(学生代表とのパネルディスカッションを含む)
講演会場:63号館2階03室、04室、05室 引き続き63号館1階ロームスクエアで懇親会を実施
講演者;長谷川 閑史 (はせがわ やすちか) 氏 武田薬品工業株式会社 相談役
1970年 早稲田大学 政治経済学部卒業
同 年 武田薬品工業株式会社入社
1998年 医薬国際本部長
1999年 取締役
2003年 代表取締役社長
2011年 公益社団法人 経済同友会 代表幹事(2015年まで)
2014年 代表取締役 取締役会長
2015年 東京電力株式会社(現 東京電力ホールディングス株式会社) 社外取締役
2015年 取締役会長(2017年まで)
2016年 旭硝子株式会社 社外取締役
2017年 相談役
保谷交流副委員長の司会のもと、まず早稲田大学名誉教授である竜田邦明・栄誉フェローから講師紹介が行われた後、教員・OB/OG・講演会関係者67名、学生73名、合計140名(来場者ベース)の聴講者を対象に講演が始まった。なお、講演会場内で投影された説明資料は印刷物としても用意して頂き、聴講者一人ひとりに配布された。講演は基本的にこの説明資料に基いて順を追ってなされており、本報告書でもこの説明資料を引用した部分がある。
保谷交流副委員長からは、竜田邦明先生が、武田薬品と深い関係にあり育英事業を行う公益財団法人尚志社において長年評議員及び理事の役職にあり、長谷川閑史氏ともお付き合いが長いこと、また竜田邦明先生ご自身も尚志社から奨学金を受けた奨学生であることが紹介された。
長谷川閑史氏の講演
講演内容は下記の3項目に大別されている。
(講演内容要旨は下記の項目をクリックしてご覧になれます)
質疑応答(要旨)
講演の最後に聴講者の1人から次のような質問があった。
*研究拠点を湘南Research Centerからアメリカに移した、という話があったが、武田薬品において創薬が出てこなかった原因は何か? また、拠点を海外に移した理由は何か?
これに対して講師から下記のような説明があった。
*2つ理由がある。
1つは、1990年代の初頭位まで、市場に出ている製品の9割は低分子化合物で、錠剤とかカプセルとかの経口薬であった。ところが、Unmet Medical Needsとして残された病気は治療が難しく原因の究明も難しい。ましてや治療法が出てきてもそれは注射剤であり、経口剤では難しい。経口ということは水に溶けなければいけないが、それが中々難しい。そのスペースを埋めたのが抗体を中心とした生物学的製剤である。日本は低分子化合物でTopであったが、それだけに生物学的製剤への切り替えが遅れた。例えば抗体のTechnologyは1970年代の半ばに分かっていたが、そのTechnologyを使って具体的に治療薬を出すのに約20年位掛かった。当社も含めて日本の企業は抗体の研究を行ったが、うまくいかず途中で投げ出してしまった。ところが欧米の企業は、自分のところで出来なければHigh Risk、High Returnを覚悟のBio Ventureを取り込むことによって、抗体の技術を自らのものにしていった。日本は、某製薬会社1社を除いては抗体の研究を最後まで続けて製品化したという成功体験のある企業は無い。成功体験のある所へ行って取って来ることも難しい。
残念であるが、Bostonが世界のResearch Hubでinnovativeな薬の6~7割を出している。そういうEco Systemを作れない日本で頑張るといっても、それは根拠のないGambleのようなものである。今は、そういう世界のResearch Hubに行ってInsiderになって研究開発を行う道を選んだ。それが究極的に正しいかどうか分からない。ただ、今の延長線上で行く将来の姿と比べて、何かの改革をやることで成功確率、あるいは将来の絵姿が少しでも良くなるのであればそれに賭ける、というのが経営者としての判断であると思うので、そういう改革を行ったという事である。
講演の後、講師を囲んで学生によるパネルディスカッションが開催された。
学生によるパネルディスカッション
テーマ「私達のパラダイムシフト」
参加学生:
M1 田中 徳裕(Facilitator)
M1 石原 真由
M1 福井 宏佳
B4 政本 浩幸
B4 柳川 洋晟
学生によるパネルディスカッションの内容、および学生の講演会に対する印象については、学生交流委員のページで報告されています。 ⇒ 学生のページはこちら
懇親会
学生によるパネルディスカッションの後、会場を63号館1階ロームスクエアに移して懇親会を開催した。(懇親会参加者;教員・OB/OG・講演会関係者51名、学生60名、合計111名)
町野交流委員長の司会のもと、応用化学会三浦会長の挨拶、そして竜田栄誉フェローの乾杯のご発声の後、懇親会が始まった。今回は特に講師所属の会社説明のため、武田薬品工業株式会社 社長室から下記4名の方にも参加して頂いた。
渉外・秘書担当部長 田村 聖彦 様
主席部員 小泉 雄介 様
課長代理 高際 辰之 様
課長代理 片野 詩子 様
また今回は学生参加者も多く、講師を取り囲んでの輪は勿論、上記4名の方を取り囲んでの輪も会場のあちこちに開いて盛大な催しとなった。帰国子女である学生が講師と英語で話している姿も見られた。
橋本副会長の中締めの挨拶の後、松方主任教授から閉会の挨拶を頂いた。松方先生はこの日海外出張からの帰りの日で、空港から直ちに懇親会場まで駆けつけて頂いたとのことである。最後に上宇宿学生交流委員による、武田薬品の製品を引用した魅力ある挨拶と一本締めにて解散となった。
(文責:交流委員 小林幸治、写真撮影:相馬威宣、橋本正明)
――― 以上 ―――
3.タケダのグローバル化への挑戦
1)武田薬品236年の歴史
企業の場合は、というかあらゆる組織に共通であるが、皆の合意Consensusを得て意思決定をすることが、すぐには難しい場合がある。冒頭に進化論に関する言葉をあげながら、変革をリードするのがリーダーの仕事であると申し上げた。変革は、多くの場合リーダーが言い出さないと動かない、実際に起きない、というケースが多い。但し、リーダーが言い出してもその組織のメンバーにきちっと説明をして、納得をして、皆が一緒にやっていく形、これをbuy inというが、buy in processを取って皆が納得した上で、引っ張っていく、engageさせるということが大切で、これもリーダーの役割である。このようにリーダーが主導しなければならないtransformation、変革というのが沢山ある。
私は企業の場合しか分からないが、学校でもいかなる組織にでも色々あると思う。自治体でも中央政府でもあると思われる。
武田の場合、竜田先生が私を冒頭紹介して頂いた時に、後任にフランス人のクリストフ・ウェバーという人を外から引っ張って来て就けたと仰った。何故そのようなことをしたかということを次に述べます。薬というのは世界どこでも良い薬は良い薬である。ということは逆に言えば、地域の特性で熱帯病を治療する薬等は別にして、慢性疾患であるとか癌であるとかアルツハイマーであるとか、そういう病気を治療する良い薬はロシアでも良い薬であり、キューバでも良い薬です。
そういう意味で国境はない。だから良い薬を兎に角自分の所の研究開発で見出すか、あるいは自分の所で出来なければどこかBio Ventureのような所でやっていて、有望な物を持っている所を素早く取り込んで、早く開発をして患者さんの所へ届けることの両方をやらなければならない。
私共武田薬品の場合には、日本でNo.1、アジアでNo.1の製薬企業としてずっとやってきたが、その後Global化もそんなに急速に進めなくても維持出来た時代が長く続いた。今やICTと同じように良い物さえ出せばGlobalに世界同時上市も出来て、結局如何にそういう物を生み出すか、あとはそのGlobalなFootprintを持っていて、良い物を一斉に全世界で売り出すだけのPlatformがあるかどうか、そういう所で差が付く訳である。
そうすると我々の場合には急速にGlobal化を進めたけれど、まず人材が追い付かない。それと同時に、人材が追い付いてFootprintを作ってもそれを本当に自分でmanageして成功させた経験のある人が殆どいない。そういう人達が足りなければ外から持って来るしかないということになる。
育てていたら10年、15年掛かるわけで、それでは全然間に合わない。そういう状況の中で究極の選択が、私の後任をグラクソ・スミスクラインという世界Top5に入る会社のCEO Succession Candidateになっているような人であったクリストフ・ウェバーを、Head Hunterも使わずに個別にcontactして納得させて引っ張ってきた、ということである。
それは私が決断し実行しない限り、誰に頼む訳にもいかない。所謂Executive Decisionの1つである。勿論そういう決断をして選考する場合に、Selection Committeeを作ってSelection Committeeのmemberがそれぞれ一人ずつinterviewしてその結果を持ち寄り、加えてCEO Successionをsupportする専門のConsulting会社がアメリカにあるので、そこを雇って、更に1人について5時間位のinterviewをしてScore Cardという評価結果を出してもらい、それらを全部総合的に判断して、最終的に2人のCandidateに絞った。2人のCandidateを、指名委員会の委員長、それから委員、2人とも社外の取締役なのでbiasは掛かっていないわけで、この2人にどちらが良いか、と選んでもらって最終的にクリストフ・ウェバーを選んだ。どこから聞かれてもtransparent、透明化しても問題ないような形で選んだ。そういうことはTopが考えて実行して行かないと出来ない。そういうものが企業には沢山有るし、他の組織でも沢山有ると思う。
2)社長就任前(2003年)に考えたこと
ここで1つだけ覚えておいて頂きたいのはBenchmarkingである。所謂BenchmarkingというのはIndustryの中でBest Performing Companyは一体どういうBusinessのやり方をしているのか、Sales、Marketing、研究開発、色々なやり方があるし、この資料に書いてあるような色々な項目について、Best Practicing IndustryでのBest Practiceを実行していると思われる会社と比べて、自分達はどこが劣っているかという事を出して分析し、導き出してその差を縮めていき、埋めていくことを考えるのがBenchmarkingのやり方である。それを徹底的に色々なBusinessのUnitに関して行って来たということである。
3)売上と利益率の推移
何故Benchmarkingをやらなければならなかったかを次に述べる。この資料は2003年から2016年までの業績の推移であるが、Barは売上の絶対額で、赤の折れ線は営業利益率(%)であり、2008年までは[売上は]順調に伸びた。しかし、我々は先程述べたように特許が切れると、アメリカでは数カ月の内にGenericに置き換わり、売上が殆どなくなる。日本ではその置き換わりのスピードが随分遅かったが、ここ2~3年、政府が欧米型のMarketに組み替えてGenericへの置き換わりを急速に、また強制的に行うよう法律を変えた。従って今や特許切れが来ることが分かっている製品については、それをcoverする製品を如何に早く自社で開発するか、あるいは他社を買収するかを考えないと、たちまち売上/利益は大きく落ち込んでしまう。
要は、我々は2010年問題と言っていたが、2010年には従来の主力製品の特許が相前後して全部切れてしまう。そうすると売上が殆ど0となってしまう。僅か4~5年の間に、1兆5000億円位の売上の会社の6000億円の売り上げが吹っ飛んだ。そういう状況が来ると分かっているから、それを如何に埋めて安定成長に持っていくか、というのが経営者の仕事であるが、言うは易く、行うは難しである。それと同時に、Product Liability Insuranceという、アメリカにおける製造物責任が大きく取り上げられて、訴訟を起こされた。アメリカで訴訟を起こされたら、それを最後まで裁判で戦って勝つよりは、膨大な訴訟のcostを考えると和解をした方が良いというのが殆どのcaseである。従って、とんでもない話しであるが3000億円も払って訴訟を和解した。そのために営業利益がマイナスとなっている。こういうことが起こることを分かっていて、経営者である私が指をくわえて待っていたかというと、それは出来ないので何をしたかというと、買収をした。
4)TakedaのGap Fillingを主目的にしたCross borderのM&A <2003-2013>
武田という会社は236年の歴史があるが、私が社長になるまで買収はしたことがなかった。同族企業の合併はあったが、買収はしていない。2005年に初めて、サンディエゴにある、X線を使ったタンパク質の高速結晶構造解析技術という特殊なTechnologyを持つ、シリックスという会社を買収した。買収額は270百万ドルであった。また、イギリスのCambridgeにある会社を買収した。これはResearchのTechnologyの足りない部分を補うための買収であった。買収の規模も小さかったし、実際のリストラも必要なかったし、むしろ彼らが限られた原資の中でallocation出来なくて、やりたくても出来なかったことを武田が買収したことによって出来るようにしてwin-winのSynergyを作った。その後ミレニアム社という、癌に特化したBio Ventureの成功企業を9000億円で買収した。その後今度は、新興国に進出しなければならないが1つ1つ自分で旗を立てていたらとても時間が掛かって効率も悪いということで、スイスのチューリッヒにあるナイコメッドという会社を1兆1000億円で買収した。これらを武田の中にintegrateしていった。特にこの会社を買った時には、規模も買収の金額も大きかったが従業員の規模も1万2000人もいて、その中には要らないBusinessもあったので売却をしたり、Post Merger Integrationという、買収後に如何に会社の中に組み込んでいくか、融合させていくかというProcessの中で相当なリストラも行った。それらを踏まえて今はまた、パイプラインという研究開発の製品を外から取り込むことによって強化をしていくことを中心に行っている状況にある。こういう、行ったこともない買収を、それもcross borderで日本から海外の企業を買収してintegrationしてきた。
5)タケダが目指すグローバル経営とは
上記も含めて、やはり我々日本人だけではそこの部分について十分な対応が出来なかったので、出来るだけ短期間に事業のあらゆる面でグローバルに競争力のある会社に変革するために、Topも含めてKey PositionにはGlobal Standardで成功体験を有するTalentが必要である。先程はCEOの後継者としてフランス人のクリストフ・ウェバーを申し上げたが、ここでは例えばCFO、Chief Financial Officerとか、Chief Medical and Scientific Officer、研究開発本部長とか、Chief Human Resource Officer、Global人事部長とか、Chief Information Officer、つまりGlobal Information TechnologyのTopとか、Global Procurementという、Globalに調達をするTopとか、そういった人達を欧米の企業からHead Huntして持ってきて、それらでTeamを作って効率化を図ると同時に、先程の買収した企業を融合していくというProcessを出来るだけsmoothに進めるようにした。
6)グローバルで多様性に富み、かつ豊富な経験を備えたタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)
その結果が、タケダ・エグゼクティブ・チームという、日本の会社でいくと執行役も含めた経営陣ということになる。8ケ国の国籍、14名の陣容である。14名のうちの3名が日本人で、残りはNon-Japaneseである。女性は残念ながら一人しかいないが、今後女性を増やしていくのが我々のChallengeの一つである。
これもExecutive Decisionで行った訳である。これは私の後任のクリストフ・ウェバーが来て、仕上げを行った。Conceptとしてこういうことを私も考えていたが、実際の仕上げを行ったのはクリストフ・ウェバーである。
7)タケダの意思決定体制図
タケダの取締役会はいま13名で構成されるが、そのうちの社内取締役は僅かこの4名である。日本人が一人でアメリカ人が一人、あとはアイルランド人とフランス人である。4人の国籍が全部違うということである。あとは社外取締役が9人で、その中にもNon-Japaneseが2人いる。東恵美子さんも日本人ではあるがアメリカでずっと仕事をしているので、半分アメリカ人のような方である。藤森さんもGEに長い期間いて、それからLIXILのTopをしているということで、半分アメリカ人みたいな方である。従って非常にVarietyに富んだ役員構成となっており、そうすることによってGovernanceを透明にしている。
8)研究開発の変革―疾患領域の絞り込み・日本と米国への拠点の集約
それと同時にもう一つは、先程から何回か言った研究開発の難しさ、それから日本が創薬力において段々沈下していることを述べたが、その状況をこのままにしておくと、とてもではないが世界に伍して戦っていけないということで、私自身がこれをやり残したR&Dの生産性向上のための変革を、後任のクリストフ・ウェバーと、R&DのTopのAndrew Plumpというアメリカ人で行った。何を行ったかと言うと、我々が完全にfocusしている治療領域を中枢神経と癌と消化器に絞り、再生医療とワクチンについては+αで行うことにした。このTransformationをやる以前は、研究拠点は神奈川県の藤沢市と鎌倉市の境界線上にある、元工場があった湘南Research Centerで約1200人のResearcherを抱えて研究をしていたが、それでやってみても10年~15年の間物が全く出なかった。このまま行っても生産性は上がらないということで、日本には中枢神経と再生医療とワクチンを残した。ワクチンは、製造拠点は日本に残して研究開発の拠点はアメリカとした。こういう体制にすることにより研究開発の生産性を高めた。同時にOpen Innovationという形で、社外のBio Ventureのような研究開発をしている所を常に注目し、必要に応じて買収をしたりResearchのCollaborationの契約をしている。このような形で大きくやり方を変えた。その結果設立した会社の例を資料に示した。詳細説明は省略する。研究をfocusして、focus領域以外は外にspin outしてPartnerを見付けて、それぞれに特化した会社を作って研究開発を行うというやり方をしている。
一方で、これは後任社長のクリストフの考えでもあるが、これだけの大変革を行ったが、湘南Research Centerにいた約1200人のResearcherに関し、その中でアメリカでこれから自分の能力を磨きChallengeをしたいという人達については会社がendorseし、3年間で1クール[cours、課程、仏語]であるが6年間はアメリカで成長してもらえるChanceを提供したところ、100人位が手を上げてくれて、そういう人達もこれからBostonに行って世界の最先端のResearch Hubの中で切磋琢磨をしながら自分達の力を磨いてもらうということも行っている。
9)経営の基本精神
下図の資料はこれまで説明してきたことのBaseとなっている考え方である。ここに書いてある通りなので、説明は省略する。
<推薦図書>
次の6つの図書について、推薦される理由と概略内容等の説明があった。
2.医薬品産業の現状と今後
1)世界の医薬品市場の見通し(2015-2025)
私が身を置く医薬品産業についての状況であるが、医薬品のマーケットの伸びはこの10年間で世界市場において1.7倍になっている。
またこの10年間の伸びを地域別に見ると、その半分以上がアメリカによって創出されるという、非常に偏った状況になっている。その後に続くのは欧州、中国である。特に中国は、まだ世界に通用するような差別化された医薬品を0から作り出す能力は無いが、それでも中国はアメリカからどんどんPh.D.の人が帰っており、そういう人達は実際にアメリカでの就業体験を持った上で帰っている。今や中国は政策的に、深圳を中国のSilicon Valleyのようにしようとしている。中国本当に恐るべしと思われる。何れ日本はアジアでNo.1の地位を中国に奪われることは間違い無いと言わざるを得ない。
因みに、例えばGlobal Top 100 Best Selling Pharmaceutical Productの内、日本Originが幾つあったかと言うと、1990年代には15品目あったが、今や2015、2016年になると僅か5品目しかない。その数は恐らく今後も比率として減り続けるという恐れがある。一方アジアのどこがcatch upして来るかというと、韓国は電機とか電子とかその分野の製品では日本を陵駕しているが、残念ながら創薬ということについては中々難しいようである。恐らく中国が早晩日本を追い抜くと思われる。
例えばアメリカの大学に100万人毎年全世界から留学をする。100万人の内の3分の1、33万人が中国人である。17%、17万人がインド人である。韓国でも毎年5~6万人がアメリカに学びに行く。韓国は人口が5000万人で日本の半分以下である。日本は1億2500万人の人口でありながら、3万人足らず位である。一時、ピークの時は7~8万人が行った。これは別にアメリカに行けと言っている訳でもないし、アメリカが全てと言っている訳でもないが、やはり外国で世界のトップレベルが集まって切磋琢磨するような所に、自分から身を乗り出して乗り込んでいく、それ位の気概を持たないと、本当に国際競争、Global競争に負けてしまう。
これが1つと、もう1つは日本で色々なstart upをして成功している人が何人かいる。例えば楽天の三木谷さんとか、グロービスの堀さんとか、あるいはサントリーの新浪さん、新浪さんは自分ではstart upしていないが、43歳でローソンの社長になり今やサントリーの社長になり、そういう人達は皆HarvardだとかStanfordだとか色々な所でMBAを取りに行って学んで、そういう人達が皆仲間がstart upするのに刺激を受けて、自らもstart upをする。
よく言われるArbitrageという言葉を知っているであろうか? “裁定”という意味の言葉である。昨日の日経新聞のコラムにおいて、孫正義さんのことについて書かれた中にその言葉が使われていたので見れば分かるが、三木谷さんがあのBusiness Modelを考えたのではなくて、アメリカでAmazonがやっていることを日本で是非やろう、ということでやったわけである。従って時間差があるから、その時間差を利用してある国における先行者の利益を自分の方に持って帰ることで、先行者として利得を得る。そういうことをArbitrageと言うようである。
そういうことだって可能な訳である。しかし今やそのタイム差はどんどん縮まっているので、昔のように悠長に構えていては出来ない。
何れにしても世界で何が起こっているか、ということを自分の目でしっかり見て来るということをしないで、日本の中だけで周りの仲間だけを見てcomfortableに幸せな生活を送っていて良いわけはない。
私のように70歳を過ぎたような人達にとっては多分今後10年か15年はこの延長線上でいけると思われるが、皆さんのようにまだ20歳そこそこの人達であれば、これから50年、60年、最低生きて、永い人は22世紀まで生きるかも知れない。そうするとそういう時代にあなた達は世界がどういう形で変化しているか、ということを念頭に置いた上で自分達が生き延びて行く道を本当に考えないといけない。
それはいかに多くstart upするか、ということにかかっていると思われる。新規事業を起こすことが日本は先進国の中で一番弱い。そういう国なので、そういうことを皆さんが是非Lead出来るようにして頂きたい。
2)製薬企業の時価総額推移
この資料は製薬企業の売上の推移であるが、説明は割愛する。
3)新たなモダリティ(基盤技術) がビジネス成功の鍵に
パラダイム・シフトは製薬企業でも確実に起きている。2005年のBest Selling Top 10 Productのうち僅か1品目が生物学的製剤、つまりBiologicsと言われているもので、残りの9製品は低分子化合物、あるいはSmall Molecular TechnologyをPlatform Technologyとして作られた薬であったが、僅か10年の間にTop 10 Best Selling Productのうち3品目しかSmall Molecular TechnologyをBaseとした薬はなくなってしまった。Large Molecular Product、つまり生物学的製剤、これは抗体であるとか治療用のワクチンとかであり、iPSもこれに入る訳であるが、こういう形でMarketが目まぐるしく変わっている。Platform Technologyパラダイム・シフトが起きている。
4)バイオテク企業による創薬が増加
更にもう1つ、私共の業界で注目しておかなければいけない変化は、そういった新しい薬を一体誰がどこで創出しているか、ということである。2007年、今から10年も経たない前であるが、その頃はバイオテク、NPOといった所と製薬企業とを比べると、製薬企業は7割位を創出していた。
ところが僅か10年も経たない間にがらっと変わり、バイオテクとかNPO/アカデミアの方から新しい薬の半分以上が出て来るようになった。
こういう状況の中で、例え1兆円の研究開発費を使っても、その会社が新しい薬を作れるかどうか。世界で一番大きい製薬会社はPfizerで6兆円位の売上であるが、そういう会社でも、その売上を継続的に伸ばしていくだけの新製品を10年とか15年のサイクルで出さないと売上を維持出来ない。
薬は10年とか15年市場に出ると特許が切れてGenericに置き換わるからである。Pfizerのような会社がそういうことが出来るかというと、残念ながら出来ない。一体どこがやっているかというと、バイオテク、NPO/アカデミアといった所がやっている。例えば薬であるとBoston、CambridgeのMassachusettsはPharmaceutical Valleyという世界のInnovation Hubとなっている。そこの一番のPower SourceはCambridgeの10km四方位の所にある400~500社のバイオテク会社である。そこに世界中から優秀な人達が集まる。その人達は頻繁に会社を動きながら、新しい薬を作り、1000に3つの確率に賭けて、新しい薬が出ればそこで大儲けをして、そこのFounderとかVenture Capitalistは次の投資に移る。あるいは、会社を売ったFounderはまた新しいVentureを始める。こういうEco Systemが出来ている。勿論Coreになっているのは、MITとかHarvard大学とかBoston大学といった、Core Technologyを持ってspin outをさせている大学である。Venture Capitalistはそれを支えIPO [Initial Public Offering]まで行かせるというMechanismが出来ている。日本には残念ながらそういうものがない。従って私共の会社はその中のCommunityに入り込んでいって、Globalな競争相手と伍して遅れることのないように素早く決断出来るようにし、必要があれば買収もする体制を取っている。
《続き》
まず、これら3大項目への導入部として次のテーマで解説がなされた。
「変化を恐れるな!」
“生物の進化の歴史を見ても、 最も強い者や最も賢い者が生き残った訳ではない。 最も変化に懸命だった者、最も環境変化に適応した者が生き残った。”
この言葉はダーウィンの進化論の中で記述はされてはいないかも知れないが、筋が通っていると思われる。 グローバル化/技術革新の進展により加速度的に変化する環境下にあって、「何もしないこと」は、結果として日本および日本企業にとって「最大のリスクテーキング」になるというのが、私が11年間社長をし、3年間会長をした経験から得られた実感である。
今の時代のリーダーは、その人がリードする組織、それが国の場合は政府、立法府、行政府のいづれであれ、あるいは企業、自治体、教育機関といった組織でも、それら全ては環境の変化に応じて、出来れば先取りをして自らが変わっていくということをしないと、環境の変化に先を越されてしまったり競争相手に先を越されてしまったりする。
例えば大学1つを見ても、大学は国内の大学同士で競争しているだけではなく、海外の大学とも競争している。学生は国内の学生、あるいは他大学の学生と競争しているだけではなく、留学生とも、あるいは海外の学生とも競争している。 どの位の割合か知らないが、多分今の学生は大学に残るのは1割か、それ未満位であろう。殆どの方が最終的には就職という形になると思われる。
一方、採用する企業の側からすると、そういう観点から採用するので国内の競争だけで見ている学生は、少し視野が狭いということに成りかねない。その辺の所を良く考えた上で目標を定めるのが良いと思われる。これは経営者にも良く話すことであるが、“経営トップに求められる資質・経験・知識・スキルは基本的に共通するものが多い。しかし、個別の会社の置かれている状況/環境によって特殊な資質・才能が求められる場合がある。”というのが私の実感である。
次に、3項目に大別された各項目についての解説がなされた。
1.世界のパラダイム・シフト
1)パラダイム・シフト
下記の3つのパラダイム・シフトを取り上げる。
①人口動態;先進国における急速な高齢化⇒新興国における人口増大
②世界経済のDriving Force;先進国⇒新興国
③ITによる情報化社会;更なるGlobalization、Digitalization⇒フラットな世界、The Second Machine Age
2)世界の地域別人口予測
今の人口は72~73億人程度と思われるが、過去100年弱を見てみると1950年には世界の人口は25億人であった。それが、ほぼ100年後の2056年には100億人になる。これは国連の人口推計の中位推計値で取っているが、わずか一世紀の間に人口が4倍になる。それも25億人から100億人という巨大な数になるという人類が経験したことがない急激な人口増であるから、それによって色々な環境への軋み、競争への軋み、資源への軋み等様々な問題が出て来ている。それをどうやってこれから調和させて生きて行くかということが、これからを生きる我々にとっては特に大きな課題になる。
中でも特徴的なのは、アフリカの人口であり、今は10億人ちょっとであるが、それが40~50億人に増えて行く。これから約40年位で72~73億人から100億人に増えて行くが、そのうちの殆どはアフリカで増えて行く。勿論アジアでも増えて行くが、アジアはアフリカよりも早くピークに達して、やがて2060年頃から減少に転じる。アフリカの場合はその後も増え続けて行って、アジアとアフリカで世界の人口の8割を占める位の状況になる。
人口推計は統計の推定値の中でも最も当たる確率が高い、と言われているから、この予測はほぼ間違いないだろう。恐らく今学生の皆さんが私の年になる40年後とか50年後には、こういう時代がほぼ現実のものとなっていると考えるのが宜しいと思われる。
3)経済成長の5割以上は新興国からもたらされる
経済については、世界のGDPは2000年から2010年にかけて倍、2022年を2000年と比較すると3倍位に増える。しかし、これを先進国と新興国に分けてみると先進国は約2倍に対して新興国は約6.3倍と、圧倒的に新興国の伸びが世界全体の経済の成長を引っ張っていくという様子が見えている。
その中身を少しbreakdownして見てみると、米国やドイツでは約2倍でほぼ先進国の平均位に伸びている。日本は、失われた20年と言われているが1990年代の終わりから殆どゼロ成長、金額で言うと500兆円位のGDPでずっと横這い、ドル換算なのでレートにより若干異なるがほぼ横這いで増えていない。一方で中国は14.6倍に増えている。勿論ベースが小さいから倍率は高くなるが、一方で絶対値を見ても、中国が日本を抜いたのは2010年で、わずか6~7年後の現在は1.7倍から2倍近くになっていて、アメリカの三分の二位にまで成長している。中国の数字がどこまで信用出来るかという話しはあるが、それにしても目覚ましい成長である。今や米中が覇権を競う国のスター、経済の規模においても覇権を競う国になっている。
日本経済のGDPのピークは1994年に世界の18%を、人口が2%にも満たないような島国日本が創出していた。今ではそれは見る影もなく、全体の5%で、当時の世界に占める割合からすると既に三分の一になっている。これからも日本の人口は1億2800万人をピークに減っていき、50年後には9000万人を割るのではないかと言われている。そういう中で経済を成長させていく、それもグローバルな平均として成長させていくというのは至難の技である。そういった中で日本はどうやって豊かさを維持し、社会を維持していくかということがこれからの最大の課題の1つである。
4)第4次産業革命の時代、Second Machine Ageへ
次に科学技術、ICT Technologyであるが、その中で特にComputer Technologyについて採り上げたい。今第4次産業革命の時代と言われたり、あるいは3年位前に出版された本ではSecond Machine Ageという定義がなされている。1775年にJames Wattが蒸気機関を発明して以来産業革命が始まったと言われているが、その時代をFirst Machine Ageというふうにこの本の著者達は名付けている。この段階では蒸気機関の発明が人間の労働力を機械に置き換えることによって、人間の生産性、社会の生産性を飛躍的に伸ばしたわけである。それから約250年経って、今やSecond Machine Ageという時代になりDigitalizationとAIの発展が人間の頭脳労働を機械に置き換えるという時代が到来しつつあるということである。
一方、経済産業省の「新産業構造ビジョン」の中では第4次産業革命という呼び方をしており、現在は第4次産業革命の真っただ中にいると言えるわけである。
5)ITが世界を変えるイノベーションを生み出す―ITが働き方、モノづくり、サービスを根本から変える
それではICT Technologyがこれからの経済にどのようなImpactを与えて行くか、経済的に見てImpactが大きいのはどこということを考えてみよう。
McKinsey Global Instituteが作った予想値によれば、経済的にImpactが一番大きいのはMobile Internetで、先進国においてはオペレーションの効率化と労働生産性の向上を、新興国においては遠隔サービスの浸透等を通じて圧倒的に大きな経済Impactを与えるであろうと言われている。
その次に大きいと言われているのが知識労働の自動化という、所謂人工頭脳(AI)の領域である。下限予測と上限予測で、見方にこの位の幅があるが、相対的に見ればMobile Internetに次いで知識労働の自動化、AI ROBOTの活用が大きな経済Impactを与え、その後にInternet of Things(IoT)、つまりモノのインターネット、あるいはクラウド技術と言われるものが大きな経済的Impactを与えると言われている。
6)社会の様々な分野にAIが進出
AIについては申し上げるまでもないが、最も皆さんに分かりやすくImpactを伝える出来事の1つが、例えばチェスや将棋や囲碁でAIが人間のトッププレーヤーに勝利したことである。
最初は1997年にディープ・ブルーというコンピューターがチェスの王者に勝利して、それが始まりであったが、その後将棋ソフト「PONANZA」がプロ棋士に勝利し、いよいよ昨年は世界のトップ3に入るだろうと言われている韓国のプロ棋士イ・セドルにGoogleのアルファ碁が4勝1敗と圧倒的に勝利した。なおかつアルファ碁が今年になって世界一の棋士[柯潔(か・けつ)九段]にも勝利した。アルファ碁はこれ以上[人間との対戦を]しないということで、アルファ碁同士の棋譜50局が公表されており、それを見た棋士達は自分たちが考えもしなかった手が打たれている、ということに驚いているようである。
もう一つはAmazonのEchoという音声アシスタント端末が、AlexaというAIを搭載しており、そのAlexaに音声で指示をすれば[例えば]「Alexa、今一番流行っている音楽をかけてくれ」とか、「私は今こういう気分だから元気付けてくれるような音楽を聞かせてくれ」とか、口で言えば何でも「分かりました」と聞いてくれる。実際に私はそれを見て何となく複雑な気分になったが、そういうものが既にアメリカでは約1,000万台売れている。勿論AmazonだけではなくてGoogleやApple、Microsoftなども追随している。
ここで恐ろしいのは今のGoogleの検索とかAmazonのPrime Customerとかで注文するものは全部GoogleやAmazonのData Baseの中に取り込まれているわけである。だから自分が欲しいとは思いもしないようなものも、この品物を買った人はこのようなものも見ているとか、頼んでもいないものを色々言ってくれるわけである。そういうことはまだまだ始まりで、様々な皆様の思ってもみないことがみんなBig Dataの中に入って分析をされて、Customizeされた情報がそれぞれ皆さんのところへ届くということが起こってくる。
本来Privacyの保護について敏感な今の世代の人たちも、このことについては何故か何の疑問も持たずに為すがままにされている、ということ自体が恐らくこれからは問題になってくるように思われる。どこまで何を分析されるか、心理的なものだから何か分析に使われるとちょっと空恐ろしい。
その他、AIが皮膚がんを判定するというソフトがあって、これはまだ正式な医療行為としてFDAとか日本の厚労省とかで認められてはいないが、実際には皮膚がんの診断については、特に微妙な診断についてはAIの方が専門医よりも正しく判定する確率が高い。だから人間とAIを組み合わせてやれば、遥かに今よりも精度が上がる。
それは皮膚がんだけではなくて大腸がんだとか食道がんだとか、Endoscopy、Chronoscopy、内視鏡で検査するがそういう時にその画像を見せて診断させるとAIがそれを全部判断してくれる。そして専門医が肉眼で確認して最終の診断をするということが現実に起きている。
一方で、例えば低開発国のバングラデシュで実際に起きているが、地方に専門医がなかなか居ついてもらえないなか、慢性病、例えば心臓病の方達は遠隔診断で処方することによって8割方の問題は解決されることが分かっている。どういうことを行うかというと、尿とか血液の検査薬のキットを慢性疾患の患者さんの家庭に配って、患者さんが1週間に1回尿とか血液の検査を診断キットで行い、血糖値が幾つであるとか肝機能がどうであるとか、それらを全部電話回線で町の専門医に送れば専門医がそれを経時的に診て、何か変わった情報が出てくれば生活の指導をしたり処方を変えたりしてその治療を継続する。それを行うことによって8割方の問題は実際にface-to-faceでなくても解決出来る、ということが起きている。
それからこれも有名な話であるが、日経新聞の人などに話を聞くと、同じ日に何百社も企業決算発表を行う。AIにそれまでの過去のデータを全部覚え込ませて、新しく発表されたデータを送り込むと決算発表のSummaryの記事を僅か1~2分で全部書いてくれる。そういうことが現実に起こっているわけで、AIは与えられたものに対して分析をして比較して、その結果を記事として出す。では記者は何をするかというと、AIが考えられないような、すなわち初めから目的が分かっているものではなくて、色々な現象を自分が取材をして、あるいは会社の状況をきちっとmonitoringしてそれを取材して、記事を纏めて行く。AIは目的が与えられなければ、それに対する答えは出さない。人間はそうではなくて自分が目的を作って目的に合うような材料を集めInformationを分析して記事に纏めることが出来る。そういう、AIが出来ないことをやっていかないとAIとの差別化が出来ないし、AIとの差別化が出来なければAIに置き換わられる可能性が無きにしも非ず、ということである。
AIには、特定の決まった作業を遂行する「特化型」と、人間と同様あるいは人間以上の汎用能力を持ち合わせているとされる「汎用型」の2種類がある。現存するAIは全て「特化型」と言われている。「汎用型」AIが実用化すると、人間の生き方やあり方を根本から変える可能性もある。これを含めて多分Singularityというふうに定義付けられる。
7)AIは失業をもたらす悪魔か、人口減少時代の救世主か?
Singularityは、これを言い出したカーツワイルは2045年頃にSingularityが来ると言っていたが、今ではもうちょっと早く来るのではないか、ということを言っているようである。それが何を意味するか、ということについては、ここでは悲観論と中立論と楽観論と3つpick upしておいた。最後に紹介する推薦図書の中にMEGATECH(「エコノミスト」誌が2050年のTechnologyを予想して書いた本)からpick upしたものである。
一方で楽観論について面白いのは、引用した人が限られてはいるが日本人が多いことである。欧米人は結構心配していて、Microsoftのビル・ゲイツに至ってはもう少しAIの進展を遅らせるべきであるとまで言っている。それから、AIが本当に仕事の半分も置き換えるようなことになった場合には、人間はどうやって食べて行くのか、ロボットに税金を課すのか、あるいはBasic Income、すなわち国民全部に例えば30万円を毎月渡すとか、そういった様々な意見が出ている。要は何も分かっていないということである。どうなるか分からないが、何となくヤバイぞという感覚が今多くのところで芽生えているということである。
8)AI時代に向けて取り組むべき課題
ここでは特に教育の問題を取り上げた。これからは多分ComputerのProgrammingの基礎的な知識はMustであろう。色々な国で既に行われているが、例えば欧州、英国、イスラエル、バルト3国のようなICT先進国では既に行われている。日本は中々そういうところに手が届いていない。それ以前の問題として英語の教育すら週1回小学校の授業で取り入れられる程度である。GlobalなBusiness Languageである英語について、これから国内で仕事をする人においても英語の知識はMustであろうと思われる。しかし残念ながらTOEICを見てもTOEFLを見ても日本はアジアの中で最低の部類に位置付けられている状況である。若い皆さん、あなた方は英語から逃れることは絶対に出来ない。You’d better be speaking English fluently. 頭の中に入れておいて頂きたい。
ただ、日本の場合はそういうことに対する危機感が非常に弱い。アメリカの場合であればそういう問題が出て来ると、政府がやらなければ私がやるという人が出てくる、IBM ジニ・ロメッティCEOは、アメリカの高校4年だけではとても仕事のRequirementを習得出来ないので、4年+2年の6年間の高校を設立し準学士号まで取得可能なカリキュラムを創設しようと、今は300社の提携企業と30位の州に亘って具体的な活動をしている。
あるいはEngineerが全国の全ての学校でのProgrammingを教えるための組織、Non-Profit Organizationを立ち上げて、更にはProgrammingの世界的な普及に使えるようなProgramを作ったりしている。
しかし日本及びヨーロッパでは中々そこまで個人やボランティアが行動を起こさない。そういう所では政府がInitiativeを取ってやるべき、と考える。その場合の問題は、日本の公的教育支出はGDP比でOECD加盟国中で最低レベルにあることである。それからもう一つは、一旦職を失った人が再就職をするために政府が提供する教育Program、これは「Re-training」とか「Re-skilling」と言われているが、そういう投資にもGDP比でOECD加盟国中で最低レベルにある。
では日本はどこで何に使っているか、ということになるが圧倒的に社会保障費に使っている。今の社会保障費のMechanismは高度成長期に作られたもので、低成長になって高齢化が進む時代には全く持続可能性が無い。例えば社会保障で、1950年にもらった人と、今これから社会に出て行こうとしている人を比べると、社会保障に自分の給料から天引きされて社会保障費として積み立てに拠出した部分と、実際に自分がretireしてもらうお金を比較すると、50年位にもらった人は3000万円位プラスになるが、今から社会に出る人達は3000万円位のマイナスになるという試算もある。こんなシステムが通用する訳もないし持続性がある訳でもないのであるが、やっぱりSilver Democracyというか、年配の人達、一票の格差、年配の人たちはより多く投票に行く、そういった様々な問題があって、中々若者達の、あるいは次世代の人達への不公平感が是正をされない、という問題がある。
このこと1つを取っても日本にとっては大きな課題であり、早急に解決策を見出さなければならない。Basic Incomeとか、Robotへの課税とか、それはそういった話の種となっている。
9)格差の連鎖・固定化をどう断ち切るか
最大の問題は、こういったことから何が導き出されているかというと、世界で今貧富の格差が日本でも広がっているし、アメリカでももっと極端に広がっている。今アメリカの貧富の格差に関し、皆さんは覚えておられると思うが、アメリカの大統領選のキャンペーンでトランプとクリントンが戦う前に、民主党の中でクリントンのライバルであったサンダース上院議員が言っていたが、アメリカの富の殆どを上位1%の富裕層が独占し、その額は下位90%の人達の合計額と同じであるとのことで、極端な貧富の差がついている。アメリカではお金持ちのためのPopulismが、トランプが実行している政策だと言われている。トランプの閣僚は皆大金持ちの億万長者ばかりである。そういう状況が皮肉なことに貧富の格差の再生産を生み出している。格差のMechanismは多分こういうことであろう。
一旦生じた格差の解消が困難な理由の一つは、それが子宮の中、乳母車の中、そして幼稚園の中といった極めて早い段階から始まるためである。中産階級の母親は、子供が子宮の中にいるうちから健康的な環境を与えるように努力する。また、中産階級の子供が生後最初の2年間で語りかけられる言葉の数は、労働階級の子供と比べて数百万語多いのが一般的だ。また、中産階級の親は子供を幼稚園に通わせる傾向が強い。ハーバード大の学生の保護者の平均年収は45万ドル以上(エイドリアン・ウールドリッジ/「エコノミスト」マネジメント担当エディター)、東大生保護者の平均年収は1千万円以上。要は金持ちでないと良い大学は受けさせられないし、良い大学に行かせられない。
ただアメリカの場合はそれでもまだ救いがあるのは、奨学金制度が非常に充実していて、それも返さなくてもよい奨学金が結構ある。日本の場合は、返さなくてもよい奨学金もようやく政府が重い腰を上げて少しずつやろうとはしているが、大部分の制度の奨学金は返さなければならない。
イギリスでは奨学金制度を作って、なおかつその返還については、卒業し就職した時の収入に応じて全部返さなければいけないか、3割で良いか、そういう決め方を工夫したりしている。その辺のFlexibilityが日本には無い。日本の社会の問題の1つは、皆平等であれば文句を言われた時にあなただけではない、ということで答え易いためそのように処理してしまう。しかし、様々な状況の中で人は皆違う環境にいて、それに対する対応も違うはずなのに、それが非常に出来難いということをこれから変えていかないと、どうにも動きが取れない状況になって来る。これが益々高じるだろうと思われる。
それともう1つは文系・理系に関わらず今後はSTEM(Science、Technology、Engineering、and Mathematics)の基礎知識教育は必須であると思われる。
10)日本の人口推移
移民、難民の受け入れが困難な日本では、demographicなchangeがある中で何をしたら良いだろうか? 人材しか資源がない国なので個々の生産性upしかない。因みに1年で生まれる子供の数は、1949年、第一次Baby Boomerのピーク時に270万人である。ところが昨年は100万人を切った。だから今はピーク時の半分以下である。それだけしか子供が生まれていないので、日本の人口はどんどん減っていってしまう。
そういう状況の中で真っ先にやることは、本当は、普通の国であれば世界中から優秀な人が集まるような環境を作って、移民を受け入れる、あるいは難民を受け入れる。ドイツに至っては2015年から約100万人の難民を1年ちょっとの間で引き受けている。そういう国がある一方で、日本に至っては多分数十人とか、その程度しか受け入れていない。また世界から優秀な人材が集まることもない。
様々な問題があるが、例えば大学の中で理科系と文科系の比率も、日本は多分理科系は24~25%で、75%位は文科系であると思われる。中国やインドは日本の10倍以上の人口があるが、45~47%が理科系、シンガポールに至っては半分以上が理科系という状況である。ComputerのTechnologyが社会のベースになって来る時には、もう少し理科系、文科系を超えた前述のSTEMの教育が必要と思われる。
アメリカも多分理科系の比率は日本と余り変わらず、30%未満と思われる。ただ、アメリカの場合は社会に出た時世界中から人を集める。Silicon Valleyに世界中から人が集まる、あるいは私が身を置く医薬品であればCambridge、それからBostonのあるMassachusettsが、西のSilicon Valley、東のHealth Care Valleyみたいな形で、世界のHealth CareのInnovation、あるいは世界のICTのInnovationは圧倒的にその地域で集中的に起こっている。そうした環境を作ることによって、世界中から優秀な人を集めるという、所謂Eco Systemを作っている。そういうものを作っていくか、力が無ければそれを呼び寄せるための仕組み作りから始めて行かなければならないので、日本としては大変であるということになる。
11)起業大競争と内向き日本
皆さん、特にこれから出て行く若い人達は、まずStart upを考えるべきである。大企業に行っても余り良いことは無いと思う。自分達が勉強したことを生かして起業する。Second Chance、Third Chanceのあるような社会を作っていくことによって、何回でも起業して成功するまでやるということをSilicon ValleyやHealth Care Valleyでは当たり前のように行われている。日本でもそういう環境を作らないととても追い付いて行けないと思われる。
1つの例であるが、ユニコーンと言われている価値10億ドル以上の未上場企業が世界に188社あるが、日本にはわずか1社しかない。メルカリというフリマアプリを運営している会社である。因みに188社の半分以上の99社がアメリカで、中国にも45社あり、圧倒的にこういう所でも差を付けられてしまっている。
もう1つ、準備中の起業家数は日本は3%で350万人、中国は9%で母数が多いから1億2000万人と、桁違いの差がある。それからこの資料にあるグローバルスタートアップ・エコシステムランキングにおいて、アメリカはこの15のうち6都市が上位の中に入っている。日本が入っていないのは調査対象外だからであるが、調査したとしても多分1つ入るか入らないか位であると思われる。
こういう様々なHandicapを背負っていることを考えると、特に若者は、日本でだめだったら世界で活躍する位のことを今から思って、就職もアメリカで就く位のことを考えて、あるいはヨーロッパで就く位のことを考えて、新しい物を起こしていくことによって何れは日本に貢献することを考えて欲しい。
日本の生活レベルは豊かであるし、国は安全であるし、おいしい物が食べられるが、こういう環境が何時までも続くという保証は全く無いことはお分かりの通りである。
12)イノベーション促進に向けた世界の取り組み
この部分は参考までの資料として皆様に提起しておくので、興味のある方は見て頂きたい。
《続き》
尚志社の宣伝をして頂き、有難う御座います。本日は長谷川閑史会長の講演会を開く事が出来まして、非常に喜んでおります。最初にお断りをしておきますが、会長は先程ご紹介がありましたように6月で任を降りられました。が、敢えて会長と申し上げたいと思います。名人とか横綱は引退しても名人とか横綱であります。そのままで続けさせて頂きます。本日は私が本当に敬愛する長谷川閑史会長にお越し頂きまして、早稲田大学で、しかも理工学部の応用化学会で講演会を開くことが出来まして本当に嬉しく思っております。この暑い中長谷川会長、お越し頂きまして有難う御座います。今日は略歴と講演タイトルにつきましては事務局に作成して頂き配布されていると思いますが、少し補足させて頂きます。長谷川会長は1970年に早稲田大学の政治経済学部を卒業された後、直ちに武田薬品に就職されました。勿論色々な部署を経験されました後1986年から海外に赴任されました。最初にドイツタケダの社長、それからタケダヨーロッパの社長、最後にアメリカに渡られまして、やはりタケダの関係会社の社長を勤められました。要するに10年以上海外で社長を歴任されました。これだけをもってしても長谷川会長が現在のグローバル社会の最も相応しい社長、会長であると分かって頂けると思います。実際に2003年に代表取締役社長に就任され、2014年に会長に就任されますが、その間に2011年から経済同友会の代表幹事を勤められました。2期4年勤められました。経済同友会の代表幹事といいますのは言わば経済界の総理大臣に匹敵するものでありまして、正にトップリーダーになられました。そして2014年に会長に就任されますが、その際後任の社長に外人を外から連れて来られました。クリストフ・ウェバー氏を任用されました。それと同時期に色々な部署のリーダーに外人を登用されました。これらのことがその後の武田のグローバル戦略の基礎を作って盤石なものにしたと言われております。それでは講演に入らせて頂きますが、今日は長谷川会長の経営哲学、考え方、そして日本の経済のグローバル社会における位置付け等についてもお話しして頂けると、楽しみにしております。それと同時に、もっと大切な事は、若い学生諸君に一言二言もっと叱咤激励を頂けると楽しみにしております。それでは長谷川会長、ご登壇お願い致します。有難う御座います。