第15回 先生への突撃インタビュー(野田 優 教授)

「先生への突撃インタビュー」の再開の3番バッター(第15回)として野田優教授にご登場願うことにしました。
今回は学生にもインタビュアーとして参加をしてもらうと同時に新任の佐々木広報委員長にも参加を願い、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作の新バージョンを目指しました。野田先生もこの試みに快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。
野田先生は、1994年東京大学工学部卒業、99年同大学院工学系研究科 化学システム工学専攻博士後期課程修了・工学博士、1999年~2007年東京大学助手2007年~2012年同准教授を経て2012年より早稲田大学理工学術院教授、2009年~2013年JSTさきがけ研究員(兼任)をされています。また、2005年には化学工学会奨励賞を、2014年度春学期と2016年度春学期に早稲田大学ティーチングアワードを受賞されています。

野田 優教授

先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

  ~中学は科学部、高校は化学部に~
 子供のころから自然科学に関心がありました。高校時代には、エネルギー問題に加え、温暖化、オゾン層破壊、酸性雨などの環境問題がクローズアップされ、クリーンエネルギー技術に携わりたいという想いを持つようになりました。この考えで、化学工学系の学科(東京大学 工学部 化学工学科・現 化学システム工学科)に進学、大気環境技術の故・定方正毅先生の研究室に入りました。学生の自主性を重んじ、自由に研究させてくれたこともあり、研究の面白さに目覚め、博士課程まで研究に没頭しました。
 学位取得後は、縁あって隣の研究室の小宮山宏先生の助手に採用され、材料研究へと転身しました。半導体産業での各種薄膜の気相プロセスによる製膜研究と知の構造化に従事、このときのプロジェクトで松方正彦先生にも大変お世話になりました。丸山茂夫先生との共同研究でカーボンナノチューブに着手、山口由岐夫先生のもとでのナノテク研究を通じ、「小さなモノを大きく創る」ナノ材料の実用合成、材料プロセス工学に本格的に取り組み始めました。2012年9月に縁あって応用化学科に着任後は、エネルギー技術を専門とされる先生方も多く、お力添えを頂きながら、蓄電デバイスや太陽電池などのクリーンエネルギー技術の性能とコストを、実用的なナノ材料プロセス技術により革新すべく研究に取り組んでいます。

技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

  ~基礎と応用の相互コミュニケーションとシナジーが重要~
 ナノテクは広範な技術革新を起こすと大いに期待されている反面、実用例が限られることが問題とされています。新たなナノ構造体を創製し、新規な特性・機能を見出す0から1を生む研究はもちろん重要ですが、分かり易いオリジナリティーを優先するあまり、1を100に仕上げる研究が立ち遅れていると考えます。後者の仕事は、従来は企業の役目と考えられがちでしたが、多様な候補材料がある中、数ナノメートルという微小スケールで企業単独で実用技術に仕上げるのは困難です。例えば、ナノチューブ1本を測定したら素晴らしい物性が出た、こんな夢のデバイスができそうといった論文がよくあります。それだけで、企業に製品を作って下さいというのは無理があります。基礎はますます基礎に向い、応用は複雑・高度化し、両者の距離が開いてしまっています。良いものを上手く作るのが化学工学の本来の役割であり、ナノ材料の特性を保ったまま、簡易に大規模に創ることが自分のミッションと考えています。
 もう一つは考え方のベクトルです。オリジナリティーはもとより重要ですが、シーズ志向がとても強いと感じます。例えば、我が国発の技術で○○を解決する、我が国の強い△△を更に発展させるといった具合です。また、過去に専門家が設定したロードマップを重視し、ロードマップを達成することが目的になっていないかも危惧します。これらはフォアキャスト型と言えると思います。一方で、社会にとってみれば、課題解決が重要であり手段は問いません。既にある知識・技術を適切に組み合わせてプランを策定し解決すれば幸いですし、どうしても要素が足りない場合はその要素を研究・開発する考え方も重要と思います。課題が明確になっている場合はニーズ志向ですが、今の日本は解決した後の未来像をはっきりと持てない状況にもあると思います。理想的な未来社会像を描き、それに至るシナリオを描き、個別課題を設定し、研究計画を立案し取り組む、バックキャスト型も重要です。急激に変化する世界の情勢も踏まえロードマップは随時更新、バックキャストとフォアキャストを行き来し臨機応変に取り組むこと、また個々人が基礎研究、応用研究、課題解決研究の違いを意識しつつ、それらに取り組むことが重要と思っています。私自身も得意技術に頼り過ぎないよう、自戒しています。

先生の研究理念を教えてください。

  ~社会に対し価値を生む研究を~
 基礎研究であっても、応用、課題解決研究であっても、先人の財産である既存の知識・技術を有り難く使わせて頂き、できることは速やかに済ませる。それだけではできないところに、新たな発見や発明が生まれると思っています。オリジナルな研究をするのが目的ではなく、既存知識・技術で解決できないところにオリジナルなものが生まれる。また、新物質・新材料などは分かり易いオリジナリティーですが、それら要素の新たな組み合わせもオリジナリティーの筈です。研究のための研究ではなく、社会に対し価値を生む(経済価値だけでなく知的価値を始めとした質的な価値も)研究をしたく思っています。
 先人の財産を学びつつも納得できない場合は、自ら考え直すことも重要です。頭の中は自由です。学生さんを始め皆さんと一緒に、良く学び、自由に考え、大胆に挑戦していきたく思います。

これからの研究の展望を聞かせてください。 

 ~現実解を求めるために、汎用の炭素・珪素に注力~
 世界全体が豊かになることは、当然の目標と思っています。すると化学による物質生産も膨大になり、既にレアメタル・レアアースなど資源問題が顕在化しています。20世紀は多様な元素を使って物質的豊かさを実現してきましたが、ナノテクでは同じ化学組成でも構造を変えることで物性・機能を制御でき、この点が持続可能社会の実現にとても重要と思っています。性能で記録更新を目指すだけでなく、良いものを広く行き渡らせたく思います。
 現在は、特に炭素と珪素に注力しています。資源的に豊富ですし、周期表で隣通しです。特にグラフェンシートを基本骨格としたナノカーボンは、表面にダングリングボンドを持たないため、ナノ構造でも本質的に安定です。炭素により軽量でナノ構造により柔軟という有機材料の特徴と、強固なσ結合による熱的・化学的安定性や優れた導電性といった無機材料の特徴を併せ持ちます。良質なカーボンナノチューブは、1 gあたり10万円前後もします。原料は炭化水素です。作り方が余りにも稚拙です。我々は、アセチレンを原料に、0.3秒の滞留時間で、収率70%で良質なカーボンナノチューブを半連続合成する流動層技術を開発しました。エチレンでも高収率で合成する技術も開発中で、また得られたナノチューブからスポンジ状自立膜を作製し三次元集電体とする新型蓄電池の開発などに取り組んでいます。また、シリコンも丁寧に作るのが従来の常識でしたが、1分で厚さ10 μmの単結晶膜や大粒径多結晶膜を製膜し、バルクから数秒でナノ粒子を合成することも可能となりました。前者は太陽電池に、後者は蓄電池に向けた技術です。エネルギー技術は安い技術で、広く使われてこそ課題解決に貢献できます。資源的制約の緩いこれらの材料を用い、画期的に安価で設置容易な太陽電池や安価・軽量・高容量の蓄電池を実現し、自然エネルギー利用拡大に貢献したく思っています。

大学と企業の関係についてコメントをお願いします。

  ~オープンな協力関係でステップアップを~
現在の世界の流れは、オープンな相互協力が主流になっています。日本の企業はまだまだ閉鎖性を残している所が見受けられますが、はっきりした目標や目的を共有することが大切だと感じています。得意技術を守っている間に世界は先へ進んでしまいます。積極的に訪問して狙いを話し、アイディアを出し合い議論し、相互の信頼関係を醸成してより踏み込んだ議論をするサイクルを回し、スピーディーに次の一手を打つと、できることが大きく広がると思っています。

応用化学会の活動への期待を聞かせてください。 

 ~世代や分野を繋ぐコミュニケーション、相互刺激は重要~
 応用化学会はとても充実したOBOG会で、幅広い世代と分野の先輩たちのネットワークを有していますので、応用化学科の教員・学生の貴重な財産だと思います。学生の活動も活発ですので、是非、この流れを継続・発展させて頂きたく思います。学生さんが早いうちから多様な人と交流し、多様な意見を聞き、相手を尊重しつつ自身の考え・意見・価値観を持つ。すると社会に出てからもアイデンティティーを持って活躍できると思います。大学はどうしても独特の文化がありますので、応用化学会を通じて視野を広げて欲しいと思います。

100周年を迎える応用化学科についてコメントを聞かせてください。

  ~自ら考え、動き、挑戦できる人材の育成に貢献を~
 100年は迫力のある素晴らしい歴史です。この間、9000名を超える人材を育成してきた諸先生方に敬意を表します。大学の本来の使命は人材育成ですし、これからの我が国にはますます重要です。応用化学科の一員として、自ら考え、動き、挑戦できる人材の育成に貢献したく思います。

21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

  ~方法論を自分のものにし、果敢に挑戦を~
 課題山積と言われる時代ですが、一方で、先人の財産で沢山のことができるようになりました。課題があることは、活躍の場があることにほかなりません。課題解決や価値創生を目的に、蓄積された知見・技術を道具に、自らの考えで動き挑戦し、活躍して欲しく思います。研究室での数年間は、自らの方法論を培う貴重な期間です。是非、意欲的に挑戦し、失敗とその克服など、多くの経験を積んでほしいと思います。          

 ―了―

6月30日インタビュー(聞き手&文責:広報委員会 井上健(新19回)・佐々木一彰(新31回)・五十嵐怜(広報班学部3年))

研究室及び研究概要紹介
 http://www.f.waseda.jp/noda/

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