応用化学会橋本副会長の祝辞

橋本副会長の祝辞

本日応用化学専攻褒賞・奨学金を授与された皆様、誠におめでとうございます。このように授与される褒賞・奨学金は、個々の先輩諸氏や高い志による財団からの寄付によって成り立っています。どうか受賞された皆様は、こうした先輩や財団の思いをしっかりと受け止め、その期待実現に向けて大きく飛躍前進されることを心より期待いたします。

皆様もやがて社会に出て活躍されることとなると思います。大学や研究機関で研究を続ける場合には博士であることは当然大事です。ただ企業に勤める場合、私の時代には博士になると狭い領域の専門家になって企業では使いにくいと言われることがありました。その時代は現状の企業の操業を広くよく理解して継続的な効率の改善を追求することが競争力の源泉だったからです。しかし、ISOをはじめ各種のManagement Systemが適用されるようになってより、継続的改善が組織的に広く行われるようになりました。その結果、日本型のボトムアップの効率改善だけでは競争力の維持は難しくなっております。むしろ近年の企業の競争力は、次元の違うステップにジャンプアップする技術の力に移っていると思えます。

一方、従来は博士というと狭い領域だけの専門家というイメージがありましたが、それは正しくありません。博士になるには自分自身の専門領域だけではなく、関連する研究領域全体の展望が必要になります。その領域の展望を自分なりの総説(Review Article)として更新し続け、経営資源を投入すべき領域を的確に議論できる博士レベルの人材は企業にとっても極めて重要になっています。

私は海外の企業で2年と1年の計3年仕事をした経験がありますが、海外においては博士に対する期待や要求、そして待遇は当時においても日本に比べて格段に大きく高いものがありました。例えば競合他社が新技術を発表した場合、関連する博士を中心として検討対策会議が開かれます。博士たちは自分の専門性に加えて、その技術領域の総説的な展望にも基づいて、現実的で有効な競争力維持の対抗策が議論できるからです。

特に日本ではこれから少子化の問題が顕在化してくると思われます。今すぐ少子化対策に取り組んだとしても一定期間少子化により日本が創出できる価値の総量は相対的に低いレベルになる懸念が有ります。そうした中で日本において個々の人が単なる効率化を超えてより高く大きい価値を創出することへの要請は非常に大きく、現実的な課題でもあります。皆さんのこれからの活躍に大いに期待しております。本日は誠におめでとうございました。

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