各賞受賞の皆様、本日は誠におめでとうございます。
早稲田応用化学科には、先輩諸氏の寄付により大変充実した奨学制度があり、その制度は途切れることなく現在も運用され続けております。また本年からは応用化学科設立時にも大きな御支援をいただきました財団の森村豊明会よりの奨励賞も戴けることになりました。応用化学科で学ぶ学生諸君にとっては大変恵まれた環境が整えられていると言うことが出来ると思います。
本日、授与式が行なわれた水野敏行奨学金、里見奨学金、中曽根奨学金、森村豊明会奨励賞、応用化学会給付奨学金、こうした多くの賞はそれぞれ熱い思いを持った個々の先輩諸氏や高い志による財団からの寄付によって成り立っています。
本日受賞された皆様は、こうした先輩や財団の思いをしっかりと受け止め、心して勉学、研究に取り組んでいただきたいと期待しております。
ところで、我が国の状況を振り返って見ますと、明治以来高度な科学技術を推進力として国力を高めてきたといえるでしょう。敗戦後も多くの人々の力でこの高度な科学技術力の向上に努めて来ました。そしてこれが現在の日本の繁栄に繋がっています。
しかしながら、今週月曜日の参議院予算委員会でも議論されておりましたが、日本の科学技術の研究活動には近年基盤低下の傾向が見られます。たとえばNSFによる科学技術論文の発表数では、2003年に世界2位であった日本は、2013年には3位、そして2016年の順位はどうなったかと申しますと、1位が中国 、以下、2位アメリカ、そしてインド、ドイツ、イギリスとつづいて、日本はようやく6位という状況になってしまいました。こうした傾向は論文発表数だけでなく、被引用論文数や、国際共著論文数でも同様で、それぞれで順位を下げております。
特に日本のように資源立国を望めない国にとっては、強い科学技術力を立国の基盤として維持することがどうしても必要になります。そういう意味で最近の科学技術研究における基盤低下の傾向は、かなり深刻な状況と言えるでしょう。
さらに加えて、これから団塊の世代の高齢化が深刻化してまいります。社会で活躍する世代の人口比率が下がっていく日本の状況を考えますと、価値を生み出す効率がより高い領域、例えば科学技術力を強化するといった領域に資本や努力を集中することが大切になるでしょう。そういう意味で、博士課程における研究活動の充実ということの重要性はますます大きくなっていくはずです。
皆様は、化学技術における最高の学問を学ぶ場でその研究の先端を進むことになるわけですから、どうか志を高く持ち続けて、国の期待や要請、そして先生方や先輩方の熱い思いを自分の思いとして、今後の研究生活に邁進していただきたい。そして大きな成果を挙げられることを心から期待しております。
最後になりますが、早稲田の応用化学科には、それぞれの夢を、世代から世代につないで育てて行くという伝統があります。今度は皆様が、やがて自分達の成果を持って、その夢を後輩につないでいくことになるでしょう。
皆様が、自分の成果に誇りを持って、この応用化学会を通して後輩達をサポートして下さる日が来ることを切に期待してお祝いの挨拶とさせていただきます。