【第19回中部支部交流講演会(山口先生講演会)開催報告】
1. 開催日時; 4月8日(土)15:30~17:00
2. 開催場所; ウインクあいち1008号室
3. 出席者; 16名
4. 講師; 山口潤一郎教授
5. 議題; 『応用化学科の現状と分子レベルのものづくり研究』
6. 講演要旨の報告;
山口潤一郎教授のご講演
「応用化学科の現状と分子レベルのものづくり研究」の要旨
●応用化学科の現状
初めにご自身/研究室/応用化学科の状況について触れられていました。日本最大の化学ウェブサイトChem-Stationについてご説明があり、2000年設立以来、23年間運営されているライフワークで、日本化学会化学教育賞等を受賞されていることが紹介された。
2016年のご着任時には助教1名、学部生3名からスタートした研究室は現在、准教授1名、講師2名、博士課程8名、修士課程14名、学部生8名の34名で運営されている。博士課程への進学率も高い。
応用化学科はモットー「役立つ化学」「役立てる化学」のもと、7つの研究部門「無機化学、触媒化学、応用物理化学、化学工学、応用生物化学、高分子化学、有機合成化学」があり、それぞれに社会課題の解決に向けて、研究活動されていることが紹介された。新任のご先生等の2016年以降の教室の変化、121号館(早実跡地)での研究活動開始、52,53,54,59号館での増築計画、学科独自の奨学金等が充実してきている事もご紹介されて、応用化学科が進化し続けていることが実感された。
●分子レベルのものづくり研究
初めに、ものづくりとしての有機合成化学のイロハを「分子をつなぐ」「分子をぶっ壊す」「革新的な分子を創る」というキーワードで分かり易く教えて頂きました。具体的事例として芳香環同士が直接連結した分子を取り上げて、医薬品成分としても多数存在していることが紹介された。如何に作るか、芳香環同士をどうつなぐかは昔から研究されているが、難しい課題であると述べられた。芳香環同士を連結する方法の一つはクロスカップリング反応で、その中の一つで2010年に鈴木章教授がノーベル化学賞を受賞している。この反応は芳香族ハロゲン化物と芳香族ボロン化合物を原料としてパラジウム(Pd)触媒/アルカリ存在下で行う。この反応は安定で収率も高く取り扱いやすいが、原材料には難点がある。原料は共に高価、製造は多ステップで廃棄物多、パラジウムは高騰中である。
次世代型のクロスカップリング反応を開発することで、医農薬等の有用化合物を製造できるようにすることは、有機合成化学者の仕事の一つである。具体的な研究としては、製造難の芳香族ボロン化合物代替として粗原料の芳香環のC-H結合を直接活性化・切断すること、触媒として安価なニッケル(Ni)化合物を使用することを検討している。適用例として、痛風治療薬フェブキソスタットや複雑な天然有機化合物が紹介された。
また、エステル化合物適用の研究内容も紹介された。山本明夫教授が錯体レベルで反応機構を解明していた脱エステル型変換反応については、多種の求核剤を発見し、各種の新規合成法を開発していった。不活性なエステル化合物を反応させるためには、金属触媒(Pd,Ni)の機能UPが必要で、独自開発の新規な配位子を開発したことが重要であった。この配位子はDCYPTといい、現在では関東化学より全世界で発売されている。
開発された反応、各種の研究内容が紹介された。エステルからの脱カルボニル型エーテル合成、エステルダンス、光触媒による安定結合の切断、結合交換反応、ヘキサアリールベンゼン(置換基の芳香環が全て異なる)、植物の生物時計制御分子(AMI-331という名で東京化成より発売中)、パーキンソン病早期診断ツール、たんぱく質を固定する分子、・・・・・・
最後に一期生からの博士課程卒業生の業績、受賞歴、海外留学等について紹介があり、学生と共に研究室が育まれ、大きく成長してきていることが伺われた。「根本的に研究が好きであるが、教育が中心にして、化学の面白さと可能性について学生に伝えていきたい、いい学生を輩出したい」とのお言葉で締めくくられていた。
学生時代の有機化学講義以来、有機化学構造式、反応式にあまり縁のなかった多くの中部支部諸氏に対して、研究成果を平易に説明頂きました。ご講演後、質疑も行われ、博士課程比率の高さ、構造同定について、学生の教育、ケムステーション、山口研のディスカッション文化、海外アクセスの多さ等について活発に議論された。
*尚、講演終了後、集合写真の撮影と懇親会が行われた。
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