三浦応用化学会会長祝辞

三浦応用化学会会長祝辞

まずは皆さん、ご卒業まことにおめでとう御座います。
ご家族の皆様も本日の我が子の晴れ姿をご覧になり、感無量のことと存じます。誠におめでとうございました。また教職員の皆さまにはこれまで指導され、育て上げられてきたご労苦に対しまして敬意と感謝を申し上げたいと思います。

卒業生諸君は本日を以てそれぞれの道に希望に満ちて旅立っていくことになります。しかしながら昨年も言いましたように、折角のハレの門出ではありますが、諸君の前には決して平坦な道が続いているようには思えません。

私ごとになりますが、以前いた東京ガスで様々なエネルギーソリューションの仕事に半世紀近く携わって、まあ、エネルギーのプロの端くれと自負してきました。しかしながら昨今のエネルギー情勢の流れや変化はどうでしょう。
発電や産業においてエネルギーソースの変遷はハンドリングも含めた高密度化が常識でした。薪ー石炭ー石油ー天然ガスと進んできたように。だからこそ私たちの現役時代は、環境対応とはいいながら低密度の自然エネルギー、再生可能エネルギーの台頭など夢絵空事と信じてきた訳です。まず火力、原子力、分散電源でも原動機、燃料電池を使ったコージェネレーションがデマンドサイドの最終エネルギーである電気を作るコアであると固く信じて来ました。

しかしながら今、この高密度エネルギーシステムが全て風力、太陽光に置き換えられているのです。すでに欧米ではFIT(固定価格買取制度)なしにKWHあたり2セント、全くのカーボンフリーエネルギーでこの価格では火力でも原子力でも敵いません。この半世紀、私が信じてきた常識が社会の変化、技術の進歩によりひっくり返ったのです。
残念なことに多くの分野で起こっているこのような世界の変革に我が国はついて行けているとは思えないのであります。
いまのバブルとも言えるアベノミクス景気はともかく、我が国のファンダメンタルの経済力は世界の二流国になりつつあり、かつ一番重要なエネルギー問題でも取り残され、さらに我が国を支えてきた科学技術力も途上国にさえ劣後し始めています。
このように日の沈むような兆候の日本でこれから諸君は社会に旅立つのです。
きれい事のお祝いの言葉はとても言えない心境です。

とは言え、真っ暗な将来ばかりを懸念している訳ではなく、この日本の厳しい状況を変革して救うのは間違いなく諸君ら若い世代であると言う強い確信もあります。
恵まれた教育環境で力を付けるとともに、独立不羈の早稲田精神のまっただ中で青春を過ごした諸君は、他校では得られない、組織に埋没することなく、強固に構築されたヒエラルキーに対しても反骨出来る、決して上司に迎合しない、最近は忖度しないと言うらしいですが、素晴らしい力を身につけたはずです。
企業の中で小賢しく適応していくことなく、自らの理想を実現するために強い意志を持って社会を、企業を改革していく気概を持っていただきたい。
これが私からの諸君の門出への激励の言葉です。

最後に、早稲田応化会には優れた先輩諸氏が数千、数百人といます。何かで悩む時、より多くの知見が欲しい時に、是非後輩達を支援する応化会に戻ってきてみて下さい。そして、余裕が出来たら今度は恩返しです。応化会活動に参加して後輩達を支援する側になって下さい。このお願いを申し上げて、私の激励の挨拶とさせて頂きます。

これからの新しいチャレンジに是非頑張って下さい。