1. 開催日時: 2025年11月29日(土)15:30~17:00
2. 開催場所: ウインクあいち 1309号室
3. 出席者: 20名(オンラインでの出席者を含む)
4. 演者: 細川 誠二郎 准教授
5. 演題: 「天然有機化合物と向き合う:ある合成化学者の思索と挑戦」
6. 要旨:
本講演では、有機合成化学、特に天然物合成の意義・歴史・教育的価値、そして講演者自身が進める最先端研究について体系的に紹介をされた。
天然物合成は、かつては希少天然物の構造決定や量的供給のために不可欠な技術であり、生命現象の理解や医薬品開発の基盤を支えてきた。現在では、量産可能な合成経路を設計し、新反応・新手法を創出する「合成科学」としての側面がより重視されるようになっている。また、天然物は医薬・農薬・生物学研究に広く応用され、植物の成長促進物質、害虫フェロモンを用いた生態系制御など、その利用範囲は多岐にわたる。
教育の観点では、天然物合成は多段階反応を通じて多くの実験操作や反応原理に触れることができ、構造決定能力や問題解決力を育むため、極めて高い教育効果を持つ。意図しない副生成物から新反応が見つかる例も多く、研究と教育の両面を強く刺激する分野である。また、近年AIが合成経路設計に応用され始めているが、ネガティブデータに基づく経験則や想像力、新反応の発案など、人間固有の創造性が依然として不可欠であることも指摘された。
研究紹介では、多様な最先端事例が挙げられた。植物発芽促進物質カリキノライドの3工程での超短工程合成、中分子ポリケチドの新たな合成展開、深海由来の強力な抗がん物質Psymberin類の立体化学の大規模決定(25不斉点中20を確定)、古代生物由来で1億5000万年前の化石に含まれるボロリソクロームの多様化合成、ホウ素中心の光学活性錯体という未踏領域への挑戦などである。さらに、地球初期の生命進化に関与し、UVA〜UVCを吸収するスピトネミンの合成研究も進められており、低刺激性UV吸収剤やバイオマーカーとしての可能性が示された。
天然物合成は科学の基礎から応用までをつなぐ中核的分野であり、希少天然物の供給、生命現象の解明、新薬・新素材創出に不可欠であるとともに、次世代研究者の育成にも重要な役割を果たすことを強調された。
以上
文責:中部支部



