川上浩良先生講演趣意

 

Big Ideas In Chemistry

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本日は、このような機会を与えていただき、応用化学科の先生ありがとうございます。私は、1991年3月に早稲田大学応用化学科高分子研究室で西出研先生のご指導をいただきで博士号を取得させていただきました。その後、直ちに米国に留学、2年後都立大学(後の首都大学東京)に戻り研究を続けております。水野賞(第4回)も受賞させていただきました。その折非常に助かりました。ここに改めて感謝申し上げます。2006年から教授をつとめています。今日受賞の皆様奨学金受給者の皆様誠におめでとうございます。

川上浩良先生

今日少し大きめのタイトルをつけさせていただきましたが、必ずしも私がこのようなことをしているというわけではなくて、是非皆様方にこういう大きな仕事をしていただきたい、社会に出てアカデミックな分野あるいはビジネスの分野であっても社会を変えるような大きな研究をまたはイノベーションを起こす研究を行っていただきたいという意味を込めて付けたタイトルです。

今日3っつほどのことをしゃべらせていただきたい。先ほど三浦応化会会長からのお話にも出ましたように、日本の産業界あるいはサイエンスの分野は厳しい状況にあります。(皆様ご存知のこと思いますが)いくつかの例示させていただいた上で私共の研究を紹介させていただきますが、これは皆様方がこれから独立されるあるいは社会にで出て研究されるときの一つの考え方のツールになればと思い紹介させていただきます。最後に皆様の思いををもって締めくくりといたしたいと思います。

これは2000年の世界時価総額になります。20から30年まえにバブルがはじけた状況といわれておりますがそれでも2000年では世界のTop10のなかに2社の日本企業が入っていましたし、13位にトヨタとかホンダが入っています。2018年1月の時価総額になりますと残念ながら日本の企業はTop10にはなく、代わりに中国が入ってくる。日本が誇るトヨタでも43位と非常に厳しい情勢になっています。世界で見る日本の影がどんどん薄くなっているのが現状です。

GDPでは世界3位なので大丈夫ではとおもいますが、これは総和であるので単純に個人当たりにすると世界の順位は25位、シンガポールに2万ドルの差をつけられています。平均給与に至っては20から30年は世界の結果はどのどんあがっていくのに反して日本はほぼ一定の456万円で18位で産業界は厳しい状況にあります。

研究の分野では高いよといわれますが、化学、物理、電子工学ではNatureへの論文数ではTop10の中に入っています。ただ、新しい学問分野、例えばAIを見た時には日本はTop10(7位)に入っていますが、どんどん地位が下がって日本は追い出されて状況です。機関別論文数を見ると日本Top10に入っていません。日本の機関では東大が64位、二位が東工大で262位でもうほとんど影すらない状況です。つまり、従来型学問では世界の好位置をキープしていますが、新しい学問ではもう影すらない状況です。これは大学の状況も同じことで早稲田も本学もアジアの人々を取り入れており、従来の学問領域ではアジアの学生さんも日本を目指してくるが、新しい学問分野になると日本の学生ですらアジアにいって学ぶことになる そんな時代が来ているということです。

2004年から携わっている仕事ですが、私が卒業した1991年の頃ですと5ないし10年先を見透うせる社会でしたが、現在の世の中の成長は指数関数的ですので、例えば5年後もなかなか見透せない時代に来ている。ネット接続機器(2015年80億台、2020年500億台)、ヒトゲノム解析については2000年には日米英の3か国で3000億円をかけて人一人を解析していましたが、2015年では一人1万円で解析できるようになっています。3Dプリンター(2007年 4万ドル、2014年 100ドル)になり、このような早いイノベーションが起きている中で皆さんは社会に出て活躍しなければならないわけです。また、人生100年時代になり、昨年生まれた子供の平均余命は107歳まで生きると予測されているのでこのような社会に出た後で、恐らく80歳位まで働かなければ日本の経済が破たんしてしまいます。そういうことを考えるとこのように世の中の変化が早く、長がく働かなければならない社会で皆様は活躍しなければならないということになります。

このような社会の中で自分たちが研究するうえで、学生に何を伝えるかということになります。私の研究室では学生にはPlatform技術を作るとよいといっている。新しい現象を発見してそれを基礎から実用化にもっていくということを意味している訳ですが、学生に訴えるときには解りやすい言葉でインパクトのある言葉で伝えることが重要ですので「Platform技術を作りましょう」といって学生と研究に励んでおります。一番の考え方としては現象を見つけた時はそれを技術まで昇華する。ですからここに当然時間を割くということも重要でしょうが、実用化のところを常に見据えながら研究をすすめたいなと思って研究を進めてきております。
それからスピード感は大事です。ノーベル賞を取られた先生は、一つのことを長くやることが重要だとおっしゃられております。確かにそうだと思いますが、但し、これからは研究のスパンはどんどん短くなってくると思います。iPSは6年でノーベル賞をもらっています。そういう意味からするとこれからいろんなビックアイデアといわれるものは短いスパンでどんどん出てきて、そこの中で勝負をしていかねばならないのです。そう言う意味で学生にはいつもいつもスピードスピードといっていますが、スピード感を持って研究を進めていくことが大事です。

そして研究のレベルがあらゆる分野で高くなってきていて1研究室で研究を終わらせるということはほぼ不可能になってきます。ですからいろいろな研究者の協力、あるいは企業の協力を得ながら研究を進めていかなければいけないので 特許を取得した後は世界にオープンにして多くの研究者と研究を進めてきております。

川上浩良先生のご講演

我々のところはスタッフも多く、恵まれた研究室になっています。そこでは8つのテーマを研究しています。田中先生も早稲田大学応用化学科の出身者で、助教で頑張っておられます。学生は30名位で研究を進めております。今日はこの中の電解質とナノファイバーに関する内容についてご紹介させていただきます。

ご存知のように水槽や蓄電池これはエネルギー分野で必修の技術になってきます。昨年度内閣は安部首相の下で水素戦略基本方式を立てましたけれども、首都大学東京の支持母体であります都庁は、2020年にオリンピックのときに「水素社会をlegacyで残す」ということになりまして、大学の中に水素エネルギー社会構築推進センターを作ってサポートしている状況です。必ずしもそれのためというわけではありませんが、「固体電解質膜の重要性」にかんがみ、燃料電池用の個体電解質膜の研究を進めてきております。ここで出てきた技術を全個体型のリチウム電解質膜のほうに応用するという研究を進めています。これが一つのPlatform技術になって一つの研究からその横の展開としてさまざまな分野に応用できるとしてこういう研究をしております。

「燃料電池用電解質膜の課題」に関しましては、すでにトヨタとかホンダで燃料電池車が走っているので多くの皆様は、終わった技術と思われるかもしれませんが、価格が非常に高くてトヨタでは売れば売るほど赤字になる。実際に我々が安価に使うためには多くのブレイクスルーが必要になってくるわけです。電池ですので抵抗が低いとか燃料がガスですのでガスが抜けてしまってはまずいのでリークが起きないこと、当然長い間使えることが必要になってきます。抵抗を下げるためには伝導性を上げることも重要ですが、一方で膜厚を薄くすることも重要になってまいります。 いま世界中の研究者たちの最大のフォーカスは膜厚をいかに薄くするか薄くするということはそれだけでコスト低減につながりますのでこれが最も手っ取り早いということで世界中でいかに膜厚を薄くするという競争が進んでいる。

ところが薄くするとガスが多く抜けていってしまい、安定性も損なわれることになりますのでこういったところのTrade-Offをいかにクリアしていくかが重要になってきます。プロトンは水を介して移動するので今の燃料電池は加湿器を付けて80℃くらいで膜が濡れる状態でプロトンを移動させています。これが車のコストを上げる原因になっていますのでこのような状況を改善する必要性がでてきます。今申しあげてきたところを整理しますと現状の膜はこのようなところにありますがターゲットとしましてはこういうところに電解質膜ができないといけない。ところが湿度を下げてまいりますと水を介している、あるいは酸をたくさん入れている状態ですので、加湿が低い状態ではプロトンがうまく輸送しないということになって伝導性が著しく下がってしまう、ということが挙げられています。

酸をいっぱい入れた状態にしなければいけないので安定性は膜が柔らかくなるので下がって、また、燃料である水素とか酸素がプロトンで高いところでは膜が柔らかい状態になりますのでどんどん抜けていくことになります。ですからエネルギー効率も悪くなる。こういったTrade-Offの関係を如何に打破するかということが燃料電池のコストを下げながら安定的に使える材料になる。

私達は高分子のナノファイバーを持ち込んで先ほどのTade-Offの関係をを打破できないかという研究を進めてきております。 ナノファイバーは表面積が広く、ナノレベルになると今まで知られていないような現象がでてくる、例えば、ナノファイバー表面ではほとんど摩擦が発生しない、ファイバーの中では高分子がかなり高度に背向してくる。ですから通常のポリマーでフィルムを作るのとは違う現象がでてくるのでそれをうまく使いながら電池にしようと進めております。ナノファイバーの内側の表面に近いところにスルフォン酸基が形成されるパスあり、プロトンはスルフォン酸基を介して迅速に移動することができるようになる。グラフト化されたブロックポリマー中のプロトン移動をみるとフィルム状とファイバー状では二ケタの違いが出てきた。いろいろな効果が重なると早い伝導性がでてくることが判明した。

その他、超比表面積効果、ナノサイズ効果、超分子配列効果、ナノファイバーの化学的・熱的安定性等の結果が示されたが、企業との研究があるのでデータは割愛します。

 終わりに、Big Ideas In Chemistry について言及します。色々なアイデア、特にバイオ分野で新しいアイデアが出てきております。私は、現在東京都のバイオベンチャー支援事業又はライフサイエンス事業の支援委員長をしている。例えばユーグレナ(ミドリムシ)のサポートをしています。
当初は研究者たちも自分達の研究のところを主張する方が多かったのですが、当然自分の研究はするが、最近は、それに合わせて実用化のphaseまで一緒に考えるようになってきました。例えば、iPS細胞を作ります。といった時にiPS細胞を作るところまでは自分たちの技術でしようと主張しますが、それを作るうえでの自動化ロボット等を含めてアイデアとして提案する。最近ほとんどの分野でそのような形になってきている。彼らもスピードを重視してオープンイノベーションでいろいろな分野の人達を巻き込んで研究を進めている。今それを実施している研究者は、若いです。ほとんどが25歳位でたまに35歳まで、このような研究者がどんどん提案してきている。従って、この分野では日本の未来は明るいのではと思っている。

一方で心配しているのは量子コンピュータで量子化が進展して来た時に、果たして合成しているChemistryの分野の研究者が残るのか否かが心配です。米国では「マテリアルゲノム」という大きなプロジェクトがスタートして瞬時にこのような化合物を作らせるために量子コンピュータを使って計算して目的物を合成してしまう。今後10年後ぐらいには従来の合成分野でもデジタルに負けるということになると合成化学として更に厳しい状態に陥ることになる。私の研究室ではバイオの研究も行っているのでバイオ研究をしている学生で、博士後期課程に進む予定の人には半年間インフォーマティクス、DNA、最近ではRNX、など徹底的に勉強させて情報とマテリアルの融合をしていかないと生き残れないのではと推測しています。試験的に現地に送り込んで勉強させております。

 働き方改革が国会で議論されていますが、欧米のまねではないかとの違和感がありますが、若い時代に厳しいトレーニングを積んでいると社会に出たときに役立つことがわかっています。若い時には体力、気力が充実しているのでここで鍛えておかないとその先では無理。従って、体力、気力が一番充実しているこの時期に先生方に鍛えていただき、卒業してください。その鍛えた方ですが、米国の教育学などで言われていることですが、高めの要望、チャレンジングな仕事を与えることが必要です。

 最後に、フォーブスが2017年にベンチャーで起業化して成功したほとんどが米国人(日本人はたった一人)の30歳以下の人々に起業化の際に重要なことはないかをアンケートした結果です。第3位はビジョン(20%)、2位が情熱(50%)、最も多かったのは根性であったとのことです。即ち、やる気があれば人生成功するとのことです。

以上で本日の講演を終了です。

Floorからも活発な質疑討論がありました。

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