タケダのグローバル化への挑戦

3.タケダのグローバル化への挑戦

1)武田薬品236年の歴史

長谷川閑史氏の講演

企業の場合は、というかあらゆる組織に共通であるが、皆の合意Consensusを得て意思決定をすることが、すぐには難しい場合がある。冒頭に進化論に関する言葉をあげながら、変革をリードするのがリーダーの仕事であると申し上げた。変革は、多くの場合リーダーが言い出さないと動かない、実際に起きない、というケースが多い。但し、リーダーが言い出してもその組織のメンバーにきちっと説明をして、納得をして、皆が一緒にやっていく形、これをbuy inというが、buy in processを取って皆が納得した上で、引っ張っていく、engageさせるということが大切で、これもリーダーの役割である。このようにリーダーが主導しなければならないtransformation、変革というのが沢山ある。
私は企業の場合しか分からないが、学校でもいかなる組織にでも色々あると思う。自治体でも中央政府でもあると思われる。
武田の場合、竜田先生が私を冒頭紹介して頂いた時に、後任にフランス人のクリストフ・ウェバーという人を外から引っ張って来て就けたと仰った。何故そのようなことをしたかということを次に述べます。薬というのは世界どこでも良い薬は良い薬である。ということは逆に言えば、地域の特性で熱帯病を治療する薬等は別にして、慢性疾患であるとか癌であるとかアルツハイマーであるとか、そういう病気を治療する良い薬はロシアでも良い薬であり、キューバでも良い薬です。
そういう意味で国境はない。だから良い薬を兎に角自分の所の研究開発で見出すか、あるいは自分の所で出来なければどこかBio Ventureのような所でやっていて、有望な物を持っている所を素早く取り込んで、早く開発をして患者さんの所へ届けることの両方をやらなければならない。
私共武田薬品の場合には、日本でNo.1、アジアでNo.1の製薬企業としてずっとやってきたが、その後Global化もそんなに急速に進めなくても維持出来た時代が長く続いた。今やICTと同じように良い物さえ出せばGlobalに世界同時上市も出来て、結局如何にそういう物を生み出すか、あとはそのGlobalなFootprintを持っていて、良い物を一斉に全世界で売り出すだけのPlatformがあるかどうか、そういう所で差が付く訳である。
そうすると我々の場合には急速にGlobal化を進めたけれど、まず人材が追い付かない。それと同時に、人材が追い付いてFootprintを作ってもそれを本当に自分でmanageして成功させた経験のある人が殆どいない。そういう人達が足りなければ外から持って来るしかないということになる。
育てていたら10年、15年掛かるわけで、それでは全然間に合わない。そういう状況の中で究極の選択が、私の後任をグラクソ・スミスクラインという世界Top5に入る会社のCEO Succession Candidateになっているような人であったクリストフ・ウェバーを、Head Hunterも使わずに個別にcontactして納得させて引っ張ってきた、ということである。
それは私が決断し実行しない限り、誰に頼む訳にもいかない。所謂Executive Decisionの1つである。勿論そういう決断をして選考する場合に、Selection Committeeを作ってSelection Committeeのmemberがそれぞれ一人ずつinterviewしてその結果を持ち寄り、加えてCEO Successionをsupportする専門のConsulting会社がアメリカにあるので、そこを雇って、更に1人について5時間位のinterviewをしてScore Cardという評価結果を出してもらい、それらを全部総合的に判断して、最終的に2人のCandidateに絞った。2人のCandidateを、指名委員会の委員長、それから委員、2人とも社外の取締役なのでbiasは掛かっていないわけで、この2人にどちらが良いか、と選んでもらって最終的にクリストフ・ウェバーを選んだ。どこから聞かれてもtransparent、透明化しても問題ないような形で選んだ。そういうことはTopが考えて実行して行かないと出来ない。そういうものが企業には沢山有るし、他の組織でも沢山有ると思う。

2)社長就任前(2003年)に考えたこと

ここで1つだけ覚えておいて頂きたいのはBenchmarkingである。所謂BenchmarkingというのはIndustryの中でBest Performing Companyは一体どういうBusinessのやり方をしているのか、Sales、Marketing、研究開発、色々なやり方があるし、この資料に書いてあるような色々な項目について、Best Practicing IndustryでのBest Practiceを実行していると思われる会社と比べて、自分達はどこが劣っているかという事を出して分析し、導き出してその差を縮めていき、埋めていくことを考えるのがBenchmarkingのやり方である。それを徹底的に色々なBusinessのUnitに関して行って来たということである。

3)売上と利益率の推移

何故Benchmarkingをやらなければならなかったかを次に述べる。この資料は2003年から2016年までの業績の推移であるが、Barは売上の絶対額で、赤の折れ線は営業利益率(%)であり、2008年までは[売上は]順調に伸びた。しかし、我々は先程述べたように特許が切れると、アメリカでは数カ月の内にGenericに置き換わり、売上が殆どなくなる。日本ではその置き換わりのスピードが随分遅かったが、ここ2~3年、政府が欧米型のMarketに組み替えてGenericへの置き換わりを急速に、また強制的に行うよう法律を変えた。従って今や特許切れが来ることが分かっている製品については、それをcoverする製品を如何に早く自社で開発するか、あるいは他社を買収するかを考えないと、たちまち売上/利益は大きく落ち込んでしまう。

要は、我々は2010年問題と言っていたが、2010年には従来の主力製品の特許が相前後して全部切れてしまう。そうすると売上が殆ど0となってしまう。僅か4~5年の間に、1兆5000億円位の売上の会社の6000億円の売り上げが吹っ飛んだ。そういう状況が来ると分かっているから、それを如何に埋めて安定成長に持っていくか、というのが経営者の仕事であるが、言うは易く、行うは難しである。それと同時に、Product Liability Insuranceという、アメリカにおける製造物責任が大きく取り上げられて、訴訟を起こされた。アメリカで訴訟を起こされたら、それを最後まで裁判で戦って勝つよりは、膨大な訴訟のcostを考えると和解をした方が良いというのが殆どのcaseである。従って、とんでもない話しであるが3000億円も払って訴訟を和解した。そのために営業利益がマイナスとなっている。こういうことが起こることを分かっていて、経営者である私が指をくわえて待っていたかというと、それは出来ないので何をしたかというと、買収をした。

4)TakedaのGap Fillingを主目的にしたCross borderのM&A <2003-2013>

武田という会社は236年の歴史があるが、私が社長になるまで買収はしたことがなかった。同族企業の合併はあったが、買収はしていない。2005年に初めて、サンディエゴにある、X線を使ったタンパク質の高速結晶構造解析技術という特殊なTechnologyを持つ、シリックスという会社を買収した。買収額は270百万ドルであった。また、イギリスのCambridgeにある会社を買収した。これはResearchのTechnologyの足りない部分を補うための買収であった。買収の規模も小さかったし、実際のリストラも必要なかったし、むしろ彼らが限られた原資の中でallocation出来なくて、やりたくても出来なかったことを武田が買収したことによって出来るようにしてwin-winのSynergyを作った。その後ミレニアム社という、癌に特化したBio Ventureの成功企業を9000億円で買収した。その後今度は、新興国に進出しなければならないが1つ1つ自分で旗を立てていたらとても時間が掛かって効率も悪いということで、スイスのチューリッヒにあるナイコメッドという会社を1兆1000億円で買収した。これらを武田の中にintegrateしていった。特にこの会社を買った時には、規模も買収の金額も大きかったが従業員の規模も1万2000人もいて、その中には要らないBusinessもあったので売却をしたり、Post Merger Integrationという、買収後に如何に会社の中に組み込んでいくか、融合させていくかというProcessの中で相当なリストラも行った。それらを踏まえて今はまた、パイプラインという研究開発の製品を外から取り込むことによって強化をしていくことを中心に行っている状況にある。こういう、行ったこともない買収を、それもcross borderで日本から海外の企業を買収してintegrationしてきた。

5)タケダが目指すグローバル経営とは

上記も含めて、やはり我々日本人だけではそこの部分について十分な対応が出来なかったので、出来るだけ短期間に事業のあらゆる面でグローバルに競争力のある会社に変革するために、Topも含めてKey PositionにはGlobal Standardで成功体験を有するTalentが必要である。先程はCEOの後継者としてフランス人のクリストフ・ウェバーを申し上げたが、ここでは例えばCFO、Chief Financial Officerとか、Chief Medical and Scientific Officer、研究開発本部長とか、Chief Human Resource Officer、Global人事部長とか、Chief Information Officer、つまりGlobal Information TechnologyのTopとか、Global Procurementという、Globalに調達をするTopとか、そういった人達を欧米の企業からHead Huntして持ってきて、それらでTeamを作って効率化を図ると同時に、先程の買収した企業を融合していくというProcessを出来るだけsmoothに進めるようにした。

6)グローバルで多様性に富み、かつ豊富な経験を備えたタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)

その結果が、タケダ・エグゼクティブ・チームという、日本の会社でいくと執行役も含めた経営陣ということになる。8ケ国の国籍、14名の陣容である。14名のうちの3名が日本人で、残りはNon-Japaneseである。女性は残念ながら一人しかいないが、今後女性を増やしていくのが我々のChallengeの一つである。

これもExecutive Decisionで行った訳である。これは私の後任のクリストフ・ウェバーが来て、仕上げを行った。Conceptとしてこういうことを私も考えていたが、実際の仕上げを行ったのはクリストフ・ウェバーである。

7)タケダの意思決定体制図

タケダの取締役会はいま13名で構成されるが、そのうちの社内取締役は僅かこの4名である。日本人が一人でアメリカ人が一人、あとはアイルランド人とフランス人である。4人の国籍が全部違うということである。あとは社外取締役が9人で、その中にもNon-Japaneseが2人いる。東恵美子さんも日本人ではあるがアメリカでずっと仕事をしているので、半分アメリカ人のような方である。藤森さんもGEに長い期間いて、それからLIXILのTopをしているということで、半分アメリカ人みたいな方である。従って非常にVarietyに富んだ役員構成となっており、そうすることによってGovernanceを透明にしている。

8)研究開発の変革―疾患領域の絞り込み・日本と米国への拠点の集約

それと同時にもう一つは、先程から何回か言った研究開発の難しさ、それから日本が創薬力において段々沈下していることを述べたが、その状況をこのままにしておくと、とてもではないが世界に伍して戦っていけないということで、私自身がこれをやり残したR&Dの生産性向上のための変革を、後任のクリストフ・ウェバーと、R&DのTopのAndrew Plumpというアメリカ人で行った。何を行ったかと言うと、我々が完全にfocusしている治療領域を中枢神経と癌と消化器に絞り、再生医療とワクチンについては+αで行うことにした。このTransformationをやる以前は、研究拠点は神奈川県の藤沢市と鎌倉市の境界線上にある、元工場があった湘南Research Centerで約1200人のResearcherを抱えて研究をしていたが、それでやってみても10年~15年の間物が全く出なかった。このまま行っても生産性は上がらないということで、日本には中枢神経と再生医療とワクチンを残した。ワクチンは、製造拠点は日本に残して研究開発の拠点はアメリカとした。こういう体制にすることにより研究開発の生産性を高めた。同時にOpen Innovationという形で、社外のBio Ventureのような研究開発をしている所を常に注目し、必要に応じて買収をしたりResearchのCollaborationの契約をしている。このような形で大きくやり方を変えた。その結果設立した会社の例を資料に示した。詳細説明は省略する。研究をfocusして、focus領域以外は外にspin outしてPartnerを見付けて、それぞれに特化した会社を作って研究開発を行うというやり方をしている。

一方で、これは後任社長のクリストフの考えでもあるが、これだけの大変革を行ったが、湘南Research Centerにいた約1200人のResearcherに関し、その中でアメリカでこれから自分の能力を磨きChallengeをしたいという人達については会社がendorseし、3年間で1クール[cours、課程、仏語]であるが6年間はアメリカで成長してもらえるChanceを提供したところ、100人位が手を上げてくれて、そういう人達もこれからBostonに行って世界の最先端のResearch Hubの中で切磋琢磨をしながら自分達の力を磨いてもらうということも行っている。

9)経営の基本精神

下図の資料はこれまで説明してきたことのBaseとなっている考え方である。ここに書いてある通りなので、説明は省略する。

<推薦図書>

次の6つの図書について、推薦される理由と概略内容等の説明があった。

長谷川閑史氏の講演

  1. マッキンゼーが予測する未来―近未来のビジネスは、4つの力に支配されている by リチャード・ドッブス他
  2. 2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する by 英「エコノミスト」編集部
  3. サピエンス全史(上・下) by ユヴァル・ノア・ハラリ
  4. アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか? by ダン・セノール他
  5. 7つの習慣 by スティーブン・R・コヴィー
  6. セブン・マスターズ ―「瞑想」へのいざない by ジョン・セルビー

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