岡野光夫氏(新24 東京女子医大名誉教授)は7月11日、18日(再放送)、BSテレ東において「最先端医療から考える前例主義とイノベーション」と題して対談番組「一柳良雄が問う 日本の未来」に出演されました。以下その趣旨を報告します。
岡野光夫先生には、応用化学会第4回交流委員会講演会(2006年3月22日、早稲田国際会議場)でご講演を頂いております。
本番組においては岡野先生の現在の活動状況として、再生医療としての細胞シートを用いた従来の医薬品に依らない疾患の根本治療のための研究を継続されていることを説明され、細胞シートを三次元に積み重ねていくことにより臓器の代替としても使用可能になること、また一つの細胞から多人数への移植も可能とする臨床実験も開始していることを説明されました。
医療におけるテクノロジー活用の重要性
外科領域において「神の手」を持つスーパー外科医の技術に治療を委ねていたようなものも、5、6年の教育期間を経て神の手を持つ外科医の養成と手技の向上に外科医の視点が集中すると、その技術を支える周辺のテクノロジーへの注意が鈍化してしまうことへの懸念、日本の医学において医療技術の産業化という視点が弱いことを岡野先生は述べられておりました。テクノロジーが多くの患者を救うことにより医療も進歩していくという視点は斬新でした。
日本には技術の種は多く優秀な研究者も多いが、これらの種をどう使っていくかという戦略はこれから考慮していく余地があり、異なる分野の技術の組み合わせによる再発明は重要とのことでした。
将来的な視点
内視鏡など日本の技術が海外に進出している分野がある反面、人工呼吸器や手術用ロボットといった医療機器、医療デバイスについては欧米の製品を導入するのがまだ日本においては主流である。
日本には技術そのものはあるが医療機器の創生などへ日本のシステムはまだハードルが高く、医療システムの変革が必要。ただ、日本においては日本医療研究開発機構(AMED)といった新しい組織、システムを作る環境整備が進みつつあり意識改革は進んできているように思う。
日本人は前例のあるものについては緻密で高度な回答を作成していくが、現在の様に社会構造が変革する時期において前例主義に捉われない発想を進めていく教育の必要性についても不可欠である。細胞に関してはこれまで医薬品という概念で考慮する土台がなく、人、場所、資金の確保を戦略的に仕組み立てしていくのが国家の対応で重要だが日本人は従来から非連続的な進化についての対応が弱く、欧米との大きな違いがある様に思う。先端医療はグローバル展開していかないと進まないので、日本の技術を活かす為に欧米との連動による産業化への活動も重要とのこと。
研究成果においては従来の成功体験や規則に基づいて評価される傾向はまだ残っており自由闊達な議論と長期的な戦略として医学専門家が新しいテクノロジーを学習、あるいは医師とエンジニアが一体となって新たな治療法を考えることが重要。そのためには長期的なゴールを設定して目標達成のための異なる分野の専門家との連携を、より強化していく必要がある。
医療においては現在でも治癒不能とされる疾患領域が存在し、現在の技術で現在の患者を救命する医療と、治癒できない未来の患者を救命していく医療との融合が全体的な医療として求められている点であり世界に誇れるシステムを作っていきたい。そのためにはまずは岡野先生自身が風穴をいま開けて、次の時代を牽引する人材やテクノロジーの育成につなげて行きたいということを強調されていました。
文責:広報委員(新39 加来恭彦)