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卒業生へのインタビュー(第5回)

日時:2023年5月28日(日本時間)/5月27日(アメリカ西海岸時間):オンラインにて実施。

春日 孝夫さん(新39)

1985年 早稲田大学高等学院卒

1989年 早稲田大学理工学部応用化学科 森田・菊地・研究室

1991年 早稲田大学理工学研究科(触媒化学)修了

1995年 Ph.D. in Genetics from Aberdeen University (UK)

2008年 Research Molecular Geneticist,
United States Department of Agriculture,
Agricultural Research Service (USDA-ARS),
and Department of Plan Pathology,
University of California, Davis

学生時代に応用化学科から短期留学でカリフォルニア大学デイヴィス校(以下,UCD)に夏季休暇などを利用して留学した卒業生が比較的多く、また応用化学科の卒業生でもある春日孝夫さんが現在同校にて大学スタッフとして教鞭を取り研究を進めていることから、それぞれの立場から留学で得た経験とUCDのプログラムの紹介など相互理解を深める場をオンラインで設けることにしました。今回卒業生からはUCD留学経験のある3名に参加頂きました。カリフォルニア大学にはキャンパスが10あり、UCDはそのうちの一つで州都サクラメントの近郊に位置します。

 

短期留学先にUCDを選択した理由は?

- 語学留学の側面も持ちつつ、理科系の留学者向けカリキュラムがあるのがUCDだった

- 大学での教育プログラムに加えてシリコンバレーの見学など魅力的な実地研修があったから、などの意見がありました。

UCDの短期留学プログラムは特色ある内容のようですね。もう少し詳しく教えていただけますか?

- 早稲田大学以外にも東京理科大や明治大学などから毎年留学生が来ています。理科系学生向けのプログラムを提供している背景には、UCDがUCの中でも理科系の割合が多いキャンパスだということもあると思います。3万5千人ほどいる学生の6~7割は理科系の学生ではないでしょうか。プログラムの特色の一つに、留学生が複数の研究室を回り研究内容を体験できることがあります。大学院生の必修科目に専攻内の研究室を5週間単位で回って経験を積むというものがありますが、それと近い内容を体験できることになります。

UCDのカリキュラムや制度についても特徴・魅力を教えてください。

- カリキュラムの方向性は教授会で決まりますが、その教授の採用に関して学生側が採用側として検討に関われる面白い制度があります。つまり、学生は教授候補が他大学からどのような技術や知識を持ってくるかいう観点で教授を選ぶことが出来るので、代謝が繰り返されていることになります。勿論、研究は長いスパンで考えることも重要なので、一人の教授が退官された後同じようなテーマを研究する別の方が来られることもあります。

- セミナーに関しても、学生が主体となって他大学の教授を招聘することがあります。学生はその教授の研究論文を事前に確認し、セミナー時には質問事項を用意していたり、ランチブレイクの際にコミュニケーションを取ったりしています。準備に掛ける時間は学生にとっても負荷がかかりますが、他大学の先生を呼ぶと費用も掛かっていますし学生はしっかり準備してセミナーに臨んでいます。

学生の負荷という点では、大学院の学生はどれくらいの授業を受けているのでしょうか?

- 平均して1コマ50分の授業を1日2コマほど受けていると思います。その内容は濃密で、予習復習に多くの時間を取られるため最初の2年間は勉強時間が主体となっているはずです。大学院での経験を続けるためにQualifying Examがあり、学生(博士課程の大学院生)はこれをパスする必要があります。全てのコースを修了したあとには、授業が持てるほどの実力が大学院生には付きます。

大学院に進む基準のようなものはありますか?
日本では内部からは同じ研究室に進学するケースが多く、外部からの進学者も基本的には内部からの受験者と同じ試験を受けたのちに大学院に進学していると思いますが。

- UCDでは大学院に入学するための試験はありません。また内部進学はごく少数で大学と大学院では別の大学に行くのが一般です。大学院における学費(tuition)は基本的に教授が支払いすることになりますので、教授は質の高い学生を集めるようにしています。そのため学生の選抜方法はよく研究されていてエビデンスに基づきます。基本的には書類選考と面接です。大学院に進学するための共通テストGRE(Graduate Record Examination)と言われる試験もありますが、GREのスコアと大学院の学生の能力には相関がないことが示されているのでUCDにおいて数年前からGREを受けなくてもよいことになりました。大学院では学術論文を書けるか(つまり研究を行う力があるか)どうかを指標として見ているケースが多く、大学院で論文を書く力と学部での専門教科の成績には相関があるということ。学部の指導教授からの推薦状は非常に大切です。

- 同様に大学生の選抜もエビデンスに基づきます。学部がまず欲しいのは大学でいい成績を取って卒業できる学生。高校時代の成績から大学の成績が予測できるのでアメリカの大学には入学試験がありません。各高校のトップ10%に入っていればUCへの入学が保障されますが、そうすると生徒全体のレベルが高い受験校の生徒が不利になるのでレベルの高い高校で10%に入れなかった学生もカリフォルニア全州の共通テストで上位10%に入っていればUCへの入学が認められます。高校生の受ける共通テストですが学生選抜にはあまりメリットがないことが指摘されて近年は受けなくてもいいことになりました。

学費の話が出ましたが、留学に際しては学費も考慮すべき一つのファクターになりますか?

- 確かに、学費は高いと思います。学生数の増加とともに州の予算では賄いきれなくなっている現状もあります。カリフォルニア州の学生は年間100万円ほどの授業料になりますが、オレゴン州からの学生は400万円ほどになる例もあります。ただ、入学後にカリフォルニア州に1年居住するとカリフォルニア州の登録居住者となるので授業料が減額します。外国籍の学生はカリフォルニア州登録居住者にはなれませんが大学院が差額を出してくれることもあります。学生はTAをやることで授業料を免除されるシステムもあり、これは日本人を含む外国人に対しても適用されています。また、学部別ではありますが外国人にスカラーシップを用意しているところもあります。

早稲田大学も奨学金制度の充実を目指しています。

- 学生へのサポートが充実するのは喜ばしいことだと思います。もちろん米国においても卒業生の寄付により授業料が賄われている例もあります。UCDではありませんがスタンフォード大学では両親の収入が1000万円以下の場合に学生の授業料が免除されるといったシステムもあります。スカラーシップ制度は充実しています。大学院では学生自身がスカラーシップを取ることもあれば教授が研究費から学費と生活費を払うこともあります。

応用化学科への思いを。

- 応用化学科の最大の課題は女性研究者の育成に対して積極的な意識付けがこれまでなされて来なかったことでしょう。応用化学科が学科の競争力を強化しまた豊かな社会の実現に貢献するために早急に解決しなければならない問題と考えます。これは時間が解決するような問題ではありません。学生の男女比が半々になってもなかなか教授の女性比が増えないこと、女性教授を採用しても様々な障害にぶつかり転職をしてしまうなどの事例は現在でも散見され、で欧米の大学でも問題解決策が模索されています。これは制度的性差別(Institutional sexism)つまり女性が不利になる仕組みが社会や組織の構造に組み込まれていて目に見えない不平等があるためでしょう。社会やアカデミアだけの構造的な問題ではなく私たち一人ひとりが問題の一部となっているため、アカデミアだけを批判するのは建設的ではありません。定期的な勉強会のようなことを企画し(1)女性研究者はなぜ必要なのか、(2)育成には何が障害になっているのかを議論をすることが必要だと思います。

今回、短期留学ではあまり耳にしない大学の側面も伺うことが出来、今後もUCD経験者の繋がりを維持していくことを確認しました。


参加者:春日孝夫さん(新39)、井川華子さん(新66)、仲谷孝道さん(新67)、春原晴香さん(新67)、ファシリテータ:加来恭彦(新39、広報)

第43回早桜会懇話会(報告)

 第43回早桜会懇話会を2023年5月27日(土)イーセップ株式会社(京都府相楽郡精華町)にて開催しました。イーセップ株式会社は京都府相楽郡精華町にあるけいはんなオープンイノベーションセンター内に本社を構え、主にナノセラミック分離膜の開発や分離膜ユニットの製造・販売を行っています。現状の化学産業では分離工程にて多くのエネルギーを消費しておりますが、分離膜を用いると従来の蒸留等のプロセスと比較して省エネルギーで目的物を分離することが可能になります。昨今の環境問題への意識の高まりも追い風となり、膜分離技術に対する期待が高まっています。

 イーセップが今後力を入れていく開発テーマの1つにバイオマス資源からの燃料合成があります。具体的にはバイオマス資源のガス化から得られた二酸化炭素と水素を原料にメタノール水を合成します。得られたメタノール水を水素キャリアとして用いて必要に応じて水素を取り出すというプロセスを想定しています。またメタノールからガソリンを合成するプロセスは既存技術として存在するので、必要に応じてガソリンに転換することも想定しています。このプロセスのどこで分離膜が必要になるかというと、二酸化炭素と水素からメタノール水を得る工程においてです。二酸化炭素と水素からメタノールと水が出来る化学反応では逆反応も起こっており、収率が上がらないのが現状です。そこで分離膜を用いてメタノールと水を選択的に取り除くことで、逆反応が起こるのを防ぎ、メタノール水の収率が上がるという原理です。見学会ではイーセップの分離膜製造設備及び評価装置(写真1)を皆様に見学して頂きました。

写真1:イーセップ社の分離膜製造装置及び評価装置の様子

そしてまだ立ち上げ中ではありますが、分離膜と組み合わせたメタノール水製造装置についても外観を見て頂きました。(写真2)

写真2:現在立ち上げ中のメタノール水製造装置

今後開発されていく新技術ですが、地球の未来に確実に必要な技術であり見学会に参加して頂いた皆様におかれましては、大変に興味を持って話を聞いていらっしゃいました。

 メタノール水関連以外にもイーセップでは分離膜の製造や評価を行っていますのでそれらの設備についても見学して頂きました。特に10年前の会社設立当初、資金が十分無かった時に如何にして分析装置を揃えていったかという苦労話などは大変印象的であり、参加者の皆様も、よくぞここまで会社が成長したと、早稲田の同窓の活躍を喜んでいる様子でした。見学の最後には参加者の皆様で集合写真を撮影しました。(写真3)


写真3:参加者集合写真

見学会後は、久しぶりに懇親会を実施致しました。(写真4)

写真4:懇親会の様子

ここ何回か対面での開催を実施しておりましたが、懇親会は未開催でした。皆様久しぶりの懇親会ということで、イーセップ見学会の感想を始め、これから応化会、そして日本をどうやって盛り上げていくのか等、非常に話が弾みました。オンラインでの開催は懇話会の講師の先生の選択肢が広がる等、便利な部分もある一方で対面開催ならではの良さもあるということを改めて認識致しました。今年度の懇話会は対面を基本とする方針ですので、懇親会での議論も含め益々応化会が盛り上がっていくよう役員一同努めて参りたいと思います。(文責:三品)
【出席者(12名):敬称略】
津田實(新7), 市橋宏(新17),田中航次(新17) ,斎藤幸一(新33),和田昭英(新34), 中野哲也(新37), 脇田克也(新36) ,高田隆裕(新37), 澤村健一(新53), 陳鴻(新59),三品建吾(新59), 古田武史(新61)

新17回同期会開催報告:2023年5月20日 於 金城庵

コロナ禍の影響で長らく開催できなかった新17回同期会を12名が参加して4年ぶりに開催しました。今回は参加者の都合も考え、応用化学会設立100周年記念講演会・祝賀会と開催日を合わせ、正午から2時までの昼会として開催しました。

金子君の司会で、先ず前回開催以降にご逝去された内田健君、加賀山正己君、川崎勝敏君、桑原豊君、見並勝佳君、杢嘉雄君、横山功夫君(五十音順)のご冥福をお祈りし、一分間の黙祷をさせて頂きました。

コロナ禍をはじめ多難・激動する社会の中で、元気に集うことができたことを喜ぶ開会挨拶に続いて、全員で乾杯して会が始まりました。
次に、各自により順次近況報告や最近の関心事項などについての紹介がありました。
現役時代から続く月例麻雀会が生活リズムになっている人、海外勤務時代からの付き合いが今も続く人、老人ケア施設に入居し日々カラオケやゲームを楽しむ人、健康維持のため毎朝90分のジョギングが日課の人、元気にゴルフを頑張っている人、野鳥写真に興じる人など、夫々に充実した生活を楽しんでいる様子が分かりました。中でも西海君の名誉ある瑞宝中綬章受章の紹介、坪田君の声量を押さえた詩吟披露、三島君の足腰がちょっと不自由な人が靴下を楽にはけるように工夫した自作プラスティック治具の紹介等が印象的でした。質問やコメントも交えての和気あいあいとした楽しい時間でした。

会の冒頭には「これが最後の同期会かな」との声もありましたが、やはりリアルの会は楽しく印象的だったものと見え、2回/年の開催提案もあったほどの盛り上がりでした。
卒業後56年経っていますが、改めて「学生時代の仲間はいいものだ、技術屋魂は健在だ。」ということを感じるひとときでした。

会の終りは校歌斉唱と記念撮影が定番。今回は会場が本部キャンパスに近かったので、私達が学部時代に学んだ旧9号館の「応用化学実験室」の掲額を背景にしての記念撮影を行い応用化学会100周年にあやかる会のシメとし、元気での再会を約して散会いたしました。出席者の半数は100周年記念行事にも出席、充実した一日でした。

出席者:石井利典、大林秀仁*、金子四郎*,高橋志郎、高畑忠雄、高安正躬、塚原雅人、
経沢実、坪田正行、西海英雄*、三島邦男、室賀五郎。(五十音順。(*:幹事))。

(文責:大林秀仁)

2023年度早桜会総会後講演会(報告)

 2023年度早桜会総会を2023年4月15日(土)にWEB形式(Zoom)にて開催し、その後講演会を実施いたしました。今回の講師には和田昭英先生(神戸大学理学研究科教授)をお迎えし、「へそ曲がりの光化学」という演題でご講演して頂きました。

【講師】和田昭英氏 (神戸大学理学研究科教授)
【概要】
 和田先生には光化学の新しい切り口について,神戸という街の紹介も交えてお話しいただきました。お話の前半は「答えから考える光化学」という研究テーマのお話で,遺伝的アルゴリズムと呼ばれる最適化手法を超短パルスレーザーのパルス形状に適用することで光化学反応を逐次的に制御する方法について紹介して頂きました。通常は反応物の時間変化を追跡して反応機構を調べていくところを,“へそ曲がり”なこの手法では波形最適化により理屈抜きにして光反応の制御を実現して,得られた波形を詳しく解析することで制御機構(理屈)を明らかにします。この手法の応用例として,ペリレン結晶の励起状態制御を実現し,さらに得られたパルス形状を解析することで明らかにされた制御メカニズムについて説明して頂きました。
 後半は「俯瞰して見る光化学」という研究テーマのお話で,太陽光の様な白色光で駆動される光化学反応を調べる新しい手法についてご説明頂きました。通常は照射する光(単色光)の波長を変えて反応の進行度の波長依存性を調べるところを,この手法では白色光を干渉計に通して波長ごとに異なる周期で変調する“へそ曲がり”な方法を採用することで,単色光照射では観測の難しい多色多段階の反応まで観測できます。非常に感銘を受けました。この手法の応用例として,アゾベンゼン誘導体について青色と赤色の2色の光が関与した多段階光異性化反応の観測例について説明して頂きました。
 また,お話の合間合間に神戸の紹介が入り,例えば神戸大学周辺の紹介や,神戸の山(摩耶山)の上から見える景色や神戸港の遊覧船から見られるクルーズ船や海上自衛隊の潜水艦などの紹介もして頂き、神戸の街を訪れたくなりました。
(文責:三品)

【出席者(15名)】
津田實(新7回),井上征四郎(新12回),市橋宏(新17回),田中航次(新17回), 井上昭夫(新17回),熊谷和夫(新31回) ,斎藤幸一(新33回),和田昭英(新34回),脇田克也(新36回),高田隆裕(新37回),中野哲也(新37回),澤村健一(新53回),陳鴻(新59回),三品建吾(新59回),古田武史(新61回)

応用化学会100周年記念企画&2022年度 第四回若手会員定期交流会報告

2023年2月18日(土)に「早稲田応用化学会100周年記念企画&2022年度 第四回若手会員定期交流会:『競争・協奏・共創』~次世代応化会の共創に向けて~」が開催されました。

本交流会はNACs会議、本企画、懇親会の3部制にて実施されました。

入試期間中で校舎に立ち入れなかったこともあり、都内の会議スペースを利用しましたが、いつもと違った環境でこれまで以上にざっくばらんな会話を行えたと感じます。

1部のNACs会議では22年度のNACs活動の振り返りを行い、発足1年が経過した節目として、今後のNACsの方向性を話し合いました。現役学生も交えてディスカッションを行うことで、社会人と学生の求める内容の共通点・異なる点を認識し、今後持続的な活動を続けていくための道標を考えることができました。

2部では応化会役員のOBの方々を交え、グループディスカッションが行われました。議題は「次世代応化会の共創に向けて、自身がどのように応化会と関わりたいか?どんな応化会に参加したいか?」であり、参加者の自由な意見をくみ取ることができたと思います。

特に印象的だったのは、今以上に“日常的な”交流を求めているということです。企画の時に顔を合わせるだけでなく、もっとプライベートな空間でも応化の人に会える場所が欲しいという意見が目立ちました。応化が家庭・会社に次ぐ第三の居場所として、心地よくそして成長できる場所になれるよう努めていきたいと思います。

また今回出た様々な意見に対して、ただの願望ではなく、主体性をもって実現していこうと思います。

3部では、場所を変えて立食形式で懇親会を行いました。スライドショーの上映や個人の近況報告を行い、思い出話から将来のことまで様々な話で場は盛り上がりました。

未だ収束はしておりませんが、コロナ禍で懇親会の実施が難しかったこともあり、久しぶりの懇親会は懐かしく、そして人と人とのつながりの大切さを改めて感じることができました。

今後もこのような機会を設け、持続可能な組織となるよう努めていきます。

(文責 NACs~次世代共創委員会~ 増田)

第42回早桜会懇話会(報告)

 第42回早桜会懇話会を2023年2月18日(土)に対面(中央電気倶楽部)とWEB(ZOOM)のハイブリッド方式にて開催いたしました。今回の講師には大阪大学の岡弘樹氏(新67回,西出・小柳津・須賀研)をお迎えし、「持続可能な社会の実現に向けた機能性有機材料の展開~早稲田大学への感謝の気持ちとともに~」という演題でご講演頂きました。
 岡先生は機能性高分子の研究を学生時代からされており、蓄電可能な高分子やプロトン・水素ガスを貯蔵できる高分子について積極的に研究を行っていらっしゃいました。特に蓄電容量を高める為にポリアリルアミンに着目され、学生時代に企業と直接交渉をされたお話は大変印象深いものでした。
 学生時代にスウェーデンに留学されたり外国人研究者のもとで指導を受けたり等、学生のうちから広い視野を持って研究を進めてこられ、また非常にエネルギッシュで私自身も良い刺激を受けました。
 現在大阪大学では分子配列と導電性の化学を研究しており、これからの水素社会や持続可能な社会の実現に向けて、エネルギーに関連した機能性有機材料開発を進めていらっしゃいます。特に若い世代をどうエンカレッジしていくか、ということに注力しており、研究者としてのみならず教育者としても新しいことに積極的に挑戦していこうという姿勢に大変感銘を受け、私自身もエンカレッジされました。
 講演後は質疑応答が活発に行われました。普段はどちらかというと中堅〜シニアの講演者が多い中、20代の若手講演者は珍しかったですが聴衆一同良い刺激を受け、非常に有意義な懇話会になったと思います。講演して下さった岡先生に改めて感謝の意を表し、報告書とさせて頂きます。
  (文責:三品)
【出席者(18名):敬称略】
(現地)
津田實(新7), 前田泰昭(新14), 岡野泰則(新33),斎藤幸一(新33), 和田昭英(新34),
澤村健一(新53),三品建吾(新59),加藤文義(新20),篠崎匡巳
(ZOOM)
井上征四郎(新12), 市橋宏(新17),田中航次(新17), 脇田克也(新36), 數田昭典(新51), 陳鴻(新59), 古田武史(新61), 桜井沙織(新64),井上昭夫(新17)

卒業生へのインタビュー(第4回)

元第一三共株式会社代表取締役、元早稲田大学創造理工学部客員教授 荻田健さん


2022年1月15日:オンラインにて開催。

ご略歴

1973年 早稲田大学理工学部応用化学科卒
1980年 東大農学系研究科博士課程修了(応用微生物研究所)

三共株式会社入社
研究所で医薬の研究(約20年)
開発部門で医薬の開発(約10年) 

第一三共株式会社(2007年、第一製薬と合併)
取締役 専務執行役員(2009年~2016年)

早稲田大学創造理工学研究科客員教授 (2017年-2021年)

今回は研究からグローバルプロジェクトマネジメント、経営に至るまで幅広い経験に基づくお話を伺った後Q&Aに答えて頂く流れでのインタビュー記事になります。荻田さんから学生・若手へ以下の内容での話がありました。

  • 製薬会社の主力製品について(ドラッグストアで購入できる一般医薬品と、医療用医薬品について
  • 新規医療用医薬品を世に出す:探索ターゲットから臨床試験以外の研究分野まで
  • 新薬ビジネスの特徴:研究開発費と研究の成功確率について
  • 荻田さん自身のキャリアパスについて(研究~プロジェクトマネジメント~グローバル変革への対応~経営戦略(取締役専務執行役員としてのタスク)
  • 製薬企業のおかれた状況
     新薬創生の難しさ、複雑化
     多様な経営戦略
  • これからの時代と経営戦略、社会との持続的成長とご自身の経験としてのこれまでの社会変化への重ね合わせからの振り返り
  • これから社会に踏み出す若き才能に向けてのエール

荻田さんからのメッセージを受けてのディスカッションでは以下のようなやりとりがありました。

-Be Professionalについてどうすればその領域に近づけるとことが出来るのか教えてください

(荻田さん):皆さんは学部生あるいは大学院生として既にProfessionalな仕事に触れていると思いますが、自分の好きなことを一生懸命に取り組んでいるうちにその意識づけが出来てくる様に思います。会社での研究におけるプロ意識もその延長線上にあると思います。
一朝一夕には行きませんが、繰り返し仕事に取り組んでいくうちに、この領域なら自分が強みを発揮でき、他の人にはそう簡単に負けないという意識が自然に持てるようになりました。そうなるとしめたものだと思います。

 

-自分がこれなら(社会人として)やっていけると自信を持たれたきっかけなどありますでしょうか。

(荻田さん):私の専門は狭い研究領域でしたが、その仕事はほかの誰にも負けないという意識は自分自身の考え方にプラスに働きましたし、学会での受賞経験は外的な評価という点からも自分に勇気を与えました。ポジティブな経験を積み重ねていくことが重要です。仕事のの目標設定を必要以上に高く設定する必要はないと思います。ハードルをクリアーするたびに自分自身の仕事に自信が持てるようになりました。

 

-大学生生活もまだ十分にいろいろなことが経験できていると自覚できる立ち位置にいません。様々な経験をこれまでされてきている中で経営者の視点からアドバイスを頂けますでしょうか。

(荻田さん):私の学生時代はキャリア形成に関する考え方もはっきりしていませんでしたが、現在では環境も大きく変わり、積極的に自分のキャリアを積上げていくことは重要だと思います。たとえば会社での所属部署が変わるようなとき、それはその後の自分の進むべき方向に役立つかどうかはその時にはわからないかも知れませんが、広く経験されることにより将来に生かされる事案は多いと思います。

 

-医薬品の研究開発で成功確率が低いことに驚きました。日々の研究において自分自身もうまくいかないことが多いですがその中でもモチベーションを維持できる意識づけについて教えてください

(荻田さん):私自身は研究していること自体が非常に面白いと感じていました。研究成果も重要ですが、その研究に興味をもって没頭することで探求心は研ぎ澄まされて行ったように思います。また、同僚との議論の中で目的意識を共有、確認することも大切でした。。「うまくいかない」のではなく、その結果も含めて研究は興味を持って考えていくことが一つのヒントになるのではないでしょうか。

 

-マテリアル・インフォマティックスのようにビッグデータを扱うことで研究環境も変わるのでしょうか(例えば研究室で一人がAIを駆使して研究を進めていくような環境になるのでしょうか)

(荻田さん):この質問は私にはちょっと難しい質問です。なぜなら、私の時代にはビックデータを扱う研究環境はなかったからです。従って一般論としてしかお答えできませんが、IT革命が進む中での化学との付き合い方も当然変わってくると思います。例えば今から5年前に現在の姿が想像できたかといえばそれはまた違った成果として現在があるわけです。少なくともこれまで以上に新しいことにポジティブに取り組んでいくという姿勢が必要だと思います。何が正解かは私にもわかりませんが前向きに考える姿勢が重要だと思います。

 

-研究を離れてマネジメントに転身された際に、研究者としての道を続けたいと考えましたか

(荻田さん):研究もある程度キャリアが長くなってくると研究自体もスペシャリストというよりは全体を見渡すような役割に段々と変わってきます。その時点ではジェネラリストとしての意識づけも自分自身の中でありましたのでマネジメントへの移行はしやすかったと思います。部下が多くなってくると人間関係などにも気を配ることが多く、それがグローバルになるとさらに考え方の違いなどにも考慮しながらマネジメントするエネルギーが要求され、自分自身から積極的に飛び込んで行くようにしました。
(写真:社内理科系社員による稲門会)

 

インタビュー参加者:
学生委員会:高田こはる(B4)、吉田七海(B4)、横尾拓哉(B3)、原田拳汰(B2)、吉村尚(B2)、
春原晴香(67期)、加来恭彦(39期、広報委員会)

NACs企画:企業が求める人材像を超えて~次世代共創に向けてのキャリア戦略を考える~(活動報告)

2022年12月3日(土)に「企業が求める人材像を超えて~次世代共創に向けてのキャリア戦略を考える~」が開催されました。
NACs(若手会)発足当初より若手OB/OG向けのキャリアに関する企画の需要が高く、講師として市場洋之さん(豊倉研究室1994年修了、新42回)をお呼びし、第1弾NACsキャリアイベントの開催に至りました。
市場さんは国家資格であるキャリアコンサルタントを取得され、企業でのキャリア支援に従事されています。この度応化会若手OB/OGを対象としてキャリア戦略を考える会をアレンジいただきました。


                講師の市場洋之さん

様々なキャリア戦略の理論の紹介や、ワークショップでの自己理解、自己開示を通じ、キャリアのモヤモヤの整理方法、仕事への向き合い方について学ぶことができました。
理論では、様々な研究者のキャリア戦略に関する理論が紹介されました。ワークショップ、ケーススタディでは年代の近い3-4名のグループごとに、個人ワークでの結果共有や意見交換などが行われました。
グループのメンバーに対して共有することで、言語化の過程で、モヤモヤとした自身のキャリアへの考えの整理が進みました。加えて、フィードバックにより自身がうまく言語化できなかった箇所や気づかなかったことも指摘され新たな発見がありました。


                イベントの様子

市場さんのお話の中で非常に心に残った言葉が、「視点を変えて物事を見てみる」、「キャリアは一人で悩まない」です。
一つの事象に対しても、見方を変えることでポジティブにもネガティブにも捉えることができます。例えば、「つまらない」と感じる仕事であっても、「この仕事から何か今後に役立つ技術を身に付けよう」、「今持っているスキルでどのように効率的に終わらせようか」といった、視点を変えることの重要性を学びました。
「キャリアは一人で悩まない」については、積極的にキャリアに関するモヤモヤを、親しい仲間や先輩と共有し議論することが悩みを解決していく大きな手段であると感じました。また、雑談や飲み会といったコミュニケーションの機会も大事であると再認識しました。

本企画は若手OB/OGを対象とした企画でありましたが、学生参加者も多く、社会人、学生共にキャリアへの関心は非常に高いことがわかりました。
若手OB/OGのアンケート結果では、「自分自身をメンテナンスするとてもいい機会にもなりました」、「キャリアのモヤモヤの整理の仕方を学ぶことができました」などといった感想が多く、若手OB/OG自身のキャリアを見つめるよい機会となりました。
また学生からは、「学生のうちからキャリアについて考えることができる、貴重な機会だった」、「今後も様々な世代の方と交流して視野を広げていきたい」といった感想がありました。
本イベントを通じて、近い境遇の早稲田の仲間と集まれ、共に語り合える環境が早稲田応化会の財産であると再認識しました。NACs(若手会)として今後もキャリア企画の拡充に努めていきたいと感じました。

追伸、国家資格キャリアコンサルタントの方、事務局まで連絡をお待ちしております。


                   集合写真

(文責:政本)

第9回早稲田応用化学会シニア会開催報告

現在早稲田応用化学会シニア会は、早稲田応用化学会活動に参加してきたシニアの対象を(70歳以上)として開催致しております。第9回シニア会は新宿中村屋Grannaで12月17日(土)、25名が参加して開催されました。

コロナ感染の影響で実に3年間以上開催が見送られてきました。本年に入り世話人会で感染状況を注意深く見守りながら開催に向けた準備をして参りました。応用化学会100周年も来年に控え、第7波が終息した時点で開催可能と判断し会員に案内を致しました。直前で若干のご出席ご辞退はありましたが、25名が参集することが出来ました。大学関係者として、竜田邦明栄誉フェロー及び応用化学会元会長の西出宏之特任研究教授(新20)がお忙しい中、駆けつけて下さいました。

世話人でもある下井将惟氏(13)が司会を勤めさせて頂きました。先ず第8回懇親会(2019年10月6日)以降、この3ヵ年でご逝去された上田忠雄(旧32)、太田昭(旧25)、坪井彦忠(新15)、見並勝佳(新17)、中岡敏雄(旧17)、中川文博氏(新07)のご冥福をお祈りしシニア会として1分間の黙祷をさせて頂きました。

最初に河村宏氏(新9)の乾杯ご発声で懇親会は開始されました。ご挨拶では、本会の前身のグランドシニア会や本会シニア会発足の経緯をご紹介頂きました。グランドシニア会は20数回開催されたとの事で参加者一同認識を新たに致しました。そしてこのシニア会が末永く開催されることを祈念されました。

 

その後新たに会員となられました井上健氏(新19)、津田信吾氏(新22)よりご挨拶を頂きました。同じく新会員の黒田一幸先生にはご出席は叶いませんでしたが、ストックホルムで日本と北欧・バルト諸国との国際学術交流の発展にご努力されているというメッセージが案内されました。

その後食事やお酒を楽しみながら会員同士の歓談が各テーブルで盛り上がりました。3年間の自粛生活で限られた活動しか出来なかったので、応化役員として注力を傾けた当時の活性化活動や当時の思いその当時行った奨学金募金活動等の話しが各テーブルで盛んに交わされていました。

ここで監事でもあり世話人でもある河野恭一氏(新14)より来年度の応化会100周年に関する案内がA41枚にまとめた資料とともにありました。100周年式典や応化会給付奨学金の次世代展開に関して簡潔にご説明され会員諸氏へ協力が依頼されました。元会長の西出宏之先生からも関連して補足のご説明も頂きました。

 

引き続き各テーブルでは歓談が盛んに行われました。食事が終わると席も移動して久し振りの再開を喜びまた新たな歓談が続きました。世話人会では、現在も現役バリバリでビジネス第一線でご活躍されている大矢毅一郎氏(新14)、大林秀仁氏(新17)、西出宏之氏(新20)、里見多一氏(新22)、宮坂勇一郎氏(新26)に近況のご紹介も頂く予定でしたが、各テーブルであまりにも話しがはずんでいるので割愛と致しました。

久し振りのこともあり直接の歓談が尽きることは有りませんでしたが、里見多一氏(新22)に里見奨学金や早稲田応用化学会への思いも触れた締めのご挨拶を頂きました。あっという間にお開きの時間を迎えてしまいましたが記念の総合写真を撮影し、100周年式典での再会を約して散会となりました。

 

シニア会はシニア同士の懇親をあたためる場となっておりますが、応用化学会の発展をあたたかく見守り、影ながら支援するコミュニティとして存続できればと考えております。引き続き、よろしくご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

世話人:下井將惟(新13)、河野恭一(新14) 、河野善行(新25)
文責:世話役一同、写真:広報委員会 平中勇三郎(新14)

第41回早桜会懇話会(報告)

 第41回早桜会懇話会を2022年11月26日(土)に対面(中央電気倶楽部)とWEB(ZOOM)のハイブリッド方式にて開催いたしました。今回の講師には大阪大学の岡野泰則氏(新33回,平田研)をお迎えし、-化学プロセスと人工知能-という演題でご講演頂きました。

  人工知能の苦手なこと、人工知能の得意なことを先生の最新の研究成果も交えながらご講演して頂きました。人工知能とは膨大なデータを入力し、その時に得られた結果に対して関数を見出すことで、何か新しいデータを入力した時にその関数に基づいて結果を導き出すというものです。したがって内挿は得意ですが外挿については精度が高いとは言えません。

 シミュレーションと実験を組み合わせて研究開発を進めていく時に、従来用いられてきたCFDはテクニックが必要で誰にでも扱えるものではありませんでした。また計算に時間を要する為、実験しながらリアルタイムで計算結果を表示することは出来ませんでした。先生が現在開発されている人工知能系のソフトを用いた手法ですと、瞬時にしかも物理法則を満足した計算が可能であり扱いも容易です。数年後にはエクセルのように誰でも簡単に利用出来る時代が来るとのことで、実現すれば研究開発の現場は大きく変わるのでは無いかと思います。

 人工知能の話に加え、バルセロナ出張報告、早稲田大学での講義、日本について思うこと等、幅広くお話しして頂きました。中国の台頭、日本人に立ちはだかる英語の壁、コロナ渦での若者の状況等、課題は色々あります。しかし日本及び日本人の良い部分もたくさんあります。先生のお話しされていたことで個人的に非常に共感した部分があります。それはどうも昨今、日本人に自信を失わせよう失わせようという傾向が一部にあるのでは無いかということです。しかし日本人として世界に誇れるものはたくさんあります。理工系修士修了の人材のレベルが世界一だというのもその1つです。

 近い将来、人工知能が発達すれば労働力不足や言葉の壁の問題も解決していきます。また、世の中が便利になればなるほど、日本の基礎重視の考え方は結果的に強みになると個人的には思います。先生のご講演を通して色々と考えることがあり、大変有意義な2時間を過ごさせて頂きました。今回の懇話会の内容について日頃から考え、仕事にも活かしていきたいと思います。

   (文責:三品)

【出席者(16名):敬称略】

<現地>
津田實(新7), 加藤文義(新20), 岡野泰則(新33), 斎藤幸一(新33), 和田昭英(新34), 高田隆裕(新37), 數田昭典(新51), 澤村健一(新53), 古田武史(新61), 三品建吾(新59)

<zoom>
井上征四郎(新12), 市橋宏(新17), 田中航次(新17), 脇田克也(新36), 陳鴻(新59), 桜井沙織(新64)