第13回中部支部交流会報告

2016年10月15日(土)「名古屋ダイヤビル」にて、第13回交流会を開催した。
交流会のプレゼンターは、長年生化学分野で研究活動をしてこられた、岐阜大学生命科学総合支援センター特任教授木内一壽氏にお願いした。

木内一壽氏による講演「海馬と記憶とアルツハイマー」の要旨

生命の活動を制御している脳について、その”不思議な部分”や”アルツハイマー病の回避”などに新たな解明が進んでおり、その内容が紹介された。プレゼンテーションの要旨は以下の通り。
詳細は講義資料(pdf;27MB)

  • ①神経細胞(ニューロン)の詳細な構造、神経信号の伝播機構、およびニューロン間の接合部を構成する“シナプス”の構造と、電気信号を化学信号に変えニューロン間の情報伝達する、神経伝達化学物質の分類と各々の役務についての説明があった。更にヒト脳の進化の歴史や何故進化出来たかについての“ネオテニー論(幼形熟成論)”並びに遺伝子の重複による脳の大型化について、ゴリラやチンパンジーと比較し、顎筋肉の発達差や言語の進化差を事例引用し説明された。
  • ②人間とチンパンジーを比較すると、ゲノム遺伝子の相違が1.23%および言語の進化に関わる唯一の遺伝子(転写因子FOXP2)は両者の差は僅かにアミノ酸2個の違いでしかない事。又人間同士の比較では、遺伝子相違が0.1%異なることで、人それぞれの異なる個性が作られているとの説明があった。
  • ③ 海馬と記憶の関係は、記憶の内容による分類と分類された記憶の脳内記憶エリアの説明がなされた。陳述的記憶(意味記録、エピソード記憶、作業記憶)は海馬に、非陳術的記憶(記憶の内容を言葉で記述することが出来ない記憶)は小脳へおよび思い出せない記憶(直感的なもの)は側頭葉に刻まれるそうである。
    記憶に重要な役割を占める海馬について、その詳細な神経ネットワークをマウス海馬画像などにより説明された。新しい情報が記憶されるには”シナプス伝達効率の変化(可塑性)“と”長期増強(LTP)“が必要で、その基本概念が示された。
    海馬に一時的に置かれた記憶を、大脳皮質にしっかりとした記憶として移動記憶させるには、強い刺激による伝達効率の変化(可塑性)を高頻度に与えることが肝要であると述べられた。
  • ④海馬に記憶された新しい情報を大脳皮質へ移動させ確かな記憶として強化させる時間は、長いケースで2年にもおよぶ。それには睡眠の深さが関係しており、ノンレム睡眠(ステージ1の脳波=シータ波)時に、海馬と大脳皮質の間でニューロンの発火パターンの繰り返し再生が最も盛んとなり記憶強化作業が行われている。
  • ⑤“アルツハイマー病”への予防策として、以下の新しい知見を述べられた。
    • PET画像診断によればアルツハイマー病の発症原因であるアミロイドβの蓄積は発症する10~20年前に既に始まっている事。
    • 前脳基底部に投射しているアセチルコリン神経系は、場所と対象物の認識記憶に深く関わっている事が証明され、再認記憶障害の原因解明が進んでいる事。
    • 認知症の重症化には、睡眠と切っても切れない関係が存在する。患者に特有の睡眠に関わる3つのハンデキャップ、即ち、「目覚める力が低下する」、「体内時計が壊れる」及び「眠る力が弱まる」が、質の良い睡眠リズムの維持により得られるアミロイドβの分解効果に悪影響を与える事。従って、日中は30分以上の睡眠はとらずに夜規則正しく良質の睡眠をとることが肝要である事。
    • メリハリの無い日常の活動リズムも認知症への進行リスクを高め、軽度の認知症から認知症への進行予防は、定期的な有酸素運動(60分程度週3回)と、脳科学の見地から人としての“ネオテニー” (好奇心や遊び心)を保つことが肝要。
  • ⑥最後に、新しく開発された治療薬(アデュカヌマブ)並びに聴覚機能の回復やパーキンソン病の治癒方法として実用化が始まったBMI法(機械の信号を脳に送り込み脳の活動を刺激制御)を紹介されプレゼンを終えた。

出席者の関心の高いプレゼンテーションで、「思考力」はどのような神経活動に基づくのか?或いは「時の記憶」はどのようになされるのか?などの数々の活発な質疑応答で交流会を終えた。

Fjords

講演する木内教授
交流会風景

交流会風景
集合写真

全員写真

交流会終了後、いつもの喫茶店に席を移し懇親を深めた。秋山健氏、新村多加也氏および大高康裕氏よりスピーチがあり、いつものように和気あいあいの懇親会でした。

参加者(敬称略)
(講 師)木内一壽(新24回)
(中部支部会員)澤田祥充(旧31回)、近藤昌浩(新9回)、三島邦彦(新17回)、堤正之(新17回)、白川浩(新18回)、後藤栄三(新19回)、柿野滋(新19回)、秋山健(新19会)、小林俊夫(新19回)、友野博美(新22回)、山崎隆史(新25回)、藤井髙司(新36回)、新村多加也(新39回)、大高康裕(新41回)、加藤毅之(新57回)以上16名。

(文責 堤)