早稲田応用化学会 第38回交流会講演会―宍戸圭介氏講演の概要

2022年9月10日(土)15:00~17:10 (Zoomによるリモート開催)

【講演第一部】
宍戸圭介氏 『サステナビリティとは何か』 ~ 「日本のカーボンニュートラル」

講演に先立ち、演題及び副題に示された用語に対する理解度チェックのため、Zoom上でのアンケート調査が行われました。「聞いたことはある」人、及び「説明できる」人に大別されました。

本講演の要約
1.サステナビリティに関するトピックは、グローバルアジェンダとして重要性が増している。
2.日本においてもサステナビリティ、特に気候変動分野でのコミットメントが高まっており、産官学が協働してカーボンニュートラルを目指すことが求められる。
3.カーボンニュートラル達成のためには種々のアプローチが必要であり、応用化学会の皆様の知見や経験が大いに生かされることが期待できる。

講演は次のテーマに従って順に行われました。
①サステナビリティ入門
 ・サステナビリティとは?(SDGs, ESG, CSR/CSV等の用語解説)
 ・サステナビリティの潮流
②気候変動問題、カーボンニュートラルについて
 ・気候変動がなぜ問題になっているのか?
 ・カーボンニュートラルが求められる背景
③日本におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みの現状
 ・国の動き
 ・産業界/企業の取り組み
④私がコンサルタントとして関与しているプロジェクト例
 ・【企業様支援】ネットゼロのロードマップ作成支援、情報開示支援
 ・【産官学連携】カーボンニュートラル技術の社会実装に向けた取り組み

以下、各テーマについての説明の中で、主要と思われるものをピックアップしてみました。
①サステナビリティ入門
・サステナビリティとは持続可能な社会、すなわち「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させる」(国連)ことであり、これを達成するためのアプローチがSDGs, ESG, CSR/CSV等と関連付けられます。
・SDGs(Sustainable Development Goals)とは国連が地球規模で取り組むべき課題を17個の目標として定義したものです。
・ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点で、被投資企業の長期的な評価を行う基準です。
・企業の社会貢献活動が中心となっていたCSR(Corporate Social Responsibility)から、経営モデル自体の変化を目指したCSV(Creating Shared Value)が着目されつつあります。
②気候変動問題、カーボンニュートラルについて
・サステナビリティ関連リスクとして、「気候変動の緩和・適応の失敗」が「発生の可能性」トップ10の内のNo.2、「影響の大きさ」トップ10の内のNo.1に挙げられています。(世界経済フォーラム “Global Risks Report 2020”)
・世界平均気温が産業化以前から約1.0℃上昇しており、このままのペースだと2040年前後には1.5℃に達し、気候変動による影響が顕在化するリスクが高まります。このリスクを回避するため、日本を含む各主要国は経済成長を目指しながら、カーボンニュートラルを達成する目標を掲げています。
③日本におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みの現状
・2050年カーボンニュートラル実現のための施策として「グリーン成長戦略」を策定し、その戦略として14分野のロードマップを検討中です。
・グリーン成長戦略を達成するために、開発・導入フェーズの工程表を作成し、企業に対して5つの手段(税、予算、規格・標準化、規制改革、民間の資金誘導)から政策支援を行っています。
・企業の脱炭素目標も1.5~2℃に沿ったレベル、もしくはそれ以上が求められつつあります。
④コンサルタントとして関与しているプロジェクト例
 【企業様】脱炭素に向けたロードマップ作成、仕組・開示内容の確立支援
 ・各企業様の脱炭素化に向け、①目標設定②ロードマップ策定③仕組・開示内容の確立といった観点で助言を実施しています。
 ・ロードマップ策定に関しては、2050年ネットゼロまでのパスについてシミュレーションを実施します。2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた具体的な施策の積上をサポートします。
 ・仕組・開示内容の確立支援に関し、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)は企業のガバナンスとリスクマネジメントの高度化、開示を求めるイニシアティブです。
 ・気候変動関連のガバナンス整備、リスク・機会の特定、シナリオ分析等が求められています。このシナリオ分析とは、将来の曖昧さ・不確実性を排除した経営戦略の策定メソッドのことです。
 【産官学連携】DTSTによるカーボンニュートラル技術の社会実装に向けた取り組み
 ・DTST(Deloitte Tohmatsu Science and Technology)にはデロイトトーマツグループ1万5千人から集まった、研究者・技術者など理系出身のハイブリッドなビジネスプロフェッショナルが約250人所属し、研究の優位性を理解した上でビジネスに落とし込む、科学技術とビジネスの橋渡しを実施しています。
 ・技術リストの作成により、今後の成長がわかりにくいカーボンニュートラルビジネスの道筋を明確にしたいと考えています。
 ・2022年6月10日に技術リストの第三弾を公開しました。有望技術を、CO2削減ポテンシャル、投資対効果の観点で比較しています。
 ・技術リストを一つのハブとして関連プレーヤーを巻き込み、カーボンニュートラル技術の社会実装を企画段階から実装まで一気通貫で取り組んでいきたいと考えています。

 ご清聴、有難う御座いました。