医薬品産業の現状と今後

2.医薬品産業の現状と今後

1)世界の医薬品市場の見通し(2015-2025)

私が身を置く医薬品産業についての状況であるが、医薬品のマーケットの伸びはこの10年間で世界市場において1.7倍になっている。
またこの10年間の伸びを地域別に見ると、その半分以上がアメリカによって創出されるという、非常に偏った状況になっている。その後に続くのは欧州、中国である。特に中国は、まだ世界に通用するような差別化された医薬品を0から作り出す能力は無いが、それでも中国はアメリカからどんどんPh.D.の人が帰っており、そういう人達は実際にアメリカでの就業体験を持った上で帰っている。今や中国は政策的に、深圳を中国のSilicon Valleyのようにしようとしている。中国本当に恐るべしと思われる。何れ日本はアジアでNo.1の地位を中国に奪われることは間違い無いと言わざるを得ない。
因みに、例えばGlobal Top 100 Best Selling Pharmaceutical Productの内、日本Originが幾つあったかと言うと、1990年代には15品目あったが、今や2015、2016年になると僅か5品目しかない。その数は恐らく今後も比率として減り続けるという恐れがある。一方アジアのどこがcatch upして来るかというと、韓国は電機とか電子とかその分野の製品では日本を陵駕しているが、残念ながら創薬ということについては中々難しいようである。恐らく中国が早晩日本を追い抜くと思われる。

長谷川閑史氏の講演

例えばアメリカの大学に100万人毎年全世界から留学をする。100万人の内の3分の1、33万人が中国人である。17%、17万人がインド人である。韓国でも毎年5~6万人がアメリカに学びに行く。韓国は人口が5000万人で日本の半分以下である。日本は1億2500万人の人口でありながら、3万人足らず位である。一時、ピークの時は7~8万人が行った。これは別にアメリカに行けと言っている訳でもないし、アメリカが全てと言っている訳でもないが、やはり外国で世界のトップレベルが集まって切磋琢磨するような所に、自分から身を乗り出して乗り込んでいく、それ位の気概を持たないと、本当に国際競争、Global競争に負けてしまう。
これが1つと、もう1つは日本で色々なstart upをして成功している人が何人かいる。例えば楽天の三木谷さんとか、グロービスの堀さんとか、あるいはサントリーの新浪さん、新浪さんは自分ではstart upしていないが、43歳でローソンの社長になり今やサントリーの社長になり、そういう人達は皆HarvardだとかStanfordだとか色々な所でMBAを取りに行って学んで、そういう人達が皆仲間がstart upするのに刺激を受けて、自らもstart upをする。
よく言われるArbitrageという言葉を知っているであろうか? “裁定”という意味の言葉である。昨日の日経新聞のコラムにおいて、孫正義さんのことについて書かれた中にその言葉が使われていたので見れば分かるが、三木谷さんがあのBusiness Modelを考えたのではなくて、アメリカでAmazonがやっていることを日本で是非やろう、ということでやったわけである。従って時間差があるから、その時間差を利用してある国における先行者の利益を自分の方に持って帰ることで、先行者として利得を得る。そういうことをArbitrageと言うようである。
そういうことだって可能な訳である。しかし今やそのタイム差はどんどん縮まっているので、昔のように悠長に構えていては出来ない。
何れにしても世界で何が起こっているか、ということを自分の目でしっかり見て来るということをしないで、日本の中だけで周りの仲間だけを見てcomfortableに幸せな生活を送っていて良いわけはない。
私のように70歳を過ぎたような人達にとっては多分今後10年か15年はこの延長線上でいけると思われるが、皆さんのようにまだ20歳そこそこの人達であれば、これから50年、60年、最低生きて、永い人は22世紀まで生きるかも知れない。そうするとそういう時代にあなた達は世界がどういう形で変化しているか、ということを念頭に置いた上で自分達が生き延びて行く道を本当に考えないといけない。
それはいかに多くstart upするか、ということにかかっていると思われる。新規事業を起こすことが日本は先進国の中で一番弱い。そういう国なので、そういうことを皆さんが是非Lead出来るようにして頂きたい。

2)製薬企業の時価総額推移

この資料は製薬企業の売上の推移であるが、説明は割愛する。

3)新たなモダリティ(基盤技術) がビジネス成功の鍵に

パラダイム・シフトは製薬企業でも確実に起きている。2005年のBest Selling Top 10 Productのうち僅か1品目が生物学的製剤、つまりBiologicsと言われているもので、残りの9製品は低分子化合物、あるいはSmall Molecular TechnologyをPlatform Technologyとして作られた薬であったが、僅か10年の間にTop 10 Best Selling Productのうち3品目しかSmall Molecular TechnologyをBaseとした薬はなくなってしまった。Large Molecular Product、つまり生物学的製剤、これは抗体であるとか治療用のワクチンとかであり、iPSもこれに入る訳であるが、こういう形でMarketが目まぐるしく変わっている。Platform Technologyパラダイム・シフトが起きている。

4)バイオテク企業による創薬が増加

更にもう1つ、私共の業界で注目しておかなければいけない変化は、そういった新しい薬を一体誰がどこで創出しているか、ということである。2007年、今から10年も経たない前であるが、その頃はバイオテク、NPOといった所と製薬企業とを比べると、製薬企業は7割位を創出していた。
ところが僅か10年も経たない間にがらっと変わり、バイオテクとかNPO/アカデミアの方から新しい薬の半分以上が出て来るようになった。
こういう状況の中で、例え1兆円の研究開発費を使っても、その会社が新しい薬を作れるかどうか。世界で一番大きい製薬会社はPfizerで6兆円位の売上であるが、そういう会社でも、その売上を継続的に伸ばしていくだけの新製品を10年とか15年のサイクルで出さないと売上を維持出来ない。
薬は10年とか15年市場に出ると特許が切れてGenericに置き換わるからである。Pfizerのような会社がそういうことが出来るかというと、残念ながら出来ない。一体どこがやっているかというと、バイオテク、NPO/アカデミアといった所がやっている。例えば薬であるとBoston、CambridgeのMassachusettsはPharmaceutical Valleyという世界のInnovation Hubとなっている。そこの一番のPower SourceはCambridgeの10km四方位の所にある400~500社のバイオテク会社である。そこに世界中から優秀な人達が集まる。その人達は頻繁に会社を動きながら、新しい薬を作り、1000に3つの確率に賭けて、新しい薬が出ればそこで大儲けをして、そこのFounderとかVenture Capitalistは次の投資に移る。あるいは、会社を売ったFounderはまた新しいVentureを始める。こういうEco Systemが出来ている。勿論Coreになっているのは、MITとかHarvard大学とかBoston大学といった、Core Technologyを持ってspin outをさせている大学である。Venture Capitalistはそれを支えIPO [Initial Public Offering]まで行かせるというMechanismが出来ている。日本には残念ながらそういうものがない。従って私共の会社はその中のCommunityに入り込んでいって、Globalな競争相手と伍して遅れることのないように素早く決断出来るようにし、必要があれば買収もする体制を取っている。

《続き》

3.タケダのグローバル化への挑戦

メインページに戻る