第17回 先生への突撃インタビュー(山口潤一郎教授)

山口潤一郎教授

「先生への突撃インタビュー」の再開5番バッター(第17回)として山口潤一郎教授にご登場願うことにしました。
今回も学生にインタビュアーとして参加をしてもらい、応化会の本来の姿である先生・学生・OBの3者による合作を目指しました。山口先生にも快く賛同していただきましたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。

山口先生は、2002年03月東京理科大学 工学部 工業化学科卒、2007年03月東京理科大学大学院 工学研究科 工業化学専攻修了、 博士(工学) 東京理科大学、2007年04月-2008年07月日本学術振興会海外特別研究員(海外PD)、2008年08月-2012年03月名古屋大学理学研究科助教、2012年04月-2016年03月名古屋大学理学研究科准教授、2016年04月-2018年3月早稲田大学理工学術院准教授、2018年4月より同大学理工学術院教授 となられています。また、2013年3月に日本化学会進歩賞、 2017年04月に文部科学大臣若手科学者賞、2017年07月にアジア化学連合(FACS)ディスティングィッシュ若手化学者賞 等を受賞されています。

・先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?

 ~恩師の「有機って本当に面白いよね!」に引き寄せられましたね~

実は1-2年は余り勉強熱心ではなかったのです。3年で一念発起して勉強を始めたものの唯一必修科目の有機化学A(1年生の科目)の単位を落とし、留年となり研究室には入れませんでした。当時の興味は化学工学や物理化学の方面にあり、有機化学は単位を落としましたし、それほどではありませんでした。しかし、3年の時にゼミに参加をする機会を得、その後お世話になる林雄二郎先生の「有機って本当に面白いよね!」と熱く語る言葉が心に残り、結局その研究室を選んでしまいました。研究室に入って、有機化学のものづくりが楽しくなり、研究成果を出して世界に論文を出せるという流れにのめり込んでいきました。それでも当初は研究職でなく、人との交流や関わりのあるMR(医薬系営業職)になりたいと思っていました。しかし、修士1年時に夏の勉強会(多くの大学の修士から博士課程の学生がメインで参加)に参加した時に転機が訪れました。同世代の仲間との話では就職活動の話ばかり。研究職につきたいのに早く研究室を出たいだとか、研究が面白くないと言う不満。一方で博士課程の先輩方は自分の研究をどうしたいか、どれだけ面白いのか、研究に前向きに熱く語っているという対照的な姿を目の当たりにしました。そして、自分も研究は面白かったし、後者の博士課程の人たちのようになりたいと思ったわけです。同時に人との関わりもある教育現場にいたいと考えて企業の研究員ではなく大学教員を目指しました。

・技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?

 ~ユニークさやクレージーさを大切にしたい~

分子レベルでモノづくりを出来るのは、合成化学者のみというスタンスは大切にしたいと思っています。一方で、当然、技術や知識を高めるのも必須ですが、機械的な繰り返しは今後AIを利用することによって人間が凌駕される可能性もあり得ます。それを考えると、人、研究者にしかできない方向性を追求したいと思っています。ある面では非常識な道筋を考えられるようにしていきたい。ただし、非常識と判断できることは、常識を十二分に熟知している必要があります。その延長線上のユニークさやクレージーさを大切にしたいと思っています。

一例としては、6置換ベンゼンを合成する際にチオフェンを原料にしてチオフェンを壊して6置換ベンゼンを合成するルートの開発を挙げることは出来ると思います。6置換ベンゼン(ヘキサアリールベンゼン)は学生実験でも合成できそうな化合物。ただし、6つ異なる炭素置換基(アリール基)を導入しようと思うと、既知の方法では不可能でした。一方で、我々の研究室ではチオフェンに異なる4つのアリール基を直接導入することはできた。チオフェンは4炭素なので、2炭素をぶつけてやれば6つの炭素からなるベンゼンができるわけです。つまりチオフェンを「壊して」ベンゼンをつくる。言われてみれば普通なのですが(常識)、機能の宿るチオフェン骨格を好き好んで壊そうという研究者はこれまでほとんどいませんでした(非常識)。それにより、前人未到の6つのアリール基が異なるヘキサアリールベンゼンを世界ではじめて作ることができたのです。

・先生の研究理念を教えてください。

 ~モノづくりを極める匠になりたい~

「分子レベルでのモノづくりを極めたい」というのが、一貫した考え方です。平たく言うとこの分野でのブラックジャックになりたいと思っています。標的さえ与えられればなんでもうまくつくれるといった人。どこの分野でも重宝されますよね。ヒトには不可能に思えるような効率的なルートの可能性を追求して、実験を繰り返しながら可能にする面白さを極めていきたいですし、最終的には匠になりたいと思っています。 匠と言いながら、専門の深化だけではなく俯瞰する広い見識も重要と思っています。

・これからの研究の展望を聞かせてください。

 ~未知の領域とのコラボレーションから成果を産みだしたい~

現状ではバイオロジーとのコラボレーションを中心に研究を展開しています。特に、化学的アプローチを殆どしていない学問領域とのコラボレーションは積極的に行いたいと考えています。ほとんどの現象が分子(集合体)との関わり合いですので、分子を設計できる合成化学者がその学問領域に興味をもてば、未踏の課題をすぐに解決できたり、現象を分子レベルで説明できるようになります。学際という中で、自分にしか考えられないような手法を開発したり、世界を変える分子を作りたいと思っています。そういう意味では、学会もそうですが他分野の学会や研究会にも顔を出し続けたいと思っています。

 
・応用化学会の活動への期待を聞かせてください。

 ~学生にとって素晴らしい機会~

OB・OGと先生および学生が一緒に活動できる会は珍しい会であり、これまでいくつかの大学を渡り歩いてきましたが、このような組織にはありませんでした。応化にいるひとにとっては普通なのかもしれないですが、普通ではないです。その存在の重要性を認識して欲しいと思います。特に、学生にとっては大変良い機会だと思います。 

・100周年を迎えた応用化学科についてコメントを聞かせてください。

 ~次の100年に向けて足跡を残したい~

素晴らしい歴史であり、学ぶことも多いと思います。しかし、振り返ることも重要ですが、このまま早稲田にお世話になることとなると30年以上ありますので、100年の歴史を汚さないように、自分の役割を全うしたいです。次の100年に向けて新しい足跡を残したいと思います。

・21世紀を担う皆さんへのメッセージをお願いします。

 ~教育者としては、自分より優れた研究者を世に送り出したい~

自分としては研究のみではなく、教育者としてのスタンスも大切にしており、自分より優れた研究者や、リーダーとなれる人をできるかぎり多く世に送り出したいと強く思っています。また、情報化時代と言われていますが、情報の把握と発信が重要だとの認識は学生時代から思っており、ケムステーションという化学ウェブサイトを作り現状でも続いています。内容は添付資料に任せることにしますが。

学生にとっては、今はインターネットを調べれば詳細な情報に簡単にアクセス可能です。つまり、情報を集めやすい環境にもあるため、自分で集中して没頭できるような分野や領域を是非見出して欲しいし、それが見つかると更に面白くなる良い循環が出来る筈です。是非とも、自ら学べるような分野を見つけて欲しいですね。

 

 

参考資料:

 

応用化学科・教員・研究紹介

インタビュアー&文責: 村瀬菜々子(学生広報班チーフ)、井上 健(新19回)

 

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