本日応用化学専攻褒賞・奨学金を授与された皆様、誠におめでとうございます。こうした褒賞・奨学金は、それぞれが熱い思いを持った個々の先輩諸氏や高い志による財団からの寄付によって成り立っています。本日受賞された皆様は、こうした先輩や財団の思いをしっかりと受け止め、努力を積んでさらに大きく飛躍されることを心より期待いたします。
さて、日本の戦後の発展を振り返ってみますと敗戦から皆で努力して復興に取り組み、1970年代には、Japan as No.1とまで言われるようになりました。これは中小企業を含め個々の企業が、生産現場を熟知した技術者達によって継続的な日々の改善に取り組み、効率でも、品質でも、安全性でも質の高い生産体制を構築できたためでした。日本の日々の改善という取り組みはContinuous Improvementとして世界の1つのモデルにもなりました。しかし現在においては海外各国がContinuous Improvementを含めたISO等のManagement systemを採用定着させるようになり、その結果、今日の競争力の基盤は、あるステージの質の高い操業能力というよりは、そのステージから一つ上のステージにJump upできる技術開発能力あるいは技術適応能力に移っています。海外の有力な企業では競合する他社がそうしたJump upの技術を発表した場合には戦略会議等を開いて、その競争上の脅威の程度や技術的な対応を議論します。その場合、その技術分野の総説(Review Article)をイメージできる博士レベルの人材が集められます。総説とはその分野に関する主要な報文を網羅して議論するもので、そうした視野の中から研究が進んで産業としての技術が確立しているところ、開発途上のところ、戦略上重要だがまだ空白のところ等をMappingして明確にするのですが、自分の技術研究の軸を基点としてそうした現状技術の世界地図のようなイメージを持っているエンジニアが、遂行すべき自社戦略を議論するためには重要になります。特に海外で仕事をする場合には、こうした総説的な視野をもって戦略的な議論に参加できるかどうかによって能力評価や今後の仕事のAssignmentに大きな差が生じます。
特に日本では少子高齢化が進んでおりますので、これからの人材にはこうしたより付加価値の高い活動が期待されるでしょう。皆様はそうした活動ができるポテンシャルを十分持った人材ですので、これからの大いなる活躍を心から期待しております。
本日は誠におめでとうございました。