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2024年度学科・専攻主任 野田 優教授 祝辞

皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。本日ご列席されているご家族、ご関係の皆様方にも心よりお祝い申し上げます。皆さんはコロナ禍の影響を受けながらも、しっかりと学業研究に励まれ、本日を迎えられたことに対して、改めて敬意を表します。

現在、世界情勢はめまぐるしく変化、先行きも不透明で、立場の異なる人々の間の分断も深刻です。SNSは物理的に離れた人との繋がりを容易にしてくれますが、一方で、我々を類似情報にあふれたフィルターバブルの中に包み込んでしまう問題もあります。自分と同じ考えに接するのは居心地がよくリラックスできますが、自分とは異なる多様な考えを知り意見を交わして相互に理解して協力すると、新たな価値を生み出すことができます。国や地域によっても文化や常識が大きく異なります。応化には留学生の仲間も多くいますし、留学や海外駐在のチャンスもあると思います。ぜひ積極的に挑戦して交流してください。また、応用化学に密接に関連する分野では、エネルギーや環境の持続可能性が問われ、特に気候変動対策は待ったなしです。昨年には世界の平均気温が産業革命前と比べて1.5℃以上高くなり、現に農産物や水産物にも大きな影響が出ています。今年の初めにはある国が大きな方向転換をしましたが、皆さんは振り回されずに色々と議論し自ら考え、中長期的に本当に大切と思えることに取り組んで頂ければと思います。

これから大学院に進学される皆さんは、より高いレベルの研究に取り組まれることになります。「コスパ」という言葉を良く耳にします。よい計画をもらって簡単に期待通りの結果が得られたとすると、コストは少ないでしょうが、得られるもの、パフォーマンスはどうでしょう?ぜひ、大学院ではこれまで以上に積極的に考え、それを楽しんでください。目標に向けてどのような方法やアプローチをとるのか、そもそも目標自体をなぜどのように設定するのか。せっかくのアイディアを実践しても、思い通りにいかないことも多々あるでしょう。それは当初の知識の不足や仮説の誤りが原因ですので、成長するチャンスです。学生の間は試行錯誤する自由がありますので、教員と事前相談して安全を確保しつつ、色々と失敗して考え方や仕事の仕方を学び、コストをかけて成長という大きなリターンを得てもらえればと思います。

社会人になる皆さんは、新たな人生のスタート、これからが本番です。大学での研究とは異なる仕事をする人も多いでしょう。研究の過程では、専門知識だけでなく、仕事の進め方、論理的な考え方、コミュニケーションやコラボレーションの仕方を身につけているはずです。企業は社会に対して価値を提供して経済的なリターンを得ています。今ある問題を解決し、もしくは今は無いものを創造して、より良い状態を実現し、社会に貢献してください。そして、学生時代に築いた利害関係のない友人や、先輩後輩、教職員とのつながりも貴重な財産です。仕事で悩むこともあるでしょう。そのようなときは、ぜひ母校に来て何でも相談してください。

皆さんが、応化で学んだことを活かして、さまざまな分野で活躍されることを祈念して、学科専攻主任からの祝辞とさせていただきます。ご卒業・ご修了おめでとうございます。

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2024年度応用化学科・応用化学専攻『学位授与式』祝辞(2025.3.26.)

濱  逸夫

先ずは皆さん、本日は本当におめでとうございます。皆さんの新たな出発に際し、皆さんへの熱い想いを込めて、お祝いのメッセージを贈りたいと思います。

今日を起点にまた皆さんの新しい生活が始まります。ここにいる皆さん夫々が、様々な想いをもってここに出席されていると思います。ただ今日のような人生の一つの節目こそ、自らのこれからを考える大切な時間にしてほしいと思います。

早稲田大学応用化学科での生活は、当初はコロナに翻弄された時もあったと思いますが、その中でも皆さんにとって、様々な先生方や先輩、そして友人達との新たな出会いがあり、大変充実した時間であったと思います。もちろん楽しい経験だけでなく、悔しい経験もあったと思いますが、その全てが皆さんのこれからの人生を築いていく財産として蓄積されています。

以前は世の中で決められたことや当たり前と思われていることをキッチリ言われた通りやることが求められ、称賛されました。特に日本においては、そんな風習が根強く残っていました。

しかしながら時代は大きく変わっています。世の中で当たり前と思われていることを、敢えて異なる視座から捉えて、今までとは全く異なる結論を導き出す。これはイノベーションの原点かもしれません。そして、一度上手く行くと益々面白くなって、自分で考え、自分で動くことを繰り返すのが当たり前になる。 『自分の頭で考え、自ら行動に移せる能力が高いかどうか』
こんな人材が、今の時代最も重要です。

企業においても、その会社の旧来のカルチャーや当たり前に疑問を持ち、
新たな視点で、新たな提案をし、新たな行動を起こす能力が求められています。

人は2~3年経つと、その組織のカルチャーに染まってしまうので、新卒入社やキャリア入社で、異なる環境に移った時が、異なる視点で物事を考え、行動を起こす絶好のチャンスだと期待されています。ベテランになると中々これが出来なくなります。

与えられたものではなく、常に自分でデザインし、チャレンジを繰り返して行かねばなりません。そして、常にポジティブに物事を捉えて、前に進む。そして壁にぶつかった時は、一人で悩まず、心を開いて話をする。気軽にそんな話をできる仲間を如何に多く作るかも、これからの人生にとって大変重要です。

今日を起点に、また皆さんの新たなキャリアが始まります。これからの人生を本当に有意義な、楽しいものに出来る大きなポテンシャルが、皆さん全員にあります。とは言っても、未だ自分のやりたいことや自分の人生をかけてチャレンジしたいことが見えている人は少ないかもしれません。若い皆さんには、新たなキャリアにチャレンジする多くの時間があります。全く焦る必要はありません。

生成AIが進化し、あっという間に様々な情報が手に入ります。ただそれは自分自身の意見や考えではなく、不特定多数の人達の情報や意見であることを忘れないでほしいと思います。得られた情報や考え方が真実であるかどうかも分かりません。人生の主役はあくまでも自分。どんな時代になっても、常に自分の頭で考え、自ら行動することを忘れずに、挑戦を続けてほしいと思います。

多様な視座をもって物事を見る、そして自ら考え、仕掛ける能力を身につけることは、研究の世界でも、ビジネスの世界でも非常に重要です。

そして最後にもう一つだけ、皆さんに伝えたいことがあります。それは

“何事にもおもしろいと思ってチャレンジすること”、そして
“心を震わせ多くの感動を感じること”そしてどんなに成功しても
“常に人への感謝を忘れないこと”

この3つのことを心に刻み、様々なことに挑戦し、皆さんの持っている無限のポテンシャルを大きく花開かせてください。

ここにいる皆さんから、世界で憧れられるような素晴らしい人材が数多く誕生することを期待して、私からのお祝いのメッセージにしたいと思います。
本日は本当におめでとうございました。

                             以上

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早稲田応用化学会主催 第39回交流会講演会講演内容

講演の概要

講演者ご自身の経験や見解に基づいて、興味深く、また示唆に富んだお話が展開されました。
講演の概要を下記しましたが、詳細については講演者が講演時に使用されましたプレゼンテーションファイルを、応化会HP内の“資料庫”に格納しておりますので、是非そちらもご覧下さい。なお、“資料庫”に入室するためにはID(ユーザー名)とパスワードが必要です。

“資料庫”==⇒ こちら【新しいタブで開きます】

導入部

問題解決について世界各国の特徴を記述した資料が公開されていますが、その中で残念ながら、「問題を直ぐに解決するドイツ」に対して、
 「大人数で会議やって何も解決しない日本」
と紹介されています。

本講演では、

  • 日本より労働時間が短いにも関わらず、GDPや労働生産性において日本を凌駕しているドイツ
  • 2019年に工業競争力世界一位を獲得したシンガポール(台湾も同様)
  • 急激に発展しているシリコンバレー

での経験を元に、日本が置かれている状況、世界が日本をどう見ているかについてお話しします。また、日本的な失敗例についてもお話しします。

1.初めに

2018年4月から1年間、ドイツのアーヘンに滞在し、アーヘン大学のフリードリッヒ教授の研究室でサバティカルを経験してきました。そこで感じた下記のような点について報告します。

  • カルチャーショック
  • ドイツと日本の違い
  • 日本は、どうしなければいけないか?

2.ドイツの現状

ドイツに来て感じたこと
パン屋の態度が悪い。不動産屋の、約束を守らない態度に憤慨。寝具屋やスーパーで大量購入しても包装無し。ビールは安くて美味しかった。
住民登録や銀行口座開設が首尾良く出来ない。
 Keypoint1 相手の立場に立って仕事をする、という考えが殆んど無い。
ドイツでの生活を始めるときに驚いたこと
最初に、フリードリッヒ教授に言われたこと⇒遅くまで働かないでくれ!ドイツでは問題になることがある。日本人は長時間労働だ!
短い時間でも生産性が高いので、景気が良くなっているのでしょう。
ドイツの生産性
ドイツが生産性を高めていることを考察する上でのポイントとして、

  • 日本でやっているが、ドイツではやっていないこと!
  • ドイツではやっているが、日本ではやっていないこと!

を考えてみましょう。
ドイツでのコミュニケーション
ドイツで生活や仕事をして驚くのが、「メールが少ない」、「電話が少ない」、「会議が少ないし、短い」、「説明のための資料作りが殆ど無い」ことです。
 Keypoint2 コミュニケーションに使う時間が少ない。
ドイツで、日本より厳密に多く作成するのは契約書です。生活のあらゆる場面で必要です。
 Keypoint3 ドイツは契約社会である。
ドイツでの会議
フリードリッヒ教授が招集した会議では、会議がうまく進行するように日本での会議でよく行われる下記のようなことはしません。

  • 根回しをする。
  • 説明のためのパワーポイントファイルと配布資料を用意する。
  • 研究の内容について多くの参加者を集めて説明する。
  • 議事録を作成して会議の最後に確認する。

ドイツでは会議のために費やす時間が圧倒的に短い。仕事の評価はあくまで結果であって、会議でのコンセンサスを得ることが重要ではない。そのため自分の仕事に注力していて、自分のすべき仕事のみを行います。
前述のようにドイツは契約社会ですが、契約社会の最も根幹にあるのが「労働契約書」です。
ドイツで、答えに窮した質問
私の研究所にいた一人から「東日本大震災があったが、日本は原子力発電についてどう考えているの?ドイツは原子力を止めると決めたし、フランスは止めない。日本は、あれだけの被害があったのに・・」との質問に「日本には原発賛成派と反対派があって、まだどちらとも決めていない」と答えましたが、その人は不思議そうな顔をしていました。
東日本大震災に対応してメルケル首相は、原発推進派であったにも関わらず福島原発事故からわずか4ヶ月で脱原発を法制化しました。
日本は東日本大震災で甚大な被害を受けたにも関わらず、事故後の総括も十分でなく、是正処置ができていません。原発をどうするのかも決めていません。
日本は政治も産業界も細部まで決まらないと判断できない社会になっています。ドイツは決断をすべき人が決断をし、実行する人が実行するので効率が高いのです。

3.日本との違い(カルチャーショック)

脱原発を決めたドイツは、再生可能エネルギーの拡大へと舵を切りました。 ドイツの電力料金の4割は税金だそうです。さらに、ドイツでは再生可能エネルギーの割合を100%にしようとする動きもあります。
日本人の、言わば「木を見て森を見ない」態度に対して、メルケル首相の「森を見て木を見ない」態度で判断し突き進む姿勢はカルチャーショックでした。
ドレスデンのフラウンフォーファーについて
クリーンルームも狭いし、古いし、最先端ではないですが、装置は8インチと12インチの両方を設置しているとのこと。フラウンフォーファーはマックスプランクのような研究所ではなく、技術を産業に結び付けるために設立されたとのことです。その目的を明確にして、全員で同じ方向に進むので早く、しかもトップを取れると納得しました。
IMEC(Interuniversity Microelectronics Centre)について
次世代の露光機であるASML製のEUV(Extreme ultraviolet lithography)があります。
嘗て世界中の露光装置は、NIKONやCANNONによる日本の独占市場でした。今はASMLが2019年予測で80%以上のシェアとなっています。このような状況に至った理由は作り方にありました。NIKONやCANNONのR&Dは自前主義モデルであるのに対して、ASMLは分散統合主義モデルとなっています。すなわちASMLのR&Dには多くの企業や大学、研究機関が関わっており、夫々の強みが合わさる仕組みとなっています。

4.米国、シンガポール、台湾との比較

シリコンバレーについて
シリコンバレーの特徴として次の3つが挙げられます。

  • ダイバーシティ(多様性)
  • 急激な拡大(シリコンそのものよりもITとしてGoogle、Amazon、Facebookなど)
  • スピードの重視(特許を取るより、公開して協力者を得る方が良い)

シリコンバレーでは、10年に2,3の大きなビジネスができて、大きな企業ができています。
谷上さん(シリコンバレーで成功した日本人の一人)の言葉;

  • Be creative! (人と同じことをするな!人と違ったアプローチをしなくてはならない)

日本の横並びの護送船団方式は、もはや過去のモデルです。
日本の企業も大学も変わらなければなりません。

  • 企業は、新しい分野を独立性の高い小集団のスピンアウトに任せなければなりません。
  • 大学は、学生の個性を高めるような教育をすべきです。

シンガポールについて
リー・クワンユー元首相の政策が「外国資本誘致による輸出志向型工業化戦略」でした。
そのため下記のことを行いました。

  • 外国の公的機関、企業をシンガポールに呼び込む
  • そのためのインフラ整備(直接、間接)
  • 自前でニッチ分野
  • シンガポール独自の整備体制

シンガポールのセールスポイントは安全、公用語が英語、異民族社会、清潔で透明な政治と社会、清潔で美しい都市、です。
2006年に科学技術機構ができました。バイオメディカル フェーズⅡ、環境と水処理技術、インタラクティブ&デジタルメディアに力を入れることを決めています。
台湾について
台湾政府の強力な後ろ盾を得て創設されたTSMC(台湾積体電路製造)が目覚ましい発展を遂げています。
シンガポールやマレーシアは、半導体分野において韓国を見倣おうとしましたが、サムスンほどの成功は挙げられずにいました。
そして、もともと台湾は半導体サプライ・チェーンの最下段という立ち位置を維持するだけでも、絶えず技術を磨いていく必要がありました。
一方中国は今や経済的な脅威へと変わり、台湾の貧困脱出の手段となった基本的な製造や組立の仕事を誘致し、台湾から仕事を奪い取ろうとしていました。価格で中国と張り合うのは不可能だ、となれば、台湾はみずから先進技術を生み出すしかなかったのです。

5.日本で成功した例

富士フイルムの躍進(コダックは無くなったが、富士フイルムは躍進)
世界最大のフイルムメーカーで、使い捨てカメラなどのイノベーションを起こしてきたコダックは、フイルムとともに消え去りました。
富士フイルムは化粧品や薬などで、益々発展しています。
自社の組織内には、まったく異なる分野で成功する機能がない場合が多いので、新しい組織を自社内に作るようにしないと成功しません(または、M&Aで社外から導入します)。
マツダのスカイアクティブ
「Be a Driver」のためには、エンジンを最高のものにするためにクリーンディーゼルを開発しました。自動運転などには手を出さず、自分たちの目標を達成しました。
ワールドカップでの南アフリカ戦の勝利(史上最大の番狂わせ)
どうして、日本がスプリングボクス(南アフリカ)に勝てたのでしょうか?
エディー・ジョーンズがJAPAN WAYを考え、実践したから、と考えます。JAPAN WAYを下記します。

  • キックを、できるだけしない!!
    「地域」より「攻撃権」維持の方が重要と考え、そのためキックをできるだけしない。
  • ディフェンスは複数で!!
  • 後半になっても、運動量が落ちない!!

戦略とは、本質的に、しないことを決めることです。エディー・ジョーンズは、トレードオフ対策をした上で「キックをしない」と決めました。  日本人は、目的と手段を取り違えてしまいます。目標を明確にして、その目標を現実にするために、何をするのかを考えて、実行することが大事です。このことは人生においても、仕事の仕方においても同じです。
iPS細胞について
iPS細胞の生みの親である山中伸弥教授は、一生懸命研究をしていたつもりでしたが、目の前の研究費獲得や論文発表などに囚われ、目標を見失っていたことに気付いたそうです。
基礎医学で研究者として治療法を見つける方が、役に立てると考えました。このように、目標を明確にすることで「iPS細胞」は生まれたのです。

6.日本で失敗した例

半導体のあすかプロジェクト
日本半導体産業の復権のための仕組みが作られています。問題は、復権のための鍵が何か、そしてフォーカスすることです。権威者8人の意見は一致しているのか?これだけ広がっていてフォーカス可能なのか?具体的に、いつ、何を、どのようにするのか?
部品内蔵の標準化 ⇒ 省略
技術標準WGの現状 ⇒ 省略

7.まとめ

問題点の克服のために
日本の欠点と対策

  • 着手が遅い。(全員の合意が前提条件になっている)
    ⇒ この指とまれ方式で、テーマに早く着手する。
  • 不確定なことに、資金を出す人がいない。
    ⇒ 資金は、政府と民間のファンドをつくる。
  • 作った組織の独自性が無い。(上部組織の意思が決まらないので行動できない)
    ⇒ 独立性の高い組織に運営させる。

――― 以上 ―――