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答辞 応用化学科四年関根研 ハルジョウィノト ダニー

答辞・関根研ハルジョウィノト ダニー君

雨が多かった今回の冬でしたが、次第に寒さが緩み、柔らかな春の訪れが感じられる季節となりました。本日は私たち卒業生のために先生方やご来賓の皆様のご臨席を賜り、このような盛大な式典を開催していただきましたことに卒業生一同心より御礼申し上げます。
私たちは4年前に早稲田大学先進理工学部応用化学科に入学し大学生活をスタートしました。その時はまだ周りの誰一人として知らず、早稲田大学の校歌も恥ずかしげに歌った記憶があります。入学したばかりの私たちは後悔のない一生に一度の大学生活を送りたいと期待と共に不安を抱いていました。
1年次は個性豊かな先生方からの数多くの講義を受け、クオリティの高い授業で忙しい毎日を過ごしました。最初はこのような忙しい一年次の生活を乗り切っていけるかどうか不安を抱きました。
1年次を乗り越えたことで、2年次になった私は大学生活のコツを掴んだと思いましたが、応用化学科のカリキュラムは甘くありませんでした。講義の数が減る一方専門分野の実験が増え、特に実験やレポートに慣れていない私は、時にくじけそうになることもありました。折り返し地点の3年次では将来を大きく左右する人生の岐路に立ちました。化学のどの専門分野について掘り下げて学んでいくかを問われる研究室選びがありました。そして進路の決定もありました。正解が定かではない選択肢であり悩みに悩んで 覚悟を決めて選ぶことは、想像以上に難しかったと言えます。いよいよ研究室での生活が始まる4年次、研究者に一歩近づいた気がしました。それまでの修学のための実験とは異なり、一つのテーマについての解を求めて長い期間を費やす初めての経験であったと思います。一つの事実を導き出すために多くの失敗の繰り返しが必要であることを改めて思い知らされました。この四年間を振り返ってみると実験を踏まえたしっかりとしたカリキュラムで育てられ、今となって考えれば研究者になるためには、その全てが必要でした。息苦しさを感じる日々もあり、一人では決して成し遂げられなかったと思います。時には助言を、時には温かい励ましをくださった先生、先輩、仲間がいたからこそこうして乗り越えることができました。
4年間が経ったこの卒業式で周りを眺めますと、知らない人ばかりであった大入学式とは異なり、ここにいる卒業生全員は仲間です。この4年間を一緒に過ごした大切な仲間です。これからはそれぞれが異なる道を歩むことになりますが、これからもお互いに支え合い、苦しい時に際しても励ましてくれることでしょう。私たちは歴史ある応用化学科の卒業生としての自覚と誇りを持ち、「役に立つ化学、役立てる化学」という応用化学科の精神を胸に刻み、様々な角度から社会に 冒険していきたいと思います。
そしてインドネシア出身の外国人としてこの4年間分け隔てなく温かく接してくださった優しい最高の同期に恵まれて、同期の皆様に感謝の意を申し添えます。今後はさらに精進を重ね、母国と日本の架け橋となることをお約束します。最後になりますが今日までご指導ご支援をいただきました先生方、職員の皆様、互いに励まし合ってきた友人達、そして何よりどのような時にも一番 近くで支えてくれた家族に心より御礼申し上げます。
茲に改めて、早稲田大学および応用化学科の益々の発展と、皆様のご健勝、ご活躍を願い、答辞とさせていただきます。
   
          平成31年3月26日 

早稲田大学先進理工学部応用化学科     
卒業生代表 ハルジョウィノト・ダニー

送辞 応用化学科三年 田中亮祐

送辞 在校生代表 田中亮祐君

麗らかな春の気配に花時を迎え、その様は新たな世界へと旅立つ皆様を象徴しているように感じられます。本日この佳き日に、晴れて早稲田大学を卒業された皆様、並びに大学院を修了された皆様に、在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます。
 今、先輩方の胸の内では、この早稲田の杜で積み重ねた幾多の思い出が去来していることと思います。友人と協力し合い試験に臨んだこと、時を忘れて高田馬場でひたすら飲んだこと、そしてレポートに追われ徹夜で仕上げたこと。何気ない日常生活、当たり前のように過ごしていた日々の思い出・経験は、先輩方にとって歳月の流れとともに、かけがえのないものとして胸に刻み込まれていることでしょう。
 思い返せば、私の大学生活にはいつも先輩方の姿がありました。実験の際にはTAとして、右も左もわからぬ我々に親身になってご指導くださりました。サークル・委員会活動では苦楽を共にし、時には大学での人間関係に関して一夜語り明かすこともありました。まるで陽だまりのような存在である先輩方が本日ご卒業を迎えられることに祝福の気持ちを表すると共に、ふと一抹の寂しさを感じます。
  “集まり散じて人は変われど、仰ぐは同じき理想の光”。これまで同じ一時を過ごしましたが、今日という日を境に異なる旅路に歩みを進めることとなります。私の大学生活の根幹には先輩方の支えがあり、今日まで歩んで来ることができました。今度は我々在校生が後輩たちを支えられるよう、良き道しるべとなるよう、しっかりと先輩方から早稲田の精神を引き継いで参ります。
 大隈候は、早稲田大学創立三十周年祝典において教旨を宣言し、その中の一つに”学問の活用”を以下のように述べられています。“学問の活用を主とし、独創の研鑽に力めその結果を実際に応用する”。めまぐるしく変化するこの世界情勢、平坦な道のりではなく多くの壁に立ち向かうことになると思います。しかし、知識としての化学だけにとどまらず、ここ応用化学の学び舎で培った「役立つ化学、役立てる化学」の理念のもと、熱い情熱を創造の糧にし、荒波にも負けず、幅広い分野でご活躍されることと信じております。
 最後に、皆様方のご健康とご多幸を在校生一同心からお祈り申し上げて、送辞とさせていただきます。

平成31年3月26日     

在校生代表  田中亮祐

応用化学科褒章 受賞者挨拶

受賞者挨拶 応用化学科4年 濱村咲妃

 この度はこのような映えある賞をいただき、誠にありがとうございます。先生方や先輩、そして同期の助けなくしてこのような機会はなかったと思いますので、大変感謝しております。
 私は、学部1年生から3年生の間は、授業後によく先生やTAの先輩方に質問に行っていました。どの方も親切に応じてくださったおかげで、授業内容への理解を深めることができました。
 4年生になり、卒業研究が始まると、ほぼ休みなく研究室に通い、実験、そして考察をしては先輩と毎日のようにディスカッションをし、論文を読んでまた新しいアイデアを出すということを繰り返すようになりました。
 私は大学院で学部と異なる研究室に行くので、学部での研究は1年間しかできなくて、だから必死でした。
 卒論を提出した後もどうにか今の研究が形に残らないかと試行錯誤を続けていました。
 しかし、現実は厳しいです。
 研究は形にすることがいかに難しいか、また、形にならずに消えてしまうものがいかに多いか、を実感しました。
 そんな中でもめげずに実験を積み重ねて何かを世に発信しようとする先輩方や同期の努力は本当にすばらしいと思いました。
 最後に、様々な方面で活躍している個性豊かな同期へ、とても刺激になり、モチベーションとなりました。ありがとうございます。
 また、たくさん相談に乗ってくださった先輩方、授業での質問に親切にお答えくださった先生方へ、ここで学んだことを糧に、精進して参ります。
 皆様に、厚く御礼申し上げます。

平成31年3月26日             
早稲田大学先進理工学部応用化学科  
濱村咲妃

濱 逸夫 応用化学会副会長 祝辞 

濱逸夫早稲田応用化学会副会長

皆さん、ご卒業おめでとうございます。またご家族の皆さまにおかれましても感無量のことと存じます。心からお祝い申し上げます。

応用化学会副会長としてお祝いの言葉を述べさせて頂きますが、先程ご紹介がありましたように、私は現在、歯磨や洗剤、あるいはライオンちゃんでおなじみのライオン株式会社の会長をしております。昨年まで7年間社長をしておりましたが、本年1月より会長として会社経営に携わっております。明後日が丁度株主総会でありますが、本日は是非皆様にお祝いを申し上げたいとの思いで、こちらに馳せ参じました。

以前は大学を卒業し、良い仕事につくことが、一つの人生のゴールでありましたが、今は授業料を払う生活から、お金を稼ぐ生活へのひとつの転換点であり、ゴールと言うよりも、先の見えない、新たな挑戦へのスタートと言った方が適切かもしれません。私共の会社にも、実に様々なキャリアをもつ新入社員が入社してきます。以前は新人研修や合宿でライオンウェイを叩き込み、如何にしっかりと均質な社員を育てるかが重要でした。しかしながら、現在は多様なキャリアや個性をぶつけ合い、かつ融合させながら、新たな価値を創造し、スピーディに実現していくかが重要視される時代です。更にデジタルトランスフォーメーションやグローバリゼーションの中では、破壊的なイノベーションが至る所で生まれており、常に人も組織も変容を繰り返しながら成長して行かねばなりません。

 こんな話をすると、折角大学で勉強したのに、実社会でどうすれば良いか判らないと思うかもしれません。しかしながら、先日ある著名なデータサイエンティストと話をしておりましたら、今のような時代にも、社会で成功する為の一つの方程式があるとのことでした。またそれはデータサイエンス的にもロジカルに証明されているとのことでした。様々な成功者の行動パターンを分析すると、自分の周囲に三角形の人の繋がりをたくさん持っている。この三角形の人の繋がりが多いほど、成功の確率が上がるとのことでありました。

自分があるAさんと繋がり、そのAさんの知人であるBさんと自分自身が繋がる、こんな三角形の繋がりをたくさん持っていること、そしてその三角形も出来るだけ多様なジャンルの繋がりをもつことが、社会に出て、様々な課題をブレークスルーし、成功に結びつける確率を最大化させるようです。昔から人生は運だとか言われていますが、もしかするとこれも沢山の繋がりを持った人が運の良い人と言われていたのかもしれません。そして、そんな運の良い人になるためには、自分自身も人に繋がりを持ちたいと思わせる、魅力的な人に成長しなければなりません。
 今日ここにいる皆さんも、企業に就職する人、大学院でもう少し学生生活を続ける人、あるいは全く別のキャリアを目指す人等、様々な人がいらっしゃると思います。
卒業という新たな挑戦のスタート。自分自身の、多様な人との三角形の繋がりを広げる最大のチャンスです。夫々が持っている様々な魅力や興味を武器にして、夢と情熱とフットワークで、素晴らしい成功のネットワークを築いてほしいと思います。
そして早稲田人の繋がりと言うのは、これからの皆さんのネットワークづくりの貴重な財産、苦しいときの味方にもなります。そのことに応用化学会も最大限のお手伝いをしたいとも思っています。

これまで皆さんの多くは、ご家族や能力にも恵まれ、挫折という言葉を知らずに生きてきたと思います。しかしこれからの人生では、思いもよらぬ、様々な環境変化が降りかかります。逆境の時も、常に前向きに、アクティブに、そして常に心を揺さぶり、いつもワクワクしながら、自分自身で設計図を描き、成長してほしいと思います。
 これからの皆さんの素晴らしい人生を心から祈念して、甚だ簡単ではありますが、私からのお祝いの、そして応援のメッセージとさせて頂きます。
本日は、本当におめでとうございました。

                             以上       

第20回 先生への突撃インタビュー(門間 聰之 教授)

「先生への突撃インタビュー」の第20回として門間教授にご登場願うことにしました。
今回も学生、現役OB/OGにインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OB/OGの3者による合作を目指しました。門間先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。
門間先生のプロフィール:1990年、早稲田大学理工学部応用化学科卒。 1995年、早稲田大学院博士後期課程修了。同大学理工学部応用化学科助手、米国ミネソタ大学の博士研究員を経て、早稲田大学に赴任。2010年より早稲田大学理工学術院 准教授。2014年より早稲田大学理工学術院 教授。 2001年に、電気化学進歩賞・佐野賞、2007年には「Electrochemical Communication Award 2007」を受賞。

・先生の現在に至るまでの足跡をお話頂けますか?
     
~科学には継続して面白さを感じていました~

小学生の頃は理科好きの子供で、時計を分解して遊んだり、当時出始めのLEDで遊んでいた記憶があります。高校になると物理と数学が好きだったと思います。理屈がわかれば、今までわからなかったことを証明できたり、確定できる面白さを感じていました。大学では化学を中心に学ぶようになりましたが、分野としては、化学工学や電気化学に大きく興味がありました。大学3年生の時に、これから深く勉強し、自分が身に着けるべき化学として、物理化学、特に電気化学を遠い将来にも必須の領域と感じて選びました。修士へは自然の流れで進みましたが、博士課程には研究が非常に面白いと思うようになると同時に、自分で決めたテーマを研究したいという思いを大切に進みました。更に、ドクターを取得したら海外で修業をしたいという思いもあり、1年間助手をした後に米国・ミネソタ大学に博士研究員として行き、その後早稲田大学に赴任して現在に至っています。研究内容は、学生時代は電池を中心に、またセンサー分野にも関わり始め、加えて、デバイスの種類を超えて、電気化学分析として電気化学反応のインピーダンス解析に注力して研究を進めています。

先生の専門の中で大切に思われているポイントなり、スタンスなりをお聞かせください?
     
~端的に言えば面白いから深堀したいし、人の役に立ちたいという思いです~

電気化学が好きで色々と研究を進めてきていますが、化学反応の中でも有機や無機といった扱う物質で分野を限定するのではなく、電子のやり取りを取り扱う領域としての電気化学を扱っています。基本的には界面反応で不均一反応であり、物質移動も関わります。電気的数値をオンタイムで測定できるという面もあり、非常に面白い領域だと思っています。応用面では、自分の得意領域である電気化学解析を取り入れたセンサー等への応用展開にも取り組んでいます。電気化学の特色を簡便に纏めてみると、化学反応の基本である酸化・還元反応を、電極を使うことで分離して評価できるというのが素晴らしいことだと思っています。

・先生の最近の動向や展望に関するお考えをお聞かせください。
     
~情報化時代を含めた現代社会への応用展開を進めたい~

現在、情報化の加速度的な進展でIoTなどが期待されていますが、インプットされる情報は物理的センサーの応用が先行しています。これでは限界がありますし、不十分だと思っていますので、化学や物理化学が組み込まれた、より高度なものに進展させたいという思いがあります。化学物質と電気エネルギー/シグナルを直接変換できる電気化学は、化学センサーに非常になじみが良いと考えています。具体的な一例としては、尿、汗、唾液などから病気や人の状態を測定できるようなセンサーの開発などが挙げられます。疾病のマーカー物質やアレルギー、ストレス状態などを測定できるセンサーなどが、体温計のように簡単に測定でき、その情報がIoT等の活用で疾病の超早期発見につながればと思っています。物質面だけでなく、こういったサービスでQOLの向上にも寄与出来たら良いと思います。これらの研究を通して、電気化学の学問領域を拡充したいという思いも強いです。

 ・関連質問として、異分野に対する取り組みは、どうでしょうか?

興味があればなんでも、調べたり、詳しそうな人に聞いたりしています。自分の関わっている領域では、しっかりとした基本を身に着けておくのがまず大事ですが、興味が湧けば周辺領域も知識を得て、また面白そうなことは取り組んでみるという姿勢が重要だと思っています。個人的には、化学に関係のあまりないようなことも、自宅では時間のあるときに実験や工作をしてみたりしています。

・応用化学会への期待を聞かせてください。
     
~もっと敷居の低い、会員家族が楽しめる企画があっても良いかと~

応用化学会は素晴らしい会だと思いますし、活動にも感謝をしています。自分も会員の一人と思っていますが、一卒業生としては、催事に関してはもう少し敷居の低い、参加対象の広い、会員の伴侶や子供たち家族も楽しめるような企画も良いのかな、と思う時があります。

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
~自分を育ててくれた学科で、これからはそのように思う学生を多く輩出したい~

応用化学科は、自分を成長させてくれた大切な場であると思っています。その面では感謝の気持ちが強いですが、今の立場で言えば、これからの学生が同様に「育ててくれた」と感じてくれるように携わりたいと強く思いますし、楽しんで過ごして欲しいと思います。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
     
~目先にとらわれずに、長期の夢や希望を持ち続けられるように~

研究の面白さや、面白いから研究を続けていることを話してきましたが、学生の皆さんにも是非とも自分の夢を追い続けるようにして欲しいと思います。目先の利益や安定、安心を求めるばかりでなく、長期にわたって追い続けられるような夢や希望をもって生きて欲しいと思います。また、折角化学を学んできたのでそれを活かして欲しいという思いもあります。

参考資料:

インタビュアー&文責: 
佐藤 由弥(学生広報班)、西尾 博道(学生広報班)、新谷 幸司 広報委員会副委員長(新34)、井上 健(新19回)

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過去の突撃インタビュー

2018年度 応用化学専攻褒賞・奨学金授与式

司会:小堀 深 専任講師

 

3月7日木曜日、少し早い春の長雨が降り続く中、応用化学専攻褒賞・奨学金授与式が小堀深専任講師の司会により挙行された。若尾真治先進理工学研究科長の祝辞で始まり、水野賞・水野敏行奨学金、応用化学会給付奨学金、中曽根荘三奨学金、里見奨学金森村豊明会奨励賞の5つの褒賞・奨学金授与式が行われた。 22名の受賞者は、賞状を各代表者より直接渡され、緊張の面持ちの中に将来への自信のようなものが垣間見られた。

祝辞 若尾真治先進理工学研究科長

水野家代表、元応用化学会会長の河村宏様をはじめ、応用化学会副会長の橋本正明様、里見奨学会事務局長の田部修士様より受賞者を鼓舞する大変ありがたい祝辞を頂いた。また本年度より森村豊明会奨励賞が新設されたが、出席された森村豊明会の森村潔理事より、お祝辞と共に奨励賞新設の経緯が紹介された。応用化学科100周年を記念し、100年前の応用化学科設立の際多大な貢献をして頂いた森村豊明会と再び繋がることができ、その歴史的な意義に改めて深い感銘を受けた。  

最後に、水野賞受賞者の齋藤祥平君が、受賞者代表として御礼と今後の抱負を述べ約40分の式は閉会となった。

受賞者挨拶 齋藤 祥平君

 記念講演会では、東京大学の吉田亮教授から「インテリジェントゲル」に関する大変興味深いお話を聞くことができた。吉田先生は26年前に水野賞を受賞された我々の先輩でもある。講演では、吉田先生が大学院時代の恩師より受けた言葉を胸に、ゲルの世界を大きく展開していくお話に久しぶりに心が躍る思いがした。研究とは面白いものだということを再認識でき、特に聴講した受賞者には響いたのではないかと思う。

東京大学の吉田亮教授

 その後のポスター発表会では、参加者の活発な議論が展開されたが、受賞者同士がお互いの研究について熱く語り合っている姿が特に印象に残った。上からのアドバイスももちろん必要だろうが、横の繋がりから思わぬヒントも得られたのではないかと嬉しくなった。

Poster Session

 学科主任の門間教授の挨拶で始まった懇親会では、引き続き研究の話で盛り上がる場面もあったが、研究室での生活に関してや、今後の進路について忌憚のない意見交換がなされ、密度の濃い時間を過ごすことができた。

 受賞者の益々の発展を期待すると同時に、これだけ多くの褒賞・奨学金を独自に持つ応用化学専攻・応用化学科の力強さを改めて感じた一日であった。

(文責:広報委員会)

 

橋本副会長祝辞

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橋本応用化学会副会長

各賞受賞の皆様、本日は誠におめでとうございます。
早稲田応用化学科には、先輩諸氏の寄付により大変充実した奨学制度があり、その制度は途切れることなく現在も運用され続けております。また本年からは応用化学科設立時にも大きな御支援をいただきました財団の森村豊明会よりの奨励賞も戴けることになりました。応用化学科で学ぶ学生諸君にとっては大変恵まれた環境が整えられていると言うことが出来ると思います。
本日、授与式が行なわれた水野敏行奨学金、里見奨学金、中曽根奨学金、森村豊明会奨励賞、応用化学会給付奨学金、こうした多くの賞はそれぞれ熱い思いを持った個々の先輩諸氏や高い志による財団からの寄付によって成り立っています。
本日受賞された皆様は、こうした先輩や財団の思いをしっかりと受け止め、心して勉学、研究に取り組んでいただきたいと期待しております。
ところで、我が国の状況を振り返って見ますと、明治以来高度な科学技術を推進力として国力を高めてきたといえるでしょう。敗戦後も多くの人々の力でこの高度な科学技術力の向上に努めて来ました。そしてこれが現在の日本の繁栄に繋がっています。
しかしながら、今週月曜日の参議院予算委員会でも議論されておりましたが、日本の科学技術の研究活動には近年基盤低下の傾向が見られます。たとえばNSFによる科学技術論文の発表数では、2003年に世界2位であった日本は、2013年には3位、そして2016年の順位はどうなったかと申しますと、1位が中国 、以下、2位アメリカ、そしてインド、ドイツ、イギリスとつづいて、日本はようやく6位という状況になってしまいました。こうした傾向は論文発表数だけでなく、被引用論文数や、国際共著論文数でも同様で、それぞれで順位を下げております。
特に日本のように資源立国を望めない国にとっては、強い科学技術力を立国の基盤として維持することがどうしても必要になります。そういう意味で最近の科学技術研究における基盤低下の傾向は、かなり深刻な状況と言えるでしょう。
さらに加えて、これから団塊の世代の高齢化が深刻化してまいります。社会で活躍する世代の人口比率が下がっていく日本の状況を考えますと、価値を生み出す効率がより高い領域、例えば科学技術力を強化するといった領域に資本や努力を集中することが大切になるでしょう。そういう意味で、博士課程における研究活動の充実ということの重要性はますます大きくなっていくはずです。
皆様は、化学技術における最高の学問を学ぶ場でその研究の先端を進むことになるわけですから、どうか志を高く持ち続けて、国の期待や要請、そして先生方や先輩方の熱い思いを自分の思いとして、今後の研究生活に邁進していただきたい。そして大きな成果を挙げられることを心から期待しております。
最後になりますが、早稲田の応用化学科には、それぞれの夢を、世代から世代につないで育てて行くという伝統があります。今度は皆様が、やがて自分達の成果を持って、その夢を後輩につないでいくことになるでしょう。
皆様が、自分の成果に誇りを持って、この応用化学会を通して後輩達をサポートして下さる日が来ることを切に期待してお祝いの挨拶とさせていただきます。

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受賞者代表挨拶

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齋藤祥平君 代表挨拶

この度、応用化学専攻より水野賞を授かることとなり、身に余る光栄と深く感謝しております。早稲田大学に入学してから学部・大学院を通して九年間、応用化学科で様々な学問を学んできましたが、このような栄えある賞をいただけましたのは、日々の研究のご指導を賜りました黒田一幸教授はじめ、化学の面白さや奥深さをご教授いただきました応用化学科の諸先生方のご厚情の賜物であり、厚く御礼申し上げます。

水野賞、水野奨励賞および水野敏行奨学金は、応用化学科第二回卒業生である水野敏行様のご遺言を基に、ご遺族の方からの寄付金より設立されたと伺っております。私は、学部四年時より黒田教授の下でケイ素と酸素を構成単位とするシリカ系材料の精密合成に関する研究を進めて参りました。そのなかで、二〇一五年に水野敏行奨学金を戴き進学し、この度博士号の取得に至り水野賞を賜ることができました。このような栄えある賞を戴けたことは私にとって大きな励みとなっております。今春より、早稲田を離れ研究の場を移しますが、これらの経験を糧にさらに邁進して参る所存でございます。

最後に、水野賞、水野奨励賞、水野敏行奨学金、応用化学会給付奨学金、中曽根荘三奨学金、並びに本日ご来賓のご臨席を賜りました里見奨学会様、森村豊明会様に受賞者・受給者を代表し、深く感謝申し上げます。受賞者一同、早稲田生としての誇りを胸に、今後の科学技術の進展に貢献できるよう、より一層の精進をして参りたいと存じます。

二〇一九年三月七日

早稲田大学大学院先進理工学研究科
応用化学専攻 博士後期課程三年
受賞者代表
齋藤祥平

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2018年度応用化学専攻褒賞、奨学金受領者

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水野賞受賞者  
  齋藤 祥平 君
    Controlled Connection of Cubic Siloxanes for Precise Synthesis of Silica-Based Nanomaterials
     
  佐藤 尚人 君
    かご型シロキサンの自己集合による結晶性ナノ構造体の形成
     
  佐藤 陽日 君
    トリメチルホスフィンの共役付加による不飽和イミドの変換とバフィロマイシン類の全合成研究
     
  大谷 智博 君
    大規模蓄電池への応用に向けた亜鉛負極の界面反応プロセスの解析と制御
     
  瀧瀨 賢人 君
    触媒表面イオン種を活かした環状炭化水素の転換による水素製造
     
  WU,Yunwen 君
    Lithiation Methods to Fabricate Li2S Cathode for Future Li-ion Sulfur Battery
     
  阪本 樹 君
    メソ構造制御によるシリカナノ粒子の合成
     
水野奨励賞受賞者  
  SENGUPTA,Aakash 君
    Use of Benzimidazoles as Protonating Agents and their Application to the Syntheses of Natural Products
     
  村越 爽人 君
    アフタトキシン産生阻害物質アフラスタチンAの全合成研究
     
水野敏行奨学金受給者
  小松田 雅晃 君
    遷移金属触媒を用いた脱芳香族的官能基化反応の開発
     
  林 宏樹 君
    電界効果トランジスタバイオセンサにおける対象認識部位を複数有するレクチンの受容体としての評価
     
  吉岡 育哲 君
    クエン酸生産糸状菌Aspergillus nigerにおけるゲノム編集システムの構築と有機酸代謝工学への応用
     
応用化学会給付奨学金受給者
  浅子 貴士 君
    多置換ヘテロ芳香環の網羅的合成法の開発と天然物合成への応用
     
  海野 城衣 君
    FBRMのインライン変換による粒径分布復元及び晶析シミュレーションのための速度論パラメータ推定
     
  女部田 勇介 君
     第一原理計算と動的モンテカルロ法による電極上Zn析出形態機構解析
     
  鳥本 万貴 君
    電場中での低温メタン水蒸気改質における担持金属効果の解明
     
  村上 洸太 君
    電場印加アンモニア合成における活性決定因子の解明
     
中曽根荘三奨学金受給者
  諏訪 康貴 君
    正孔輸送高分子の合成とペロブスカイト太陽電池への導入
     
里見奨学金受給者  
  石鍋 篤史 君
    晶析工学に基づく銅ナノワイヤーの作製
     
  松野 敬成 君
    単結晶性とナノ多孔性を両立した酸化物材料の作製
     
森村豊明会奨励賞  
  一色 遼大 君
    芳香族カルボン酸誘導体の脱カルボニル型炭素-ヘテロ元素結合形成反応
     
  大北 俊将 君
   

芳香族エステルの触媒的脱カルボニル型炭素-炭素結合形成反応の開発

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第19回 先生への突撃インタビュー(細川 誠二郎 准教授)

細川 誠二郎 准教授

 

「先生への突撃インタビュー」の第19回として細川 誠二郎 准教授にご登場願うことにしました。
今回も学生、現役OB にインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OB /OGの3 者による合作を目指しました。細川先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。

  細川先生のプロフィール:

  • 1991 年 北海道大学理学部化学科卒業
  • 1993 年 同大学院理学研究科 博士課程前期課程化学専攻 修了
  • 1996 年 名古屋大学 大学院農学研究科 博士課程後期 食品工業化学専攻修了・博士(農学)
  • 1996 年 日本学術振興会特別研究員(PhD)(名古屋大学、米国スクリプス研究所)
  • 1998 年 東京理科大学 薬学部 助手
  • 2003 年 早稲田大学 理工学部 応用化学科 専任講師
  • 2007年より 同 理工学術院 准教授

  受賞

  • 2003 年 有機合成化学協会研究企画賞
  • 2008 年 有機合成化学奨励賞
  • 2010 年 Thieme Journal Award 2010

・先生の現在に至るまでの足跡をお話頂けますか?
   ~将棋と有機合成に類似性がありますね~

今思い起こすと、小学生頃から将棋が好きでしたが、将棋の考え方や詰め方などは有機化学の多段階合成に似ていると感じることがありますね。手順前後ではだめで、ターゲットを決めて理詰めに組み立てるプロセスは非常に似ていると思います。将棋以外は、田舎育ちでしたので、子供会でソフトをやったり、虫取りや釣りなどに興味を持っていましたが、特に理科少年ではなかったと思います。自分は子供のころから体内時計が壊れているようで、幼虫から虫を育てる時には午前2 時、3 時まで観察を続けていたこともありました。育ちが岡山県の児島で、遠くに水島コンビナートの夜景が望めたのと、化学が得意だったこともあり、何となくそちらの方面に行くのかなと思っていたのが高校の始めのころでした。その後高分子化学に興味を持ち、北海道大学に進学したのですが、1,2 年次の授業の中で、低分子、特に天然物(キノコの毒など)が個体の運命を決めることに興味を強くもつ様になり、理学部の化学科に進みました。その一方で、天然物は得られる量が気象などに左右されるので、これを補完する意味で有機合成が役立ちますし、何よりも、モノを作る技術はとても強みになると思うようになりました。このような経過を辿り、有機合成の研究に強く興味を持つようになり、はまり込んでいきました。修士にも自然の流れで進みましたが、指導教授が間近に定年になることから博士課程には、当時、有機化学が全般的に強かった名古屋大学に進みました。当時、生え抜きでも博士課程3 年で博士号を修得するのが難しい中で、博士課程から所属を変えることになったのですが、有機化学をつきつめたいという思いと、3 年でやりきれなければどこでもやっていける研究者にはなれないだろうという覚悟をもって入りました。私が大学院生の時はちょうど大学院重点化の時期でして、企業からも博士の需要がとても高いことを肌で感じましたし、「博士を持って研究者とみなされる」という国際的な考えが日本で定着した時期でした。結果として3 年で博士号を修得しアカデミアの道に進むことになりました。博士課程の3 年間は、技術的にも学力的にも飛躍的に成長できましたし、これから生きていく自信と新しい世界観を得られた、今の自分に不可欠な時期となりました。

  • 関連質問ですが、ご自身でハイパー・ケミカル・クリエーターと仰っていたことを聞いたことありますが、未来を作っていると感じる研究はどういう時でしょうか?

勿論、難しい全合成を完成した時は達成感と「遂にこれができるようになった」という時代を進めた感触はあります。しかし、未来を創るという実感は、失敗した研究でも今までにない反応に出会った時とか、多段階の合成ルートを極端に短くした時にも感じますね。今の研究はどれも未来を作っているのに繋がっていると思います。

  • 先生の専門の中で大切に思われているポイントなり、理念なりをお聞かせください。
       ~「美しく、短く」 に重きを置いています~

有機合成化学では、戦略と戦術の組み合わせで良い研究や新しいルートが出来ます。戦術は個別の反応やネーム・リアクションなどですが、合成の戦略は非常に大切だと思っています。現在、進んでいる短工程合成の研究も使っている反応は既知のものですが、どう組み合わせるかという戦略で画期的な合成ルートが出来ています。自分の研究は新しい戦略を最重要と捉えて、結果として突き詰めると「美しく、短く」の言葉に代表されるのだと思います。

  • 先生の今後に向けての展望に関するお考えをお聞かせください。
      ~役立つ有用な化合物を提供し続けること~

分子量1,000 を超えるような巨大なポリケチド化合物群を、簡便に数多く提供出来るようにしていきたいと思っています。分かり易く言えば、今までは合成や取り扱いが難しくて生物活性物質の俎上に乗っていなかった分子量の大きい化合物が、最近の研究で画期的な作用を発現していることがわかってきています。そのような研究に多くの新しい候補化合物群を提供していきたいと思っています。

  • AI 等の活用は?

タンパク質の構造と生物活性の相関が明確になってくると、ビッグデータやAI が活躍する場面は出てくると思いますが、合成化学は実験が基盤になっていますので、現時点では多くの実験を経験している人間の方が利点が多いと思います。寧ろ、実験が自動ロボットに移行する方が早いかも知れませんが、現時点では自分の研究室では導入を考えていません。

  • 応用化学会への期待を聞かせてください。
      ~感謝のひとこと~

学生にとっても存在感が大きい会で、工場見学の機会を得たり、奨学金の提供を受けたりと、ありがたい会だと思っています。励ましてくれる方々がいるということは、とてもありがたいことです。

  • 100 周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。
      ~伝統は大切~

歴史の中で伝統や受け継がれるものを大切にすることは非常に重要だと思いますので、この流れを大切にし続けてほしいです。 

  • 21 世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。
      ~専門性を大切に~

専門性を身に着けることに是非注力してほしいと思います。壁にぶつかっても、徹底して考え、実験をして、自分なりの方法論や解決法を体得するようにしてほしいと思っています。
モノつくりのベースを是非とも身に着けてほしいし、モノつくりには観察も重要ですのでこれも大切にしてほしいと思います。
最今の就職事情から、修士課程の学生はこの辺の時間が十分に取れていないという危惧を持っていますが、自覚をもって対処すれば十分に修得できると思っていますので、頑張ってほしいですね。

参考資料:

インタビュアー&文責:

佐藤 由弥(学生広報班)、西尾 博道(学生広報班)、新谷 幸司広報委員会副委員長(新34)、井上 健(新19 回)

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