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第26回 先生への突撃インタビュー (梅野太輔教授)

「先生への突撃インタビュー」は2021年度に新たに応用化学科にお迎えした梅野 太輔教授にご登場をお願いし, 最終回といたしました第25回より再開いたします。今回は学生2名, OB 1名の組み合わせで対面でのインタビューを行い, 応化会の本来の姿である, 先生・学生・OBの3者によるインタビュー記事の作成を目指しました。
梅野先生にはインタビューのご快諾並びに入念なご準備・熱のこもったお話を頂きましたこと, この場を借りて御礼申し上げます。

梅野先生ご略歴

・1994年 九州大学 工学部 応用化学科卒業 

・1998年 九州大学大学院 工学研究科 分子システム工学専攻 博士課程修了・博士(工学)

・1999年 カリフォルニア工科大学 化学工学科 博士研究員 (Frances H. Arnold Group)

・2003年 ワシントン大学シアトル校 病理学科 シニアフェロー (Larry A. Loeb Group)

・2005年 千葉大学 工学部 共生応用化学科 助教授

・2019年 千葉大学 工学部 共生応用化学科 教授

・2021年 早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 教授

 

 

Q. 先生が研究に本格的に取り組み始めたきっかけはなんですか?
 ~ かっこいい数学者と出会って化学を目指した? ~

❶ 化学科への道

子供の頃は, 社会も宇宙もひっくるめ, この世界のすべてに興味がありました。だから進むべき道は, むしろ哲学や社会学にあるのかしら, と思っていました。中学・高校時代は6年間, 学校の授業はほとんど聞かず, ただひたすら読書でした。しかし, 大学受験シーズンを前にして自分の5年間を総括すると, じつに見窄らしい。読書によって自分が世界を知れたとは全く思えませんでした。そして勉強を初めて見ると, 教科書や入試対策問題でさえ, 私の世界(宇宙)の理解が着実に深まってゆく実感がある。自分はなんと遠回りをしたものだと… そして世界の探針として, 科学とは, なんと優れた手法なのだろうと…。

高2の秋, 運命的な出会いがありました。その日, 九州の片隅にある私の前に, 前触れもなく, どえらい学者がやってきたのです。この先生は, 米国ミシガン大学教授の菊池昇先生, のちにトヨタの研究所長に就任する高名な数学者です。この奇蹟をしかけたのは, 私の地元福岡に九大の客員研究者として滞在していたJohn Bolanderさん(現カリフォルニア大学土木工学科教授)。あるきっかけで知り合い, 私のオートバイの師匠になった人です。この人自身も, 研究者という生き方を見せてくれ, 高校生の私の理系帰依を後押しした恩人です。私の人生によき影響をもたらすはずだと, 自分の尊敬する学者を半強引に連れてきちゃった。いきなり「見知らぬ若者にためになる話をしろ」と言われた菊池先生はおおいに困惑されたでしょうが, Bolanderさんの熱意に押され, 予備校時代から大学時代, 渡米して成功してゆくまでの波乱万丈の物語を, 一気に語ってくれました。私が追体験させてもらったその半生は, 爽やか, 軽やか, 冒険に満ちたものでした。自分が持つカビくさい学者像は吹っ飛び, 僕も学者になりたい!と。いや正確には, キクチノボルになりたい!…これが私の人生の目標になりました。

なぜ化学を選んだか。それも菊池先生の影響です。その日, 「将来の進路は決めてるの?」と聞かれた私は, 「環境問題の解決みたいなことに貢献できればいいと思って…」とナイーブな言葉をモゴモゴと…。菊池先生は, 少し黙って, 首を振って言いました。「環境問題も人口問題も食料問題も, それは, 解くべき課題であって, 学問の名前ではない。それらの問題の解決のために, 君はどんなexpertiseを提供するのか?」と。まごついている私に, 彼は助け舟を出します。「数学, 物理, 化学, の3つのどれかひとつを極めなさい。もちろん, どれを選んでも正解!」。なるほど, それなら僕にも選べる。数学・物理より, よりダイレクトに世界とつながっている(気がした)化学に決定です。ここは雑な直感ですが, 菊池先生が確約した正解のひとつなので, 信者に迷いなどありません。

❷ アカデミアへの道

分野より先に, まず大学人になることを決めていた私ですが, 卒論研究をすすめるにつけ, アカデミアは研究者にとっての「最高の場所」だと納得を深めてゆきました。アカデミアの最大の魅力は, 理科の民としての「行の純度」にあります。経済合理性がなくても, エネルギー負荷が高すぎても, 同時代の同業者が価値を認めてくれなくても, 応用可能性に明確な展望がなくても…自分が「価値ある」と認定すれば, その研究を続けることが許されます。完全なる選択の自由! …これは塀の外(社会)では, なかなか許されない自由ではないでしょうか?

応化を選んだ学生の中には, 世の中に直接役立つ化学研究に興味ある人が多いかもしれません。しかし考えてみて欲しい。応用分野でも, 本当に破壊的発展やブレイクスルーは, 煮詰まった業界の内ではなく, 予期せぬ方向から突然やってくるものです。そしてその「事件」の萌芽は, 基礎研究の所産であることが圧倒的に多いのです。化学分野ならば, 「みたことない」「きいたことない」現象の発見, 「いまは存在しない」分子機能が生み出された瞬間。しばしば, 周辺分野に破壊的な解決をもたらします。この「突然」を半ば必然的に生み出すために, 物質科学の辺境を探検するのが僕らアカデミアンなのです。だれも歩んだことのない「ぼくたち」「わたしたち」だけの冒険なのだから, 計画・実行する段階から楽しいし, 結果がどうころんでも, 無条件に楽しい。こんな業務で給料もらえるなんて, サイコーだとは思いませんか?世の中に役立ちたいからといって, アカデミアを選択肢に入れないのは, 理系人としてもろもろ矛盾しています。製品よりも産業を創出しようとする厨二病を, 子供扱い(食わず嫌い)するのは, とてもおすすめできません。

❸ 本格的に研究を始めたのは?

卒論でもらった最初の研究テーマは, 二重鎖DNAに合成ポリマーを共有結合的に固定し, 面白い性質をもつ材料を創ろう, というものでした。DNAの化学研究といえば, 遺伝情報保存の本質, 塩基対形成の超分子化学だと思います。しかし私の指導者(前田瑞夫先生)は, 縦横比が大きく剛直, そして高密度に電荷を帯びた電解質高分子としてのDNAの物性に着目し, その本質を突けば, まだ未整理な重要な現象が見つかると直感しておられたようです。その直感の正しさを私が実証することはありませんでしたが(残念), 私の直属の後輩だった森 健さん(現九大准教授)によって証明されました。そして, その成果が裏書きした確信をもとに, 先生は「ソフト界面の化学」という学術領域を創始した。卒業後, 分野をタンパク質工学に転向した私ですが, 私のタンパク質工学は「孤立し進化する特殊なソフト界面」の設計学と見立てて実践していることを考えると, 結局のところ, その物質観, 研究観はしっかり伝承していることになる。三つ子の魂なんとやら, ってやつです。

博士号を取得後, 米国に移った私は, 進化分子工学を始めました。博士研究員は, 何か新しいことを始めることが求められます。高分子材料学で学位を得た私ですので, おそらくは, 高分子化・高分子分解にかかわる酵素の進化分子工学などが「落とし所」だったのでしょう。しかし私は, それこそが, 一番やっちゃいかんことだと, 強く感じていました。自分のバックグラウンドを留学先で直接活かせれば, 短期間に成果は出ますが, その代償として, それは私が心から大事だと思えるテーマ設定には足枷になる。自分を進化工学という「技術」の輸入・転売業者に貶めないためには, 自分が学生時代に修得した技術や経験はいったん全部捨てようと。テーマ設定において流用してよいのは, 培った物質観・感性だけに限定しようと。

結局私は, 5年近くもかけて, 納得ゆく自分の行くべき道をじっくり設定することができました(自己責任において!)。この時期が一番キツく, そして一番楽しかった。そしてこの段階で私の学者としてのゆく道は明快になったのです。以後研究者としてのアイデンティティに悩むことは一切ありません。菊池先生にもういちど「何のexpertiseを提供するの?」聞かれたら, 「化学です」と即答するでしょう。そして「何に熱中しているの?」と聞かれれば, 「分子の協働機能の進化デザイン学です」とこたえるでしょう。ちなみに, これが自分の人生を成功に導く正解だったかなんて, どうでもいいことです。自分のちっぽけな人生を賭けるに足る学問であると, 自分自身が確信していることが大事なのだと思います。この確信が研究者に安定した幸福とモチベーションを与え, この職業を全うする力となる。論文数も予算獲得額も, ポストとるためには大事だけど, 場渡的に成果を貪った人は, ポストをとったあとも自分探しで苦しむ。大事なものは, 自分を賭けるべきものとの出会いです。トレーニング期間は十分にとること。これは, アカデミアにおける目指す若き研究者に私が進言したい, 唯一のメッセージがこれかもしれません。

 

Q. 技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
 ~ 生物の能力(化学)の拡張, 生物の進化プロセスのデザイン~

自分はいま, 合成生物学, 進化分子工学という分野の研究者として研究室を運営しています。 合成生物学(Synthetic Biology)は, 生物に化成品やバイオ燃料をつくらせたり, 環境保全や診断を行わせたり, 情報記憶や演算をさせたりすることを目標に, 細胞を遺伝子レベルで再デザインする学問です。環境問題, 食料問題, 温暖化問題などの解決の切り札として, 大きな期待が寄せられている分野です。そして合成生物学は, 生物学の新しいアプローチとしても注目を浴びています。20世記生物学は, 現存する生物の最大公約数をとることによって, 「生命とは何か」という問いにこたえてきました。そして21世紀, 合成生物学たちの「生物をどこまで機能拡張できるか」という挑戦は, 生命のありえるかたちを探索する, 新しい生命科学の方法論と認識され始めている。工学部だからこそできる学術っていうのも, あるのです。産業にも貢献したいけど, 基礎科学にも後ろ髪ひかれる…そういうよくばりな人には, とても向いた分野だと思います。

もう一つの専門, 進化分子工学(Directed evolution)も, 同じ魅力を持っています。この分野では, 自然界にある酵素・タンパク質などを実験室内で超高速に人工進化させ, その性能改良や, 新機能創出を目指します。この技術はすでにたくさんのスーパー酵素を世に提供していますが, いまやその対象を, 生合成経路や情報処理・演算回路, 分子モータやエネルギー変換デバイスにまで広げつつあります。その集大成として目指されるべき未来は, 「分子の自動進化装置」です。ほしい分子機能をコンピュータに打ち込めば, それを実現する分子や分子システムを吐き出してくれる「機能のタイプライター」のようなもの。ドラえもんみたいだって?いやいや, 全く根拠があるのです。生体高分子(DNAやタンパク質など)の最大の特徴は, その機能と構造が, すべて文字列として符号化されている点にある。そしていったん文字列化した高分子機能は, 人為的に進化させ, 様々な機能をそこから生み出せることが, すでにわかっています。あとは, 粛々と技術課題をつめてゆき, , , , , ドラえもんに納品するだけです。

 

Q. 先生の研究理念を教えてください。
~競争ではなく冒険性を大事にしたい~

最近は競争が激しく, 世界700万人の研究者たちが, 生馬の目を射るような先陣争いを日々繰り広げています。頭脳と腕を鍛えあげた究極の戦士たちを尊敬はしますが, 英勇的努力をして初めて「一番槍」が立つ世界に, どれほどの「理科の徒」が憧れるでしょうか。梅野研では, アカデミア研究は, 「競争」ではなく「協働」によって, 僕らの努力は同業者に勝つためではなく, 課題の解決のために使われるべきだと考えます。そもそも「誰よりも早く, うまくやり遂げた!」という報告は, 個人の能力証明, 「匠の技」の実証ではあっても, 新たな工学技術の誕生とは質的にちがう。むしろ「素人の僕らにさえ, それができちゃった?」くらいのところに, 破壊的技術の萌芽があるのではないか。

研究とは, とどのつまり冒険です。我々が最大価値をおくのは, その冒険としての「ワクワク度」です。一年卒論研究をがんばって, なにかを明らかにしたとして。その「明らかできた」ことが, どれほど僕らにとって, いや人類にとって, 「Aha!体験」なんだろう?これを問わねばならない。「やっぱり(仮説通り)そうなったか!」も嬉しいですが, 「なぬぅ?そういうことなの?」というびっくりエンディングの余地が見込めるとき, 私たちのなすべきテーマが1つできましたね, ということになります。

 

Q. これからの研究の展望を聞かせてください。
~ Encoding Chemistry, そしてMolecular Sociology~

1. 化学技術のDNA翻訳:たとえば有機合成化学は, 生命系(organisms)の営む精緻な化学を学び再現するための学問として生まれました。しかし200年のうちに有機化学は大発展し, すでに多くの面において, 自然界を追い越しています。レアメタルの利用, 各種カップリング反応, 保護・脱保護反応, クリック反応など, 化学者が使う技の多くを, 自然界は知りません。私たちは, これら人類だけがもつ化学技術を, 生物界へ技術移転することに興味を持っています。具体的には, 有機, 無機化学者が発明したさまざまなケミストリーを再現できるタンパク質を創り出す。生体高分子は, 遺伝子文字列としてエンコードされていますので, どの生命体に導入しても, その機能はちゃんと働く。合成生物学者の手にかかると, ケミストリーは, 人種どころか生物種を超え, カビもバクテリアも植物もヒトも隔てずglobalにシェアされる共通知になります。これってちょっとロマンチックじゃないですか?

2. 分子社会学へ:僕らが生物に作らせたいもの, やらせたいこと, は, 化学的には, たかだか数ダースくらいの素過程で事足りることばかりです。しかしその数ダースの化学反応は, 数千数万の酵素が共存する「分子のるつぼ」の中で, 実現させねばならない。我々が導入する分子たちに, 細胞内の先住民たちとコンフリクトをおこさずに正しく協働させるのは, 極めて困難です。社会科学分野では150年前に社会学が創設され, 社会の維持・発展に大きな役割を果たしてきた。無数の分子がつくる複雑な分子「社会」である生物の再デザインを目指す生物工学は, いわば分子の「社会工学」といえます。凝縮系, 非平衡系, 超並列多成分系におかれた分子「群」の協働・共同形態のデザイン学もまた, 僕らが挑戦すべきChemistryのフロンティアだろうと考えています。

 

Q. 応用化学会の活動への期待を聞かせてください。
 ~ 日本産業界に不足する基礎科学の推奨・育成の場として ~

日本の産業界に不足しているのは, 基礎科学に対するリスペクトだと思うことが多々あります。カリフォルニア工科大で研究員をしていた時分, 近所の宇宙論研究者が, 民間の経済・金融研究所からしばしば講演依頼を受けると伺って, 新鮮に驚いたことがあります。金融に超ひも理論は不要ですが, 聞く耳さえあれば, 役立つインスピレーションはあるのでしょう。直接関係がみとめられない分野の言葉にも耳を傾ける文化こそが, イノベーションのゆりかごとなり, 破壊的創造のもとになるのではないかと。

ゆえに我が国の化学産業界も, 大学を, 単なる即戦力人材のリソースとして見るのではなく, 破壊的な技術革新やゲームチェンジに必要なインスピレーションの発生源として, じっくり守り育ててほしい。盃を交わした1万の構成員を擁する, 日本最大勢力「応化会」は, その「脱日本型」産学協働のロールとなりえるのではないでしょうか。

 

Q. 100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください
 ~ 産学で化学者の未来課題をともに模索できたら ~

応化会のスケールメリットを生かして, たんなる相互扶助組織, 同窓会の域を超えた, 発展的なエコシステムとしてのあり様を模索できたらステキだと思います。変貌しゆく産業界で活躍できる化学人材を育てるため, 早稲田応化はどう変わってゆくべきなのか。企業サイドから学生に働きかけるとき, いまの企業人の有り体をそのまま見せることが, 果たして良いことかどうかも疑問。同窓という特殊なconnectivityをもった応化会だからこそ, Industrial/ Academic Chemistsの抱く問題意識(とくに自己に対するもの)をもとに, いまから必要とされる, 育つべき未来人像を模索すべきかもしれません。

 

Q. 21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。 
 ~ 不確実な未来を歓迎できる冒険的精神を持って欲しい ~

21世紀はとんでもない世紀になりました。温暖化や食料/水/エネルギー不足など, 科学者に託された課題は難題ばかり。さらには, この数年で, パンデミック問題や紛争問題が追加されてしまった。本当に我々科学者は, これらすべてを克服できるのか。みんな未来に大きな不安を抱いている。

しかし, 十分な基礎学力を身につけ, 問題解決の成功体験を積んだ若者は, 不安にいたずらに身を竦めることはしない。難題にぶつかっても, まだ希望が残っていることを正しく理解し, 正しく努力をし続ける。まわりのみんなが不安で脳停止に陥っても, 最後の最後まで努力できる。こういう人たちを, リーダー(勇者)というのではないか。究極の知恵とは, 「希望をみつけるちから」なんだと思います。そしてそれを持つひとこそ, 早稲田が作るべき人物じゃないか。

例えば皆さんの卒業研究。先生の言った通りの「いい」実験結果がでるまで, ずっと不安だろうか?ついに思い通りの結果が出たとき初めて, ほっとした? それじゃ, じきに研究が嫌いになるし, その他あらゆる知的生産活動も, 苦痛になってしまうだろう。なぜなら, そういう気持ちで研究している人たちは, 価値創造の可能性よりも, 成果の所有と安心に心を奪われているからだ。そりゃ, 誰だって成果は出したいし, 褒められたい。しかし究極には, 価値ある目標と仮説を持つことが一番大事。ワクワクしながらその検証過程を楽しむひとに, 負けはないのだから。

未来創造が僕らの本分。未来の不確定さ(uncertainty)を見たとき, ただそれを不安がるのではなく, 冒険要素(volatility)を見出す人になってほしい。これができるようになった人にとって, 難題山積のいまの時代は, まさしく祝福とチャンスに満ちた「大冒険時代」です。


参考情報(教員・研究紹介):
    https://www.waseda-applchem.jp/ja/professors/umeno/

インタビュアー&文責: 疋野拓也 (博士1年),  原田拳汰(学部2年),  真野陽子(新47回)

第25回 先生への突撃インタビュー(福永 明彦 教授)

 

「先生への突撃インタビュー」の最終回に福永 明彦教授にご登場願うことにしました。
今回はコロナの影響が長らく続いていることもあり、前回に引き続き、Zoomによるリモートインタビューを学生2名、現役OB2名、シニアOB1名の組み合わせで行いました。
福永先生には、リモートインタビューに快諾を頂き、また、丁寧に原稿の作成に協力を頂きましたことをこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

 

略歴
• 1982年早稲田大学理工学部金属工学科卒業。1984年同大学院理工学研究科博士前期課程修了。1999年 博士(工学)早稲田大学。
• 1984~2019年日本石油(株) (現ENEOS(株))。この間、1995~1997年米国カーネギーメロン大学大学院材料工学科修士課程修了。
• 2019年4月より早稲田大学先進理工学部応用化学科教授。
本年の応化会リモート総会で先生自身が自己紹介をされたU-tube動画のです。画面をクリックすると動画が始まりますのでご覧ください。

  • 先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?
    ― 電気化学から抜け出せない運命だったのかもしれませんね ―

今、思い返すと小学校時代に水の電気分解に強く惹かれた理科少年だったことが思い出されます。理数系が好きで得意でもあり、早稲田の理工に進みました。卒業後に、エネルギー会社に入社し3年目で研究所へ異動となり炭素繊維の研究を始めた際に、修士研究で行なった、金属表面の電気化学的評価手法が、炭素繊維の表面評価に適用できるのではないかと、ふと思いつき早大との共同研究を始めたことが研究に取り組み始めた端緒です。自ら思いついたことを実行に移し上手く行ったので、研究が面白くなりました。この研究を元に、特許を取得し、海外の大学を訪問し、米国の炭素学会で発表したりして、研究者の醍醐味を味わうことができました。ビギナーズラックかもしれませんがやればできるかもと思ったのがキッカケです。
しかしながら、その後、炭素繊維の製造工場に異動となり、研究ができなくなり、研究を行えた日々を懐かしく感じるようになりました。そこで、一念発起して、社内の留学制度に手を上げ、カーネギーメロン大学の大学院へ留学しました。コースに入ったので、当初は研究どころではなく、日々の授業についていくのがやっとの日々が続きましたが、当時最先端であった、カーボンナノチューブの応用研究も行うことができ充実した学生生活を送ることができ、帰国後母校で博士を取得しました。

  • 伺った経歴の中で、カーネギーメロン大学での経験に関するお話を聞かせて頂けますか?
    ― 歴然とした日米の違いを早稲田に還元したい ―

    大学院での競争やモチベーションの違いに驚きましたし、勉強量も半端ではなくサバイバル競争を勝ち抜く流れですし、定量的に数式に表せるように、とことん追求するという姿勢も重要なポイントだとも思いました。良し悪しは別にして、その経験を母校に活かせたらとは思いました。

  • 技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
    ― 実験科学の基本に忠実に ―
     
     エネルギーに関連する材料研究を中心に行っています。その中でも材料の構造と発現する機能の関係を明らかにすることを行っています。材料構造の解析には、物理的な要素が大きいですが、発現する機能においては、物理化学や電気化学の反応解析が必要になります。最近特にエネルギーを電気に変換して取り出すことが求められており、色々な領域の研究者が横断的に研究を行うことも必要になると考えています。
    また、まず実験を始める前に必ず作業仮説を立てて行うことを指導しています。その結果、作業仮説通りでなくても、何故最初考えたことと異なる結果が出たのか考えることが重要と思います。ある面では、実験科学の基本ですがこれを疎かにしないことが大切ですね。また、実験の結果で想定とは違ったものが出来た場合にこそ、宝が眠っていると思うようにすることが大事だと教えていきたいと思います。

  • 先生の研究理念を教えてください。
    ― シンプルの追求 ―

     「自然界の現象は全て数式で書かれている」と言われていることでしょうか?全ての数式を明らかにすることはできませんが、一見複雑に見える現象も、解析を進めると全てシンプルに表すことができるのではと常に期待しています。天文や天体が好きである自分の趣味にも通じるかもしれませんが、究極は数式で表せ、その中に変化係数がいくつあるかで表現できることを追求したいと思っています。

  • これからの研究の展望を聞かせてください。
    ― カーボンリサイクルへの貢献 ―

     地球温暖化対策が叫ばれて久しくなります。これまで燃料電池や水素関連の研究が長かったですが、現在は、CO2を積極的に利用するカーボンリサイクルの研究に取り組んでいます。またエネルギーキャリアーとして有望な、水素やアンモニアの研究についても行おうと計画しています。個人的には炭素繊維や複合材料の研究にも興味があります。

  • 具体的なテーマはいかがでしょうか?

    CO2の電解とか、アンモニアの常温合成などを進めようと思っています。また、企業研究の長さから「来るものは拒まず」の体質があり、やれそうなことはトライしたいと思います。

  • 応用化学会の活動への期待を聞かせてください。

    応化会は卒業生であるOBOGのためだけでない、在校生との繋がりも重視して活動しているので大変すばらしいと思います。今後もこのような活動を是非続けて頂きたいと思います。会社に就社した際に、先輩がいると大変心強いと思います。応化会のメンバーが社会で大活躍している所以の一つと思います。

  • 100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。

    100年時代の流れの中で、応用化学科が光輝き続けてきたのは、卒業生の頑張りと母校への貢献、そしてこれまで在職された先生方の努力の賜物と思います。今後も両者が力を合わせて繁栄を築かんことを祈念しております。

  • 21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
    ― 自分の手で新しい未来を ―

    未来は、無限の可能性を秘めています。基礎を十分学んだ後は、自分のアイディアで自由に応用してみてください。きっと新しい未来が開けることを思います。さらに、海外へどんな機会でも良いから是非、挑戦をして欲しいとも思います。

インタビュアー:学部2年 佐藤 将希 、修士1年 疋野 拓也、佐藤 史郎(新37)、
加来 恭彦(新39)、井上 健 (新19)=文責

                                 以上

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第24回 先生への突撃インタビュー(花田 信子 講師)

「先生への突撃インタビュー」に花田信子講師にご登場願うことにしました。

今回はコロナの影響と花田先生が産休に入られる直前でもあり、Zoomによるリモートインタビューを学生2名、現役OB1名、シニアOB1名の組み合わせで行いました。

花田先生には、新しい試みのリモートインタビューに快諾を頂き、また、丁寧に原稿の作成に協力を頂きましたことをこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

花田 信子 講師

花田講師略歴: 略歴

  • 2001 年 広島大学総合科学部総合科学科卒業
  • 2005 年 広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻博士課程修了 博士(学術) 2005 年 広島大学自然科学研究支援開発センター 産学連携研究員
  • 2006 年 ドイツ・カールスルーエ研究所ナノテクノロジー研究所 客員研究員
  • 2008 年 上智大学理工学部機能創造理工学科 研究プロジェクトポストドクター
  • 2010 年 筑波大学大学院システム情報工学研究科構造エネルギー工学専攻 助教
  • 2017 年 早稲田大学先進理工学部応用化学科 講師

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか? 
   ―理数系から、物理・化学に興味が移り、世の中に役立つ可能性を感じてエネルギーを選び、次第に深く追及したいと思うようになりましたー

小学校から高校までバスケットボールを部活で続ける、ごく一般的な過ごし方をしてきましたが、勉強に関しては、中学・高校では、数学や理科(特に物理)の方が好きで得意でした。特に数学は母親が中高の数学の先生をしていた影響もあり、試験前などに応用などの難しい問題は質問をして、全ての問題を最後まで解いてから試験に臨むなど、じっくり考えることが好きになりました。高校では、理系に進みましたが、大学に行くときに数学の方に行くか理科の方に行くかに迷っていました。数学は、答えが一義的に決まることに魅力を感じていましたし、理科の方は、自然現象を数式でシンプルに表すことができることや、普段見えない自然の成り立ちを理解できるということに魅力を感じていました。 大学を選ぶときには選びきれずに、入学してから専門を選べる学部を選びました。大学の1年生の授業で初めて、燃料電池や水素エネルギーなどのことを知り、それまでは物理・化学は自然の原理を説明する道具だと思っていたのですが、新しい材料やエネルギーシステムを作ることで 世の中に役に立つようなことができるかも知れないと思いました。それがきっかけで、物理や化学を学ぶコースに進み、特に物理を主専攻としました。4 年生になって、その興味のまま物理・物質科学を専門として水素貯蔵材料を研究している研究室に入りました。研究室に入ってからは、水素貯蔵材料の中でMg 合金の研究かもしくはグラファイトの研究かを選ぶことになりました。その時は、Mg合金の方がいろいろな元素を組み合わせて機能を引き出すのが面白そうと思いそちらを選びました。初めは先生の提案をそのまま実験して、結果が出てくると自分でも少しずつ次にどうすれば良いかを考えられるようになり、また議論を重ねて次の実験をするとまた結果がどんどん出てくるというのが面白かったです。博士号まで取得して、その後海外や国内の大学や研究所を転々としました。特に、海外(ドイツ)に行ったときにはこれまでは物理をバックグラウンドとした分野にいたのですが、化学をバックグラウンドに持つ人がグループに多く、同じ水素貯蔵材料の研究でもアプローチの仕方が違うことに気づきました。逆に、海外であっても物理・化学の同じ学問をお互いベースに持っており、対等に議論ができることに嬉しく思いました。その後の所属が変わっていく中でも同じテーマで研究を続けていますが、機械、電気、化学工学などの視点を変えると違う要素を組み合わせて新たな展開ができることが面白いと感じています。

 ・技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか? 
    ―基礎と応用の両面での深堀でしょうかー

 エネルギー関連特に水素エネルギー関連の研究をしています。研究自体は、常に基礎と応用を見 据えるものです。特に、この分野は2つが常に交錯しています。基礎的な面では、物理や化学の法則に従って、きちんと材料設計をしていくことがとても大事です。また物理的、化学的、数学的に反応のメカニズムを説明することで、そのメカニズムから物質や反応の機能を引き出すことができます。さらに、設計した材料の特性などを実験的にきちんと確かめることも大事です。一方で、それを社会に実装するには、物質機能のチャンピオンデータを狙うだけでは実現できず、本当に必要な機能はどのようなものかを考える必要があると思っています。それをシステムや プロセスに組み込んで応用する際に、どのような課題があるのか、もしくは既にある材料を用いても良いのでどれくらいの性能が必要かを考えて、アプローチした研究も同時に行っていくことがポイントだと思っています。

 ・先生の研究理念を教えてください。  
  ―物理と化学を幅広く組み合わせながら研究を進めること―

 物理・化学の法則を基本にしてこれまでに、いろいろな材料や技術が開発されてきています。 このような人類が積み上げてきた知見や研究に対して、現代の新しい視点や違う分野から新しい要素を組み合わせて、面白い機能や材料、システムを作ることです。自然現象は、物理・化学 の法則で支配されているので、その枠組みの中で、どれくらい新しい組み合わせができるかが研 究だと思っています。また、これまでにある材料やプロセスを組み合わせて新しいシステムなど を作る際にはできるだけシンプルなものを構築したいと考えています。これは、システムの反応 器や操作が少ない方が最終的にはエネルギー消費が少ないということにも繋がっていきます。

・関連質問ですが、物理が苦手で化学を選んだという学生も多くいたように思いますが?花田先生の感触は如何でしょうか?

 物理は止まっている物質の本質の解明で、化学は反応という動いているものの解明と考えられます。物理を意識しすぎることなく、物理化学を活用できるようにすれば良いのではないでしょうか。

・これからの研究の展望を聞かせてください。  
   ―研究の成果を社会システムに実装していきたい― 

これまでの基礎的な材料研究に加えて、早稲田大学に来て化学工学部門に所属していることも あり、化学工学を取り入れた研究を始めました。先ほども述べましたが、水素エネルギー分野(エ ネルギー分野全般があてはまると思いますが)では、材料に対しては原子レベルのナノサイズで の設計に加えて、粒子レベルのマクロサイズでの設計、さらに材料(デバイス)同士を組み合わせたシステムなどの設計が要求されます。システムを使う場合に、その中で使う材料はどのような 機能が必要かをきちんと理解して、課題に取り組んでいきたいです。さらに、こういう面白い(も しくは機能的な材料)があるけど、これをどのようなシステムに組み込めば有益なものができるかなどを発信して、展開していきたいと思います。また、幅広く知見を深めるためには学会への 積極的な参画が有用だと思います。 ・応用化学会の活動への期待を聞かせてください。 ―会の構成の素晴らしさを活かし続けて欲しい― これまでにいくつかの大学の組織に所属してきましたが、応用化学会のような教員、学生、OB の方が一体となって、アクティブに活動している組織というのは他で見たことがありません。こ のように、卒業生の皆さんがここまで結束して大きな組織を作り、学生や教員と活動していることは学科の大きな財産だと思います。社会で活躍されている OB の方々の講演会などが多くあり、学生がこれから出ていく主に化学メーカなどを中心とした世の中でどのようなことが話題 となっているかを肌で感じられることはとても素晴らしいと思いますので、これからも継続して頂きたいです。

・100 周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。 
   ―伝統を重んじつつ新規の創出の流れを大切に―

 100 年という月日の長さに重みを感じます。その間に、それぞれの研究室で分野の伝統を守り、 その時代に必要な人材を輩出していったことが素晴らしいと思います。これからも、その良き伝 統を守り、皆様からの激励に答えること、また時代は変化していっていますので、この新しい時 代に必要なことを取り入れて、社会に求められるような人材を育てていきたいと思います。

・21 世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。 
   ―柔軟な対応力で 21 世紀を生き抜いてください―

 応用化学科には、世界で活躍している教員が大勢在籍し、その姿を目の当たりにできます。また、 学生のレベルも高く、お互いに切磋琢磨できる環境が整っています。また、東京にある大学とい うことで、自分で情報をとりに行かなくても自然に耳に入ってくる情報などもたくさんありま す。自分のやりたい分野や興味の方向を見極めて、大学の研究ではそこに集中して欲しいと思い ます。また、21 世紀の社会の情勢は目まぐるしく変化して行っているので、その情報を常に取 り込みながら、柔軟な対応力を身に付けていって欲しいと思います。また、機会があるなら早い 時期に半年以上、研究なり社会での活動なりで海外を経験して欲しいですね。

インタビュアーたちの感想:

花田先生の産休直前でしたが、初めてのリモートインタビューに快く対応頂き、感謝をしています。花田先生には、女性研究者として、また家庭人、母として、応用化学に多くいる女子学生の参考になって欲しいと強く思いました。

インタビュアー:真野陽子(新 47)、疋野拓也(修 1)、小野文雄(学 3)、井上健(新 19)

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第23回 先生への突撃インタビュー(須賀 健雄 専任講師)

「先生への突撃インタビュー」に須賀健雄専任講師にご登場願うことにしました。今回は学生3名、シニアOB1名の組み合わせでインタビューをしました。従来を踏襲して、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者によるインタビュー記事の作成を目指しました。須賀先生にも快諾を頂き、丁寧に原稿の作成に協力を頂きましたことをこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

須賀 健雄 先生

須賀先生のプロフィール:

2003年 早稲田大学 理工学部 応用化学科卒業  
2005年 早稲田大学 理工学部 助手
2007年 早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻 博士課程修了・博士(工学)
2007年 バージニア工科大学 化学科 博士研究員 (Timothy E. Long group)
2008年 早稲田大学 先進理工学研究科 次席研究員
2012年 早稲田大学 高等研究所 助教(テニュアトラック)
2016年 早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 専任講師
  1. 先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?
    ―小さい頃は熱中タイプ、大学以降は選んだ高分子の研究に夢中で取り組んだ結果でしょうか?―

小さい頃からいわゆる「理科好きな少年」ということはなかったのですが、興味を持つとのめり込むタイプで、文理問わず、例えば歴史、国旗、国名、星座などの本を毎日のように読み、調べて、気づいたら全て覚えてしまうような子でした。今では国際学会や共同研究を通じて、かつて覚えた色々な国を訪ね、世界中に研究仲間が広がり、その過程で各国の文化を知ることもできるのも、今の仕事の魅力の一つだと思います。

また、応用化学科に来る学生さんの多くも環境問題(温暖化など)の解決などに関心を持った経験があるのではないかと思いますが、私も小学5年生の頃に興味を持って色々な本を読んでいたのを覚えています。

中学生になると暗記ばかりの社会に飽きて、理系科目が好きになり、将来は理工学部に行くと勝手に決めていました。中学1年で習う無機塩の溶解度や溶液の色が何で決まるのか不思議に思い、その理由を聞いては先生を困らせていた気がします。高校でも理科部などとは無縁の体育会系の部活に入っていましたが、部活も勉強も好きなものを好きなだけ学べる自由な環境の付属高校でしたので、毎朝図書館でブルーバックスなどをよく借りて読んでいたのを思い出します。物理も化学も好きで進路選択は迷いましたが、実験が好きで、得意科目でもあった化学を選びました。応用化学を選んだのは大学の模擬講義で応用化学科の先生方の講義を聞いたのもきっかけです。

応用化学科に入り1-3年生では毎週の実験とレポートに追われる日々を過ごし、基礎力と忍耐力をつけながら、研究室選びについては元々有機化学が好きだったこと、新しい機能を持つ有機材料を分子設計して合成から物性評価まで一貫して研究できるところに魅力を感じて、高分子化学研究室(当時 西出・武岡研)に配属先を決めました。当時は西出先生が磁性高分子として長年先駆的に研究されてきた「ラジカルポリマー」を違う視点で捉え直し、重金属フリーなプラスチック二次電池の電極として新しく展開を始めた時期でもあり、そのテーマの一期生となった私は新しいテーマにワクワクして実験漬けの毎日でした。当時の研究室は体育会系の部活のような厳しさもあり、隣の実験室に入る時には「失礼します」と断ってから入室するのですが、「声が小さい、やり直し!」と奥から先輩の声が飛んできて、「失礼します!!」と挨拶し直して入るくらいでした。修士の頃には毎週月・水・金は泊まり込み、夜中も2時間ごとに起きては測定して…というような生活で、部屋が明るくても装置の音が鳴っていても寝られるようになりましたね。

大学の研究というと、皆さんは実験室に閉じこもって基礎研究だけしているイメージかもしれませんね。学術的な基礎研究が大切なのはもちろんですが、私の場合は、博士課程の頃に、電機メーカー1社、化学メーカー2社、塗布プロセスを担当するメーカー1社と連携しながら共同研究を進める中で、各企業の視点にも触れることができ、どこか1社のために仕事する、というのではなく知の中継点として多角的な視点で風通し良く技術開発を深められる場としての大学研究の魅力を感じました。

 研究者としての道を考えるようになったのは、博士研究として取り組んだ、正・負極ともラジカルポリマーからなる全有機二次電池が達成できたこと、国際学会や訪問される海外の研究者との交流を通じ国際共同研究の機会を得たこと、また研究室の先輩方が海外でのポスドクを経てアカデミックな世界で活躍していたこと、などが理由です。一方でアメリカでのポスドク時代に出会った仲間と実験漬けの日々を過ごしながら、何度も大学研究者を続けることの意味、意義、大学での教育者としての役割を議論したのを今でも覚えています。

  1. 技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
     ―実用性を外さない高分子材料―

高分子材料は、プラスチック、ゴム、繊維など、身の回りの素材として我々の生活には欠かせません。またスマートフォンの中の先端機能材料や生体機能を持ったバイオマテリアルでも高分子材料は活躍しています。早稲田の高分子は伝統的に機能性高分子を研究対象としており、私自身の研究の対象も二次電池の電極、有機太陽電池、メモリ素子、センサーや機能性コーティングなど出口は色々と派生してきていますが、軸としては有機低分子化合物ではなく「高分子だからできること」「高分子らしさ」を追求した分子・材料設計にこだわり、特に高分子の好き嫌いで集まり自己組織化して形成される「ミクロ相分離構造」を制御と機能発現の相関に興味を持っています。無機化合物の結晶ではなく、ぐにゃぐにゃとした、いい加減そうな高分子という鎖の分子が集まっているのに、結晶のように美しい模様が現れます。精密に分子をつなぐことができる高分子合成技術を磨くとともに、電子やイオンの伝導、絶縁性、親水・疎水性、反射特性、熱伝導性など、求められる機能は官能基1つで決まるのではなく、それら分子・官能基がどのくらいの大きさ(数十nmからサブミクロン)でどのように集まり、その配向性はどうなのか、界面はどうなっているのか、など1つ1つ次元を制御した設計で協同的な機能発現につながります。また、その一方で、凝りすぎて使い物にならない研究にならないよう、産業界から見ても素材、プロセス両面で魅力ある高分子材料を提示していけるよう、「その場反応」もキーワードとして研究しています。例えば、従来のUV硬化と同じ装置、プロセスを適用しながら、高分子設計を一工夫するだけでナノ構造がその場で作り込めるコーティングや、海に入れておくと自然にCO2を取り込んで防汚塗料となるようなコーティングです。

  1. 先生の研究理念を教えてください。
     ―俯瞰と深化の積み重ね―

理念、と呼べるものかわかりませんが、研究(活動)は先人たちの弛まぬ努力と知見の蓄積があって現在に至っていると思います。大学の研究は0から1を生む、基礎研究を担うところ、ともよく言われますが、自分の経験の中では、異分野では知られた概念・コンセプトであっても自分の研究領域で、自分の視点で捉え直してブレイクスルーした研究というのが実際は多いと感じます。それを0から1と呼ぶのはおこがましい気がしていて、自分の中では1ないし2から3,4へと繋いでいるに過ぎない、と思って研究に取り組んでいます。もちろん誰よりも早く、人が気づかない視点・切り口で研究展開することが、オリジナリティに繋がるのは言うまでもありません。その意味で1ないし2に相当する技術課題の選び方にはこだわっています。学生の教育という意味でも、同じようなテーマに偏らないよう幅を広げつつ、日々格闘中です。周辺分野も俯瞰しながら謙虚に研究を継続していくことが次世代のための学術的な蓄積にもなると信じています。

長期的に見て社会的な課題解決につながる研究に発展できたらさらに良いですね。

  1. これからの研究の展望を聞かせてください。
    ―社会的要請度の高い課題に貢献―

 高分子の素材としての可能性は無限です。機能に対する要求も際限はなく、それを分子レベルで設計して、合成化学を駆使して作り出し、特性評価まで一貫して取り組むことでまた次のアイデアが湧いてきます。産業界との連携も深めながら知の中継点としての大学の役割を果たしながら、新しい課題に取り組み、それを通じて学生の学びの場を提供していきたいと思っています。また海洋プラスチック問題などメディアの取り上げ方もあって高分子材料に対する皆さんの見方も厳しくなる中、社会的要請度の高い課題に対し私たちの研究がどのように貢献できるのか、今まで以上に研究者・教育者としての役割が問われていると感じています。一歩一歩取り組んでいきたいと思います。

  1. 応用化学会の活動への期待を聞かせてください。
    ―幅広い年代層による相互刺激―

シニアなOB, 若手OB, 現役の学生委員の活動がうまく噛み合い、交流できる各種イベント、講演会も数多く開催しており、学内外で見ても本当にアクティブなOB会組織だと思います。「先輩からのメッセージ」をはじめ、就職活動の面からも先輩方の活躍する姿を見て、また直接話を伺うことで、学生に良い刺激になっていると思いますし、また卒業後は若手OBとしてそれを還元する立場として帰ってきてくれるのも嬉しく思っています。教室教員としては日々学生の教育、研究に力を注ぎ、育てるのが役割ですが、応化会の活動を通じて、社会の目から見た位置づけを学生が感じる機会を多く提供頂いていると思います。忙しい30-40代の中堅世代の関わりが少し薄いことに私自身も少し責任を感じますが、今後も応化の伝統を引き継ぐ組織として大切にしていきたいと思いますし、また新しい企画が出てくるのを楽しみにしています。

  1. 100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
    ―人材育成の重みを感じつつ次に繋げたい―

2017年の100周年記念会にも参加し、多くの祝福を受け数多くのOBを見て、改めて伝統の重みを感じましたし、一員として、また教員として応用化学科の学生を育てていくことの責任を強く感じています。高分子化学研究室としては西出先生の先代に当たります土田先生が逝去された折、偲ぶ会に300名ほどお集まり頂いたOB/OGの姿を見て(その数は先生が育てられた数の一部に過ぎない訳ですが)、大学教員というのは、一生を懸けてこんなにも多くの人たちと関わり、そして研究者・技術者の卵を、産官学で活躍する人材へと育て、輩出する大切な職業だと感じました。その責任の重みを感じつつ、日々接する学生との関係を大切に過ごしていきたいと思っています。

  1. 21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
     ―自分に見合った化学の領域を見つけてほしい―

応用化学には魅力ある研究を進めている先生方が皆さんを待っています。是非自分の興味を持った化学をそれぞれ見つけ、濃密な実験、研究を通じて方法論と考え方を学び、社会の課題解決に化学の視点で取り組む研究者・技術者になってほしいと思います。

参考情報: 
   https://www.waseda-applchem.jp/ja/professors/suga-takeo/

インタビュアー&文責: 疋野拓也(4年)、佐藤由弥(3年)、
西尾博道(3年)、井上健(新19回)  

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第22回 先生への突撃インタビュー(小堀 深 専任講師)

「先生への突撃インタビュー」に小堀深専任講師にご登場願うことにしました。今回のインタビューも学生、現役OG、シニアOBの組み合わせインタビュアーで行いました。応化会の本来の姿である先生・学生・OBOGの3者によるインタビュー記事の作成を目指しました。小堀先生にも快諾を頂き、丁寧にご用意を頂きましたことをこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

 

小堀先生のプロフィール:
1996年 早稲田大学 理工学部応用化学科卒
2000年 早稲田大学 理工学研究科応用化学博士後期課程修了
2000年 早稲田大学 理工学部助手
2001年 早稲田大学 理工学部専任講師

・ 先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?
― キッカケというより自然の流れで、知の面白さと、その知を使って役に立つ成果が得られる積み重ねでしょうか ―

中学は野球部、高校は吹奏楽部と学校生活を楽しんでいましたが、勉学では高校生の頃は、数学と物理が好きで得意でした。化学は最も嫌いで苦手でした。社会の歴史で年代をひたすら覚えたように、化学の反応も記憶問題だとしか見てなかったからです。ただ、ひねくれ者の私は、あえて応用化学科に進学しました。理学系の化学科ではなく、工学系の応用化学科という存在に惹かれたからです。それは、道具として化学を使うという、高校生の自分になかった概念があったからです。
 大学では化学工学という分野に出会うことができました。化学工学は数学+物理+化学で表せるような分野で、私にはピッタリの学問だと思えました。研究室配属ではもちろん化学工学の研究室を選びました。中でも人体を化学工学の眼鏡で見るという、とてもユニークな研究を進めていらっしゃった酒井清孝先生の研究室に入れていただきました。酒井先生は見た目も中身もジェントルマンで、大学教授のイメージ通りの先生で、今でも目標とする先生です。
 その後、縁があって東京女子医大との共同研究として岡野光夫教授の元で研究を進めることになりました。テーマは、温度応答性高分子を用いたドラッグキャリアーの開発です。直径100 nmほどの微粒子を作製するのですが、その粒径分布を静的光散乱法、形状の観察を原子間力顕微鏡を用いて行いました。光散乱装置は朝から深夜まで、毎日ずっと格闘していたのを覚えています。温度に応答したドラッグキャリアーの形態変化を原子間力顕微鏡でとらえることに成功し、学位をとることができました。このときの岡野先生と酒井先生からのご指導、叱咤激励で、これからも研究を続けて行こうと自然に思うようになりました。

・ 技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
― 物質(特に生体高分子)の持っている可能性を限りなく引き出すという工学的手法がポイント ―

現在、平沢泉教授のご指導のもとで結晶化の研究を進めています。厳密には化学工学における単位操作としての晶析工学ですが、広い意味での自己組織化を利用した低コスト高品質の分離・精製手法です。この結晶化は核形成と結晶成長という2つの段階があります。それぞれ速度を制御することが重要な研究目的の一つとなります。現在私はアミノ酸やタンパク質などの生体高分子の結晶化に関する研究を進めております。ここでは、限外濾過膜による分離技術を応用した結晶化制御や、層状物質による不均一核化制御、また生体内での結晶化ともいえる尿路結石や痛風などの病気に対しても、晶析工学の視点で予防・治療法の提案を目指しています。いずれにしても均一核化ではその制御が困難であるため、様々な結晶核を作る「場」の提供を行うことで、その制御を試みています。すべてにおいて、たまたまそのときできた、ではなく、再現性ある結果の創出が重要であると考えています。

・ 先生の研究理念を教えてください
― 実験科学の基本に忠実に、特に仮説や予想を大切に ―

 軸足である「化学工学的手法を駆使する」というのを忘れないことです。目の前で起こる一見ランダムな現象も、丁寧に解析することでその傾向を把握することが可能です。化学的な知識を前提として、物理的な視点で現象を捉え、数学的な処理により定量化する。この一連の流れを重視しています。実験指導する上では、必ず結果を予想して計画をたてるように言います。予想通りの結果になれば、使った知識と手法が正しかったことの証明になり、さらに深い議論が可能です。一方、予想と反する実験結果になれば、結果をうまく説明できる新たな機構を考え、その考察をもとにさらに実験を計画し進めます。どちらの結果になってもポジティブな思考で進めることができます。

・ これからの研究の展望を聞かせてください。
― バイオ医薬品などの汎用化・低コスト化に資する研究を深めたいですね ―

 現在、生体高分子の結晶化、特にアミノ酸とタンパク質の結晶化に重点をおき研究を進めています。これらは医薬品としても重要視されており、バイオ医薬品は世界の医薬品売上高の上位10品目中7品目を占めるほどになっています。近年有名になった抗がん剤「オプジーボ」もバイオ医薬品の一つです。このオプジーボは2014年に発売された際、薬価が100 mg約73万円と超高額なことでも世間を賑わせました。標準的な使用法で1人年間約3500万円かかる計算になります。現在では薬価引き下げが数度行われましたが、それでも100 mgで約17万円です。このようにバイオ医薬が高額となる原因は、あまり語られませんが製造工程にも理由があります。プロセスは細胞培養などのアップストリームと分離・精製などのダウンストリームに大別されます。この分離・精製プロセスが全製造コストの3分の2を占めるといわれており、事実上のコストボトルネックとなっています。現在はカラムをつかったクロマトグラフィーで分離・精製を行っていますが、ここに晶析操作を応用できれば、コストを激減させることが可能です。晶析操作であればスケールアップも比較的容易であり、化学工学の力が発揮できます。

・ 応用化学会の活動への期待を聞かせてください。
― 三者構成の特色を更に発展させたいですね ―

 やはり単なるOB会ではないという独自性が素晴らしいと思います。特に、最近では学生主体の企画による講演会が開催されていたりして大きく変わりつつあると感じています。今後に向けても、OBと学生と教員の三者で構成されている利点を生かし、OBから学生へのアドバイス、学生から教員への大学運営への助力、教員からOBへのリカレント教育など三者がお互い助け合うことを期待します。

・ 100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
― たゆまぬ努力の結果が100年を可能にしています ―

 100年以上名前を変えずに発展している学科は大変貴重ではないでしょうか。それだけ応用化学という学問が世の中に役立ち続け、必要とされている証だとも言えます。これもひとえにOBの方達の活躍と学生の努力によるものと思います。今後も応化会と一体となって伝統を継続できるものと信じています。

・ 21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
― 自らが楽しめる分野や生き方をつかみ取って欲しいですね ―

 世の中変えていかなければいけないことと、変えてはいけないものがあります。放っておくと勝手に変わってしまうものもあれば、何もしなければ何も変わらないものもあります。その瞬間の価値判断も大事ですが、長い歴史の中での長期的視点も大事です。他人の意見に耳を傾けながら、なるべく心安らかに生きてほしいと思います。競争を勝ち抜くのではなく、自らの力を蓄えつつ競争を楽しめれば最高ではないでしょうか。

インタビュアー&文責: 疋野拓也(B4)、真野陽子(新47)、井上健(新19)

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第21回 先生への突撃インタビュー(小栁津研一教授)

小栁津研一教授

「先生への突撃インタビュー」に小栁津研一教授にご登場願うことにしました。
今回も学生にインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作を目指しました。小栁津先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。

小栁津先生のプロフィール
1990年早稲田大学理工学部応用化学科卒。 
1995年早稲田大学大学院博士後期課程修了。同大学理工学部応用化学科助手。
1997年早稲田大学理工学総合研究センター講師。
2003年東京理科大学総合研究所助教授。
2007年早稲田大学理工学術院准教授。
2012年より早稲田大学理工学術院教授。
2002年日本化学会進歩賞、2013年に文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞。

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?  
      ~論文が採択されたとき~

高校生の頃から理科系に好奇心があり、早稲田の応用化学科に入りました。研究室配属から卒業研究を経て修士課程までは特段のエピソードもなく,最も興味のあった高分子を選び、土田英俊先生の研究室で過ごしていました。博士課程に入ってからは,研究そのものだけでなく,研究室生活に関する思い出が数多くあり,それらが研究に取り組むキッカケになったと思います。例えば,博士課程の後半にやっと研究が纏まり、苦労して仕上げた論文原稿を持って夜遅くに吉祥寺の土田先生の御宅までお邪魔して,最終チェックをお願いしたことがあります。米国化学会ACS宛のカバーレターに先生のサインをいただき,「では明朝,郵便局が開いたらすぐ出します」と言ったら先生にひどく叱られました。朝まで時間を無駄にするとは何事かね,東京駅の中央郵便局は24時間開いているから,今すぐ行って投函してきなさいと怒られ慌てて中央線の終電に飛び乗って行きました。当時よく使ったEMS国際郵便のオレンジ色のマークのついた封筒は遠くからでも目立つのですが,深夜の郵便局に行ったら同じ封筒を抱えて青い顔して窓口に並んでいる自分と似たような奴が多勢いまして,何となく彼らと競争しているのだという気持ちが湧いてきました。私はのんびりした学生だったので,今から思えばそれが先生の狙いだったのかも知れません。現在の電子ジャーナルと違って,当時は採否通知も郵便で来ました。ACSからの返事は一目でそれとわかる赤と青の模様のついた封筒に入っていて,恐る恐る開封すると目に飛び込んでくる最初の文章がWe are pleased to accept・・・か,それともWe regret to inform youかで運命が分かれます。何度かリジェクトされても諦めず粘った改訂稿が遂にアクセプトされた日の嬉しさといえば最高で,それが道を決める本当のキッカケになったのかもしれません。

・技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
   ~電子移動や電子授受を制御して、エネルギーに関連した新しい高分子を作りたい~

研究のキャリアを積む過程で早稲田から一時期米国CaltechのFred Anson先生の研究室に行かせていただき,その後は東京理科大,早稲田と動いてきました。10年余り前に早稲田へ戻ってきた時,西出宏之先生のラジカル電池に関する大きなプロジェクトの中で、広い意味でのレドックスポリマーに拡張して有機電池に適用する研究を始めたことが現在の研究につながっています。有機(高分子)電池は、環境に優しい、軽い、柔軟性があるなどの大きな特徴があり、有機物のみから構成できる唯一の電源として,実際に用途が広がりつつあります。特に、パワーが大きくとれることが特徴で、エネルギーの貯蓄密度の点でも十分に対応出来る状況になってきました。無機材料との対比で特徴を活かせる高分子材料を,これからも提案していきたいと思っています。現在、研究室ではデータ科学による「マテリアルズ・インフォマティックス」の手法も取り入れて挑戦を続けています。 

・先生の研究理念を教えてください。 
   ~着実な成果を積み上げていけば、新しいことがわかるはず~

研究は地道な積み重ねだと思っています。地味でもいいから確実な研究成果を積み上げていくようなスタイルで、必ず何か新しいことがわかるはずだと思っています。

一つの具体例としては、ある化合物の重合反応が進行する理屈を調べていたとき,多くの実験データを組み合わせたら電子の動きが上手く制御されていることが初めてわかりました。電子移動を制御することで、これまでにない方法で高分子が作れることを知ったことが、有機電池の研究に取り組むきっかけにもなりましたし、そういったやり方は,理念というにはおこがましいですが,少なくても信条にはなっています。

・これからの研究の展望を聞かせてください。
   ~エネルギーに関連した機能性高分子を提案し続けたい~

現在取り組んでいる研究をお話してきましたが、対応する応用分野はかなり広がっています。

対象としている機能物性も電池や水素貯蔵などが当面の領域ですが、新しいイオン伝導体やイオン選択透過膜への展開も視野に入れて取り組んでいます。用途分野の進展は速く,対応する研究領域そのものが拡大しているので、我々の研究もそれを意識して続けたいと思っています。

・応用化学会の活動への期待を聞かせてください。
   ~学生にとって貴重な組織~

応用化学会は、現役学生に対して様々な支援をいただいており、また多様な交流活動の機会を通してエンカレッジしていただき、非常に有り難い組織であると感謝しています。大学の一学科の同窓組織としては国内屈指の活力を有し,教員や学生に絶えず刺激を与えていただいているので,応化会あっての応用化学科でもあります。応化会は,社会で活躍されるOB・OGの皆さんと現役学生,教員間の貴重な架け橋になっています。是非これからも活発な活動を継続していただけたら有り難く思います。

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
   ~遠い将来200周年の時に振り返ってもらえるようでありたい~

100周年を機にこれまで応用化学科が歩んできた歴史を振り返り、諸先輩方が積み上げてきた伝統の重みをあらためて感じています。良い伝統はきちんと後世に伝えることが大切です。今から100年後の,応用化学科200周年の時に,現在の応用化学科がどうであったかを振り返ってもらえるようでありたいです。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
   ~新しい方法論を身につけ、新しい価値に適応し,活躍して欲しい~

今の時代は変化がますます加速しています。ビッグデータやAIの活用は当たり前になり,現役学生が社会を支える時代はさらに次の技術や価値観が求められると思います。グローバル化を含め,新しい方法論と自らをバージョンアップする能力を身に着け,是非ともこれからの競争を勝ち抜いて行って欲しいと思います。

参考資料:

インタビュアー&文責: 佐藤 由弥〈学生広報班チーフ)、井上 健(新19回)

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第20回 先生への突撃インタビュー(門間 聰之 教授)

「先生への突撃インタビュー」の第20回として門間教授にご登場願うことにしました。
今回も学生、現役OB/OGにインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OB/OGの3者による合作を目指しました。門間先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。
門間先生のプロフィール:1990年、早稲田大学理工学部応用化学科卒。 1995年、早稲田大学院博士後期課程修了。同大学理工学部応用化学科助手、米国ミネソタ大学の博士研究員を経て、早稲田大学に赴任。2010年より早稲田大学理工学術院 准教授。2014年より早稲田大学理工学術院 教授。 2001年に、電気化学進歩賞・佐野賞、2007年には「Electrochemical Communication Award 2007」を受賞。

・先生の現在に至るまでの足跡をお話頂けますか?
     
~科学には継続して面白さを感じていました~

小学生の頃は理科好きの子供で、時計を分解して遊んだり、当時出始めのLEDで遊んでいた記憶があります。高校になると物理と数学が好きだったと思います。理屈がわかれば、今までわからなかったことを証明できたり、確定できる面白さを感じていました。大学では化学を中心に学ぶようになりましたが、分野としては、化学工学や電気化学に大きく興味がありました。大学3年生の時に、これから深く勉強し、自分が身に着けるべき化学として、物理化学、特に電気化学を遠い将来にも必須の領域と感じて選びました。修士へは自然の流れで進みましたが、博士課程には研究が非常に面白いと思うようになると同時に、自分で決めたテーマを研究したいという思いを大切に進みました。更に、ドクターを取得したら海外で修業をしたいという思いもあり、1年間助手をした後に米国・ミネソタ大学に博士研究員として行き、その後早稲田大学に赴任して現在に至っています。研究内容は、学生時代は電池を中心に、またセンサー分野にも関わり始め、加えて、デバイスの種類を超えて、電気化学分析として電気化学反応のインピーダンス解析に注力して研究を進めています。

先生の専門の中で大切に思われているポイントなり、スタンスなりをお聞かせください?
     
~端的に言えば面白いから深堀したいし、人の役に立ちたいという思いです~

電気化学が好きで色々と研究を進めてきていますが、化学反応の中でも有機や無機といった扱う物質で分野を限定するのではなく、電子のやり取りを取り扱う領域としての電気化学を扱っています。基本的には界面反応で不均一反応であり、物質移動も関わります。電気的数値をオンタイムで測定できるという面もあり、非常に面白い領域だと思っています。応用面では、自分の得意領域である電気化学解析を取り入れたセンサー等への応用展開にも取り組んでいます。電気化学の特色を簡便に纏めてみると、化学反応の基本である酸化・還元反応を、電極を使うことで分離して評価できるというのが素晴らしいことだと思っています。

・先生の最近の動向や展望に関するお考えをお聞かせください。
     
~情報化時代を含めた現代社会への応用展開を進めたい~

現在、情報化の加速度的な進展でIoTなどが期待されていますが、インプットされる情報は物理的センサーの応用が先行しています。これでは限界がありますし、不十分だと思っていますので、化学や物理化学が組み込まれた、より高度なものに進展させたいという思いがあります。化学物質と電気エネルギー/シグナルを直接変換できる電気化学は、化学センサーに非常になじみが良いと考えています。具体的な一例としては、尿、汗、唾液などから病気や人の状態を測定できるようなセンサーの開発などが挙げられます。疾病のマーカー物質やアレルギー、ストレス状態などを測定できるセンサーなどが、体温計のように簡単に測定でき、その情報がIoT等の活用で疾病の超早期発見につながればと思っています。物質面だけでなく、こういったサービスでQOLの向上にも寄与出来たら良いと思います。これらの研究を通して、電気化学の学問領域を拡充したいという思いも強いです。

 ・関連質問として、異分野に対する取り組みは、どうでしょうか?

興味があればなんでも、調べたり、詳しそうな人に聞いたりしています。自分の関わっている領域では、しっかりとした基本を身に着けておくのがまず大事ですが、興味が湧けば周辺領域も知識を得て、また面白そうなことは取り組んでみるという姿勢が重要だと思っています。個人的には、化学に関係のあまりないようなことも、自宅では時間のあるときに実験や工作をしてみたりしています。

・応用化学会への期待を聞かせてください。
     
~もっと敷居の低い、会員家族が楽しめる企画があっても良いかと~

応用化学会は素晴らしい会だと思いますし、活動にも感謝をしています。自分も会員の一人と思っていますが、一卒業生としては、催事に関してはもう少し敷居の低い、参加対象の広い、会員の伴侶や子供たち家族も楽しめるような企画も良いのかな、と思う時があります。

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
~自分を育ててくれた学科で、これからはそのように思う学生を多く輩出したい~

応用化学科は、自分を成長させてくれた大切な場であると思っています。その面では感謝の気持ちが強いですが、今の立場で言えば、これからの学生が同様に「育ててくれた」と感じてくれるように携わりたいと強く思いますし、楽しんで過ごして欲しいと思います。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
     
~目先にとらわれずに、長期の夢や希望を持ち続けられるように~

研究の面白さや、面白いから研究を続けていることを話してきましたが、学生の皆さんにも是非とも自分の夢を追い続けるようにして欲しいと思います。目先の利益や安定、安心を求めるばかりでなく、長期にわたって追い続けられるような夢や希望をもって生きて欲しいと思います。また、折角化学を学んできたのでそれを活かして欲しいという思いもあります。

参考資料:

インタビュアー&文責: 
佐藤 由弥(学生広報班)、西尾 博道(学生広報班)、新谷 幸司 広報委員会副委員長(新34)、井上 健(新19回)

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第19回 先生への突撃インタビュー(細川 誠二郎 准教授)

細川 誠二郎 准教授

 

「先生への突撃インタビュー」の第19回として細川 誠二郎 准教授にご登場願うことにしました。
今回も学生、現役OB にインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OB /OGの3 者による合作を目指しました。細川先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。

  細川先生のプロフィール:

  • 1991 年 北海道大学理学部化学科卒業
  • 1993 年 同大学院理学研究科 博士課程前期課程化学専攻 修了
  • 1996 年 名古屋大学 大学院農学研究科 博士課程後期 食品工業化学専攻修了・博士(農学)
  • 1996 年 日本学術振興会特別研究員(PhD)(名古屋大学、米国スクリプス研究所)
  • 1998 年 東京理科大学 薬学部 助手
  • 2003 年 早稲田大学 理工学部 応用化学科 専任講師
  • 2007年より 同 理工学術院 准教授

  受賞

  • 2003 年 有機合成化学協会研究企画賞
  • 2008 年 有機合成化学奨励賞
  • 2010 年 Thieme Journal Award 2010

・先生の現在に至るまでの足跡をお話頂けますか?
   ~将棋と有機合成に類似性がありますね~

今思い起こすと、小学生頃から将棋が好きでしたが、将棋の考え方や詰め方などは有機化学の多段階合成に似ていると感じることがありますね。手順前後ではだめで、ターゲットを決めて理詰めに組み立てるプロセスは非常に似ていると思います。将棋以外は、田舎育ちでしたので、子供会でソフトをやったり、虫取りや釣りなどに興味を持っていましたが、特に理科少年ではなかったと思います。自分は子供のころから体内時計が壊れているようで、幼虫から虫を育てる時には午前2 時、3 時まで観察を続けていたこともありました。育ちが岡山県の児島で、遠くに水島コンビナートの夜景が望めたのと、化学が得意だったこともあり、何となくそちらの方面に行くのかなと思っていたのが高校の始めのころでした。その後高分子化学に興味を持ち、北海道大学に進学したのですが、1,2 年次の授業の中で、低分子、特に天然物(キノコの毒など)が個体の運命を決めることに興味を強くもつ様になり、理学部の化学科に進みました。その一方で、天然物は得られる量が気象などに左右されるので、これを補完する意味で有機合成が役立ちますし、何よりも、モノを作る技術はとても強みになると思うようになりました。このような経過を辿り、有機合成の研究に強く興味を持つようになり、はまり込んでいきました。修士にも自然の流れで進みましたが、指導教授が間近に定年になることから博士課程には、当時、有機化学が全般的に強かった名古屋大学に進みました。当時、生え抜きでも博士課程3 年で博士号を修得するのが難しい中で、博士課程から所属を変えることになったのですが、有機化学をつきつめたいという思いと、3 年でやりきれなければどこでもやっていける研究者にはなれないだろうという覚悟をもって入りました。私が大学院生の時はちょうど大学院重点化の時期でして、企業からも博士の需要がとても高いことを肌で感じましたし、「博士を持って研究者とみなされる」という国際的な考えが日本で定着した時期でした。結果として3 年で博士号を修得しアカデミアの道に進むことになりました。博士課程の3 年間は、技術的にも学力的にも飛躍的に成長できましたし、これから生きていく自信と新しい世界観を得られた、今の自分に不可欠な時期となりました。

  • 関連質問ですが、ご自身でハイパー・ケミカル・クリエーターと仰っていたことを聞いたことありますが、未来を作っていると感じる研究はどういう時でしょうか?

勿論、難しい全合成を完成した時は達成感と「遂にこれができるようになった」という時代を進めた感触はあります。しかし、未来を創るという実感は、失敗した研究でも今までにない反応に出会った時とか、多段階の合成ルートを極端に短くした時にも感じますね。今の研究はどれも未来を作っているのに繋がっていると思います。

  • 先生の専門の中で大切に思われているポイントなり、理念なりをお聞かせください。
       ~「美しく、短く」 に重きを置いています~

有機合成化学では、戦略と戦術の組み合わせで良い研究や新しいルートが出来ます。戦術は個別の反応やネーム・リアクションなどですが、合成の戦略は非常に大切だと思っています。現在、進んでいる短工程合成の研究も使っている反応は既知のものですが、どう組み合わせるかという戦略で画期的な合成ルートが出来ています。自分の研究は新しい戦略を最重要と捉えて、結果として突き詰めると「美しく、短く」の言葉に代表されるのだと思います。

  • 先生の今後に向けての展望に関するお考えをお聞かせください。
      ~役立つ有用な化合物を提供し続けること~

分子量1,000 を超えるような巨大なポリケチド化合物群を、簡便に数多く提供出来るようにしていきたいと思っています。分かり易く言えば、今までは合成や取り扱いが難しくて生物活性物質の俎上に乗っていなかった分子量の大きい化合物が、最近の研究で画期的な作用を発現していることがわかってきています。そのような研究に多くの新しい候補化合物群を提供していきたいと思っています。

  • AI 等の活用は?

タンパク質の構造と生物活性の相関が明確になってくると、ビッグデータやAI が活躍する場面は出てくると思いますが、合成化学は実験が基盤になっていますので、現時点では多くの実験を経験している人間の方が利点が多いと思います。寧ろ、実験が自動ロボットに移行する方が早いかも知れませんが、現時点では自分の研究室では導入を考えていません。

  • 応用化学会への期待を聞かせてください。
      ~感謝のひとこと~

学生にとっても存在感が大きい会で、工場見学の機会を得たり、奨学金の提供を受けたりと、ありがたい会だと思っています。励ましてくれる方々がいるということは、とてもありがたいことです。

  • 100 周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
      ~伝統は大切~

歴史の中で伝統や受け継がれるものを大切にすることは非常に重要だと思いますので、この流れを大切にし続けてほしいです。 

  • 21 世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
      ~専門性を大切に~

専門性を身に着けることに是非注力してほしいと思います。壁にぶつかっても、徹底して考え、実験をして、自分なりの方法論や解決法を体得するようにしてほしいと思っています。
モノつくりのベースを是非とも身に着けてほしいし、モノつくりには観察も重要ですのでこれも大切にしてほしいと思います。
最今の就職事情から、修士課程の学生はこの辺の時間が十分に取れていないという危惧を持っていますが、自覚をもって対処すれば十分に修得できると思っていますので、頑張ってほしいですね。

参考資料:

インタビュアー&文責:

佐藤 由弥(学生広報班)、西尾 博道(学生広報班)、新谷 幸司広報委員会副委員長(新34)、井上 健(新19 回)

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過去の突撃インタビュー

第18回 先生への突撃インタビュー(関根泰 教授)

関根 泰 教授

「先生への突撃インタビュー」の第18回として関根泰教授にご登場願うことにしました。
今回も学生、現役OBにインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作を目指しました。関根先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。
関根先生のプロフィール: 1998年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了(工学博士)、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻助手、早稲田大学理工学部応用化学科助手、同・ナノ理工学研究機構講師、同・理工学術院応用化学科准教授などを経て、2012年より早稲田大学理工学術院教授(先進理工学部)。また、2011年よりJST(科学技術振興機構)フェローを兼務、石油学会論文賞、触媒学会奨励賞、日本エネルギー学会進歩賞などを受賞。

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

 ~入り口は修士1年で研究の面白さに目覚めたこと、次の転機は早稲田に移ったこと~

もともとは建築志望として大学を目指した学生でしたが、配属学科を決める時に化学しか行けない状況となり、比較的単純な分子であるメタンや水素などを扱う研究室に入りました。

あまり好きでない化学でしたので、学部で就職をするつもりでいましたが、たまたま奨学金付きで修士に進むことになりました。この修士1年で非常に面白い研究成果が出て、海外からも注目をされるようなことになり、この辺から前のめりに研究に取り組むようになりました。

これが研究に進む入り口としてのキッカケになったと思います。

博士課程から助手になりましたが、正直言って、今から思えば漫然と取り組んでいたと思える状況でした。しかし、所属している研究室が廃止になるという事を半年前になって外部の主任教授から聞かされ、青天の霹靂で慌てて就職先を探しました。

なかなか難しかったのですが、たまたま国際会議で菊地先生にお誘いを受け早稲田に来られることになったのが32歳で、これが第2の大きな転機になりました。それこそ背水の陣で、遮二無二取り組んできたというか、取り組まざるを得なかったことにより幅広く、何にでも深く取り組むという時期になり、いわゆる基礎体力が育まれました。 具体例としては、3つのアクションが挙げられます。一つは若手研究者の勉強会(大学横断的)、二つ目はベンチャーの立ち上げ、3つ目はイランとの資源外交への参画が上がられます。その一方で、イオニクスと電場という現在の柱となる研究の基礎も芽生え始めた時期でもありました。

 

技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

 ~「鳴かぬなら鳴かせてみよう」型の触媒をつくる~

固体触媒の性能を如何に引き出すか?のために、一つの方法としては固体の構造を綺麗(整理された形で)に歪ませるなどで、表面エネルギーを変化させるなどの方法や、二つ目としては吸着種が出来た場合に、外部から動かしてしまうという考え方で電場を与えるなどの新しい手法つまり積極的に分子を動かすなどの手法を使うことがポイントになります。これが「鳴かせてみよう」型の触媒のイメージです。測定法なども特殊な装置を工夫してオペランド測定、すなわち活きたままの触媒状態の観測を進めています。

・先生の研究理念を教えてください。

 ~化学の領域を限定せずに可能性を追求していきたい~

ライフワークとして水素を研究してきましたが、応用技術にも範囲を拡げて検討を深めており、再生可能エネルギーの貯蔵などにも研究の輪が拡がっています。研究を深化させると同時に、国の政策提言に関与したり、海外動向の把握や共同研究などを通して、俯瞰的な視野が必須であることも体感しており、何が必要でどこを向いて研究すればよいかのイメージは出来ているので、学際というか今まであまり研究が進んでいない領域で、自分たちが培った技術内容をベースに従来技術に限定せずに化学の領域を拡げながらのブレークスルーを目指しています。

・これからの研究の展望を聞かせてください。

 ~俯瞰の視野を大切に進めたいと思っています~

前にも触れましたが国レベルでの政策提言を長く続けていますので、方向性のイメージはかなり明確です。よって、それをどう研究に落とし込むかと言う流れで先々を読みながら研究を展開していきたいと思っています。いずれにしても、俯瞰的見方の重要性を多くの研究者や教育者と共有したいとも思っています。

・応用化学会への期待を聞かせてください。

 ~学生にとっては有意義な会~

8000人のOBOGが支えている会は素晴らしいと思いますが、若干中抜けになっていることが勿体ないと思いますね。特に30代から40代のOBOGと学生が上手く繋がりを持てるようになると、より素晴らしい会になると思います。

勿論、今でも学生にとっては非常に有意義な行事や繋がりがあるとは思っています。ヒトの早稲田を体現している会でもありますよね。

 

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。

 ~オリジナリティの高い学科~

小林久平先生の流れから派生してきた応用化学は、オリジナリティの高い学科として誇るべきものであるでしょうし、今、属している我々はそのオリジナリティを大切にしながらヒトの早稲田やその校風・精神の良さを最大限に活かしていきたいですね。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

 ~常に紙の新聞に目を通すような視野を広げる努力を~

研究に俯瞰的視野が必要なことを何度も繰り返してきましたが、海外にも目を向けて欲しいし、日本の良さを世界の中で確認して欲しいと思います。また、是非とも紙媒体の新聞を、毎日目を通すような努力を続けて欲しいと思いますね。

また、均質化された情報の蓄積だけになることを避け、積極的に新しい情報を取りに行くことや、アイデンティティやオリジナリティへの思いを大切にして欲しいと思います。

若い皆さんには、次の歴史を作る気概を持って、是非頑張ってください。

 

参考資料:

応用化学科 教員・研究紹介:研究者WEB紹介
http://www.f.waseda.jp/ysekine/index.htm

早稲田大学 特集 Feature Vol. 19(全4回配信)
https://www.waseda.jp/top/news/56052

早稲田大学 研究活動紹介https://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2017/07/dcf0145aba6d975906ee91d2519ee7d9-1.pdf

 

インタビュアー&文責: 武者 樹(学生広報班)、新谷 幸司 広報委員会副委員長(新34)、井上 健(新19回)

 

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第17回 先生への突撃インタビュー(山口潤一郎教授)

山口潤一郎教授

「先生への突撃インタビュー」の再開5番バッター(第17回)として山口潤一郎教授にご登場願うことにしました。
今回も学生にインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作を目指しました。山口先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。

山口先生は、2002年03月東京理科大学 工学部 工業化学科卒、2007年03月東京理科大学大学院 工学研究科 工業化学専攻修了、 博士(工学) 東京理科大学、2007年04月-2008年07月日本学術振興会海外特別研究員(海外PD)、2008年08月-2012年03月名古屋大学理学研究科助教、2012年04月-2016年03月名古屋大学理学研究科准教授、2016年04月-2018年3月早稲田大学理工学術院准教授、2018年4月より同大学理工学術院教授 となられています。また、2013年3月に日本化学会進歩賞、 2017年04月に文部科学大臣若手科学者賞、2017年07月にアジア化学連合(FACS)ディスティングィッシュ若手化学者賞 等を受賞されています。

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

 ~恩師の「有機って本当に面白いよね!」に引き寄せられましたね~

実は1-2年は余り勉強熱心ではなかったのです。3年で一念発起して勉強を始めたものの唯一必修科目の有機化学A(1年生の科目)の単位を落とし、留年となり研究室には入れませんでした。当時の興味は化学工学や物理化学の方面にあり、有機化学は単位を落としましたし、それほどではありませんでした。しかし、3年の時にゼミに参加をする機会を得、その後お世話になる林雄二郎先生の「有機って本当に面白いよね!」と熱く語る言葉が心に残り、結局その研究室を選んでしまいました。研究室に入って、有機化学のものづくりが楽しくなり、研究成果を出して世界に論文を出せるという流れにのめり込んでいきました。それでも当初は研究職でなく、人との交流や関わりのあるMR(医薬系営業職)になりたいと思っていました。しかし、修士1年時に夏の勉強会(多くの大学の修士から博士課程の学生がメインで参加)に参加した時に転機が訪れました。同世代の仲間との話では就職活動の話ばかり。研究職につきたいのに早く研究室を出たいだとか、研究が面白くないと言う不満。一方で博士課程の先輩方は自分の研究をどうしたいか、どれだけ面白いのか、研究に前向きに熱く語っているという対照的な姿を目の当たりにしました。そして、自分も研究は面白かったし、後者の博士課程の人たちのようになりたいと思ったわけです。同時に人との関わりもある教育現場にいたいと考えて企業の研究員ではなく大学教員を目指しました。

・技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

 ~ユニークさやクレージーさを大切にしたい~

分子レベルでモノづくりを出来るのは、合成化学者のみというスタンスは大切にしたいと思っています。一方で、当然、技術や知識を高めるのも必須ですが、機械的な繰り返しは今後AIを利用することによって人間が凌駕される可能性もあり得ます。それを考えると、人、研究者にしかできない方向性を追求したいと思っています。ある面では非常識な道筋を考えられるようにしていきたい。ただし、非常識と判断できることは、常識を十二分に熟知している必要があります。その延長線上のユニークさやクレージーさを大切にしたいと思っています。

一例としては、6置換ベンゼンを合成する際にチオフェンを原料にしてチオフェンを壊して6置換ベンゼンを合成するルートの開発を挙げることは出来ると思います。6置換ベンゼン(ヘキサアリールベンゼン)は学生実験でも合成できそうな化合物。ただし、6つ異なる炭素置換基(アリール基)を導入しようと思うと、既知の方法では不可能でした。一方で、我々の研究室ではチオフェンに異なる4つのアリール基を直接導入することはできた。チオフェンは4炭素なので、2炭素をぶつけてやれば6つの炭素からなるベンゼンができるわけです。つまりチオフェンを「壊して」ベンゼンをつくる。言われてみれば普通なのですが(常識)、機能の宿るチオフェン骨格を好き好んで壊そうという研究者はこれまでほとんどいませんでした(非常識)。それにより、前人未到の6つのアリール基が異なるヘキサアリールベンゼンを世界ではじめて作ることができたのです。

・先生の研究理念を教えてください。

 ~モノづくりを極める匠になりたい~

「分子レベルでのモノづくりを極めたい」というのが、一貫した考え方です。平たく言うとこの分野でのブラックジャックになりたいと思っています。標的さえ与えられればなんでもうまくつくれるといった人。どこの分野でも重宝されますよね。ヒトには不可能に思えるような効率的なルートの可能性を追求して、実験を繰り返しながら可能にする面白さを極めていきたいですし、最終的には匠になりたいと思っています。 匠と言いながら、専門の深化だけではなく俯瞰する広い見識も重要と思っています。

・これからの研究の展望を聞かせてください。

 ~未知の領域とのコラボレーションから成果を産みだしたい~

現状ではバイオロジーとのコラボレーションを中心に研究を展開しています。特に、化学的アプローチを殆どしていない学問領域とのコラボレーションは積極的に行いたいと考えています。ほとんどの現象が分子(集合体)との関わり合いですので、分子を設計できる合成化学者がその学問領域に興味をもてば、未踏の課題をすぐに解決できたり、現象を分子レベルで説明できるようになります。学際という中で、自分にしか考えられないような手法を開発したり、世界を変える分子を作りたいと思っています。そういう意味では、学会もそうですが他分野の学会や研究会にも顔を出し続けたいと思っています。

 
・応用化学会の活動への期待を聞かせてください。

 ~学生にとって素晴らしい機会~

OB・OGと先生および学生が一緒に活動できる会は珍しい会であり、これまでいくつかの大学を渡り歩いてきましたが、このような組織にはありませんでした。応化にいるひとにとっては普通なのかもしれないですが、普通ではないです。その存在の重要性を認識して欲しいと思います。特に、学生にとっては大変良い機会だと思います。 

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。

 ~次の100年に向けて足跡を残したい~

素晴らしい歴史であり、学ぶことも多いと思います。しかし、振り返ることも重要ですが、このまま早稲田にお世話になることとなると30年以上ありますので、100年の歴史を汚さないように、自分の役割を全うしたいです。次の100年に向けて新しい足跡を残したいと思います。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

 ~教育者としては、自分より優れた研究者を世に送り出したい~

自分としては研究のみではなく、教育者としてのスタンスも大切にしており、自分より優れた研究者や、リーダーとなれる人をできるかぎり多く世に送り出したいと強く思っています。また、情報化時代と言われていますが、情報の把握と発信が重要だとの認識は学生時代から思っており、ケムステーションという化学ウェブサイトを作り現状でも続いています。内容は添付資料に任せることにしますが。

学生にとっては、今はインターネットを調べれば詳細な情報に簡単にアクセス可能です。つまり、情報を集めやすい環境にもあるため、自分で集中して没頭できるような分野や領域を是非見出して欲しいし、それが見つかると更に面白くなる良い循環が出来る筈です。是非とも、自ら学べるような分野を見つけて欲しいですね。

 

 

参考資料:

 

応用化学科・教員・研究紹介

インタビュアー&文責: 村瀬菜々子(学生広報班チーフ)、井上 健(新19回)

 

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