月別アーカイブ: 2018年7月

第18回 先生への突撃インタビュー(関根泰 教授)

関根 泰 教授

「先生への突撃インタビュー」の第18回として関根泰教授にご登場願うことにしました。
今回も学生、現役OBにインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作を目指しました。関根先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。
関根先生のプロフィール: 1998年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了(工学博士)、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻助手、早稲田大学理工学部応用化学科助手、同・ナノ理工学研究機構講師、同・理工学術院応用化学科准教授などを経て、2012年より早稲田大学理工学術院教授(先進理工学部)。また、2011年よりJST(科学技術振興機構)フェローを兼務、石油学会論文賞、触媒学会奨励賞、日本エネルギー学会進歩賞などを受賞。

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

 ~入り口は修士1年で研究の面白さに目覚めたこと、次の転機は早稲田に移ったこと~

もともとは建築志望として大学を目指した学生でしたが、配属学科を決める時に化学しか行けない状況となり、比較的単純な分子であるメタンや水素などを扱う研究室に入りました。

あまり好きでない化学でしたので、学部で就職をするつもりでいましたが、たまたま奨学金付きで修士に進むことになりました。この修士1年で非常に面白い研究成果が出て、海外からも注目をされるようなことになり、この辺から前のめりに研究に取り組むようになりました。

これが研究に進む入り口としてのキッカケになったと思います。

博士課程から助手になりましたが、正直言って、今から思えば漫然と取り組んでいたと思える状況でした。しかし、所属している研究室が廃止になるという事を半年前になって外部の主任教授から聞かされ、青天の霹靂で慌てて就職先を探しました。

なかなか難しかったのですが、たまたま国際会議で菊地先生にお誘いを受け早稲田に来られることになったのが32歳で、これが第2の大きな転機になりました。それこそ背水の陣で、遮二無二取り組んできたというか、取り組まざるを得なかったことにより幅広く、何にでも深く取り組むという時期になり、いわゆる基礎体力が育まれました。 具体例としては、3つのアクションが挙げられます。一つは若手研究者の勉強会(大学横断的)、二つ目はベンチャーの立ち上げ、3つ目はイランとの資源外交への参画が上がられます。その一方で、イオニクスと電場という現在の柱となる研究の基礎も芽生え始めた時期でもありました。

 

技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

 ~「鳴かぬなら鳴かせてみよう」型の触媒をつくる~

固体触媒の性能を如何に引き出すか?のために、一つの方法としては固体の構造を綺麗(整理された形で)に歪ませるなどで、表面エネルギーを変化させるなどの方法や、二つ目としては吸着種が出来た場合に、外部から動かしてしまうという考え方で電場を与えるなどの新しい手法つまり積極的に分子を動かすなどの手法を使うことがポイントになります。これが「鳴かせてみよう」型の触媒のイメージです。測定法なども特殊な装置を工夫してオペランド測定、すなわち活きたままの触媒状態の観測を進めています。

・先生の研究理念を教えてください。

 ~化学の領域を限定せずに可能性を追求していきたい~

ライフワークとして水素を研究してきましたが、応用技術にも範囲を拡げて検討を深めており、再生可能エネルギーの貯蔵などにも研究の輪が拡がっています。研究を深化させると同時に、国の政策提言に関与したり、海外動向の把握や共同研究などを通して、俯瞰的な視野が必須であることも体感しており、何が必要でどこを向いて研究すればよいかのイメージは出来ているので、学際というか今まであまり研究が進んでいない領域で、自分たちが培った技術内容をベースに従来技術に限定せずに化学の領域を拡げながらのブレークスルーを目指しています。

・これからの研究の展望を聞かせてください。

 ~俯瞰の視野を大切に進めたいと思っています~

前にも触れましたが国レベルでの政策提言を長く続けていますので、方向性のイメージはかなり明確です。よって、それをどう研究に落とし込むかと言う流れで先々を読みながら研究を展開していきたいと思っています。いずれにしても、俯瞰的見方の重要性を多くの研究者や教育者と共有したいとも思っています。

・応用化学会への期待を聞かせてください。

 ~学生にとっては有意義な会~

8000人のOBOGが支えている会は素晴らしいと思いますが、若干中抜けになっていることが勿体ないと思いますね。特に30代から40代のOBOGと学生が上手く繋がりを持てるようになると、より素晴らしい会になると思います。

勿論、今でも学生にとっては非常に有意義な行事や繋がりがあるとは思っています。ヒトの早稲田を体現している会でもありますよね。

 

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。

 ~オリジナリティの高い学科~

小林久平先生の流れから派生してきた応用化学は、オリジナリティの高い学科として誇るべきものであるでしょうし、今、属している我々はそのオリジナリティを大切にしながらヒトの早稲田やその校風・精神の良さを最大限に活かしていきたいですね。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

 ~常に紙の新聞に目を通すような視野を広げる努力を~

研究に俯瞰的視野が必要なことを何度も繰り返してきましたが、海外にも目を向けて欲しいし、日本の良さを世界の中で確認して欲しいと思います。また、是非とも紙媒体の新聞を、毎日目を通すような努力を続けて欲しいと思いますね。

また、均質化された情報の蓄積だけになることを避け、積極的に新しい情報を取りに行くことや、アイデンティティやオリジナリティへの思いを大切にして欲しいと思います。

若い皆さんには、次の歴史を作る気概を持って、是非頑張ってください。

 

参考資料:

応用化学科 教員・研究紹介:研究者WEB紹介
http://www.f.waseda.jp/ysekine/index.htm

早稲田大学 特集 Feature Vol. 19(全4回配信)
https://www.waseda.jp/top/news/56052

早稲田大学 研究活動紹介https://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2017/07/dcf0145aba6d975906ee91d2519ee7d9-1.pdf

 

インタビュアー&文責: 武者 樹(学生広報班)、新谷 幸司 広報委員会副委員長(新34)、井上 健(新19回)

 

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第17回 先生への突撃インタビュー(山口潤一郎教授)

山口潤一郎教授

「先生への突撃インタビュー」の再開5番バッター(第17回)として山口潤一郎教授にご登場願うことにしました。
今回も学生にインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作を目指しました。山口先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。

山口先生は、2002年03月東京理科大学 工学部 工業化学科卒、2007年03月東京理科大学大学院 工学研究科 工業化学専攻修了、 博士(工学) 東京理科大学、2007年04月-2008年07月日本学術振興会海外特別研究員(海外PD)、2008年08月-2012年03月名古屋大学理学研究科助教、2012年04月-2016年03月名古屋大学理学研究科准教授、2016年04月-2018年3月早稲田大学理工学術院准教授、2018年4月より同大学理工学術院教授 となられています。また、2013年3月に日本化学会進歩賞、 2017年04月に文部科学大臣若手科学者賞、2017年07月にアジア化学連合(FACS)ディスティングィッシュ若手化学者賞 等を受賞されています。

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

 ~恩師の「有機って本当に面白いよね!」に引き寄せられましたね~

実は1-2年は余り勉強熱心ではなかったのです。3年で一念発起して勉強を始めたものの唯一必修科目の有機化学A(1年生の科目)の単位を落とし、留年となり研究室には入れませんでした。当時の興味は化学工学や物理化学の方面にあり、有機化学は単位を落としましたし、それほどではありませんでした。しかし、3年の時にゼミに参加をする機会を得、その後お世話になる林雄二郎先生の「有機って本当に面白いよね!」と熱く語る言葉が心に残り、結局その研究室を選んでしまいました。研究室に入って、有機化学のものづくりが楽しくなり、研究成果を出して世界に論文を出せるという流れにのめり込んでいきました。それでも当初は研究職でなく、人との交流や関わりのあるMR(医薬系営業職)になりたいと思っていました。しかし、修士1年時に夏の勉強会(多くの大学の修士から博士課程の学生がメインで参加)に参加した時に転機が訪れました。同世代の仲間との話では就職活動の話ばかり。研究職につきたいのに早く研究室を出たいだとか、研究が面白くないと言う不満。一方で博士課程の先輩方は自分の研究をどうしたいか、どれだけ面白いのか、研究に前向きに熱く語っているという対照的な姿を目の当たりにしました。そして、自分も研究は面白かったし、後者の博士課程の人たちのようになりたいと思ったわけです。同時に人との関わりもある教育現場にいたいと考えて企業の研究員ではなく大学教員を目指しました。

・技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

 ~ユニークさやクレージーさを大切にしたい~

分子レベルでモノづくりを出来るのは、合成化学者のみというスタンスは大切にしたいと思っています。一方で、当然、技術や知識を高めるのも必須ですが、機械的な繰り返しは今後AIを利用することによって人間が凌駕される可能性もあり得ます。それを考えると、人、研究者にしかできない方向性を追求したいと思っています。ある面では非常識な道筋を考えられるようにしていきたい。ただし、非常識と判断できることは、常識を十二分に熟知している必要があります。その延長線上のユニークさやクレージーさを大切にしたいと思っています。

一例としては、6置換ベンゼンを合成する際にチオフェンを原料にしてチオフェンを壊して6置換ベンゼンを合成するルートの開発を挙げることは出来ると思います。6置換ベンゼン(ヘキサアリールベンゼン)は学生実験でも合成できそうな化合物。ただし、6つ異なる炭素置換基(アリール基)を導入しようと思うと、既知の方法では不可能でした。一方で、我々の研究室ではチオフェンに異なる4つのアリール基を直接導入することはできた。チオフェンは4炭素なので、2炭素をぶつけてやれば6つの炭素からなるベンゼンができるわけです。つまりチオフェンを「壊して」ベンゼンをつくる。言われてみれば普通なのですが(常識)、機能の宿るチオフェン骨格を好き好んで壊そうという研究者はこれまでほとんどいませんでした(非常識)。それにより、前人未到の6つのアリール基が異なるヘキサアリールベンゼンを世界ではじめて作ることができたのです。

・先生の研究理念を教えてください。

 ~モノづくりを極める匠になりたい~

「分子レベルでのモノづくりを極めたい」というのが、一貫した考え方です。平たく言うとこの分野でのブラックジャックになりたいと思っています。標的さえ与えられればなんでもうまくつくれるといった人。どこの分野でも重宝されますよね。ヒトには不可能に思えるような効率的なルートの可能性を追求して、実験を繰り返しながら可能にする面白さを極めていきたいですし、最終的には匠になりたいと思っています。 匠と言いながら、専門の深化だけではなく俯瞰する広い見識も重要と思っています。

・これからの研究の展望を聞かせてください。

 ~未知の領域とのコラボレーションから成果を産みだしたい~

現状ではバイオロジーとのコラボレーションを中心に研究を展開しています。特に、化学的アプローチを殆どしていない学問領域とのコラボレーションは積極的に行いたいと考えています。ほとんどの現象が分子(集合体)との関わり合いですので、分子を設計できる合成化学者がその学問領域に興味をもてば、未踏の課題をすぐに解決できたり、現象を分子レベルで説明できるようになります。学際という中で、自分にしか考えられないような手法を開発したり、世界を変える分子を作りたいと思っています。そういう意味では、学会もそうですが他分野の学会や研究会にも顔を出し続けたいと思っています。

 
・応用化学会の活動への期待を聞かせてください。

 ~学生にとって素晴らしい機会~

OB・OGと先生および学生が一緒に活動できる会は珍しい会であり、これまでいくつかの大学を渡り歩いてきましたが、このような組織にはありませんでした。応化にいるひとにとっては普通なのかもしれないですが、普通ではないです。その存在の重要性を認識して欲しいと思います。特に、学生にとっては大変良い機会だと思います。 

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。

 ~次の100年に向けて足跡を残したい~

素晴らしい歴史であり、学ぶことも多いと思います。しかし、振り返ることも重要ですが、このまま早稲田にお世話になることとなると30年以上ありますので、100年の歴史を汚さないように、自分の役割を全うしたいです。次の100年に向けて新しい足跡を残したいと思います。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

 ~教育者としては、自分より優れた研究者を世に送り出したい~

自分としては研究のみではなく、教育者としてのスタンスも大切にしており、自分より優れた研究者や、リーダーとなれる人をできるかぎり多く世に送り出したいと強く思っています。また、情報化時代と言われていますが、情報の把握と発信が重要だとの認識は学生時代から思っており、ケムステーションという化学ウェブサイトを作り現状でも続いています。内容は添付資料に任せることにしますが。

学生にとっては、今はインターネットを調べれば詳細な情報に簡単にアクセス可能です。つまり、情報を集めやすい環境にもあるため、自分で集中して没頭できるような分野や領域を是非見出して欲しいし、それが見つかると更に面白くなる良い循環が出来る筈です。是非とも、自ら学べるような分野を見つけて欲しいですね。

 

 

参考資料:

 

応用化学科・教員・研究紹介

インタビュアー&文責: 村瀬菜々子(学生広報班チーフ)、井上 健(新19回)

 

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過去の突撃インタビュー

教室会員受賞

2018年度

2018-07-22掲載

堤 優也(応用化学専攻・本間研究室 M1)
電子情報通信学会
磁気記録・情報ストレージ研究専門委員長賞 2018年度

2018-07-2 掲載

真鍋 亮(先進理工学専攻・応化 関根研究室 D3修了)
先端技術大賞
フジテレビジョン賞 2018年度
高田 要(応用化学専攻・小栁津・須賀研究室 M2)
The 8th International Symposium on Polymer Chemistry (PC2018)
優秀ポスター発表賞 2018年度

2018-06-04掲載

引間 雅菜(応用化学科・本間研究室 B4)
電気化学会 第85回大会 ポスター賞
2017年度
2017年度の受賞ですが掲載しています。
鳥本 万貴(応用化学専攻・関根研究室 M2)
石油学会 最優秀ポスター賞
2018年度
福田 紘征(応用化学専攻・松方研究室 M2)
日本膜学会 第40回総会学生賞
2018年度
猪村 直子(応用化学専攻・平沢・小堀研究室 博士課程)
化学工学会
「Jouranal of Chemical Engineering of Japan]
 Outstanding Paper Award 2017
2018年度

 

 

2015

西出宏之先生お祝いの会 Gallery

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(写真:広報委員会 相馬威宣 他)

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西出宏之教授最終講義 Gallery

西出宏之教授最終講義 Gallery


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(写真:広報委員会 相馬威宣 他)

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西出宏之教授記念会 gallery

第32回交流会講演会の報告

講演日時:2018年6月30日(土)15:30~18:00(学生代表とのパネルディスカッションを含む)
講演会場:57号館2階201教室  引き続き63号館1階ロームスクエアで懇親会を実施
講演者:小野崎正樹氏 一般財団法人 エネルギー総合工学研究所 研究顧問
演題 :『シンクタンクのお仕事』
副題 : -研究から政策立案まで-

町野交流委員長の開会宣言、橋本副会長の講師紹介や略歴紹介等を含む開会挨拶の後、教員・OB/OG・講演会関係者40名、学生36名、合計76名(来場者ベース)の聴講者を対象に講演が始まった。

なお、講師からは事前にプレゼンテーション資料を記録した電子ファイルを提供して頂いた。講演は基本的にこのプレゼンファイルの内容に沿って行われ、以下に記載した講演の概要は、作成に当たりこのプレゼンファイルの利用もさせて頂いた。このプレゼンファイルは応化会HP内の資料庫(入室にはパスワードが必要です)に格納されているので、是非参照して頂きたい。

<講演の概要>

1.シンクタンクとは

まずシンクタンク(英語: think tank)という言葉の定義であるが、「諸分野に関する政策立案・政策提言を主たる業務とする研究機関」(出典;Wikipedia)である。

小野崎正樹講師

また、ニッセイ基礎研究所 経営企画部 鈴木慎司氏によれば「さまざまな領域の専門家を集めて諸種の調査・研究を行い、政策への提言などをしている研究機関」を指す。米・ペンシルバニア大学ローダー・インスティテュートのシンクタンクが毎年発表する『世界有力シンクタンク評価報告書』によれば、世界でシンクタンクの数が最も多い国は米国で1815機関を有し、日本は第9位で103機関がある。また同報告書によればエネルギー・資源政策分野のシンクタンクにおいて、世界のTop 10のうち2つが日本のシンクタンクである。(日本エネルギー経済研究所、及び慶應義塾大学大学院 理工学研究科 解放環境科学専攻 環境エネルギー科学専修)日本のシンクタンクについては、1970年頃から高度成長期を迎え、社会的に問題を研究する機関が求められた。系列で分類すると企業系、政府系、財団系、その他各種あるが、私が所属するシンクタンクは財団系である。因みにコンサルは「客先の課題を解決する」、シンクタンクは「社会・経済・技術の調査・分析・研究を通して問題解決、将来予測、政策提言を行う」という違いがある。

私は1975年に理工学研究科修士課程を修了して千代田化工建設株式会社に入社後、排煙脱硫装置、重質油の直接脱硫装置、石炭液化パイロットプラントの設計、建設に関わるプロセス設計等に従事してきた。その後2000年に一般財団法人 エネルギー総合工学研究所に移り、エネルギー技術戦略、プロセス開発、火力発電や石炭ガス化を始めとする各種調査研究等を行い、現在に至っている。当シンクタンクは総合工学の視点に立ち、産・学・官の連携の下、幅広いエネルギー分野の調査研究を実施している。例えば風力発電の予測情報に基づく制御技術を用いた圧縮空気エネルギー貯蔵システムの実証試験を、当シンクタンクとNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、及び早稲田大学で協力して実施中である。

私としては、石油精製、石炭液化の設計・建設の業務経験が、非在来原油の調査や石油動向調査に役立ち、また新規プロセスの構築、概念設計、経済性評価においても役に立った。また、エンジニアリング会社での業務経験や留学経験は、エネルギー技術の把握や海外での業務遂行に役立った。

2.半端でない海外

海外では下記のような検討業務や調査を行った。

1)インドネシア

炭鉱で鉄鋼用コークス製造バインダーの製造技術を検討した。また、バイオマスの利用調査を行った。

2)中国

沿岸部から離れた産炭地では鉄鋼用コークスを製造し、その時に発生するコークス炉ガスからメタノールを製造している。メタノールはガソリンと混合し、車の燃料としている。沿岸部と西部の違いを理解。

3)中央アジア

ウズベキスタンやキルギスタンの旧ソ連製発電所改修などを検討した。余りの古い装置に愕然。

4)オーストラリア

メルボルン郊外の褐炭の有効利用を検討した。空から見た露天掘り炭鉱の規模に圧倒される。

5)パキスタン

東部には未開発の石炭が多量に賦存している。この石炭の有効利用を検討した。セキュリティーの確保が重要。研究所の所長や大学の学部長が女性であることに驚き。

上記のような業務を海外で行う中で、日本国内と比べて政治、経済、文化、自然環境等における違いから国内では有り得ないような経験をすることがある。

3.研究開発

1)次世代火力発電技術

会場

  • 高効率化、低炭素化の達成手段として、LNG火力では超高温ガスタービン複合発電、及びガスタービン燃料電池複合発電が計画されている。一方、石炭火力では石炭ガス化複合発電(IGCC、CO2約2割減)、及びIGFC(CO2約3割減)が研究されており、これら技術のロードマップの策定を行ってきた。
  • 同様に、次世代のCO2回収関連技術開発のロードマップも策定してきた。
  • 更には燃焼とともにCO2回収を同時に行うCO2分離型化学燃焼石炭利用技術(Chemical Looping)の開発を実施してきた。

2)ソーラーフューエル

  • 1990年代から、再生可能エネルギーを用いて低炭素燃料製造を模索している。
  • 2000~2004年度にNEDO/METI(経済産業省)から当シンクタンクが受託し、産業技術総合研究所、東京工業大学、RITE(地球環境産業技術研究機構)、東洋エンジニアリング株式会社等と実施 した。

3)CCU (Carbon Capture and Utilization)

  • 再生可能エネルギー(変動電源)、石炭利用産業、及び火力発電(ベースロード電源)の各分野が連携することにより、CO2の有効利用システムを構築することが出来る。特に、豪州など、太陽電池による電力が安価な地域との連携が重要。

4.超長期エネルギー技術戦略

小野崎正樹講師

1)2005年には、2100年までのエネルギービジョンの策定を目指して、超長期エネルギー技術戦略プロジェクトを実施した。

2)2100年スパンで見た資源制約として、2060年頃に石油生産量がピークを迎え、2090年頃に天然ガス生産量がピークを迎える。また同スパンで見た環境制約として、CO2排出量を、2050年;現状程度、2100年;現状程度以下に抑える必要があるとした。世界のGDPの伸びを考慮すると、CO2/GDPを世界全体で、2050年;1/3、2100年;1/10以下となる。2005年の時点では画期的な発想であった。

3)持続可能なエネルギー需給構造に裏打ちされた社会を実現するための鍵となるエネルギー技術について、2100年までの長期的視野から、地球的規模で将来顕在化することが懸念される資源制約、環境制約を乗り越えるために求められる技術の姿を描き出した。

4)これには、①リスク増大の連鎖を断ち切る技術、②制約克服のための連鎖から脱却する技術、③エネルギー需要に係る連鎖を断ち切る技術、が必要となる。

5)技術は下記の3つの極端なケースに分けてそれぞれの特徴を考察した。

ケースA:石炭等の化石資源とCO2回収・隔離の最大利用ケース
ケースB:原子力の最大利用ケース
ケースC:再生可能エネルギーの最大利用と究極の省エネルギー実施ケース

実際には上記の3つのケースが融合した社会がイメージされるが、各ケースの評価、組み合わせは今後の情勢等によって変わり得るものであり、技術的な備えとしては、将来の各時点における社会経済情勢、技術の進展状況等を見つつそれぞれの開発を進めてゆくことが重要である。

6)超長期エネルギー技術戦略として、下記のような方向で各種ロードマップを描いた。

産業分野のロードマップ (5.これからの絵姿 でも紹介)
民生分野のロードマップ ― 省エネ及びエネルギーマネージメントにより自立化
転換分野のロードマップ ― ゼロ・エミッション・エネルギー供給
運輸分野のロードマップ ― 自動車はゼロ・エミッション化

5.これからの絵姿

1)応用化学科の松方教授、関根教授も参画した、内閣府「ボトルネック課題研究会」;CO2利用に当たってのボトルネック課題及び研究開発の方向性 において、「エネルギーレベルの低いCO2から上記中間物質を合成するためには水素源及びエネルギー源としての「水素」が必要」との方向性が示された。

2)シンクタンクから見て、化学分野で行うべき項目について、下記の2つを指摘したい。

①高付加価値製品を産み出す(素材の高機能、高性能、高強度化)
②サステイナブル・カーボン・サイクル(資源循環、物質再生、CO2有効利用)

<質疑応答>

講演終了後、聴講者からの質問を受け付け、2名から質問があった。

[質問者1] 今まで経験してきた業務に関し、その発端となったのはシンクタンクとしての自発的な方針からか、あるいは何らかの要請を受けてのものなのか、との問いに対し、その両方があったとの回答が講師からあった。

[質問者2(野田教授)] プレゼン資料のP.62に記載されたグラフに関し、一次エネルギーと二次エネルギーの観点から講師との間で質疑応答がなされた。

<パネルディスカッション>

パネルディスカッション

学生主催のパネルディスカッションの内容については、学生委員会のページに掲載されています。下のボタンをクリックしてご参照ください。

 

 

<懇親会>

パネルディスカッションの後、会場を63号館1階ロームスクエアに移して懇親会を開催した。(懇親会参加者;教員・OB/OG・講演会関係者31名、学生33名、合計64名)

安達交流委員の司会のもと、応用化学会西出会長の挨拶と乾杯のご発声の後、懇親会が始まった。

交流会講演会後の懇親会では毎回見かける光景であるが、講師を囲んで、あるいはシニアOB/OG、現役OB/OG、教員、及び学生が入り混じっての懇談の輪が会場のあちこちに開いて、盛大な懇親会となった。会場内の学生の中には就職先がコンサル系の会社に内定し、その関係で今回の講演会に興味を持ち、参加したと言う人がおり、主催者側としても今回の講演会を開催した意義を感じ取ることが出来た。また、都合により講演会には参加不可であったが懇親会には参加出来て懇談の輪に入り、後片付け等を手伝ってくれた学生もおり、止むを得ない事情があればこうした学生も参加可であり歓迎したい。

関谷交流副委員長の中締めと閉会の挨拶の後、神守次期学生委員長の一本締めにて解散となった。

〔文責:交流委員会〕

 

2018交流講演会 講演・パネルディスカッション会場

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