早稲田応用化学会 第38回交流会講演会―望月浩二氏講演の概要

2022年9月10日(土)15:00~17:10 (Zoomによるリモート開催)

 

【講演第二部】
望月浩二氏 『サステーナブルな世界に向けて』 ~ 「ドイツのカーボンニュートラル」

講演は次のテーマに従って順に行われました。
①ドイツ国民の環境意識
②サステナビリティの重要な要素としてのカーボンニュートラル
③カーボンニュートラルの2050年実現を目指すドイツの取り組み
④カーボンニュートラルとリサイクル

以下、各テーマについての説明の中で、主要と思われるものをピックアップしてみました。
①ドイツ国民の環境意識
 ・ドイツ国民の環境意識調査が遇数年12月に連邦環境庁(UBA)から発表されます。ここではその結果を報告します。(特に2020年のデータについてのコメントです。)
 ・「我が国の直面するもっとも重要な問題は何だと考えますか」に対する回答において、「環境と気候の保全」が第四位(65%)を占めています。
 ・「環境/気候保全はどの政治領域で考慮されるべきですか」に対する回答において、「エネルギー政策」が第一位(70%)を占めています。
 ・「製品またはサービスの購買または利用におけるあなたの個人的な振る舞いについて」に対する回答において、「家電製品の購入時に、私は、とくにエネルギー効率クラスのよい器具を選びます。」が第一位(74%)を占めています。
 ・「気候変動と気候保全に関する質問」に対する回答において、あなたの関心の強さの程度は、「非常に強い」と「強い」の合計が74%、またあなたの情報入手の程度は、「非常によい」と「よい」の合計が60%となっています。
 ・同じく「気候変動と気候保全に関する質問」に対する回答において、気候変動の原因は「人間の行動のみ」と「主に人間の行動」の合計が77%、またコロナ禍によって、あなたにとっての気候保全の意味に変化があったかどうかについては、「より重要になった」との回答が16%となっており、注目されます。
 ・「気候政策とドイツの役割に関する質問」に対する回答において、ドイツのような工業国は、気候保全を推進する義務があるとの考え方に「全面的に賛成」と「どちらかというと賛成」の合計が83%に達しています。
 ・「気候保全を推進する政策に関する質問」に対する回答において、「気候に有害な補助金を廃止する」、「気候にやさしい製品と技術の開発の助成を強化する」、「気候保全のための教育と職業教育を強化する」などの回答が支配的です。
 ・「気候に有害なCO2の放出を減らすために、ドイツでは2021年から国家が燃料と化石の暖房燃料(例:暖房油、ガス)にCO2税を課します。その税収の用途に関する質問」に対する回答において、「この税収は将来のCO2排出の減少を可能にする助成プログラムのために使用されるべきです」との回答が55%で第一位です。

②サステナビリティの重要な要素としてのカーボンニュートラル 
 ・サステナビリティとは「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たす」ことであり、これを担保する諸要素として資源の持続可能性、気候の持続可能性(カーボンニュートラル)、廃棄物処理の持続可能性、開発の持続可能性、等が挙げられます。

③カーボンニュートラルの2050年実現を目指すドイツの取り組み
 ・ドイツでは2050年までに気候ニュートラルを実現することを気候保全法で定めています(2019年12月17日に官報告示)。
 ・この講演では、「2050年までにカーボンニュートラルを実現するためのドイツの取り組み」というテーマについて、ベルリンのシンクタンク「アゴラ」がドイツの次の三つの研究所に委託した研究の報告書の内容を紹介します。(発表:2020年10月)
  Prognos AG(プログノス研究所)
  Öko-Institut(エコ研究所)
  Wuppertal-Institut für Klima, Umwelt und Energie
     (気候、環境、エネルギーに関するブッペルタール研究所)
 ・気候ニュートラル2050(CN2050)のシナリオにおける政治的な対策として、下記の項目があります。
  Buildings(建物);Green retrofit (retrofit = 旧型装置の改装)
  Agriculture(農業);Reduce manure =(有機)肥料、こやしを減らす
           Reduce livestock = 家畜を減らす
  Industry(産業);DRI = Direct Reduced Iron(直接還元製鉄法)
  Industry(産業);CCS = Carbon dioxide Capture and Storage
  負のエミッション;BECCS = Bioenergy with Carbon Capture and Storage
                … by biomass combustion
             DACCS = Direct Air Carbon Capture and Storage
 ・ドイツはGHG(Greenhouse Gas) Emissionを、1990年の1,251から858(2018年)まで削減しました。(単位;MtCO2eq、以下同様)
 ・気候保全法の第一次改定が行われ(官報告示2021年8月18日)、気候ニュートラルの達成を2050年から2045年に前倒ししました。(GHGエミッション;858(2018年)⇒438(-65%,2030年)
 ・気候ニュートラルへの移行のため、下記の三つの柱があります。
  柱1:エネルギー効率の向上とエネルギー需要の削減
  柱2:再エネ発電と電化
   その1:総電力消費
   その2:正味発電量および正味輸入量
       2020年のドイツの発電電力の44%は再生エネルギーによるものです。
       ドイツは2022年に脱原発を達成します。(予備電源としての原発2基を、
       来年4月まで稼働可能な状態で残します。)
       ドイツはフランスから電力を輸入していますが、その輸入量の約2倍の
       電力をフランスへ輸出しています。
   その3:再エネ発電
  柱3:エネルギー源および原料としての水素
 ・セクター・カップリング;電力、熱、交通の分野間で再エネ由来の電力を融通しあうことです。

④カーボンニュートラルとリサイクル
 ・リサイクルは常にカーボンニュートラルに貢献します。以下は包装材料のリサイクルなどについての最新情報です。
 ・飲料ボトル・缶のデポジット(保証金);ポイ捨てを防ぎ、資源または再使用容器として活用するためです。
 ・包装廃棄物を出さない工夫;
  普通のスーパーが「量り売りコーナー」を設置しています。(欧州全域)
  飲料業界の大手が予告はしたがまだ実現していない「100%リサイクルPETの飲料ボトル」をベルリンのスタートアップ企業“Share”が実現しました。(ドイツ)
 ・廃棄物ゼロを目指すNPO:ゼロ・ウェイスト・ジャーマニー(ZWG);ZWGは、市民、企業、行政の協力によって、循環経済の考えを広く実現することを目指すNPOです。
 ・地下式ごみ回収容器;場所の節約、美しい外観、投入口が自動的に閉まるので、臭気が発散しない、投入口が低いので、老人や子どもや身障者でも楽に投入できる、等の特徴があります。
 ・食品用プラ容器包装に関するEUプロジェクトが始動しました。単一素材設計とリサイクルシステム確立を目指します。

 ご清聴、有難う御座いました。