第18回交流講演会を2022年11月12日(土)「ウインクあいち」にて開催しました。(参加者14名) 最初に司会の浜名幹事および友野支部長より、中部支部の講演依頼に対してご快諾いただいた木野邦器教授への感謝の言葉と、先生のご略歴の紹介がありました。
木野先生の講演「脱炭素社会の実現に貢献するバイオテクノロジー」の要旨
初めに、地球温暖化の問題を解決するための必須の手段として脱炭素技術の早期開発を求める時代の要請がある一方、直近ではロシアのウクライナ侵攻の影響で炭素系資源に再び依存する揺り戻しの動きも現れている、との最新の社会状況に触れられた。
地球の先住民である微生物は、その生存戦略に基づいて進化し多様化を進めてきた。私たち人類は、これまでその多様な機能や生命システムの一部を生活や産業に取り込んできたが、バイオテクノロジーはDNA解析技術による生命の設計図とも言えるゲノム情報の蓄積と分析、ips細胞系の樹立や再生医療における技術革新、高度化した計算科学や人工知能を駆使したビックデータ利用技術との融合、ゲノム編集や合成生物化学的手法による高度のモノづくり技術など、近年の革新は著しい。今まさに、従来の化石資源依存の産業形態から脱炭素化を実現できる社会への転換期にあると考える。演者らは、微生物の機能分析からモノづくり研究を展開しており、具体的な研究事例を紹介しながら、科学技術開発研究の方向性を議論する。
微生物、植物、動物などすべての生物は、ATGCの4つの塩基からできている。根源は一緒であり、そこから多様化して存在している。ウイルスなども、根源が一緒であるため、これを利用して抗ウイルス薬などの開発ができる。また、生物の細胞にウイルスが入り込んで進化した例として、哺乳類の胎盤形成などがある。地球圏における生物間ネットワークの例として、昆虫や動物の中にいる共生細菌があり、必須アミノ酸が供給されている。ブドウやイチゴに共生する菌の働きによって独特の香りや匂いがつくことも分かっている。
生物発酵は酒造りなどで古くから利用されていたが、フレミングによるペニシリンの発見から微生物の利用が本格的に発展した。有用菌をスクリーニングすることで、ブレオマイシン(ガンの薬)、タクロリムス(抗免疫薬)などが開発された。生体物質に作用する薬は構造が複雑で有機合成で製造するのは難しい。選択性の高い微生物を利用することで目的物質を高収率で得ることができる。微生物ゲノムの遺伝子情報が分かってくると、パソコンを利用したスクリーニングも行われるようになった。
アミノ酸を結合して製造するジペプチドには、人工甘味料のアスパルテームなどがある。ジペプチドにはL体(左手型)とD体(右手型)があり、生物はL体がメイン。D体は分解されにくい性質があり、抗生物質の構造に入っていたりする。医薬品としての作用がL体とD体で異なることがあり、配置が逆になっただけで、心拍数を片方は増加させ、片方は減少させる。医薬品としてL体をベースにしているものに、D体を組み込むことによって、新しい活性発現ができる。
脱炭素社会に向けた研究として、木材成分のリグニンに炭酸ガスを固定して汎用化成品、機能性プラスチックに展開する技術、食品残渣などに含まれるアンモニアを取り出してリサイクルする技術などについても紹介があった。
木野先生の御略歴:
1979年早稲田大学理工学部応用化学科卒(新29回)
1981年同大学院理工学研究科博士前期課程応用化学専攻修了
同 年、協和発酵工業㈱に入社
1987年工学博士。東京研究所、技術研究所、防府工場製造部勤務を経て、
1999年早稲田大学理工学部(現:理工学術院)教授に着任、現在に至る。
早稲田大学産官学研究推進センター長、同大学研究員副委員長、同大学理工学研究所長・
理工学術院総合研究所長、国立研究開発法人科学技術振興機構開発戦略センターシニアフェロー、同機構プログラムオフィサー、かずさDNA研究所特別客員研究員などを兼任。
その他、学協会関連活動:
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構評価部研究評価委員長、
公益社団法人日本生物工学会会長、バイオインダストリー協会理事、日本微生物学連盟理事などを歴任。各種財団の理事や評議員、国立研究開発法人産総研生命工学領域の審査評価委委員長、公的研究機関などの技術推進委員長や審査評価委員長などを兼務。
東京大学・大阪大学・名古屋大学・九州大学等の非常勤講師を歴任。(赤字は現職・兼職・兼任)
受賞歴等:
1999年協和発酵工業株式会社 社長賞
2015年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究)受賞
2016年早稲田大学ティーチングアワード(秋学期)総長賞受賞
2020年日本生物工学会第39回生物工学賞受賞
その他専門誌論文賞4件など
以上