早稲田応用化学会主催 第39回交流会講演会質疑応答

松方先生との質疑応答(概要)
松方先生
先程フランクフルトから帰りました。
やることは速いですがドイツも迷って困っていることを目の当たりにしました。特にカーボンニュートラルについてそう言えます。今までやって積み上げてきたものが一気にひっくり返された状況です。天然ガスは国のエネルギー消費の9%位まで下がっていて、どうしましょうという状況です。
一方でカーボンニュートラルに関し、ナフサクラッカーを電炉方式で行う方法があります。現地で見ていてびっくりしたのですが、日本の研究所では多分ベンチ装置を作ってデータを取ってぼちぼち始めると思うのですが、現地ではBSFの本体のクラッカーの横に実装設備が既に出来ていて、動いています。日本ではアンモニアで加熱することが国の方針としてあります。但しそのような設備を誰かが作ろうという話は聞いたことがありません。速いとか遅いとかの次元を超えて、全然ダメと思って帰ってきました。ドイツで行動が速いのは、多分国のお金ではなく自分のお金を使っているからだと思います。ナフサクラッカーに何かを実装することは日本でもドイツでも同じですが、それを出来る国と出来ない国は決定的に違うなと思い、帰ってきました。
変わる方法ですが、ドイツのように個人主義になる必要もないと思います。我々が携わる応用化学や化学工学の分野は重厚長大で古い産業ですが、これを変えるきっかけがあるのかどうか、暗澹たる気持ちで帰ってきました。どうでしょうか。
小岩先生
ドイツの大学はスケールアップした研究をしなければならない、と決められているようです。私がいましたアーヘン大学でアルミをリサイクルする時、アルミを溶かす小さい炉が1立方メートルあるそうです。1立方メートルのアルミを溶かす、というのは無茶苦茶ですよね。日本では多分どこも出来ないと思います。そこまでスケールアップしなければならない、ということが明確に決まっているからやっているのだと思います。
例えばエアランゲン大学では、実装の組み立てライン、すなわち実際に製品を作れる組み立てラインが4本あります。日本の大学では実装の組み立てラインを1ラインも持っていません。ドイツでは持たなければならないという制約があるのだと思います。生産もしていないのに実装の組み立てラインを4本も持っていて何になるのか、という疑問は持ちます。でもそれがあれば、ドイツの研究者で実際に組み立てをしたいという人がエアランゲン大学に行けば、それが出来るわけです。1立方メートルのアルミを試作したければ、アーヘン大学が炉を貸し出しするそうなのでそれが利用可能です。そういう機関を分野毎に無理やり作っているのだと思います。これは良い面と悪い面があると思いますが、結果的に良いことだと思います。
松方先生
小岩先生がおられたアーヘン工科大学は私の分野である分離膜において極めて強力なセンターです。大きな体育館のところに膜の評価装置がずらっと並んでいます。日本は、産総研も含めてそういう所はどこにもありません。従って日本のメーカーさんが膜を作るとアーヘンに送って評価してもらいます。何が起きるかと言うと、世界中から膜が集まって来て、世界中の膜の実力が全部アーヘンに集まります。全部データが取られます。それはダメと20年位前から言っていても何も起きません。
小岩先生
それがIMECモデルなんですよ。EUVに興味のある世界中の人たちがIMECに集まってきます。IMECは、どこがEUVにどれだけ興味があってどれだけの実力があって何をやるか、全部分かるわけです。日本が半導体に強かった80年代に何でそれをやらなかったのか、非常におかしいと思います。出来れば日本国内でやりたいですね。
松方先生
そうです。日本に情報を集めたいのに、日本からドイツに全部情報が出ていく仕組みになっています。
もう一点ですが、日本の過剰な規制と既得権についてです。
ドイツの大学を見に行ったら高圧の水素ボンベを自転車に積んで走らせていました。こんなことは日本では絶対に出来ないですよね。規制の在り方が全然違うと思いました。
小岩先生
その通りだと思います。
ドイツから帰ってきたときに、「ドイツ流仕事術」というテーマで講演したら、経産省の方からお呼びが掛かりました。そこで護送船団方式はダメです、ということを説明しました。この指止まれ方式を採用し、本当に興味があってお金を出すという人を集めてやらないと、いくらお金を使っても無駄です、ということを訴えたのですが、税金は平等に配らなければならない、ということで聞き入れてもらえませんでした。

B4 北村さんとの質疑応答(概要)
北村さん
ご講演、有難うございました。
後半部分で目的の明確化とWork Hardについてお話しがありました。努力ということについては果たしていると思っているのですが、目的意識を鍛えるには日頃どのようなことを意識すれば良いのか教えて下さい。
小岩先生
常に自分が将来何になりたいか、という意識を持ち、それに近付けるような努力を怠らないようにすることだと思います。目標は変わっても良いですが、基本となる軸を持つことが必要だと思います。
北村さん
目的と言うよりVisionを明確化して視野を広げ、研究していきたいと思います。
有難うございました。