月別アーカイブ: 2017年6月

第26回早桜会懇話会(今年度第1回)の開催報告

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 第26回懇話会を、6月24日(土)15時~17時、中央電気倶楽部(大阪堂島浜)で開催しました。

 今回の講師は、株式会社オー・ジー(新59回平沢研)の陳鴻氏で「台湾海峡西岸経済区」(以下海西経済区)と題して、急速に経済発展を遂げている該地区の様子について、その地理的、歴史的な観点も取り入れて解説されました。

 

 海西経済区は主体地位を有する福建省と周辺の広東、浙江、江西3省の一部から構成されており、その人口は約6,500万人で、東は台湾と海を隔てて向き合っていて、北は長江デルタ、南は珠江デルタに隣接している。中国沿海の経済帯を構成する重要な地域であるとともに、科挙の制度があった時代には最も多くの進士を産み、現代では、学者、専門家を輩出する教育レベルの高い地域である。また客家人、華僑の故郷で億万長者が多く商売に長けた人の多い地域でもある。

 かつては経済的に遅れていたが、台湾と向き合う地域で戦略的にも重要視されて2009年5月に中国国家レベルの事業として戦略的に経済を発展させる決定がなされました。その狙いは 「海西経済区」の開発を加速させて、珠江デルタ、長江デルタと一体化し、太平洋西岸最大経済地帯を形成させることにある。発展は驚くほど急速で、決定から10年足らずで既に長江デルタ、珠江デルタと台湾海峡西岸地域を結ぶ高速鉄道、高速道路を完成させ、主体の福建省の2016年のGDPは、2009年より倍増、人当たりGDPは1万ドルを突破している。

 講師の陳鴻氏は海西経済区の中心部に位置する福州の出身で、豊富な経験に裏付けられた語りに引き込まれました。ことに「華僑が成功している要因として、ネットワークの活用と共に、功夫茶と言って商売を焦らずお茶を飲みながらゆっくり話し、情報交換して新しい商機につなげるのが彼らのスタイルである」との言葉が印象に残りました。

 講演の後は、今年卒業して関西に着任した4名の新人の歓迎会を兼ねて、いつもの居酒屋で懇親を深めました。

出席者

津田實(新7回)、前田泰昭(新14回)、市橋宏(新17回)、岡野泰則(新33回)、斉藤幸一(新33回)、斉藤広美(新35回)、脇田克也(新36回)、中野哲也(新37回)、髙島圭介(新48回)、澤村健一(新53回)、陳鴻(新59回)、桜井沙織(新64回)、前田駿(新65回)、御手洗健太(新65回)、古山大貴(新65回)、前田傑(新65回)

2017年度定期総会

2017年4月22日(土)13:00~19:00
場 所:    早稲田大学西早稲田キャンパス
                57号館2階201教室(定期総会・先進研究講演会)
                56号館1階カフェテリア(交流会)

本年度も、昨年同様、定期総会と、それに引き続き先進研究講演会「応用化学最前線-教員からのメッセージ」、そして交流会を開催した。
日程は、例年の5月末開催を早め、2017年4月22日の開催となった。
出席者は、総会93名(OB・OG 58名、教員14名、学生21名)、講演会117名(OB・OG 78名、教員15名、学生24名)にご参加頂き、交流会(懇親会)では95名の会員の皆さんが集い、盛会な総会の一日となった。

1. 定期総会

13時より和田教授の司会で開催された定期総会では、最初に三浦応用化学会会長より挨拶が述べられた。

三浦会長の挨拶

2017年度総会 三浦会長挨拶

引き続き、和田庶務理事及び本間会計理事よりそれぞれ2016年度事業報告案及び決算案、2017度事業計画案及び予算案の説明がなされた。

和田庶務理事

本間 敬之会計理事

引き続き、河野監事より監査の報告があった。4月17日(月)に廣谷会計理事、和田庶務理事および寺嶋事務局長の同席のもとに監査を実施し、会計部門においては領収書、通帳等の各種帳票を確認した結果、適正に処理されており決算書、貸借対照表は正当であると報告された。また、業務部門においても、各委員会議事録の閲覧ならびに、基盤委員会、広報委員会および交流委員会に時間が許す範囲で出席した結果、各委員会ともに当初計画に基づき概ね順調に業務が遂行されていること、特に学生委員の積極的な参加が顕著であったことが報告された。各委員会にたいする指摘や期待としては、基盤委員会に対し、会員の会費納入率向上への一層の取り組み、交流委員会に対し、シニアOBの期待にこたえる事業の推進、広報委員会に対し、ITリテラシーに強くない会員への配慮などの要望が加えられた。

河野 恭一監事

以上により、2016年度事業報告案及び決算案が承認された。

次に橋本副会長より、新年度の新規役員体制と、その体制が決められた背景について説明があった。続いて、当日海外出張で欠席された濱逸夫新副会長からのメッセージが代読され、最後に退任される役員に対する謝辞があった。

橋本副会長

退任される倉持誠前副会長より挨拶が述べられた。

倉持前副会長

引き続き、橋本副会長より6月2日に開催を予定された「第5回未来社会創成フォーラム」について説明があった。

本年は応用化学科創立100周年にあたり、種々の企画が立てられているが、その概要説明と協力のお願いが西出副会長から行なわれた。

西出副会長

最後に松方副会長からの応用化学科の近況を取り混ぜた挨拶によって総会は締めくくられた。

松方副会長

2017年度総会Gallery

 

 2. 先進研究講演会 「応用化学最前線-教員からのメッセージ」 (応用化学科と共催)

先進研究講演会「応用化学最前線-教員からのメッセージ」(応用化学科と共催)は、応用化学科の各研究室応用化学科の教員が、企業の研究者・技術者や学生に、自らの研究分野を紹介し、その先進性、先導性を熱く語りかけるもので、 その後の交流会(懇親会)で、教員、社会人および学生との交流や懇談を深め、早稲田応用化学科の研究に関する理解を深めていただくために、毎年総会とあわせて企画される。本年は下記の4先生にご講演をいただいた。

  1. 有機合成化学分野 山口潤一郎 准教授
       「演題 芳香族分子の新奇カップリング法・合成法の開発」

    山口潤一郎 准教授

  2. 触媒化学分野 松方正彦 教授
       「演題 膜分離技術を用いた革新的化学プロセスの創生」

    松方正彦 教授

  3. 応用物理化学分野 本間敬之 教授
       「演題 テラワット級太陽光発電のためのプロセス技術革新」

    本間敬之 教授

  4. 応用生物化学分野 桐村光太郎 教授
       「演題 応用生物化学の新展開:KIS-BIOTECHNOLOGY」

    桐村光太郎教授

    2017年度総会 先進講演会Gallery

 

3. 交流会(懇親会)

3時間の講演会の後、場所を56号館の理工カフェテリアへ移し、下村新基盤委員長の司会で、三浦会長の開会挨拶、そして西出教授(応化会副会長)からは応用化学会の益々の発展を願って乾杯のご発声を頂き、交流会(懇親会)がスタートした。  

下村啓交流委員長の司会で懇親会は開幕

今年の交流会は卒業生・教員・学生合わせ95名の会員の皆さんで和気あいあいとした雰囲気で進み、松方副会長と田中学生交流委員長の二人によるに中締めにて散会となった。

2017年度総会 懇親会Gallery

(文責:広報委員会・応化会事務局)

過去の定期総会報告

2017年度総会 三浦会長挨拶

本日は御多忙の中、定期総会にご出席頂き、誠に有り難う御座います。
会の開会に先立ちまして一言ご挨拶と新年度への抱負を述べさせて頂きます。

本年度は我が応用化学科本科創設100周年に当たる誠に喜ばしい記念すべき年に当たります。後ほど紹介があると思いますが、10月7日に記念式典が予定されており、教員の皆さんがその準備に奮闘されておられます。私たち応用化学会でも直接のご協力はあまり出来ませんが、応化会からの志をご寄付させて頂き式典の成功をご支援申し上げることを先ほど総会に先立つ第1回役員会で承認を頂いたことをご報告申し上げます。
大正6年河合、富井両教授が立ち上げ、そして翌7年に小林先生が主任教授として応用化学科の今日の隆盛の基盤をお作りになったことは皆さん周知のことと思いますが、この小林久平先生が6年後の大正12年に創設された我が応用化学会初代会長となられたわけであります。蛇足ではありますが、以来私で丁度18代目にあたることになります。
この諸先輩達の活躍により応用化学科は日本の化学分野におけるトップランナーとして常に学会、工業界を牽引し続けてきた訳であります。この応用化学科は今「役立つ化学、役立てる化学」の理念の下、まさに世界に向かって発信を始めており、その原動力である教員の皆さんへの高い評価はホームページなどで皆さまもよくご存じのことと思います。100年から先を目指して益々応用化学科が発展していくために、私たちOB・OGも大いに支援をしていこうではありませんか?

さて、会長就任の11月に「運用の円滑化と体制改革について」の方針を発表・実施して今年で3年になりますが、現役OB・OGの委員会への参加、学生委員会の自主企画運営による活性化、ホームページの大幅刷新、産学連携推進のための4回に亘る「未来社会創成フォーラム」の実施など現役若手、学生にも魅力ある企画とその遂行を推し進めて参りました。それぞれ昨年、一昨年の総会挨拶でも報告させて頂きましたように、各委員会メンバーのご尽力により予想を超える成功を収めてきたものと確信しております。
さりながら、これも毎回申し上げておりますようにこの「改革」を実施しなければならなかった根本原因であるリソースの欠如、すなわち「金、人」の不足が未だに期待していた程改善されていないことも、また事実であります。
後ほど事業会計報告そして計画の説明にありますように、会費納付の長期的漸減傾向に歯止めは掛かっておらず、イベント収入に依存する傾向が進むという財務的にはあまり望ましくない状況になっております。

また、人に関しましては現役OB・OGそして学生委員は着実に増加しているものの、いわゆるシニアOB・OGの参加は高齢者就労環境の大幅な変化により厳しい状況は続いております。
そのため、本年度は役員・委員改選期ではありませんが、後ほど説明致しますように主要メンバーの現役シフトを軸に一部交代を実施させて頂きました。
まず、第一に副会長に倉持さんから濱逸夫さんへの交代であります。
濱さんは言うまでなく現役のライオンの社長であり、2012年就任以来4期続けて売り上げ、利益共に増収を続けている大変御多忙な方であります。本日も残念ながら先に決まっていた海外出張のため出席できず、皆さまへの就任のコメントを託されており、後ほど紹介の予定であります。
濱さんの母校、応化に対する熱い思いは交流講演会に出て頂いたときから以降、何度となくお会いしてきましたが都度強く私の胸に伝わって参りました。御多忙の中、副会長をお受け頂けたのも、全くのこの彼の熱意に他なりません。しかしながら、現状のままの会運営では現役社長の多忙さから思うように活動に参加出来ないことも当然であります。現役の活躍を期待する今年度方針の中で多かれ少なかれ現役OB・OGには共通した課題であるとも言えます。
従来のシニアの善意に依存する運営に限界が出てきている中、現役とのコラボによる運営方法への転換は喫緊の課題であり、今回現役の立場から会の運営を考え試行して頂くため3委員長を敢えて現役OBにお願いすることに致しました。この方針には様々リスクのあることは承知ですが、幸いシニアOBもこの3年間で新規参加頂いた方々が活動になれて会の中心として活躍してきており、現役およびシニアの両輪によるワークシェアリングへの思い切った挑戦をするのはまさに今であると考え、今年度から進めて行くことを決断致しました。
新委員長の下村、町野、佐々木3氏はそれぞれ会社の要職にあり多忙な職務をこなしておられますが、有り難いことに是非改革に協力をしたいと熱意を持って引き受けて頂きました。また、応化会活動の要である多くのベテラン委員の皆さんも彼ら共に会の運営を進めていくとのご理解を頂きました。 

挑戦をしてみなければ何も変わりません。現に学生委員会においては自主運営と言う重いミッションが却って学生達のモチベーションを向上し、この3年間で多くのイベントを立ち上げ、成功裡に実施してきました。
是非会員の皆さまに置かれましても本方針をご理解の上、温かく見守っていただきますと共に従来に増しますご支援の程よろしくお願い致します。

次にリソースの中の「金」の部分でありますが、これは言うまでもなく会運営の基盤である会費納付であります。
冒頭申し上げたとおり漸減傾向が進んでおり、とくに現役若手の無関心化が顕著であり、これが大きな要因になっていると考えております。もともと卒業してからは世事に忙しく、学生時代の校友達、先生方とも離れ、過去のものとなっている大学関係には関心を持ちにくいのはある意味当然のことでありますが、それでも近年の漸減傾向はゆゆしき問題と考えざるを得ません。まずは所在確定し、接触することから始めなければなりませんが、ご存じのとおり個人情報保護法もあって大変やりにくい時代になっております。同門会や同期或いは企業の中からの信頼関係の下の情報が頼りで、皆さんが知っておられる情報をいただければ、と期待しております。ご協力の程、よろしくお願い致します。
学生委員会卒業の若手現役は応用化学科・応化会への帰属意識が高いので本年度は学生委員会および教室側の協力を得てこの世代のオルグ化を進めたいと考えております。また、現役にとって魅力ある応化会でなければ会費を払ってまで戻ってきたいとは思わないもので、彼らを魅了する場としての機能をどう持たせるか、これが次の大きな課題です。この二つの意味でも世代が近い現役委員長の知見、役割は大きいものと期待している次第であります。

百周年の話題から改革推進まで多くのテーマに触れ、長い挨拶になりました。
何度も申し上げますとおり、シニアと現役OB・OGの両輪による会の運営、この改革の成功により、応化会を持続的に発展させて、今年の応用化学科百周年に続く2023年の応化会百周年に繋げていきたいと願っております。
今回の総会は事前に通知メールでご案内しましたが、1ヶ月前倒しをすることになりいつもご参加頂いている皆さまには多少の混乱があったかも知れません。理由については申し上げたとおりで、いろいろ議論を行った上での判断ですので、改めてご理解を賜りたいと思います。

最後に感謝の言葉を述べさせて頂きます。
ご案内のように倉持さんがこの度退任されますが、彼には多忙な現役時代から当会の交流委員および理事を勤め、私が会長就任時から副会長として会運営の重責を担って頂きました。広島からと言う遠距離のハンディがある中で、私費で西早稲田に通いご活躍頂いたことは皆さんのご存じのとおりです。また、TV会議で幹部会会議に参加するなど新しい形の会運営のやり方を試行しても頂きました。ここに、その功績に対しまして功労者として感謝申し上げます。会員一同お礼を申し上げます。 

以上で、総会に先立ちまして私の思いを述べさせて頂き、併せて開会のご挨拶とさせて頂きました。有り難うございました。

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第16回石川研究室同門懇親会開催報告

第16回石川研究室同門懇親会が6月10日(土)JR田町駅から程近いニュートーキョーで開催されました。 

石井幹事/司会役(42年卒)の開会宣言に続き、室賀代表幹事(42年卒)より石川先生の生い立ち・お人柄を偲ぶ話を込めた挨拶、その後出席者最年長の高橋会員(33年卒)より乾杯の発声が行われました。

暫し歓談後、応用化学科応用物理化学分野の門間聰之教授より、研究キーワードの1つである電気化学エネルギーデバイス(特に蓄電)につき分かり易く解説頂きました。

1.5V乾電池 → 携帯電話・無線通信用蓄電 → ハイブリッド車・電気自動車蓄電という技術イノベーションの説明の後、蓄電装置のプラスマイナス端子間に微小信号(10mV)を送りその周波数を変えた際の応答チェックにより、ハードを解体することなくどのパーツに不具合があるのかといった健康診断・寿命診断研究の一端を覗かせて頂きました。

ガソリン自動車が仮に火を噴いても余りニュースにはならず、一方携帯電話やノートパソコンでちょっと煙が出たくらいでニュースになるのは如何なものか? 狭いスペースに230 ~400V(直列)の電池を搭載し、しかもガソリン車以上の出力が出る蓄電タイプの車は、ガソリン車より安全では? との本音も聞こえてきました。

最後に、相次いだ震災から学んだこととして、トイレの水くらいは自給自足しようと、趣味として週末自宅の庭に穴を掘り始め 4mほどで水位に到達、その後緑粘度層(鉄分)、砂層(1万年前のくるみが発見される層)を経て現在10m余りの深さまで掘り下げ、ポンプアップ間近との話も披露されました。

毎回恒例のアトラクションは、早稲田フラメンコサークルVamos(1年~3年生の6名)
による見事なタップ(全員総出の際は準備したベニヤ板が割れんばかりの迫力でした)、時に激しく時に華麗なダンスが披露され、ギター生演奏・哀愁に満ちた歌声、色とりどりの衣装と相俟って、参加者は彼女達のパッフォーマンスに釘付けとなりました。

その後宴は終盤を迎え、恒例の高橋会員によるハーモニカ名演奏、“ここはお江戸か新宿の町か”(戯れ歌)の合唱(Vamosの皆さんが微笑む場面も)、集合写真撮影、全員で高らかに校歌斉唱、新井幹事(43年卒)の閉会の挨拶と続き1本締めで中締めとなりました。今年の参加者は25名で、その半数以上の方が2次会へと流れました。

(記:堀江 芳文 46年卒)
 

第5回 未来社会創成フォーラム 会場Gallery

 

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「第5回 未来社会創成フォーラム」開催報告

第5回 未来社会創成フォーラム ―低炭素社会に貢献する材料技術の最前線と展望- が下記にて開催された。
日時:2017年6月2日(金)13:30~19:30
場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス63号館2F-03, -04, -05室、及び1F-Rohm Square
主催:早稲田大学 先進理工学部 応用化学科
早稲田応用化学会
参加数:参加企業/団体/組織等総数=40
フォーラム参加者(講演者は除く)=71名 (内 応用化学科OB/OGは10名、14%)
応用化学科研究室の参加学生・教員=48名

1. 今回のフォーラムについて

 「未来社会創成フォーラム」は平成25年に第1回を開催し、今回で第5回目を迎えた。
 (未来社会創成フォーラムの趣旨は、こちら)。
今回のフォーラムは、早稲田大学応用化学科創立100周年記念事業の1つとして開催されたもので、Worldwideな対応が必要とされている「地球温暖化対策のために実行すべき低炭素化と、それを支える材料技術」をテーマとして設定し、従来のフォーラムと同様に産学官の各方面から次のような視点に立った講演が行われた。

  • : 炭素繊維    -省エネルギー最前線

       黒鉛負極    -蓄エネルギー最前線

  • : ナノチューブ・シリコンと蓄電池・太陽電池      -蓄・創エネルギー萌芽技術
       太陽電池の世界情勢    -創エネルギー世界情勢と日本の課題

  • : 低炭素社会と素材産業   -日本の戦略

今回のフォーラムは応用化学科 野田教授が主管となり、また先進理工学部 若尾学部長を講師としてお招きする等、産学官の多彩な講師陣にて多方面からの切り口により本テーマに関する講演が行われた。

2.  今回のフォーラムのプログラム

1) 13:30-14:15 
   「航空機用炭素繊維複合材料の開発と多用途展開」
    大皷 寛(東レ株式会社 ACM技術部 航空・宇宙技術室 主席部員)

2) 14:15-15:00 
    「リチウムイオン電池黒鉛負極材の開発動向と将来展開」
   西田達也(日立化成株式会社
      機能材料事業部 開発統括部 蓄電摺動材料開発 部長)

3) 15:00-15:45  
     「 材料とデバイスの革新を目指した萌芽技術: 
         カーボンナノチューブ・シリコンと蓄電池・太陽電池」
    野田 優(早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 教授)

**15:45-16:00 休憩

4) 16:00-16:45 
    「太陽光発電におけるシステム技術の現状と展望
              ~さらなる大量導入に向けて~ 」
   若尾真治(早稲田大学 先進理工学部 学部長、同研究科長)

5) 16:45-17:30 
    「低炭素社会創成に向けた新しい素材産業の戦略」
    井上悟志(経済産業省 製造産業局 素材産業課 革新素材室長)

6) 17:30-17:45 おわりに
    松方正彦(早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 主任教授)

##18:00-19:30交流懇親会(名刺交換および質問・懇談):63号館1F-Rohm Square

3. 各講演の内容について

参加者には各テーマの講演の内容を一冊に纏めた要旨集が配布され、各講演は基本的にそこに記載された内容に沿ってご説明頂いた。ここでは各講演における概要を記した。

1) 「航空機用炭素繊維複合材料の開発と多用途展開」          大皷 寛 主席部員

大皷 寛氏

炭素繊維の開発の歴史、市場の現状(航空機中心)から今後の展開まで、幅広く講演を頂いた。炭素繊維の素材本体の構造制御と高強度化に加えてマトリクス樹脂および犠牲粒子層などとの複合化など、技術的な積み上げにより多くの課題を解決し航空機への本格採用を実現した経緯は、我が国のものづくりの強みの根源を理解する上で貴重であった。また、現在注目されている航空機での省エネルギーと低炭素化に加え、風力発電でのブレードによる創エネルギーや建築物の構造体による快適・安全など多様な展開があることが限られた時間内で紹介され、他の追従を許さない世界トップの材料技術は東レという大企業の事業の新しい柱になることが良く分かる講演であった。

2)「リチウムイオン電池黒鉛負極材の開発動向と将来展開」        西田達也 部長

西田達也 氏

リチウムイオン電池と負極の開発の歴史、市場の現状(モバイル中心)と今後の予測(自動車)まで、幅広く講演を頂いた。リチウムイオン電池は日本発の技術で当初は日本がシェアを独占していたものの、中韓との厳しい競争にさらされていること、日立化成も厳しい競争の中で日進月歩の高容量化と高出力化により負極材料のトップシェアを維持してることが紹介された。高容量化は充填率向上により可能だが、一方で空隙減少と黒鉛の面内配向化により低出力化を招くこと、このトレードオフを面直配向という理想ではなく不規則化という現実解で解決した技術思想も紹介された。更なる高容量化に向けた新材料の動向やそれに対する取り組みなど、トップを維持するものづくりの在り方が良く分かる講演であった。

3)「 材料とデバイスの革新を目指した萌芽技術: 
                     カーボンナノチューブ・シリコンと蓄電池・太陽電池」
                                                                 野田 優 教授

野田 優 教授

注目を集める新材料の概略と実用化への取り組み、蓄・創エネルギーの革新を目指した萌芽技術など、大学の最新の研究開発の一端が紹介された。カーボンナノチューブに期待される多様な応用、製造技術の現状と課題、および高速高収率な独自の合成技術が紹介された。また、リチウムイオン電池や電気化学キャパシタの現状、新材料の適用の際の課題、ナノチューブを基盤とした新構造の電池の構想と開発状況が紹介された。現在の太陽電池技術の概略、鍵となる高結晶性シリコン膜の独創的な高速製膜技術、簡易なシリコン-ナノチューブヘテロ接合の萌芽技術とフレキシブル太陽電池への挑戦の状況が紹介された。低炭素化とそれを担う材料技術の次の一手と、1を100にする化学工学の貢献と展開が分かる講演であった。

4)「太陽光発電におけるシステム技術の現状と展望 ~さらなる大量導入に向けて~」
                                                           若尾真治 学部長

若尾真治 先進理工学部学部長

太陽光発電の世界情勢と我が国の現状・課題から、更なる大規模導入と電力安定供給まで、包括的な視点とシステムの立場から講演を頂いた。海外での太陽光発電の急速な低コストと我が国の割高な現状、その低コスト化に向けた多様な取り組みの重要性、今後の目標、および太陽光発電以外への多角化の重要性などが説明された。また、太陽光発電の大規模導入に向け、狭域および広域での異なる問題、電力システム全体での安定化、負荷追従制御から負荷予測制御、さらには柔軟なシステム設計のための蓄電技術の重要性なども解説された。化学が担う材料・デバイスのハードを社会で活かすソフト・システム面と、両者の協働の重要性が良く分かる講演であった。

5)「低炭素社会創成に向けた新しい素材産業の戦略」
                                                               井上悟志 室長

井上悟志 氏

低炭素化と材料技術の具体論から、オープン・イノベーションの方法論まで、幅広く経済産業省の戦略を講演頂いた。まず、低炭素化での環境制約と成長の両立の重要性と、それに対するマルチマテリアル化の機運が紹介された。続けて、川上の素材企業に対して積極的・主体的な提案を期待する川下のユーザー企業の要望と、そのためのオープン・イノベーションの重要性と大企業の抱える課題が紹介された。それに対し、材料の革新ではなく材料による革新という考えが示され、研究開発の加速のためのシミュレーションやAIの重要性が説明された。最後にSociety 5.0を実現するためのConnected Industriesというパラダイムが解説され、経済産業省の戦略が良く分かる講演であった。

6)「おわりに」                        松方正彦 主任教授

松方正彦 応用化学科 主任教授

フォーラムに御参加いただいた方へのご挨拶と御礼、および応用化学科の紹介があった。

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4. 講演後の交流会について

各テーマの講演の後、63号館1F-Rohm Squareに場所を移して名刺交換・質問・懇談等による活発な交流会が行われた。講師側としては講演で伝え切れなかった情報の提供、また参加者側としては聴講だけでは不十分と感じた情報の獲得が出来たのではないかと考える。また、当然ながら今後進展が期待される新しい人と人との繋がりが得られたと考える。 

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5. 総括

各講師の講演とも本フォーラムの趣旨に沿った広範囲のもので、且つ本フォーラムのテーマにあるように「最前線」の情報を盛り込んだものであり、参加者に対して極めて説得力のある講演が行われたと考える。従ってこれまでの4回のフォーラムと同様、「研究活動の価値ある展開と研究成果の社会への還元」というフォーラムの目的達成のために、今後大いに貢献することを期待したい。 

<参加者よりのアンケート結果概要>

本フォーラムの参加者にはアンケートの記入をお願いした。特筆すべきコメントの幾つかを下記する。

*先端材料の知見を得ることができた。
*他企業との交流が図れた。
*開発、研究、世の中の動きが見えて、バランスのあるフォーラムだと思う。
*産官学の講演をまとめて聴講できた。
*中・長期かつ広い範囲の視点やアカデミックな内容に触れることができた。
                                           ~~等々

総じて、前回と同様参加者には本フォーラムの趣旨について認めて頂き、開催が有意義であったことについて賛同が得られたと考える。
その他多くの参加者から、本フォーラムに対する好意的なコメントや、今後もこのような企画を期待する旨の言葉をいただいた。

(文責:未来社会創成フォーラム実行委員会)