医薬品産業の現状と今後

2.医薬品産業の現状と今後

1)世界の医薬品市場の見通し(2015-2025)

私が身を置く医薬品産業についての状況であるが、医薬品のマーケットの伸びはこの10年間で世界市場において1.7倍になっている。
またこの10年間の伸びを地域別に見ると、その半分以上がアメリカによって創出されるという、非常に偏った状況になっている。その後に続くのは欧州、中国である。特に中国は、まだ世界に通用するような差別化された医薬品を0から作り出す能力は無いが、それでも中国はアメリカからどんどんPh.D.の人が帰っており、そういう人達は実際にアメリカでの就業体験を持った上で帰っている。今や中国は政策的に、深圳を中国のSilicon Valleyのようにしようとしている。中国本当に恐るべしと思われる。何れ日本はアジアでNo.1の地位を中国に奪われることは間違い無いと言わざるを得ない。
因みに、例えばGlobal Top 100 Best Selling Pharmaceutical Productの内、日本Originが幾つあったかと言うと、1990年代には15品目あったが、今や2015、2016年になると僅か5品目しかない。その数は恐らく今後も比率として減り続けるという恐れがある。一方アジアのどこがcatch upして来るかというと、韓国は電機とか電子とかその分野の製品では日本を陵駕しているが、残念ながら創薬ということについては中々難しいようである。恐らく中国が早晩日本を追い抜くと思われる。

長谷川閑史氏の講演

例えばアメリカの大学に100万人毎年全世界から留学をする。100万人の内の3分の1、33万人が中国人である。17%、17万人がインド人である。韓国でも毎年5~6万人がアメリカに学びに行く。韓国は人口が5000万人で日本の半分以下である。日本は1億2500万人の人口でありながら、3万人足らず位である。一時、ピークの時は7~8万人が行った。これは別にアメリカに行けと言っている訳でもないし、アメリカが全てと言っている訳でもないが、やはり外国で世界のトップレベルが集まって切磋琢磨するような所に、自分から身を乗り出して乗り込んでいく、それ位の気概を持たないと、本当に国際競争、Global競争に負けてしまう。
これが1つと、もう1つは日本で色々なstart upをして成功している人が何人かいる。例えば楽天の三木谷さんとか、グロービスの堀さんとか、あるいはサントリーの新浪さん、新浪さんは自分ではstart upしていないが、43歳でローソンの社長になり今やサントリーの社長になり、そういう人達は皆HarvardだとかStanfordだとか色々な所でMBAを取りに行って学んで、そういう人達が皆仲間がstart upするのに刺激を受けて、自らもstart upをする。
よく言われるArbitrageという言葉を知っているであろうか? “裁定”という意味の言葉である。昨日の日経新聞のコラムにおいて、孫正義さんのことについて書かれた中にその言葉が使われていたので見れば分かるが、三木谷さんがあのBusiness Modelを考えたのではなくて、アメリカでAmazonがやっていることを日本で是非やろう、ということでやったわけである。従って時間差があるから、その時間差を利用してある国における先行者の利益を自分の方に持って帰ることで、先行者として利得を得る。そういうことをArbitrageと言うようである。
そういうことだって可能な訳である。しかし今やそのタイム差はどんどん縮まっているので、昔のように悠長に構えていては出来ない。
何れにしても世界で何が起こっているか、ということを自分の目でしっかり見て来るということをしないで、日本の中だけで周りの仲間だけを見てcomfortableに幸せな生活を送っていて良いわけはない。
私のように70歳を過ぎたような人達にとっては多分今後10年か15年はこの延長線上でいけると思われるが、皆さんのようにまだ20歳そこそこの人達であれば、これから50年、60年、最低生きて、永い人は22世紀まで生きるかも知れない。そうするとそういう時代にあなた達は世界がどういう形で変化しているか、ということを念頭に置いた上で自分達が生き延びて行く道を本当に考えないといけない。
それはいかに多くstart upするか、ということにかかっていると思われる。新規事業を起こすことが日本は先進国の中で一番弱い。そういう国なので、そういうことを皆さんが是非Lead出来るようにして頂きたい。

2)製薬企業の時価総額推移

この資料は製薬企業の売上の推移であるが、説明は割愛する。

3)新たなモダリティ(基盤技術) がビジネス成功の鍵に

パラダイム・シフトは製薬企業でも確実に起きている。2005年のBest Selling Top 10 Productのうち僅か1品目が生物学的製剤、つまりBiologicsと言われているもので、残りの9製品は低分子化合物、あるいはSmall Molecular TechnologyをPlatform Technologyとして作られた薬であったが、僅か10年の間にTop 10 Best Selling Productのうち3品目しかSmall Molecular TechnologyをBaseとした薬はなくなってしまった。Large Molecular Product、つまり生物学的製剤、これは抗体であるとか治療用のワクチンとかであり、iPSもこれに入る訳であるが、こういう形でMarketが目まぐるしく変わっている。Platform Technologyパラダイム・シフトが起きている。

4)バイオテク企業による創薬が増加

更にもう1つ、私共の業界で注目しておかなければいけない変化は、そういった新しい薬を一体誰がどこで創出しているか、ということである。2007年、今から10年も経たない前であるが、その頃はバイオテク、NPOといった所と製薬企業とを比べると、製薬企業は7割位を創出していた。
ところが僅か10年も経たない間にがらっと変わり、バイオテクとかNPO/アカデミアの方から新しい薬の半分以上が出て来るようになった。
こういう状況の中で、例え1兆円の研究開発費を使っても、その会社が新しい薬を作れるかどうか。世界で一番大きい製薬会社はPfizerで6兆円位の売上であるが、そういう会社でも、その売上を継続的に伸ばしていくだけの新製品を10年とか15年のサイクルで出さないと売上を維持出来ない。
薬は10年とか15年市場に出ると特許が切れてGenericに置き換わるからである。Pfizerのような会社がそういうことが出来るかというと、残念ながら出来ない。一体どこがやっているかというと、バイオテク、NPO/アカデミアといった所がやっている。例えば薬であるとBoston、CambridgeのMassachusettsはPharmaceutical Valleyという世界のInnovation Hubとなっている。そこの一番のPower SourceはCambridgeの10km四方位の所にある400~500社のバイオテク会社である。そこに世界中から優秀な人達が集まる。その人達は頻繁に会社を動きながら、新しい薬を作り、1000に3つの確率に賭けて、新しい薬が出ればそこで大儲けをして、そこのFounderとかVenture Capitalistは次の投資に移る。あるいは、会社を売ったFounderはまた新しいVentureを始める。こういうEco Systemが出来ている。勿論Coreになっているのは、MITとかHarvard大学とかBoston大学といった、Core Technologyを持ってspin outをさせている大学である。Venture Capitalistはそれを支えIPO [Initial Public Offering]まで行かせるというMechanismが出来ている。日本には残念ながらそういうものがない。従って私共の会社はその中のCommunityに入り込んでいって、Globalな競争相手と伍して遅れることのないように素早く決断出来るようにし、必要があれば買収もする体制を取っている。

《続き》

3.タケダのグローバル化への挑戦

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世界のパラダイム・シフト

まず、これら3大項目への導入部として次のテーマで解説がなされた。

「変化を恐れるな!」

“生物の進化の歴史を見ても、 最も強い者や最も賢い者が生き残った訳ではない。 最も変化に懸命だった者、最も環境変化に適応した者が生き残った。”

講演者;長谷川 閑史氏

この言葉はダーウィンの進化論の中で記述はされてはいないかも知れないが、筋が通っていると思われる。 グローバル化/技術革新の進展により加速度的に変化する環境下にあって、「何もしないこと」は、結果として日本および日本企業にとって「最大のリスクテーキング」になるというのが、私が11年間社長をし、3年間会長をした経験から得られた実感である。
今の時代のリーダーは、その人がリードする組織、それが国の場合は政府、立法府、行政府のいづれであれ、あるいは企業、自治体、教育機関といった組織でも、それら全ては環境の変化に応じて、出来れば先取りをして自らが変わっていくということをしないと、環境の変化に先を越されてしまったり競争相手に先を越されてしまったりする。
例えば大学1つを見ても、大学は国内の大学同士で競争しているだけではなく、海外の大学とも競争している。学生は国内の学生、あるいは他大学の学生と競争しているだけではなく、留学生とも、あるいは海外の学生とも競争している。 どの位の割合か知らないが、多分今の学生は大学に残るのは1割か、それ未満位であろう。殆どの方が最終的には就職という形になると思われる。
一方、採用する企業の側からすると、そういう観点から採用するので国内の競争だけで見ている学生は、少し視野が狭いということに成りかねない。その辺の所を良く考えた上で目標を定めるのが良いと思われる。これは経営者にも良く話すことであるが、“経営トップに求められる資質・経験・知識・スキルは基本的に共通するものが多い。しかし、個別の会社の置かれている状況/環境によって特殊な資質・才能が求められる場合がある。”というのが私の実感である。

 

次に、3項目に大別された各項目についての解説がなされた。

1.世界のパラダイム・シフト

1)パラダイム・シフト

下記の3つのパラダイム・シフトを取り上げる。

①人口動態;先進国における急速な高齢化⇒新興国における人口増大

②世界経済のDriving Force;先進国⇒新興国

③ITによる情報化社会;更なるGlobalization、Digitalization⇒フラットな世界、The Second Machine Age

2)世界の地域別人口予測

今の人口は72~73億人程度と思われるが、過去100年弱を見てみると1950年には世界の人口は25億人であった。それが、ほぼ100年後の2056年には100億人になる。これは国連の人口推計の中位推計値で取っているが、わずか一世紀の間に人口が4倍になる。それも25億人から100億人という巨大な数になるという人類が経験したことがない急激な人口増であるから、それによって色々な環境への軋み、競争への軋み、資源への軋み等様々な問題が出て来ている。それをどうやってこれから調和させて生きて行くかということが、これからを生きる我々にとっては特に大きな課題になる。
中でも特徴的なのは、アフリカの人口であり、今は10億人ちょっとであるが、それが40~50億人に増えて行く。これから約40年位で72~73億人から100億人に増えて行くが、そのうちの殆どはアフリカで増えて行く。勿論アジアでも増えて行くが、アジアはアフリカよりも早くピークに達して、やがて2060年頃から減少に転じる。アフリカの場合はその後も増え続けて行って、アジアとアフリカで世界の人口の8割を占める位の状況になる。
人口推計は統計の推定値の中でも最も当たる確率が高い、と言われているから、この予測はほぼ間違いないだろう。恐らく今学生の皆さんが私の年になる40年後とか50年後には、こういう時代がほぼ現実のものとなっていると考えるのが宜しいと思われる。

3)経済成長の5割以上は新興国からもたらされる

経済については、世界のGDPは2000年から2010年にかけて倍、2022年を2000年と比較すると3倍位に増える。しかし、これを先進国と新興国に分けてみると先進国は約2倍に対して新興国は約6.3倍と、圧倒的に新興国の伸びが世界全体の経済の成長を引っ張っていくという様子が見えている。
その中身を少しbreakdownして見てみると、米国やドイツでは約2倍でほぼ先進国の平均位に伸びている。日本は、失われた20年と言われているが1990年代の終わりから殆どゼロ成長、金額で言うと500兆円位のGDPでずっと横這い、ドル換算なのでレートにより若干異なるがほぼ横這いで増えていない。一方で中国は14.6倍に増えている。勿論ベースが小さいから倍率は高くなるが、一方で絶対値を見ても、中国が日本を抜いたのは2010年で、わずか6~7年後の現在は1.7倍から2倍近くになっていて、アメリカの三分の二位にまで成長している。中国の数字がどこまで信用出来るかという話しはあるが、それにしても目覚ましい成長である。今や米中が覇権を競う国のスター、経済の規模においても覇権を競う国になっている。
日本経済のGDPのピークは1994年に世界の18%を、人口が2%にも満たないような島国日本が創出していた。今ではそれは見る影もなく、全体の5%で、当時の世界に占める割合からすると既に三分の一になっている。これからも日本の人口は1億2800万人をピークに減っていき、50年後には9000万人を割るのではないかと言われている。そういう中で経済を成長させていく、それもグローバルな平均として成長させていくというのは至難の技である。そういった中で日本はどうやって豊かさを維持し、社会を維持していくかということがこれからの最大の課題の1つである。

4)第4次産業革命の時代、Second Machine Ageへ

次に科学技術、ICT Technologyであるが、その中で特にComputer Technologyについて採り上げたい。今第4次産業革命の時代と言われたり、あるいは3年位前に出版された本ではSecond Machine Ageという定義がなされている。1775年にJames Wattが蒸気機関を発明して以来産業革命が始まったと言われているが、その時代をFirst Machine Ageというふうにこの本の著者達は名付けている。この段階では蒸気機関の発明が人間の労働力を機械に置き換えることによって、人間の生産性、社会の生産性を飛躍的に伸ばしたわけである。それから約250年経って、今やSecond Machine Ageという時代になりDigitalizationとAIの発展が人間の頭脳労働を機械に置き換えるという時代が到来しつつあるということである。
一方、経済産業省の「新産業構造ビジョン」の中では第4次産業革命という呼び方をしており、現在は第4次産業革命の真っただ中にいると言えるわけである。

5)ITが世界を変えるイノベーションを生み出す―ITが働き方、モノづくり、サービスを根本から変える

それではICT Technologyがこれからの経済にどのようなImpactを与えて行くか、経済的に見てImpactが大きいのはどこということを考えてみよう。
McKinsey Global Instituteが作った予想値によれば、経済的にImpactが一番大きいのはMobile Internetで、先進国においてはオペレーションの効率化と労働生産性の向上を、新興国においては遠隔サービスの浸透等を通じて圧倒的に大きな経済Impactを与えるであろうと言われている。
その次に大きいと言われているのが知識労働の自動化という、所謂人工頭脳(AI)の領域である。下限予測と上限予測で、見方にこの位の幅があるが、相対的に見ればMobile Internetに次いで知識労働の自動化、AI ROBOTの活用が大きな経済Impactを与え、その後にInternet of Things(IoT)、つまりモノのインターネット、あるいはクラウド技術と言われるものが大きな経済的Impactを与えると言われている。

6)社会の様々な分野にAIが進出

AIについては申し上げるまでもないが、最も皆さんに分かりやすくImpactを伝える出来事の1つが、例えばチェスや将棋や囲碁でAIが人間のトッププレーヤーに勝利したことである。
最初は1997年にディープ・ブルーというコンピューターがチェスの王者に勝利して、それが始まりであったが、その後将棋ソフト「PONANZA」がプロ棋士に勝利し、いよいよ昨年は世界のトップ3に入るだろうと言われている韓国のプロ棋士イ・セドルにGoogleのアルファ碁が4勝1敗と圧倒的に勝利した。なおかつアルファ碁が今年になって世界一の棋士[柯潔(か・けつ)九段]にも勝利した。アルファ碁はこれ以上[人間との対戦を]しないということで、アルファ碁同士の棋譜50局が公表されており、それを見た棋士達は自分たちが考えもしなかった手が打たれている、ということに驚いているようである。

もう一つはAmazonのEchoという音声アシスタント端末が、AlexaというAIを搭載しており、そのAlexaに音声で指示をすれば[例えば]「Alexa、今一番流行っている音楽をかけてくれ」とか、「私は今こういう気分だから元気付けてくれるような音楽を聞かせてくれ」とか、口で言えば何でも「分かりました」と聞いてくれる。実際に私はそれを見て何となく複雑な気分になったが、そういうものが既にアメリカでは約1,000万台売れている。勿論AmazonだけではなくてGoogleやApple、Microsoftなども追随している。
ここで恐ろしいのは今のGoogleの検索とかAmazonのPrime Customerとかで注文するものは全部GoogleやAmazonのData Baseの中に取り込まれているわけである。だから自分が欲しいとは思いもしないようなものも、この品物を買った人はこのようなものも見ているとか、頼んでもいないものを色々言ってくれるわけである。そういうことはまだまだ始まりで、様々な皆様の思ってもみないことがみんなBig Dataの中に入って分析をされて、Customizeされた情報がそれぞれ皆さんのところへ届くということが起こってくる。
本来Privacyの保護について敏感な今の世代の人たちも、このことについては何故か何の疑問も持たずに為すがままにされている、ということ自体が恐らくこれからは問題になってくるように思われる。どこまで何を分析されるか、心理的なものだから何か分析に使われるとちょっと空恐ろしい。

その他、AIが皮膚がんを判定するというソフトがあって、これはまだ正式な医療行為としてFDAとか日本の厚労省とかで認められてはいないが、実際には皮膚がんの診断については、特に微妙な診断についてはAIの方が専門医よりも正しく判定する確率が高い。だから人間とAIを組み合わせてやれば、遥かに今よりも精度が上がる。
それは皮膚がんだけではなくて大腸がんだとか食道がんだとか、Endoscopy、Chronoscopy、内視鏡で検査するがそういう時にその画像を見せて診断させるとAIがそれを全部判断してくれる。そして専門医が肉眼で確認して最終の診断をするということが現実に起きている。
一方で、例えば低開発国のバングラデシュで実際に起きているが、地方に専門医がなかなか居ついてもらえないなか、慢性病、例えば心臓病の方達は遠隔診断で処方することによって8割方の問題は解決されることが分かっている。どういうことを行うかというと、尿とか血液の検査薬のキットを慢性疾患の患者さんの家庭に配って、患者さんが1週間に1回尿とか血液の検査を診断キットで行い、血糖値が幾つであるとか肝機能がどうであるとか、それらを全部電話回線で町の専門医に送れば専門医がそれを経時的に診て、何か変わった情報が出てくれば生活の指導をしたり処方を変えたりしてその治療を継続する。それを行うことによって8割方の問題は実際にface-to-faceでなくても解決出来る、ということが起きている。

それからこれも有名な話であるが、日経新聞の人などに話を聞くと、同じ日に何百社も企業決算発表を行う。AIにそれまでの過去のデータを全部覚え込ませて、新しく発表されたデータを送り込むと決算発表のSummaryの記事を僅か1~2分で全部書いてくれる。そういうことが現実に起こっているわけで、AIは与えられたものに対して分析をして比較して、その結果を記事として出す。では記者は何をするかというと、AIが考えられないような、すなわち初めから目的が分かっているものではなくて、色々な現象を自分が取材をして、あるいは会社の状況をきちっとmonitoringしてそれを取材して、記事を纏めて行く。AIは目的が与えられなければ、それに対する答えは出さない。人間はそうではなくて自分が目的を作って目的に合うような材料を集めInformationを分析して記事に纏めることが出来る。そういう、AIが出来ないことをやっていかないとAIとの差別化が出来ないし、AIとの差別化が出来なければAIに置き換わられる可能性が無きにしも非ず、ということである。

AIには、特定の決まった作業を遂行する「特化型」と、人間と同様あるいは人間以上の汎用能力を持ち合わせているとされる「汎用型」の2種類がある。現存するAIは全て「特化型」と言われている。「汎用型」AIが実用化すると、人間の生き方やあり方を根本から変える可能性もある。これを含めて多分Singularityというふうに定義付けられる。

7)AIは失業をもたらす悪魔か、人口減少時代の救世主か?

Singularityは、これを言い出したカーツワイルは2045年頃にSingularityが来ると言っていたが、今ではもうちょっと早く来るのではないか、ということを言っているようである。それが何を意味するか、ということについては、ここでは悲観論と中立論と楽観論と3つpick upしておいた。最後に紹介する推薦図書の中にMEGATECH(「エコノミスト」誌が2050年のTechnologyを予想して書いた本)からpick upしたものである。
一方で楽観論について面白いのは、引用した人が限られてはいるが日本人が多いことである。欧米人は結構心配していて、Microsoftのビル・ゲイツに至ってはもう少しAIの進展を遅らせるべきであるとまで言っている。それから、AIが本当に仕事の半分も置き換えるようなことになった場合には、人間はどうやって食べて行くのか、ロボットに税金を課すのか、あるいはBasic Income、すなわち国民全部に例えば30万円を毎月渡すとか、そういった様々な意見が出ている。要は何も分かっていないということである。どうなるか分からないが、何となくヤバイぞという感覚が今多くのところで芽生えているということである。

8)AI時代に向けて取り組むべき課題

ここでは特に教育の問題を取り上げた。これからは多分ComputerのProgrammingの基礎的な知識はMustであろう。色々な国で既に行われているが、例えば欧州、英国、イスラエル、バルト3国のようなICT先進国では既に行われている。日本は中々そういうところに手が届いていない。それ以前の問題として英語の教育すら週1回小学校の授業で取り入れられる程度である。GlobalなBusiness Languageである英語について、これから国内で仕事をする人においても英語の知識はMustであろうと思われる。しかし残念ながらTOEICを見てもTOEFLを見ても日本はアジアの中で最低の部類に位置付けられている状況である。若い皆さん、あなた方は英語から逃れることは絶対に出来ない。You’d better be speaking English fluently. 頭の中に入れておいて頂きたい。
ただ、日本の場合はそういうことに対する危機感が非常に弱い。アメリカの場合であればそういう問題が出て来ると、政府がやらなければ私がやるという人が出てくる、IBM ジニ・ロメッティCEOは、アメリカの高校4年だけではとても仕事のRequirementを習得出来ないので、4年+2年の6年間の高校を設立し準学士号まで取得可能なカリキュラムを創設しようと、今は300社の提携企業と30位の州に亘って具体的な活動をしている。
あるいはEngineerが全国の全ての学校でのProgrammingを教えるための組織、Non-Profit Organizationを立ち上げて、更にはProgrammingの世界的な普及に使えるようなProgramを作ったりしている。
しかし日本及びヨーロッパでは中々そこまで個人やボランティアが行動を起こさない。そういう所では政府がInitiativeを取ってやるべき、と考える。その場合の問題は、日本の公的教育支出はGDP比でOECD加盟国中で最低レベルにあることである。それからもう一つは、一旦職を失った人が再就職をするために政府が提供する教育Program、これは「Re-training」とか「Re-skilling」と言われているが、そういう投資にもGDP比でOECD加盟国中で最低レベルにある。
では日本はどこで何に使っているか、ということになるが圧倒的に社会保障費に使っている。今の社会保障費のMechanismは高度成長期に作られたもので、低成長になって高齢化が進む時代には全く持続可能性が無い。例えば社会保障で、1950年にもらった人と、今これから社会に出て行こうとしている人を比べると、社会保障に自分の給料から天引きされて社会保障費として積み立てに拠出した部分と、実際に自分がretireしてもらうお金を比較すると、50年位にもらった人は3000万円位プラスになるが、今から社会に出る人達は3000万円位のマイナスになるという試算もある。こんなシステムが通用する訳もないし持続性がある訳でもないのであるが、やっぱりSilver Democracyというか、年配の人達、一票の格差、年配の人たちはより多く投票に行く、そういった様々な問題があって、中々若者達の、あるいは次世代の人達への不公平感が是正をされない、という問題がある。
このこと1つを取っても日本にとっては大きな課題であり、早急に解決策を見出さなければならない。Basic Incomeとか、Robotへの課税とか、それはそういった話の種となっている。

9)格差の連鎖・固定化をどう断ち切るか

最大の問題は、こういったことから何が導き出されているかというと、世界で今貧富の格差が日本でも広がっているし、アメリカでももっと極端に広がっている。今アメリカの貧富の格差に関し、皆さんは覚えておられると思うが、アメリカの大統領選のキャンペーンでトランプとクリントンが戦う前に、民主党の中でクリントンのライバルであったサンダース上院議員が言っていたが、アメリカの富の殆どを上位1%の富裕層が独占し、その額は下位90%の人達の合計額と同じであるとのことで、極端な貧富の差がついている。アメリカではお金持ちのためのPopulismが、トランプが実行している政策だと言われている。トランプの閣僚は皆大金持ちの億万長者ばかりである。そういう状況が皮肉なことに貧富の格差の再生産を生み出している。格差のMechanismは多分こういうことであろう。

一旦生じた格差の解消が困難な理由の一つは、それが子宮の中、乳母車の中、そして幼稚園の中といった極めて早い段階から始まるためである。中産階級の母親は、子供が子宮の中にいるうちから健康的な環境を与えるように努力する。また、中産階級の子供が生後最初の2年間で語りかけられる言葉の数は、労働階級の子供と比べて数百万語多いのが一般的だ。また、中産階級の親は子供を幼稚園に通わせる傾向が強い。ハーバード大の学生の保護者の平均年収は45万ドル以上(エイドリアン・ウールドリッジ/「エコノミスト」マネジメント担当エディター)、東大生保護者の平均年収は1千万円以上。要は金持ちでないと良い大学は受けさせられないし、良い大学に行かせられない。
ただアメリカの場合はそれでもまだ救いがあるのは、奨学金制度が非常に充実していて、それも返さなくてもよい奨学金が結構ある。日本の場合は、返さなくてもよい奨学金もようやく政府が重い腰を上げて少しずつやろうとはしているが、大部分の制度の奨学金は返さなければならない。
イギリスでは奨学金制度を作って、なおかつその返還については、卒業し就職した時の収入に応じて全部返さなければいけないか、3割で良いか、そういう決め方を工夫したりしている。その辺のFlexibilityが日本には無い。日本の社会の問題の1つは、皆平等であれば文句を言われた時にあなただけではない、ということで答え易いためそのように処理してしまう。しかし、様々な状況の中で人は皆違う環境にいて、それに対する対応も違うはずなのに、それが非常に出来難いということをこれから変えていかないと、どうにも動きが取れない状況になって来る。これが益々高じるだろうと思われる。
それともう1つは文系・理系に関わらず今後はSTEM(Science、Technology、Engineering、and Mathematics)の基礎知識教育は必須であると思われる。

10)日本の人口推移

移民、難民の受け入れが困難な日本では、demographicなchangeがある中で何をしたら良いだろうか? 人材しか資源がない国なので個々の生産性upしかない。因みに1年で生まれる子供の数は、1949年、第一次Baby Boomerのピーク時に270万人である。ところが昨年は100万人を切った。だから今はピーク時の半分以下である。それだけしか子供が生まれていないので、日本の人口はどんどん減っていってしまう。
そういう状況の中で真っ先にやることは、本当は、普通の国であれば世界中から優秀な人が集まるような環境を作って、移民を受け入れる、あるいは難民を受け入れる。ドイツに至っては2015年から約100万人の難民を1年ちょっとの間で引き受けている。そういう国がある一方で、日本に至っては多分数十人とか、その程度しか受け入れていない。また世界から優秀な人材が集まることもない。
様々な問題があるが、例えば大学の中で理科系と文科系の比率も、日本は多分理科系は24~25%で、75%位は文科系であると思われる。中国やインドは日本の10倍以上の人口があるが、45~47%が理科系、シンガポールに至っては半分以上が理科系という状況である。ComputerのTechnologyが社会のベースになって来る時には、もう少し理科系、文科系を超えた前述のSTEMの教育が必要と思われる。
アメリカも多分理科系の比率は日本と余り変わらず、30%未満と思われる。ただ、アメリカの場合は社会に出た時世界中から人を集める。Silicon Valleyに世界中から人が集まる、あるいは私が身を置く医薬品であればCambridge、それからBostonのあるMassachusettsが、西のSilicon Valley、東のHealth Care Valleyみたいな形で、世界のHealth CareのInnovation、あるいは世界のICTのInnovationは圧倒的にその地域で集中的に起こっている。そうした環境を作ることによって、世界中から優秀な人を集めるという、所謂Eco Systemを作っている。そういうものを作っていくか、力が無ければそれを呼び寄せるための仕組み作りから始めて行かなければならないので、日本としては大変であるということになる。

11)起業大競争と内向き日本

皆さん、特にこれから出て行く若い人達は、まずStart upを考えるべきである。大企業に行っても余り良いことは無いと思う。自分達が勉強したことを生かして起業する。Second Chance、Third Chanceのあるような社会を作っていくことによって、何回でも起業して成功するまでやるということをSilicon ValleyやHealth Care Valleyでは当たり前のように行われている。日本でもそういう環境を作らないととても追い付いて行けないと思われる。

1つの例であるが、ユニコーンと言われている価値10億ドル以上の未上場企業が世界に188社あるが、日本にはわずか1社しかない。メルカリというフリマアプリを運営している会社である。因みに188社の半分以上の99社がアメリカで、中国にも45社あり、圧倒的にこういう所でも差を付けられてしまっている。
もう1つ、準備中の起業家数は日本は3%で350万人、中国は9%で母数が多いから1億2000万人と、桁違いの差がある。それからこの資料にあるグローバルスタートアップ・エコシステムランキングにおいて、アメリカはこの15のうち6都市が上位の中に入っている。日本が入っていないのは調査対象外だからであるが、調査したとしても多分1つ入るか入らないか位であると思われる。
こういう様々なHandicapを背負っていることを考えると、特に若者は、日本でだめだったら世界で活躍する位のことを今から思って、就職もアメリカで就く位のことを考えて、あるいはヨーロッパで就く位のことを考えて、新しい物を起こしていくことによって何れは日本に貢献することを考えて欲しい。
日本の生活レベルは豊かであるし、国は安全であるし、おいしい物が食べられるが、こういう環境が何時までも続くという保証は全く無いことはお分かりの通りである。

12)イノベーション促進に向けた世界の取り組み

この部分は参考までの資料として皆様に提起しておくので、興味のある方は見て頂きたい。

《続き》

2.医薬品産業の現状と今後

3.タケダのグローバル化への挑戦

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竜田邦明氏による講師の紹介

竜田邦明氏による講師紹介

尚志社の宣伝をして頂き、有難う御座います。本日は長谷川閑史会長の講演会を開く事が出来まして、非常に喜んでおります。最初にお断りをしておきますが、会長は先程ご紹介がありましたように6月で任を降りられました。が、敢えて会長と申し上げたいと思います。名人とか横綱は引退しても名人とか横綱であります。そのままで続けさせて頂きます。本日は私が本当に敬愛する長谷川閑史会長にお越し頂きまして、早稲田大学で、しかも理工学部の応用化学会で講演会を開くことが出来まして本当に嬉しく思っております。この暑い中長谷川会長、お越し頂きまして有難う御座います。今日は略歴と講演タイトルにつきましては事務局に作成して頂き配布されていると思いますが、少し補足させて頂きます。長谷川会長は1970年に早稲田大学の政治経済学部を卒業された後、直ちに武田薬品に就職されました。勿論色々な部署を経験されました後1986年から海外に赴任されました。最初にドイツタケダの社長、それからタケダヨーロッパの社長、最後にアメリカに渡られまして、やはりタケダの関係会社の社長を勤められました。要するに10年以上海外で社長を歴任されました。これだけをもってしても長谷川会長が現在のグローバル社会の最も相応しい社長、会長であると分かって頂けると思います。実際に2003年に代表取締役社長に就任され、2014年に会長に就任されますが、その間に2011年から経済同友会の代表幹事を勤められました。2期4年勤められました。経済同友会の代表幹事といいますのは言わば経済界の総理大臣に匹敵するものでありまして、正にトップリーダーになられました。そして2014年に会長に就任されますが、その際後任の社長に外人を外から連れて来られました。クリストフ・ウェバー氏を任用されました。それと同時期に色々な部署のリーダーに外人を登用されました。これらのことがその後の武田のグローバル戦略の基礎を作って盤石なものにしたと言われております。それでは講演に入らせて頂きますが、今日は長谷川会長の経営哲学、考え方、そして日本の経済のグローバル社会における位置付け等についてもお話しして頂けると、楽しみにしております。それと同時に、もっと大切な事は、若い学生諸君に一言二言もっと叱咤激励を頂けると楽しみにしております。それでは長谷川会長、ご登壇お願い致します。有難う御座います。

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第15回 先生への突撃インタビュー(野田 優 教授)

「先生への突撃インタビュー」の再開の3番バッター(第15回)として野田優教授にご登場願うことにしました。
今回は学生にもインタビュアーとして参加をしてもらうと同時に新任の佐々木広報委員長にも参加を願い、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作の新バージョンを目指しました。野田先生もこの試みに快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。
野田先生は、1994年東京大学工学部卒業、99年同大学院工学系研究科 化学システム工学専攻博士後期課程修了・工学博士、1999年~2007年東京大学助手2007年~2012年同准教授を経て2012年より早稲田大学理工学術院教授、2009年~2013年JSTさきがけ研究員(兼任)をされています。また、2005年には化学工学会奨励賞を、2014年度春学期と2016年度春学期に早稲田大学ティーチングアワードを受賞されています。

野田 優教授

先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

  ~中学は科学部、高校は化学部に~
 子供のころから自然科学に関心がありました。高校時代には、エネルギー問題に加え、温暖化、オゾン層破壊、酸性雨などの環境問題がクローズアップされ、クリーンエネルギー技術に携わりたいという想いを持つようになりました。この考えで、化学工学系の学科(東京大学 工学部 化学工学科・現 化学システム工学科)に進学、大気環境技術の故・定方正毅先生の研究室に入りました。学生の自主性を重んじ、自由に研究させてくれたこともあり、研究の面白さに目覚め、博士課程まで研究に没頭しました。
 学位取得後は、縁あって隣の研究室の小宮山宏先生の助手に採用され、材料研究へと転身しました。半導体産業での各種薄膜の気相プロセスによる製膜研究と知の構造化に従事、このときのプロジェクトで松方正彦先生にも大変お世話になりました。丸山茂夫先生との共同研究でカーボンナノチューブに着手、山口由岐夫先生のもとでのナノテク研究を通じ、「小さなモノを大きく創る」ナノ材料の実用合成、材料プロセス工学に本格的に取り組み始めました。2012年9月に縁あって応用化学科に着任後は、エネルギー技術を専門とされる先生方も多く、お力添えを頂きながら、蓄電デバイスや太陽電池などのクリーンエネルギー技術の性能とコストを、実用的なナノ材料プロセス技術により革新すべく研究に取り組んでいます。

技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

  ~基礎と応用の相互コミュニケーションとシナジーが重要~
 ナノテクは広範な技術革新を起こすと大いに期待されている反面、実用例が限られることが問題とされています。新たなナノ構造体を創製し、新規な特性・機能を見出す0から1を生む研究はもちろん重要ですが、分かり易いオリジナリティーを優先するあまり、1を100に仕上げる研究が立ち遅れていると考えます。後者の仕事は、従来は企業の役目と考えられがちでしたが、多様な候補材料がある中、数ナノメートルという微小スケールで企業単独で実用技術に仕上げるのは困難です。例えば、ナノチューブ1本を測定したら素晴らしい物性が出た、こんな夢のデバイスができそうといった論文がよくあります。それだけで、企業に製品を作って下さいというのは無理があります。基礎はますます基礎に向い、応用は複雑・高度化し、両者の距離が開いてしまっています。良いものを上手く作るのが化学工学の本来の役割であり、ナノ材料の特性を保ったまま、簡易に大規模に創ることが自分のミッションと考えています。
 もう一つは考え方のベクトルです。オリジナリティーはもとより重要ですが、シーズ志向がとても強いと感じます。例えば、我が国発の技術で○○を解決する、我が国の強い△△を更に発展させるといった具合です。また、過去に専門家が設定したロードマップを重視し、ロードマップを達成することが目的になっていないかも危惧します。これらはフォアキャスト型と言えると思います。一方で、社会にとってみれば、課題解決が重要であり手段は問いません。既にある知識・技術を適切に組み合わせてプランを策定し解決すれば幸いですし、どうしても要素が足りない場合はその要素を研究・開発する考え方も重要と思います。課題が明確になっている場合はニーズ志向ですが、今の日本は解決した後の未来像をはっきりと持てない状況にもあると思います。理想的な未来社会像を描き、それに至るシナリオを描き、個別課題を設定し、研究計画を立案し取り組む、バックキャスト型も重要です。急激に変化する世界の情勢も踏まえロードマップは随時更新、バックキャストとフォアキャストを行き来し臨機応変に取り組むこと、また個々人が基礎研究、応用研究、課題解決研究の違いを意識しつつ、それらに取り組むことが重要と思っています。私自身も得意技術に頼り過ぎないよう、自戒しています。

先生の研究理念を教えてください。

  ~社会に対し価値を生む研究を~
 基礎研究であっても、応用、課題解決研究であっても、先人の財産である既存の知識・技術を有り難く使わせて頂き、できることは速やかに済ませる。それだけではできないところに、新たな発見や発明が生まれると思っています。オリジナルな研究をするのが目的ではなく、既存知識・技術で解決できないところにオリジナルなものが生まれる。また、新物質・新材料などは分かり易いオリジナリティーですが、それら要素の新たな組み合わせもオリジナリティーの筈です。研究のための研究ではなく、社会に対し価値を生む(経済価値だけでなく知的価値を始めとした質的な価値も)研究をしたく思っています。
 先人の財産を学びつつも納得できない場合は、自ら考え直すことも重要です。頭の中は自由です。学生さんを始め皆さんと一緒に、良く学び、自由に考え、大胆に挑戦していきたく思います。

これからの研究の展望を聞かせてください。 

 ~現実解を求めるために、汎用の炭素・珪素に注力~
 世界全体が豊かになることは、当然の目標と思っています。すると化学による物質生産も膨大になり、既にレアメタル・レアアースなど資源問題が顕在化しています。20世紀は多様な元素を使って物質的豊かさを実現してきましたが、ナノテクでは同じ化学組成でも構造を変えることで物性・機能を制御でき、この点が持続可能社会の実現にとても重要と思っています。性能で記録更新を目指すだけでなく、良いものを広く行き渡らせたく思います。
 現在は、特に炭素と珪素に注力しています。資源的に豊富ですし、周期表で隣通しです。特にグラフェンシートを基本骨格としたナノカーボンは、表面にダングリングボンドを持たないため、ナノ構造でも本質的に安定です。炭素により軽量でナノ構造により柔軟という有機材料の特徴と、強固なσ結合による熱的・化学的安定性や優れた導電性といった無機材料の特徴を併せ持ちます。良質なカーボンナノチューブは、1 gあたり10万円前後もします。原料は炭化水素です。作り方が余りにも稚拙です。我々は、アセチレンを原料に、0.3秒の滞留時間で、収率70%で良質なカーボンナノチューブを半連続合成する流動層技術を開発しました。エチレンでも高収率で合成する技術も開発中で、また得られたナノチューブからスポンジ状自立膜を作製し三次元集電体とする新型蓄電池の開発などに取り組んでいます。また、シリコンも丁寧に作るのが従来の常識でしたが、1分で厚さ10 μmの単結晶膜や大粒径多結晶膜を製膜し、バルクから数秒でナノ粒子を合成することも可能となりました。前者は太陽電池に、後者は蓄電池に向けた技術です。エネルギー技術は安い技術で、広く使われてこそ課題解決に貢献できます。資源的制約の緩いこれらの材料を用い、画期的に安価で設置容易な太陽電池や安価・軽量・高容量の蓄電池を実現し、自然エネルギー利用拡大に貢献したく思っています。

大学と企業の関係についてコメントをお願いします。

  ~オープンな協力関係でステップアップを~
現在の世界の流れは、オープンな相互協力が主流になっています。日本の企業はまだまだ閉鎖性を残している所が見受けられますが、はっきりした目標や目的を共有することが大切だと感じています。得意技術を守っている間に世界は先へ進んでしまいます。積極的に訪問して狙いを話し、アイディアを出し合い議論し、相互の信頼関係を醸成してより踏み込んだ議論をするサイクルを回し、スピーディーに次の一手を打つと、できることが大きく広がると思っています。

応用化学会の活動への期待を聞かせてください。 

 ~世代や分野を繋ぐコミュニケーション、相互刺激は重要~
 応用化学会はとても充実したOBOG会で、幅広い世代と分野の先輩たちのネットワークを有していますので、応用化学科の教員・学生の貴重な財産だと思います。学生の活動も活発ですので、是非、この流れを継続・発展させて頂きたく思います。学生さんが早いうちから多様な人と交流し、多様な意見を聞き、相手を尊重しつつ自身の考え・意見・価値観を持つ。すると社会に出てからもアイデンティティーを持って活躍できると思います。大学はどうしても独特の文化がありますので、応用化学会を通じて視野を広げて欲しいと思います。

100周年を迎える応用化学科についてコメントを聞かせてください。

  ~自ら考え、動き、挑戦できる人材の育成に貢献を~
 100年は迫力のある素晴らしい歴史です。この間、9000名を超える人材を育成してきた諸先生方に敬意を表します。大学の本来の使命は人材育成ですし、これからの我が国にはますます重要です。応用化学科の一員として、自ら考え、動き、挑戦できる人材の育成に貢献したく思います。

21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

  ~方法論を自分のものにし、果敢に挑戦を~
 課題山積と言われる時代ですが、一方で、先人の財産で沢山のことができるようになりました。課題があることは、活躍の場があることにほかなりません。課題解決や価値創生を目的に、蓄積された知見・技術を道具に、自らの考えで動き挑戦し、活躍して欲しく思います。研究室での数年間は、自らの方法論を培う貴重な期間です。是非、意欲的に挑戦し、失敗とその克服など、多くの経験を積んでほしいと思います。          

 ―了―

6月30日インタビュー(聞き手&文責:広報委員会 井上健(新19回)・佐々木一彰(新31回)・五十嵐怜(広報班学部3年))

研究室及び研究概要紹介
 http://www.f.waseda.jp/noda/

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第26回早桜会懇話会(今年度第1回)の開催報告

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 第26回懇話会を、6月24日(土)15時~17時、中央電気倶楽部(大阪堂島浜)で開催しました。

 今回の講師は、株式会社オー・ジー(新59回平沢研)の陳鴻氏で「台湾海峡西岸経済区」(以下海西経済区)と題して、急速に経済発展を遂げている該地区の様子について、その地理的、歴史的な観点も取り入れて解説されました。

 

 海西経済区は主体地位を有する福建省と周辺の広東、浙江、江西3省の一部から構成されており、その人口は約6,500万人で、東は台湾と海を隔てて向き合っていて、北は長江デルタ、南は珠江デルタに隣接している。中国沿海の経済帯を構成する重要な地域であるとともに、科挙の制度があった時代には最も多くの進士を産み、現代では、学者、専門家を輩出する教育レベルの高い地域である。また客家人、華僑の故郷で億万長者が多く商売に長けた人の多い地域でもある。

 かつては経済的に遅れていたが、台湾と向き合う地域で戦略的にも重要視されて2009年5月に中国国家レベルの事業として戦略的に経済を発展させる決定がなされました。その狙いは 「海西経済区」の開発を加速させて、珠江デルタ、長江デルタと一体化し、太平洋西岸最大経済地帯を形成させることにある。発展は驚くほど急速で、決定から10年足らずで既に長江デルタ、珠江デルタと台湾海峡西岸地域を結ぶ高速鉄道、高速道路を完成させ、主体の福建省の2016年のGDPは、2009年より倍増、人当たりGDPは1万ドルを突破している。

 講師の陳鴻氏は海西経済区の中心部に位置する福州の出身で、豊富な経験に裏付けられた語りに引き込まれました。ことに「華僑が成功している要因として、ネットワークの活用と共に、功夫茶と言って商売を焦らずお茶を飲みながらゆっくり話し、情報交換して新しい商機につなげるのが彼らのスタイルである」との言葉が印象に残りました。

 講演の後は、今年卒業して関西に着任した4名の新人の歓迎会を兼ねて、いつもの居酒屋で懇親を深めました。

出席者

津田實(新7回)、前田泰昭(新14回)、市橋宏(新17回)、岡野泰則(新33回)、斉藤幸一(新33回)、斉藤広美(新35回)、脇田克也(新36回)、中野哲也(新37回)、髙島圭介(新48回)、澤村健一(新53回)、陳鴻(新59回)、桜井沙織(新64回)、前田駿(新65回)、御手洗健太(新65回)、古山大貴(新65回)、前田傑(新65回)