【開催日時】 2021年8月21日(土) 13:30-16:00
【参加者】:50名 (B1; 8名、B2; 5名、B3; 18名、B4; 9名、M1; 10名)
Zoomにて開催
開会の挨拶:下村 啓 副会長
2023年の5月に早稲田応用化学会は100周年を迎えます。この応化会が次の世紀に向かうにあたり大切な取り組みとして「博士課程」に進む人材を増やしていくことに取り組んでいきたいということになりました。
全国的に修士から博士課程への進学率は低下する中でこれからの社会の変化に対応し、日本が世界の中で主要な役割を果たすために、早稲田大学の応用化学科においても博士課程に進む人材を増やしていくことで、より良い社会を作り出す力になるのではとの思いに至りました。
応化会では「先輩からのメッセージ」を企画し、多くの先輩方から様々な企業での働き方を紹介してもらっていますが、一方、博士課程に進む人たちがどの様なキャリアを積み、どの様な活躍をされているか、これを知る機会が少なかったと思います。そこで今回、「先輩博士からのメッセージ」と題して、博士課程の進んだ方々の話を聞き、交流する企画を立ち上げることと致しました。学部生の頃から博士課程、そしてその先のキャリアを身近に感じてもらうイベントにしたいと思っています。
講演会
講演者①;加藤 弘基さん(D1 山口研究室)
演題;『有機化学に魅せられて』
加藤さんの現在の研究テーマは安定な芳香環を触媒的に脱芳香族的官能基化する手法の開発であり、インフルエンザ治療薬である「タミフル」や古くから鎮痛剤として使われているモルヒネなどの骨格を形成するシクロヘキセンといった化合物を芳香環から合成する手法であり、過剰量の芳香族や毒性を有する化合物を使用することなく複雑な三次元骨格分子の単工程合成への応用を可能にしています。
加藤さんが博士課程進学を意識するようになったのは研究室配属後、研究に没頭する中で結果が出た時の楽しさや達成感、また、研究室内での切磋琢磨といった環境因子もあり、有機化学を究めて人のためになる仕事をしたいという将来の目的がはっきりしてきた修士1年の5月頃に決意したとのこと。
とはいえ、研究室配属前から有機化学が勉強していて楽しく、勉強していく中で有機化学反応を徐々に理解していく様なった素地もあった様です。
研究室生活は教授・講師と学生との距離感が近く学年間や研究テーマに関わらず仕事のオンオフともに仲が良く、博士課程進学にあったては研究室としても背中を押してくれたとのことです。
博士課程においては自身で実験計画を立て、前日に設定した実験系の確認を午前中に実施、共同研究先とのオンライン会議に参加するなども合わせ、夕方に翌日に向けた実験系を組むなどしている。
博士課程に進学して感じたことは、奨学金制度が充実し、学費も自身で負担できるほどで研究に集中するバックグラウンドが出来上がっているほか、留学制度についても充実している様に思う。将来に対しては学位取得後に周囲から即戦力として見られるなど進路に関する部分や、研究成果を重ねていくことが求められる博士号取得への不安もあるが、周囲と議論していく中で解決策や新たな発見が得られることも楽しみであり、博士課程は遠い存在ではないことをこれから進路を模索する学部・修士の学生には理解頂ければよいと考えている。
講演者②;疋野 拓也さん(LD2* 下嶋研究室)*LD:5年一貫制博士課程
演題;『無機合成って面白い』
疋野さんの研究テーマは精密に制御された無機骨格を組み上げて新たな機能を創出するもので、無機ナノ構造体の精密合成に特化した研究を行っている。ケイ素酸塩の層を有機あるいは無機化合物によるリンカーで結合することにより多孔質のサイズを調整、気体保持、光触媒、吸着剤、バイオメディカルへの応用など多岐に渡る用途に対応する素材を開発する研究であり、現在、シロキサン分子によるこれまでにない籠形の分子を合成し、リンカーには従来使用されている有機化合物ではなく金属分子を使用しているのが特徴である。
研究生は論文化まですべての過程を一人で対応することで様々な経験が出来るのも自分自身の力になっていることを実感している。分子をデザインする有機化学も面白いが一方で多様な機能を創出する分子設計を無機化合物で達成するのも強いインパクトを感じている。
疋野さんが在籍している一貫性博士課程は修士号を取得しない代わりに5年間掛けて博士号を取得するコースで進学に際しては試験もあるため、博士課程進学を決めたのは学部4年の5月頃で、進学にあたっては無機合成への好奇心、博士号取得による将来性(応化会活動の中で博士課程を取得している先輩から話を聞く機会などあり)、また研究を継続していく上で重要な環境など考慮して判断、また、博士課程進学を一つの精神的な障壁と考えた際に、そこを突破していく勢いのようなものもあったそうです。
博士号は専門性を高めたことを担保していく資格だけではなく国際性、リーダーシップ、問題解決能力なども身に着けるような訓練をされ世界で活躍する人材としてのスキルを自身の武器と出来る魅力もあると考えている。
2年間で修士号を取得して、その後の3年間で博士号を取得する区分制とは異なり、5年間で博士号を取得する一貫性博士課程は最初の2年間で通常のラボワークに加えて専門科目や俯瞰科目など受講し、資格試験(Qualifying Exam)をパスしたのちの複数指導体制下でのラボワークなどに従事し学位審査を受けるプロセスである。一貫性の先進理工学専攻のメリットとして区分制と比較しても経済的支援に恵まれているほか、インターンシップや研究留学、指導教員に加えて副指導教員からのナレッジにも触れることが出来るなどあると考えている。
学部生には研究が面白いと感じるなら博士課程進学を選択肢として考えてほしいこと、使える奨学金制度など経済的支援は活用すること、先進理工学専攻や卓越大学院プログラムに興味があれば積極的に説明会などに足を運んでほしいことなどメッセージとして伝えられた。
座談会
講演会のあと、講演者2名に加えて博士号を取得している卒業生と現在博士課程に在籍している在校生計12名を交えてブレークアウトルーム7室に参加者を分けて、博士課程や関連する質問事項を取り上げ自由闊達な議論を実施した(20分間のブレークルームセッションを3回実施、参加者がなるべく多くの博士課程経験者から話を聞ける様に配慮した)。
座談会参加者は以下の通り(敬称略)
金子 健太郎 (野田・花田研究室)
齊藤 杏実 (山口研究室)
女部田 勇介 (本間・福永研究室)
中村 夏希 (門間研究室)
林 泰毅 (下嶋研究室)
渡辺 清瑚 (小柳津・須賀研究室)
渡邊 太郎 (木野・梅野研究室)
曹 偉 (桐村研究室)
中軽米 純 (細川研究室)
松田 卓 (関根研究室)
加藤 遼 (西出・小柳津・須賀研究室 修了)
堀 圭佑 (野田・花田研究室 修了)
博士後期課程学生への支援体制:基盤委員 奨学生推薦委員 斎藤ひとみ委員
2010年以降の博士後期課程修了者は約90名に達し、進学者の内訳は内部進学が85%、他大学からの編入が6%、社会人が9%であり、ほとんどが修士課程からそのまま博士後期課程に進学している。学位取得後の進路としては過半数の約60%が企業に就職している。早稲田応用化学会では、早期から博士人材との交流機会を増やし、博士後期課程に関する真の情報を共有することで、様々なキャリアパスを示す体制を構築している。
博士課程学生の支援体制としての奨学金制度は学外のプログラムとして貸与型、給付型などあり、学科内の奨学金制度は全て給付型で応用化学会の奨学金制度は充実している。世界的にも博士人材の需要は高くなっており、日本でも博士人材への需要は増加傾向にあることの説明があった。
閉会挨拶:橋本 正明 副会長
本日のイベントを通して、博士課程についての具体的なイメージが、ある程度得られたのではないかと思います。今日の世界の情勢においては、Doctorレベルの研究者の活躍が国際競争力のキーとなっています。従来、日本で得意であった効率化や改善の積み重ねによる競争力は、IT技術や自動化の進展、そしてISOなどの標準化されたマネージメントシステムの普及によって以前ほどは大きな差を生まなくなりました。一方で技術的なブレークスルーを追求して大きな障壁を乗り越えていく力が今日の競争力の重要な基盤になっています。こうした状況からも、その技術力をベースに、世界において競合する技術分野の俯瞰的な視野を踏まえて活躍できるDoctorに対して、社会的な評価や期待は非常に高くなっています。特に日本だけではなくGlobalで活躍するためには、Doctorであることによってその活躍のポテンシャルは格段に高くなります。多くの人材が博士課程に興味を持って進学し実力をつけて、Globalのレベルで活躍していくことを期待しています。
講演や座談会を通じて参加者からは次のような意見があった。
博士人材交流会
講演や座談会にご参加いただいた博士人材の皆様にお集まりいただき、今後の開催に向けたご意見を収集する目的と、博士課程の皆様や博士号取得後社会で活躍されているOB/OGの皆さまとのコミュニケーションの場として交流会を開催した。ブレークアウトルームをいくつか設定し、自由に懇談していただいた。参加者からは良い刺激になったとのご意見を頂き、今後も皆様から頂いたご意見を参考に博士人材の交流の場として展開して参ります。
博士課程進学に対するハードル:
- 能力の高い人物が進学すべきと考えていたが、研究が好きになれるかどうかが重要であるのではないかと思い、博士進学に対する精神的なハードルが下がったように感じた。
- 博士課程は修士課程よりもハードルの高いイメージがあったけれど先輩方の話を聞いてイメージが変わった。博士課程進学の背中を押してもらえた気がした。
- 博士は修士からさらに専門的になったものだろうと単純に考えていた。実際にはそれだけでなく企画する力や国際的な能力など、研究する専門分野の知識、能力以外にも様々な力を養う機会になることを講演を通して知ることができた。
博士課程進学におけるサポート体制
- 博士における奨学金などの制度について詳細に知ることができてよかった。
- 博士課程に進む上で経済的な不安があったが、話を聞いて和らいだ。
- 企業就職後にアカデミアに戻られた方や社会人ドクター博士課程で研究されている方に対する奨学金制度に興味がある。
その他
- 博士課程に進学後の生活が修士課程と大きくは変わらないと聞いて安心した。
- 一貫性博士課程や卓越大学院プログラムなどを知ることができてとても勉強になった。
- 博士課程に進学した後の進路選択や就活などにも興味がある。進路選択の理由や就職活動の流れについて社会人博士人材からも話が聞きたい。
次回開催は2021年12月18日予定
以上
(早稲田応用化学会 基盤委員会、交流委員会、広報委員会、奨学生推薦委員会)