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タケダのグローバル化への挑戦

3.タケダのグローバル化への挑戦

1)武田薬品236年の歴史

長谷川閑史氏の講演

企業の場合は、というかあらゆる組織に共通であるが、皆の合意Consensusを得て意思決定をすることが、すぐには難しい場合がある。冒頭に進化論に関する言葉をあげながら、変革をリードするのがリーダーの仕事であると申し上げた。変革は、多くの場合リーダーが言い出さないと動かない、実際に起きない、というケースが多い。但し、リーダーが言い出してもその組織のメンバーにきちっと説明をして、納得をして、皆が一緒にやっていく形、これをbuy inというが、buy in processを取って皆が納得した上で、引っ張っていく、engageさせるということが大切で、これもリーダーの役割である。このようにリーダーが主導しなければならないtransformation、変革というのが沢山ある。
私は企業の場合しか分からないが、学校でもいかなる組織にでも色々あると思う。自治体でも中央政府でもあると思われる。
武田の場合、竜田先生が私を冒頭紹介して頂いた時に、後任にフランス人のクリストフ・ウェバーという人を外から引っ張って来て就けたと仰った。何故そのようなことをしたかということを次に述べます。薬というのは世界どこでも良い薬は良い薬である。ということは逆に言えば、地域の特性で熱帯病を治療する薬等は別にして、慢性疾患であるとか癌であるとかアルツハイマーであるとか、そういう病気を治療する良い薬はロシアでも良い薬であり、キューバでも良い薬です。
そういう意味で国境はない。だから良い薬を兎に角自分の所の研究開発で見出すか、あるいは自分の所で出来なければどこかBio Ventureのような所でやっていて、有望な物を持っている所を素早く取り込んで、早く開発をして患者さんの所へ届けることの両方をやらなければならない。
私共武田薬品の場合には、日本でNo.1、アジアでNo.1の製薬企業としてずっとやってきたが、その後Global化もそんなに急速に進めなくても維持出来た時代が長く続いた。今やICTと同じように良い物さえ出せばGlobalに世界同時上市も出来て、結局如何にそういう物を生み出すか、あとはそのGlobalなFootprintを持っていて、良い物を一斉に全世界で売り出すだけのPlatformがあるかどうか、そういう所で差が付く訳である。
そうすると我々の場合には急速にGlobal化を進めたけれど、まず人材が追い付かない。それと同時に、人材が追い付いてFootprintを作ってもそれを本当に自分でmanageして成功させた経験のある人が殆どいない。そういう人達が足りなければ外から持って来るしかないということになる。
育てていたら10年、15年掛かるわけで、それでは全然間に合わない。そういう状況の中で究極の選択が、私の後任をグラクソ・スミスクラインという世界Top5に入る会社のCEO Succession Candidateになっているような人であったクリストフ・ウェバーを、Head Hunterも使わずに個別にcontactして納得させて引っ張ってきた、ということである。
それは私が決断し実行しない限り、誰に頼む訳にもいかない。所謂Executive Decisionの1つである。勿論そういう決断をして選考する場合に、Selection Committeeを作ってSelection Committeeのmemberがそれぞれ一人ずつinterviewしてその結果を持ち寄り、加えてCEO Successionをsupportする専門のConsulting会社がアメリカにあるので、そこを雇って、更に1人について5時間位のinterviewをしてScore Cardという評価結果を出してもらい、それらを全部総合的に判断して、最終的に2人のCandidateに絞った。2人のCandidateを、指名委員会の委員長、それから委員、2人とも社外の取締役なのでbiasは掛かっていないわけで、この2人にどちらが良いか、と選んでもらって最終的にクリストフ・ウェバーを選んだ。どこから聞かれてもtransparent、透明化しても問題ないような形で選んだ。そういうことはTopが考えて実行して行かないと出来ない。そういうものが企業には沢山有るし、他の組織でも沢山有ると思う。

2)社長就任前(2003年)に考えたこと

ここで1つだけ覚えておいて頂きたいのはBenchmarkingである。所謂BenchmarkingというのはIndustryの中でBest Performing Companyは一体どういうBusinessのやり方をしているのか、Sales、Marketing、研究開発、色々なやり方があるし、この資料に書いてあるような色々な項目について、Best Practicing IndustryでのBest Practiceを実行していると思われる会社と比べて、自分達はどこが劣っているかという事を出して分析し、導き出してその差を縮めていき、埋めていくことを考えるのがBenchmarkingのやり方である。それを徹底的に色々なBusinessのUnitに関して行って来たということである。

3)売上と利益率の推移

何故Benchmarkingをやらなければならなかったかを次に述べる。この資料は2003年から2016年までの業績の推移であるが、Barは売上の絶対額で、赤の折れ線は営業利益率(%)であり、2008年までは[売上は]順調に伸びた。しかし、我々は先程述べたように特許が切れると、アメリカでは数カ月の内にGenericに置き換わり、売上が殆どなくなる。日本ではその置き換わりのスピードが随分遅かったが、ここ2~3年、政府が欧米型のMarketに組み替えてGenericへの置き換わりを急速に、また強制的に行うよう法律を変えた。従って今や特許切れが来ることが分かっている製品については、それをcoverする製品を如何に早く自社で開発するか、あるいは他社を買収するかを考えないと、たちまち売上/利益は大きく落ち込んでしまう。

要は、我々は2010年問題と言っていたが、2010年には従来の主力製品の特許が相前後して全部切れてしまう。そうすると売上が殆ど0となってしまう。僅か4~5年の間に、1兆5000億円位の売上の会社の6000億円の売り上げが吹っ飛んだ。そういう状況が来ると分かっているから、それを如何に埋めて安定成長に持っていくか、というのが経営者の仕事であるが、言うは易く、行うは難しである。それと同時に、Product Liability Insuranceという、アメリカにおける製造物責任が大きく取り上げられて、訴訟を起こされた。アメリカで訴訟を起こされたら、それを最後まで裁判で戦って勝つよりは、膨大な訴訟のcostを考えると和解をした方が良いというのが殆どのcaseである。従って、とんでもない話しであるが3000億円も払って訴訟を和解した。そのために営業利益がマイナスとなっている。こういうことが起こることを分かっていて、経営者である私が指をくわえて待っていたかというと、それは出来ないので何をしたかというと、買収をした。

4)TakedaのGap Fillingを主目的にしたCross borderのM&A <2003-2013>

武田という会社は236年の歴史があるが、私が社長になるまで買収はしたことがなかった。同族企業の合併はあったが、買収はしていない。2005年に初めて、サンディエゴにある、X線を使ったタンパク質の高速結晶構造解析技術という特殊なTechnologyを持つ、シリックスという会社を買収した。買収額は270百万ドルであった。また、イギリスのCambridgeにある会社を買収した。これはResearchのTechnologyの足りない部分を補うための買収であった。買収の規模も小さかったし、実際のリストラも必要なかったし、むしろ彼らが限られた原資の中でallocation出来なくて、やりたくても出来なかったことを武田が買収したことによって出来るようにしてwin-winのSynergyを作った。その後ミレニアム社という、癌に特化したBio Ventureの成功企業を9000億円で買収した。その後今度は、新興国に進出しなければならないが1つ1つ自分で旗を立てていたらとても時間が掛かって効率も悪いということで、スイスのチューリッヒにあるナイコメッドという会社を1兆1000億円で買収した。これらを武田の中にintegrateしていった。特にこの会社を買った時には、規模も買収の金額も大きかったが従業員の規模も1万2000人もいて、その中には要らないBusinessもあったので売却をしたり、Post Merger Integrationという、買収後に如何に会社の中に組み込んでいくか、融合させていくかというProcessの中で相当なリストラも行った。それらを踏まえて今はまた、パイプラインという研究開発の製品を外から取り込むことによって強化をしていくことを中心に行っている状況にある。こういう、行ったこともない買収を、それもcross borderで日本から海外の企業を買収してintegrationしてきた。

5)タケダが目指すグローバル経営とは

上記も含めて、やはり我々日本人だけではそこの部分について十分な対応が出来なかったので、出来るだけ短期間に事業のあらゆる面でグローバルに競争力のある会社に変革するために、Topも含めてKey PositionにはGlobal Standardで成功体験を有するTalentが必要である。先程はCEOの後継者としてフランス人のクリストフ・ウェバーを申し上げたが、ここでは例えばCFO、Chief Financial Officerとか、Chief Medical and Scientific Officer、研究開発本部長とか、Chief Human Resource Officer、Global人事部長とか、Chief Information Officer、つまりGlobal Information TechnologyのTopとか、Global Procurementという、Globalに調達をするTopとか、そういった人達を欧米の企業からHead Huntして持ってきて、それらでTeamを作って効率化を図ると同時に、先程の買収した企業を融合していくというProcessを出来るだけsmoothに進めるようにした。

6)グローバルで多様性に富み、かつ豊富な経験を備えたタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)

その結果が、タケダ・エグゼクティブ・チームという、日本の会社でいくと執行役も含めた経営陣ということになる。8ケ国の国籍、14名の陣容である。14名のうちの3名が日本人で、残りはNon-Japaneseである。女性は残念ながら一人しかいないが、今後女性を増やしていくのが我々のChallengeの一つである。

これもExecutive Decisionで行った訳である。これは私の後任のクリストフ・ウェバーが来て、仕上げを行った。Conceptとしてこういうことを私も考えていたが、実際の仕上げを行ったのはクリストフ・ウェバーである。

7)タケダの意思決定体制図

タケダの取締役会はいま13名で構成されるが、そのうちの社内取締役は僅かこの4名である。日本人が一人でアメリカ人が一人、あとはアイルランド人とフランス人である。4人の国籍が全部違うということである。あとは社外取締役が9人で、その中にもNon-Japaneseが2人いる。東恵美子さんも日本人ではあるがアメリカでずっと仕事をしているので、半分アメリカ人のような方である。藤森さんもGEに長い期間いて、それからLIXILのTopをしているということで、半分アメリカ人みたいな方である。従って非常にVarietyに富んだ役員構成となっており、そうすることによってGovernanceを透明にしている。

8)研究開発の変革―疾患領域の絞り込み・日本と米国への拠点の集約

それと同時にもう一つは、先程から何回か言った研究開発の難しさ、それから日本が創薬力において段々沈下していることを述べたが、その状況をこのままにしておくと、とてもではないが世界に伍して戦っていけないということで、私自身がこれをやり残したR&Dの生産性向上のための変革を、後任のクリストフ・ウェバーと、R&DのTopのAndrew Plumpというアメリカ人で行った。何を行ったかと言うと、我々が完全にfocusしている治療領域を中枢神経と癌と消化器に絞り、再生医療とワクチンについては+αで行うことにした。このTransformationをやる以前は、研究拠点は神奈川県の藤沢市と鎌倉市の境界線上にある、元工場があった湘南Research Centerで約1200人のResearcherを抱えて研究をしていたが、それでやってみても10年~15年の間物が全く出なかった。このまま行っても生産性は上がらないということで、日本には中枢神経と再生医療とワクチンを残した。ワクチンは、製造拠点は日本に残して研究開発の拠点はアメリカとした。こういう体制にすることにより研究開発の生産性を高めた。同時にOpen Innovationという形で、社外のBio Ventureのような研究開発をしている所を常に注目し、必要に応じて買収をしたりResearchのCollaborationの契約をしている。このような形で大きくやり方を変えた。その結果設立した会社の例を資料に示した。詳細説明は省略する。研究をfocusして、focus領域以外は外にspin outしてPartnerを見付けて、それぞれに特化した会社を作って研究開発を行うというやり方をしている。

一方で、これは後任社長のクリストフの考えでもあるが、これだけの大変革を行ったが、湘南Research Centerにいた約1200人のResearcherに関し、その中でアメリカでこれから自分の能力を磨きChallengeをしたいという人達については会社がendorseし、3年間で1クール[cours、課程、仏語]であるが6年間はアメリカで成長してもらえるChanceを提供したところ、100人位が手を上げてくれて、そういう人達もこれからBostonに行って世界の最先端のResearch Hubの中で切磋琢磨をしながら自分達の力を磨いてもらうということも行っている。

9)経営の基本精神

下図の資料はこれまで説明してきたことのBaseとなっている考え方である。ここに書いてある通りなので、説明は省略する。

<推薦図書>

次の6つの図書について、推薦される理由と概略内容等の説明があった。

長谷川閑史氏の講演

  1. マッキンゼーが予測する未来―近未来のビジネスは、4つの力に支配されている by リチャード・ドッブス他
  2. 2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する by 英「エコノミスト」編集部
  3. サピエンス全史(上・下) by ユヴァル・ノア・ハラリ
  4. アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか? by ダン・セノール他
  5. 7つの習慣 by スティーブン・R・コヴィー
  6. セブン・マスターズ ―「瞑想」へのいざない by ジョン・セルビー

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医薬品産業の現状と今後

2.医薬品産業の現状と今後

1)世界の医薬品市場の見通し(2015-2025)

私が身を置く医薬品産業についての状況であるが、医薬品のマーケットの伸びはこの10年間で世界市場において1.7倍になっている。
またこの10年間の伸びを地域別に見ると、その半分以上がアメリカによって創出されるという、非常に偏った状況になっている。その後に続くのは欧州、中国である。特に中国は、まだ世界に通用するような差別化された医薬品を0から作り出す能力は無いが、それでも中国はアメリカからどんどんPh.D.の人が帰っており、そういう人達は実際にアメリカでの就業体験を持った上で帰っている。今や中国は政策的に、深圳を中国のSilicon Valleyのようにしようとしている。中国本当に恐るべしと思われる。何れ日本はアジアでNo.1の地位を中国に奪われることは間違い無いと言わざるを得ない。
因みに、例えばGlobal Top 100 Best Selling Pharmaceutical Productの内、日本Originが幾つあったかと言うと、1990年代には15品目あったが、今や2015、2016年になると僅か5品目しかない。その数は恐らく今後も比率として減り続けるという恐れがある。一方アジアのどこがcatch upして来るかというと、韓国は電機とか電子とかその分野の製品では日本を陵駕しているが、残念ながら創薬ということについては中々難しいようである。恐らく中国が早晩日本を追い抜くと思われる。

長谷川閑史氏の講演

例えばアメリカの大学に100万人毎年全世界から留学をする。100万人の内の3分の1、33万人が中国人である。17%、17万人がインド人である。韓国でも毎年5~6万人がアメリカに学びに行く。韓国は人口が5000万人で日本の半分以下である。日本は1億2500万人の人口でありながら、3万人足らず位である。一時、ピークの時は7~8万人が行った。これは別にアメリカに行けと言っている訳でもないし、アメリカが全てと言っている訳でもないが、やはり外国で世界のトップレベルが集まって切磋琢磨するような所に、自分から身を乗り出して乗り込んでいく、それ位の気概を持たないと、本当に国際競争、Global競争に負けてしまう。
これが1つと、もう1つは日本で色々なstart upをして成功している人が何人かいる。例えば楽天の三木谷さんとか、グロービスの堀さんとか、あるいはサントリーの新浪さん、新浪さんは自分ではstart upしていないが、43歳でローソンの社長になり今やサントリーの社長になり、そういう人達は皆HarvardだとかStanfordだとか色々な所でMBAを取りに行って学んで、そういう人達が皆仲間がstart upするのに刺激を受けて、自らもstart upをする。
よく言われるArbitrageという言葉を知っているであろうか? “裁定”という意味の言葉である。昨日の日経新聞のコラムにおいて、孫正義さんのことについて書かれた中にその言葉が使われていたので見れば分かるが、三木谷さんがあのBusiness Modelを考えたのではなくて、アメリカでAmazonがやっていることを日本で是非やろう、ということでやったわけである。従って時間差があるから、その時間差を利用してある国における先行者の利益を自分の方に持って帰ることで、先行者として利得を得る。そういうことをArbitrageと言うようである。
そういうことだって可能な訳である。しかし今やそのタイム差はどんどん縮まっているので、昔のように悠長に構えていては出来ない。
何れにしても世界で何が起こっているか、ということを自分の目でしっかり見て来るということをしないで、日本の中だけで周りの仲間だけを見てcomfortableに幸せな生活を送っていて良いわけはない。
私のように70歳を過ぎたような人達にとっては多分今後10年か15年はこの延長線上でいけると思われるが、皆さんのようにまだ20歳そこそこの人達であれば、これから50年、60年、最低生きて、永い人は22世紀まで生きるかも知れない。そうするとそういう時代にあなた達は世界がどういう形で変化しているか、ということを念頭に置いた上で自分達が生き延びて行く道を本当に考えないといけない。
それはいかに多くstart upするか、ということにかかっていると思われる。新規事業を起こすことが日本は先進国の中で一番弱い。そういう国なので、そういうことを皆さんが是非Lead出来るようにして頂きたい。

2)製薬企業の時価総額推移

この資料は製薬企業の売上の推移であるが、説明は割愛する。

3)新たなモダリティ(基盤技術) がビジネス成功の鍵に

パラダイム・シフトは製薬企業でも確実に起きている。2005年のBest Selling Top 10 Productのうち僅か1品目が生物学的製剤、つまりBiologicsと言われているもので、残りの9製品は低分子化合物、あるいはSmall Molecular TechnologyをPlatform Technologyとして作られた薬であったが、僅か10年の間にTop 10 Best Selling Productのうち3品目しかSmall Molecular TechnologyをBaseとした薬はなくなってしまった。Large Molecular Product、つまり生物学的製剤、これは抗体であるとか治療用のワクチンとかであり、iPSもこれに入る訳であるが、こういう形でMarketが目まぐるしく変わっている。Platform Technologyパラダイム・シフトが起きている。

4)バイオテク企業による創薬が増加

更にもう1つ、私共の業界で注目しておかなければいけない変化は、そういった新しい薬を一体誰がどこで創出しているか、ということである。2007年、今から10年も経たない前であるが、その頃はバイオテク、NPOといった所と製薬企業とを比べると、製薬企業は7割位を創出していた。
ところが僅か10年も経たない間にがらっと変わり、バイオテクとかNPO/アカデミアの方から新しい薬の半分以上が出て来るようになった。
こういう状況の中で、例え1兆円の研究開発費を使っても、その会社が新しい薬を作れるかどうか。世界で一番大きい製薬会社はPfizerで6兆円位の売上であるが、そういう会社でも、その売上を継続的に伸ばしていくだけの新製品を10年とか15年のサイクルで出さないと売上を維持出来ない。
薬は10年とか15年市場に出ると特許が切れてGenericに置き換わるからである。Pfizerのような会社がそういうことが出来るかというと、残念ながら出来ない。一体どこがやっているかというと、バイオテク、NPO/アカデミアといった所がやっている。例えば薬であるとBoston、CambridgeのMassachusettsはPharmaceutical Valleyという世界のInnovation Hubとなっている。そこの一番のPower SourceはCambridgeの10km四方位の所にある400~500社のバイオテク会社である。そこに世界中から優秀な人達が集まる。その人達は頻繁に会社を動きながら、新しい薬を作り、1000に3つの確率に賭けて、新しい薬が出ればそこで大儲けをして、そこのFounderとかVenture Capitalistは次の投資に移る。あるいは、会社を売ったFounderはまた新しいVentureを始める。こういうEco Systemが出来ている。勿論Coreになっているのは、MITとかHarvard大学とかBoston大学といった、Core Technologyを持ってspin outをさせている大学である。Venture Capitalistはそれを支えIPO [Initial Public Offering]まで行かせるというMechanismが出来ている。日本には残念ながらそういうものがない。従って私共の会社はその中のCommunityに入り込んでいって、Globalな競争相手と伍して遅れることのないように素早く決断出来るようにし、必要があれば買収もする体制を取っている。

《続き》

3.タケダのグローバル化への挑戦

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世界のパラダイム・シフト

まず、これら3大項目への導入部として次のテーマで解説がなされた。

「変化を恐れるな!」

“生物の進化の歴史を見ても、 最も強い者や最も賢い者が生き残った訳ではない。 最も変化に懸命だった者、最も環境変化に適応した者が生き残った。”

講演者;長谷川 閑史氏

この言葉はダーウィンの進化論の中で記述はされてはいないかも知れないが、筋が通っていると思われる。 グローバル化/技術革新の進展により加速度的に変化する環境下にあって、「何もしないこと」は、結果として日本および日本企業にとって「最大のリスクテーキング」になるというのが、私が11年間社長をし、3年間会長をした経験から得られた実感である。
今の時代のリーダーは、その人がリードする組織、それが国の場合は政府、立法府、行政府のいづれであれ、あるいは企業、自治体、教育機関といった組織でも、それら全ては環境の変化に応じて、出来れば先取りをして自らが変わっていくということをしないと、環境の変化に先を越されてしまったり競争相手に先を越されてしまったりする。
例えば大学1つを見ても、大学は国内の大学同士で競争しているだけではなく、海外の大学とも競争している。学生は国内の学生、あるいは他大学の学生と競争しているだけではなく、留学生とも、あるいは海外の学生とも競争している。 どの位の割合か知らないが、多分今の学生は大学に残るのは1割か、それ未満位であろう。殆どの方が最終的には就職という形になると思われる。
一方、採用する企業の側からすると、そういう観点から採用するので国内の競争だけで見ている学生は、少し視野が狭いということに成りかねない。その辺の所を良く考えた上で目標を定めるのが良いと思われる。これは経営者にも良く話すことであるが、“経営トップに求められる資質・経験・知識・スキルは基本的に共通するものが多い。しかし、個別の会社の置かれている状況/環境によって特殊な資質・才能が求められる場合がある。”というのが私の実感である。

 

次に、3項目に大別された各項目についての解説がなされた。

1.世界のパラダイム・シフト

1)パラダイム・シフト

下記の3つのパラダイム・シフトを取り上げる。

①人口動態;先進国における急速な高齢化⇒新興国における人口増大

②世界経済のDriving Force;先進国⇒新興国

③ITによる情報化社会;更なるGlobalization、Digitalization⇒フラットな世界、The Second Machine Age

2)世界の地域別人口予測

今の人口は72~73億人程度と思われるが、過去100年弱を見てみると1950年には世界の人口は25億人であった。それが、ほぼ100年後の2056年には100億人になる。これは国連の人口推計の中位推計値で取っているが、わずか一世紀の間に人口が4倍になる。それも25億人から100億人という巨大な数になるという人類が経験したことがない急激な人口増であるから、それによって色々な環境への軋み、競争への軋み、資源への軋み等様々な問題が出て来ている。それをどうやってこれから調和させて生きて行くかということが、これからを生きる我々にとっては特に大きな課題になる。
中でも特徴的なのは、アフリカの人口であり、今は10億人ちょっとであるが、それが40~50億人に増えて行く。これから約40年位で72~73億人から100億人に増えて行くが、そのうちの殆どはアフリカで増えて行く。勿論アジアでも増えて行くが、アジアはアフリカよりも早くピークに達して、やがて2060年頃から減少に転じる。アフリカの場合はその後も増え続けて行って、アジアとアフリカで世界の人口の8割を占める位の状況になる。
人口推計は統計の推定値の中でも最も当たる確率が高い、と言われているから、この予測はほぼ間違いないだろう。恐らく今学生の皆さんが私の年になる40年後とか50年後には、こういう時代がほぼ現実のものとなっていると考えるのが宜しいと思われる。

3)経済成長の5割以上は新興国からもたらされる

経済については、世界のGDPは2000年から2010年にかけて倍、2022年を2000年と比較すると3倍位に増える。しかし、これを先進国と新興国に分けてみると先進国は約2倍に対して新興国は約6.3倍と、圧倒的に新興国の伸びが世界全体の経済の成長を引っ張っていくという様子が見えている。
その中身を少しbreakdownして見てみると、米国やドイツでは約2倍でほぼ先進国の平均位に伸びている。日本は、失われた20年と言われているが1990年代の終わりから殆どゼロ成長、金額で言うと500兆円位のGDPでずっと横這い、ドル換算なのでレートにより若干異なるがほぼ横這いで増えていない。一方で中国は14.6倍に増えている。勿論ベースが小さいから倍率は高くなるが、一方で絶対値を見ても、中国が日本を抜いたのは2010年で、わずか6~7年後の現在は1.7倍から2倍近くになっていて、アメリカの三分の二位にまで成長している。中国の数字がどこまで信用出来るかという話しはあるが、それにしても目覚ましい成長である。今や米中が覇権を競う国のスター、経済の規模においても覇権を競う国になっている。
日本経済のGDPのピークは1994年に世界の18%を、人口が2%にも満たないような島国日本が創出していた。今ではそれは見る影もなく、全体の5%で、当時の世界に占める割合からすると既に三分の一になっている。これからも日本の人口は1億2800万人をピークに減っていき、50年後には9000万人を割るのではないかと言われている。そういう中で経済を成長させていく、それもグローバルな平均として成長させていくというのは至難の技である。そういった中で日本はどうやって豊かさを維持し、社会を維持していくかということがこれからの最大の課題の1つである。

4)第4次産業革命の時代、Second Machine Ageへ

次に科学技術、ICT Technologyであるが、その中で特にComputer Technologyについて採り上げたい。今第4次産業革命の時代と言われたり、あるいは3年位前に出版された本ではSecond Machine Ageという定義がなされている。1775年にJames Wattが蒸気機関を発明して以来産業革命が始まったと言われているが、その時代をFirst Machine Ageというふうにこの本の著者達は名付けている。この段階では蒸気機関の発明が人間の労働力を機械に置き換えることによって、人間の生産性、社会の生産性を飛躍的に伸ばしたわけである。それから約250年経って、今やSecond Machine Ageという時代になりDigitalizationとAIの発展が人間の頭脳労働を機械に置き換えるという時代が到来しつつあるということである。
一方、経済産業省の「新産業構造ビジョン」の中では第4次産業革命という呼び方をしており、現在は第4次産業革命の真っただ中にいると言えるわけである。

5)ITが世界を変えるイノベーションを生み出す―ITが働き方、モノづくり、サービスを根本から変える

それではICT Technologyがこれからの経済にどのようなImpactを与えて行くか、経済的に見てImpactが大きいのはどこということを考えてみよう。
McKinsey Global Instituteが作った予想値によれば、経済的にImpactが一番大きいのはMobile Internetで、先進国においてはオペレーションの効率化と労働生産性の向上を、新興国においては遠隔サービスの浸透等を通じて圧倒的に大きな経済Impactを与えるであろうと言われている。
その次に大きいと言われているのが知識労働の自動化という、所謂人工頭脳(AI)の領域である。下限予測と上限予測で、見方にこの位の幅があるが、相対的に見ればMobile Internetに次いで知識労働の自動化、AI ROBOTの活用が大きな経済Impactを与え、その後にInternet of Things(IoT)、つまりモノのインターネット、あるいはクラウド技術と言われるものが大きな経済的Impactを与えると言われている。

6)社会の様々な分野にAIが進出

AIについては申し上げるまでもないが、最も皆さんに分かりやすくImpactを伝える出来事の1つが、例えばチェスや将棋や囲碁でAIが人間のトッププレーヤーに勝利したことである。
最初は1997年にディープ・ブルーというコンピューターがチェスの王者に勝利して、それが始まりであったが、その後将棋ソフト「PONANZA」がプロ棋士に勝利し、いよいよ昨年は世界のトップ3に入るだろうと言われている韓国のプロ棋士イ・セドルにGoogleのアルファ碁が4勝1敗と圧倒的に勝利した。なおかつアルファ碁が今年になって世界一の棋士[柯潔(か・けつ)九段]にも勝利した。アルファ碁はこれ以上[人間との対戦を]しないということで、アルファ碁同士の棋譜50局が公表されており、それを見た棋士達は自分たちが考えもしなかった手が打たれている、ということに驚いているようである。

もう一つはAmazonのEchoという音声アシスタント端末が、AlexaというAIを搭載しており、そのAlexaに音声で指示をすれば[例えば]「Alexa、今一番流行っている音楽をかけてくれ」とか、「私は今こういう気分だから元気付けてくれるような音楽を聞かせてくれ」とか、口で言えば何でも「分かりました」と聞いてくれる。実際に私はそれを見て何となく複雑な気分になったが、そういうものが既にアメリカでは約1,000万台売れている。勿論AmazonだけではなくてGoogleやApple、Microsoftなども追随している。
ここで恐ろしいのは今のGoogleの検索とかAmazonのPrime Customerとかで注文するものは全部GoogleやAmazonのData Baseの中に取り込まれているわけである。だから自分が欲しいとは思いもしないようなものも、この品物を買った人はこのようなものも見ているとか、頼んでもいないものを色々言ってくれるわけである。そういうことはまだまだ始まりで、様々な皆様の思ってもみないことがみんなBig Dataの中に入って分析をされて、Customizeされた情報がそれぞれ皆さんのところへ届くということが起こってくる。
本来Privacyの保護について敏感な今の世代の人たちも、このことについては何故か何の疑問も持たずに為すがままにされている、ということ自体が恐らくこれからは問題になってくるように思われる。どこまで何を分析されるか、心理的なものだから何か分析に使われるとちょっと空恐ろしい。

その他、AIが皮膚がんを判定するというソフトがあって、これはまだ正式な医療行為としてFDAとか日本の厚労省とかで認められてはいないが、実際には皮膚がんの診断については、特に微妙な診断についてはAIの方が専門医よりも正しく判定する確率が高い。だから人間とAIを組み合わせてやれば、遥かに今よりも精度が上がる。
それは皮膚がんだけではなくて大腸がんだとか食道がんだとか、Endoscopy、Chronoscopy、内視鏡で検査するがそういう時にその画像を見せて診断させるとAIがそれを全部判断してくれる。そして専門医が肉眼で確認して最終の診断をするということが現実に起きている。
一方で、例えば低開発国のバングラデシュで実際に起きているが、地方に専門医がなかなか居ついてもらえないなか、慢性病、例えば心臓病の方達は遠隔診断で処方することによって8割方の問題は解決されることが分かっている。どういうことを行うかというと、尿とか血液の検査薬のキットを慢性疾患の患者さんの家庭に配って、患者さんが1週間に1回尿とか血液の検査を診断キットで行い、血糖値が幾つであるとか肝機能がどうであるとか、それらを全部電話回線で町の専門医に送れば専門医がそれを経時的に診て、何か変わった情報が出てくれば生活の指導をしたり処方を変えたりしてその治療を継続する。それを行うことによって8割方の問題は実際にface-to-faceでなくても解決出来る、ということが起きている。

それからこれも有名な話であるが、日経新聞の人などに話を聞くと、同じ日に何百社も企業決算発表を行う。AIにそれまでの過去のデータを全部覚え込ませて、新しく発表されたデータを送り込むと決算発表のSummaryの記事を僅か1~2分で全部書いてくれる。そういうことが現実に起こっているわけで、AIは与えられたものに対して分析をして比較して、その結果を記事として出す。では記者は何をするかというと、AIが考えられないような、すなわち初めから目的が分かっているものではなくて、色々な現象を自分が取材をして、あるいは会社の状況をきちっとmonitoringしてそれを取材して、記事を纏めて行く。AIは目的が与えられなければ、それに対する答えは出さない。人間はそうではなくて自分が目的を作って目的に合うような材料を集めInformationを分析して記事に纏めることが出来る。そういう、AIが出来ないことをやっていかないとAIとの差別化が出来ないし、AIとの差別化が出来なければAIに置き換わられる可能性が無きにしも非ず、ということである。

AIには、特定の決まった作業を遂行する「特化型」と、人間と同様あるいは人間以上の汎用能力を持ち合わせているとされる「汎用型」の2種類がある。現存するAIは全て「特化型」と言われている。「汎用型」AIが実用化すると、人間の生き方やあり方を根本から変える可能性もある。これを含めて多分Singularityというふうに定義付けられる。

7)AIは失業をもたらす悪魔か、人口減少時代の救世主か?

Singularityは、これを言い出したカーツワイルは2045年頃にSingularityが来ると言っていたが、今ではもうちょっと早く来るのではないか、ということを言っているようである。それが何を意味するか、ということについては、ここでは悲観論と中立論と楽観論と3つpick upしておいた。最後に紹介する推薦図書の中にMEGATECH(「エコノミスト」誌が2050年のTechnologyを予想して書いた本)からpick upしたものである。
一方で楽観論について面白いのは、引用した人が限られてはいるが日本人が多いことである。欧米人は結構心配していて、Microsoftのビル・ゲイツに至ってはもう少しAIの進展を遅らせるべきであるとまで言っている。それから、AIが本当に仕事の半分も置き換えるようなことになった場合には、人間はどうやって食べて行くのか、ロボットに税金を課すのか、あるいはBasic Income、すなわち国民全部に例えば30万円を毎月渡すとか、そういった様々な意見が出ている。要は何も分かっていないということである。どうなるか分からないが、何となくヤバイぞという感覚が今多くのところで芽生えているということである。

8)AI時代に向けて取り組むべき課題

ここでは特に教育の問題を取り上げた。これからは多分ComputerのProgrammingの基礎的な知識はMustであろう。色々な国で既に行われているが、例えば欧州、英国、イスラエル、バルト3国のようなICT先進国では既に行われている。日本は中々そういうところに手が届いていない。それ以前の問題として英語の教育すら週1回小学校の授業で取り入れられる程度である。GlobalなBusiness Languageである英語について、これから国内で仕事をする人においても英語の知識はMustであろうと思われる。しかし残念ながらTOEICを見てもTOEFLを見ても日本はアジアの中で最低の部類に位置付けられている状況である。若い皆さん、あなた方は英語から逃れることは絶対に出来ない。You’d better be speaking English fluently. 頭の中に入れておいて頂きたい。
ただ、日本の場合はそういうことに対する危機感が非常に弱い。アメリカの場合であればそういう問題が出て来ると、政府がやらなければ私がやるという人が出てくる、IBM ジニ・ロメッティCEOは、アメリカの高校4年だけではとても仕事のRequirementを習得出来ないので、4年+2年の6年間の高校を設立し準学士号まで取得可能なカリキュラムを創設しようと、今は300社の提携企業と30位の州に亘って具体的な活動をしている。
あるいはEngineerが全国の全ての学校でのProgrammingを教えるための組織、Non-Profit Organizationを立ち上げて、更にはProgrammingの世界的な普及に使えるようなProgramを作ったりしている。
しかし日本及びヨーロッパでは中々そこまで個人やボランティアが行動を起こさない。そういう所では政府がInitiativeを取ってやるべき、と考える。その場合の問題は、日本の公的教育支出はGDP比でOECD加盟国中で最低レベルにあることである。それからもう一つは、一旦職を失った人が再就職をするために政府が提供する教育Program、これは「Re-training」とか「Re-skilling」と言われているが、そういう投資にもGDP比でOECD加盟国中で最低レベルにある。
では日本はどこで何に使っているか、ということになるが圧倒的に社会保障費に使っている。今の社会保障費のMechanismは高度成長期に作られたもので、低成長になって高齢化が進む時代には全く持続可能性が無い。例えば社会保障で、1950年にもらった人と、今これから社会に出て行こうとしている人を比べると、社会保障に自分の給料から天引きされて社会保障費として積み立てに拠出した部分と、実際に自分がretireしてもらうお金を比較すると、50年位にもらった人は3000万円位プラスになるが、今から社会に出る人達は3000万円位のマイナスになるという試算もある。こんなシステムが通用する訳もないし持続性がある訳でもないのであるが、やっぱりSilver Democracyというか、年配の人達、一票の格差、年配の人たちはより多く投票に行く、そういった様々な問題があって、中々若者達の、あるいは次世代の人達への不公平感が是正をされない、という問題がある。
このこと1つを取っても日本にとっては大きな課題であり、早急に解決策を見出さなければならない。Basic Incomeとか、Robotへの課税とか、それはそういった話の種となっている。

9)格差の連鎖・固定化をどう断ち切るか

最大の問題は、こういったことから何が導き出されているかというと、世界で今貧富の格差が日本でも広がっているし、アメリカでももっと極端に広がっている。今アメリカの貧富の格差に関し、皆さんは覚えておられると思うが、アメリカの大統領選のキャンペーンでトランプとクリントンが戦う前に、民主党の中でクリントンのライバルであったサンダース上院議員が言っていたが、アメリカの富の殆どを上位1%の富裕層が独占し、その額は下位90%の人達の合計額と同じであるとのことで、極端な貧富の差がついている。アメリカではお金持ちのためのPopulismが、トランプが実行している政策だと言われている。トランプの閣僚は皆大金持ちの億万長者ばかりである。そういう状況が皮肉なことに貧富の格差の再生産を生み出している。格差のMechanismは多分こういうことであろう。

一旦生じた格差の解消が困難な理由の一つは、それが子宮の中、乳母車の中、そして幼稚園の中といった極めて早い段階から始まるためである。中産階級の母親は、子供が子宮の中にいるうちから健康的な環境を与えるように努力する。また、中産階級の子供が生後最初の2年間で語りかけられる言葉の数は、労働階級の子供と比べて数百万語多いのが一般的だ。また、中産階級の親は子供を幼稚園に通わせる傾向が強い。ハーバード大の学生の保護者の平均年収は45万ドル以上(エイドリアン・ウールドリッジ/「エコノミスト」マネジメント担当エディター)、東大生保護者の平均年収は1千万円以上。要は金持ちでないと良い大学は受けさせられないし、良い大学に行かせられない。
ただアメリカの場合はそれでもまだ救いがあるのは、奨学金制度が非常に充実していて、それも返さなくてもよい奨学金が結構ある。日本の場合は、返さなくてもよい奨学金もようやく政府が重い腰を上げて少しずつやろうとはしているが、大部分の制度の奨学金は返さなければならない。
イギリスでは奨学金制度を作って、なおかつその返還については、卒業し就職した時の収入に応じて全部返さなければいけないか、3割で良いか、そういう決め方を工夫したりしている。その辺のFlexibilityが日本には無い。日本の社会の問題の1つは、皆平等であれば文句を言われた時にあなただけではない、ということで答え易いためそのように処理してしまう。しかし、様々な状況の中で人は皆違う環境にいて、それに対する対応も違うはずなのに、それが非常に出来難いということをこれから変えていかないと、どうにも動きが取れない状況になって来る。これが益々高じるだろうと思われる。
それともう1つは文系・理系に関わらず今後はSTEM(Science、Technology、Engineering、and Mathematics)の基礎知識教育は必須であると思われる。

10)日本の人口推移

移民、難民の受け入れが困難な日本では、demographicなchangeがある中で何をしたら良いだろうか? 人材しか資源がない国なので個々の生産性upしかない。因みに1年で生まれる子供の数は、1949年、第一次Baby Boomerのピーク時に270万人である。ところが昨年は100万人を切った。だから今はピーク時の半分以下である。それだけしか子供が生まれていないので、日本の人口はどんどん減っていってしまう。
そういう状況の中で真っ先にやることは、本当は、普通の国であれば世界中から優秀な人が集まるような環境を作って、移民を受け入れる、あるいは難民を受け入れる。ドイツに至っては2015年から約100万人の難民を1年ちょっとの間で引き受けている。そういう国がある一方で、日本に至っては多分数十人とか、その程度しか受け入れていない。また世界から優秀な人材が集まることもない。
様々な問題があるが、例えば大学の中で理科系と文科系の比率も、日本は多分理科系は24~25%で、75%位は文科系であると思われる。中国やインドは日本の10倍以上の人口があるが、45~47%が理科系、シンガポールに至っては半分以上が理科系という状況である。ComputerのTechnologyが社会のベースになって来る時には、もう少し理科系、文科系を超えた前述のSTEMの教育が必要と思われる。
アメリカも多分理科系の比率は日本と余り変わらず、30%未満と思われる。ただ、アメリカの場合は社会に出た時世界中から人を集める。Silicon Valleyに世界中から人が集まる、あるいは私が身を置く医薬品であればCambridge、それからBostonのあるMassachusettsが、西のSilicon Valley、東のHealth Care Valleyみたいな形で、世界のHealth CareのInnovation、あるいは世界のICTのInnovationは圧倒的にその地域で集中的に起こっている。そうした環境を作ることによって、世界中から優秀な人を集めるという、所謂Eco Systemを作っている。そういうものを作っていくか、力が無ければそれを呼び寄せるための仕組み作りから始めて行かなければならないので、日本としては大変であるということになる。

11)起業大競争と内向き日本

皆さん、特にこれから出て行く若い人達は、まずStart upを考えるべきである。大企業に行っても余り良いことは無いと思う。自分達が勉強したことを生かして起業する。Second Chance、Third Chanceのあるような社会を作っていくことによって、何回でも起業して成功するまでやるということをSilicon ValleyやHealth Care Valleyでは当たり前のように行われている。日本でもそういう環境を作らないととても追い付いて行けないと思われる。

1つの例であるが、ユニコーンと言われている価値10億ドル以上の未上場企業が世界に188社あるが、日本にはわずか1社しかない。メルカリというフリマアプリを運営している会社である。因みに188社の半分以上の99社がアメリカで、中国にも45社あり、圧倒的にこういう所でも差を付けられてしまっている。
もう1つ、準備中の起業家数は日本は3%で350万人、中国は9%で母数が多いから1億2000万人と、桁違いの差がある。それからこの資料にあるグローバルスタートアップ・エコシステムランキングにおいて、アメリカはこの15のうち6都市が上位の中に入っている。日本が入っていないのは調査対象外だからであるが、調査したとしても多分1つ入るか入らないか位であると思われる。
こういう様々なHandicapを背負っていることを考えると、特に若者は、日本でだめだったら世界で活躍する位のことを今から思って、就職もアメリカで就く位のことを考えて、あるいはヨーロッパで就く位のことを考えて、新しい物を起こしていくことによって何れは日本に貢献することを考えて欲しい。
日本の生活レベルは豊かであるし、国は安全であるし、おいしい物が食べられるが、こういう環境が何時までも続くという保証は全く無いことはお分かりの通りである。

12)イノベーション促進に向けた世界の取り組み

この部分は参考までの資料として皆様に提起しておくので、興味のある方は見て頂きたい。

《続き》

2.医薬品産業の現状と今後

3.タケダのグローバル化への挑戦

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竜田邦明氏による講師の紹介

竜田邦明氏による講師紹介

尚志社の宣伝をして頂き、有難う御座います。本日は長谷川閑史会長の講演会を開く事が出来まして、非常に喜んでおります。最初にお断りをしておきますが、会長は先程ご紹介がありましたように6月で任を降りられました。が、敢えて会長と申し上げたいと思います。名人とか横綱は引退しても名人とか横綱であります。そのままで続けさせて頂きます。本日は私が本当に敬愛する長谷川閑史会長にお越し頂きまして、早稲田大学で、しかも理工学部の応用化学会で講演会を開くことが出来まして本当に嬉しく思っております。この暑い中長谷川会長、お越し頂きまして有難う御座います。今日は略歴と講演タイトルにつきましては事務局に作成して頂き配布されていると思いますが、少し補足させて頂きます。長谷川会長は1970年に早稲田大学の政治経済学部を卒業された後、直ちに武田薬品に就職されました。勿論色々な部署を経験されました後1986年から海外に赴任されました。最初にドイツタケダの社長、それからタケダヨーロッパの社長、最後にアメリカに渡られまして、やはりタケダの関係会社の社長を勤められました。要するに10年以上海外で社長を歴任されました。これだけをもってしても長谷川会長が現在のグローバル社会の最も相応しい社長、会長であると分かって頂けると思います。実際に2003年に代表取締役社長に就任され、2014年に会長に就任されますが、その間に2011年から経済同友会の代表幹事を勤められました。2期4年勤められました。経済同友会の代表幹事といいますのは言わば経済界の総理大臣に匹敵するものでありまして、正にトップリーダーになられました。そして2014年に会長に就任されますが、その際後任の社長に外人を外から連れて来られました。クリストフ・ウェバー氏を任用されました。それと同時期に色々な部署のリーダーに外人を登用されました。これらのことがその後の武田のグローバル戦略の基礎を作って盤石なものにしたと言われております。それでは講演に入らせて頂きますが、今日は長谷川会長の経営哲学、考え方、そして日本の経済のグローバル社会における位置付け等についてもお話しして頂けると、楽しみにしております。それと同時に、もっと大切な事は、若い学生諸君に一言二言もっと叱咤激励を頂けると楽しみにしております。それでは長谷川会長、ご登壇お願い致します。有難う御座います。

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2017年度総会 三浦会長挨拶

本日は御多忙の中、定期総会にご出席頂き、誠に有り難う御座います。
会の開会に先立ちまして一言ご挨拶と新年度への抱負を述べさせて頂きます。

本年度は我が応用化学科本科創設100周年に当たる誠に喜ばしい記念すべき年に当たります。後ほど紹介があると思いますが、10月7日に記念式典が予定されており、教員の皆さんがその準備に奮闘されておられます。私たち応用化学会でも直接のご協力はあまり出来ませんが、応化会からの志をご寄付させて頂き式典の成功をご支援申し上げることを先ほど総会に先立つ第1回役員会で承認を頂いたことをご報告申し上げます。
大正6年河合、富井両教授が立ち上げ、そして翌7年に小林先生が主任教授として応用化学科の今日の隆盛の基盤をお作りになったことは皆さん周知のことと思いますが、この小林久平先生が6年後の大正12年に創設された我が応用化学会初代会長となられたわけであります。蛇足ではありますが、以来私で丁度18代目にあたることになります。
この諸先輩達の活躍により応用化学科は日本の化学分野におけるトップランナーとして常に学会、工業界を牽引し続けてきた訳であります。この応用化学科は今「役立つ化学、役立てる化学」の理念の下、まさに世界に向かって発信を始めており、その原動力である教員の皆さんへの高い評価はホームページなどで皆さまもよくご存じのことと思います。100年から先を目指して益々応用化学科が発展していくために、私たちOB・OGも大いに支援をしていこうではありませんか?

さて、会長就任の11月に「運用の円滑化と体制改革について」の方針を発表・実施して今年で3年になりますが、現役OB・OGの委員会への参加、学生委員会の自主企画運営による活性化、ホームページの大幅刷新、産学連携推進のための4回に亘る「未来社会創成フォーラム」の実施など現役若手、学生にも魅力ある企画とその遂行を推し進めて参りました。それぞれ昨年、一昨年の総会挨拶でも報告させて頂きましたように、各委員会メンバーのご尽力により予想を超える成功を収めてきたものと確信しております。
さりながら、これも毎回申し上げておりますようにこの「改革」を実施しなければならなかった根本原因であるリソースの欠如、すなわち「金、人」の不足が未だに期待していた程改善されていないことも、また事実であります。
後ほど事業会計報告そして計画の説明にありますように、会費納付の長期的漸減傾向に歯止めは掛かっておらず、イベント収入に依存する傾向が進むという財務的にはあまり望ましくない状況になっております。

また、人に関しましては現役OB・OGそして学生委員は着実に増加しているものの、いわゆるシニアOB・OGの参加は高齢者就労環境の大幅な変化により厳しい状況は続いております。
そのため、本年度は役員・委員改選期ではありませんが、後ほど説明致しますように主要メンバーの現役シフトを軸に一部交代を実施させて頂きました。
まず、第一に副会長に倉持さんから濱逸夫さんへの交代であります。
濱さんは言うまでなく現役のライオンの社長であり、2012年就任以来4期続けて売り上げ、利益共に増収を続けている大変御多忙な方であります。本日も残念ながら先に決まっていた海外出張のため出席できず、皆さまへの就任のコメントを託されており、後ほど紹介の予定であります。
濱さんの母校、応化に対する熱い思いは交流講演会に出て頂いたときから以降、何度となくお会いしてきましたが都度強く私の胸に伝わって参りました。御多忙の中、副会長をお受け頂けたのも、全くのこの彼の熱意に他なりません。しかしながら、現状のままの会運営では現役社長の多忙さから思うように活動に参加出来ないことも当然であります。現役の活躍を期待する今年度方針の中で多かれ少なかれ現役OB・OGには共通した課題であるとも言えます。
従来のシニアの善意に依存する運営に限界が出てきている中、現役とのコラボによる運営方法への転換は喫緊の課題であり、今回現役の立場から会の運営を考え試行して頂くため3委員長を敢えて現役OBにお願いすることに致しました。この方針には様々リスクのあることは承知ですが、幸いシニアOBもこの3年間で新規参加頂いた方々が活動になれて会の中心として活躍してきており、現役およびシニアの両輪によるワークシェアリングへの思い切った挑戦をするのはまさに今であると考え、今年度から進めて行くことを決断致しました。
新委員長の下村、町野、佐々木3氏はそれぞれ会社の要職にあり多忙な職務をこなしておられますが、有り難いことに是非改革に協力をしたいと熱意を持って引き受けて頂きました。また、応化会活動の要である多くのベテラン委員の皆さんも彼ら共に会の運営を進めていくとのご理解を頂きました。 

挑戦をしてみなければ何も変わりません。現に学生委員会においては自主運営と言う重いミッションが却って学生達のモチベーションを向上し、この3年間で多くのイベントを立ち上げ、成功裡に実施してきました。
是非会員の皆さまに置かれましても本方針をご理解の上、温かく見守っていただきますと共に従来に増しますご支援の程よろしくお願い致します。

次にリソースの中の「金」の部分でありますが、これは言うまでもなく会運営の基盤である会費納付であります。
冒頭申し上げたとおり漸減傾向が進んでおり、とくに現役若手の無関心化が顕著であり、これが大きな要因になっていると考えております。もともと卒業してからは世事に忙しく、学生時代の校友達、先生方とも離れ、過去のものとなっている大学関係には関心を持ちにくいのはある意味当然のことでありますが、それでも近年の漸減傾向はゆゆしき問題と考えざるを得ません。まずは所在確定し、接触することから始めなければなりませんが、ご存じのとおり個人情報保護法もあって大変やりにくい時代になっております。同門会や同期或いは企業の中からの信頼関係の下の情報が頼りで、皆さんが知っておられる情報をいただければ、と期待しております。ご協力の程、よろしくお願い致します。
学生委員会卒業の若手現役は応用化学科・応化会への帰属意識が高いので本年度は学生委員会および教室側の協力を得てこの世代のオルグ化を進めたいと考えております。また、現役にとって魅力ある応化会でなければ会費を払ってまで戻ってきたいとは思わないもので、彼らを魅了する場としての機能をどう持たせるか、これが次の大きな課題です。この二つの意味でも世代が近い現役委員長の知見、役割は大きいものと期待している次第であります。

百周年の話題から改革推進まで多くのテーマに触れ、長い挨拶になりました。
何度も申し上げますとおり、シニアと現役OB・OGの両輪による会の運営、この改革の成功により、応化会を持続的に発展させて、今年の応用化学科百周年に続く2023年の応化会百周年に繋げていきたいと願っております。
今回の総会は事前に通知メールでご案内しましたが、1ヶ月前倒しをすることになりいつもご参加頂いている皆さまには多少の混乱があったかも知れません。理由については申し上げたとおりで、いろいろ議論を行った上での判断ですので、改めてご理解を賜りたいと思います。

最後に感謝の言葉を述べさせて頂きます。
ご案内のように倉持さんがこの度退任されますが、彼には多忙な現役時代から当会の交流委員および理事を勤め、私が会長就任時から副会長として会運営の重責を担って頂きました。広島からと言う遠距離のハンディがある中で、私費で西早稲田に通いご活躍頂いたことは皆さんのご存じのとおりです。また、TV会議で幹部会会議に参加するなど新しい形の会運営のやり方を試行しても頂きました。ここに、その功績に対しまして功労者として感謝申し上げます。会員一同お礼を申し上げます。 

以上で、総会に先立ちまして私の思いを述べさせて頂き、併せて開会のご挨拶とさせて頂きました。有り難うございました。

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