平沢先生のお世話になり、応用化学科を卒業しましたのが1996年。日本航空に入社してから13年の月日が経つのかと考えますと、時の流れのはやさを実感致します。入社してからの13年はあっという間でした。私は入社後、一から訓練を受け運航乗務員、つまりパイロットになりました。大多数の皆さんは、パイロットとはまったく接点がない、自分には無理だ、と思っておられると思います。私もそう思っていました。しかしながら、決してそうではないということを、入社後の経緯とともにここで簡潔に紹介致します。
まず、日本航空に入社して10ヶ月間、私は羽田空港での業務、いわゆる地上研修を行いました。お客さまが飛行機に乗られる際のチェックイン業務、搭乗ゲートでのご案内等々、空港における業務です。これは一見、パイロットとはまったく関係ない業務と思われるかもしれませんが、飛行機の運航の流れを理解するのに非常に有益な時間となります。また、社内における他職種の仲間を増やすのには絶好のチャンスでもありました。最近当社では羽田空港、成田空港のみでなく、札幌、大阪、那覇等の空港でもこういった地上研修を行っています。
地上研修が終わりますといよいよパイロットに向けた訓練がはじまります。飛行機とは全く関係ない応用化学科出身の私ですが、同期の専攻も、法律、経済、機械等々と多岐にわたります。つまり私と同じく操縦に関しては完全に「素人」なのです。一から飛行機について学び、資格、免許を取得していきますが、学ぶ科目は飛行機の構造、航空力学、エンジン、航空法、気象などと広範囲に及び、とても一人だけでは追いつきません。同期で得意分野を教え合いながら、協力しての勉強になります。 そして無事に国家試験をパスしますと、ようやく実機での訓練を行うべくアメリカ、サンフランシスコ近郊のナパという小さな町へ赴任します。
ここで飛行機とは無縁だった生活から一転、飛行機漬けの日々に変わります。飛行機と言っても小型の単発機ですが基本は大型機と同じです。壁に貼ってあるコクピットの写真に向かってのイメージトレーニングとフライトレッスンの日々。今まであまり飛行機に乗った事も無い生活からすると大きな変化です。最初はもちろん教官と一緒に飛ぶレッスンが続きますが、飛び始めて約二ヶ月で教官のいないフライト、つまりソロフライトにも出るようになります。隣を見ればいつもいて、どこか頼りにしていた教官がいないのです。初めて「自分一人で飛行機を飛ばしている!」という実感がわいてきた時の感動は今でも忘れられません。ただし、機材トラブル、天候の急変、何が起っても自分一人で対応し、着陸しなければなりませんので、緊張もしました。
このナパでの実機訓練が始まるとあっという間に日々は過ぎていきます。一つの目標に到達したら、次に一段と高い目標を掲げられ、全力でその目標に向かって努力して行く日々です。その中で、仲間の同期と力を合わせ、それぞれの能力、技術を向上させていきます。結果がでない時は辛いですが、初めてのソロフライトの感動や、試験に合格した時の喜びは、その辛い思いを忘れさせてしまうくらい大きなものです。これらの喜びを仲間と共有出来ますので喜びは更に倍増です。ナパでは辛かった記憶よりも、楽しく充実した記憶の方がたくさんあります。また、サンフランシスコの近くと言う場所ですので、週末は車でダウンタウンに出て買い物をしたり、同期で御飯を食べたり、寮でお酒を飲んだりしてストレス発散をしておりました。また、カリフォルニアは自然環境もすばらしく、ヨセミテ国立公園でハイキング、海でサーフィンも可能です。ゴルフをここで始める人が多かったようにも思われます。 が、もちろん訓練に支障のない範囲での話です。
約2年間のナパでの訓練が終了しますと、東京へ戻り、いよいよ大型機での訓練になります。まずはシミュレーターで大型機の基本操作から緊急事態への対応を覚え、次に実際の旅客便に使用しております飛行機を下地島という沖縄の島に持っていき、実機で離着陸の操縦感覚を身につけます。この島には定期便は就航しておりませんので皆さんにはあまり馴染みが無いかもしれませんが、ここにはなんと羽田空港と同じ3000メートルの滑走路があり、パイロットの間では思い入れの深い場所となっています。ここで大型機のタッチアンドゴーなどの離着陸訓練を行います。初めて大型機を操縦した時は、大きな感動を得るとともに責任の重さも実感しました。全ての訓練が終了し、審査に合格し、社内で認定されてようやく、副操縦士となります。訓練は約4年。一口に4年と言えば長いですが、日々新しい発見があり、厳しい訓練の中での人間関係は強固なものとなりますので、非常に充実した4年間になることは間違いありません。
現在、私はボーイング767という飛行機に副操縦士として乗務しております。乗務路線は国内、国際区別無く両方に乗務しており、具体的には国内、中国、東南アジア、そしてハワイ等にフライトしております。仕事の責任は重いですが、その土地の風土に触れ、また、おいしいものを食べるのが出先での楽しみとなっております。パイロットという仕事は、お客さまを安全に目的地にお届けするために、まず天気という自然、航空機という機械が相手です。天気は決して人間の思い通りにはなりませんし、航空機も機械である以上、常に故障というリスクを持っています。従いまして、常に気象の変化や、航空機の故障を想定しておくことが大切です。また、客室乗務員、地上スタッフ等の人間を相手にしての仕事でもありますので、それぞれの方達と円滑なコミュニケーションがとれることも大変重要です。副操縦士の私は日々、安全運航を目指し、自分も機長となるべく経験を積み、学んでおります。各フライトが終わると他の職業では味わう事の出来ない充実感、達成感を感じることができます。
これから就職活動が控えてらっしゃる後輩の皆さん。この様に私もパイロットとは全く関係ない応用化学科出身ですが、会社にて一から訓練を受ける事により、副操縦士になりました。出身の学部、学科は全く関係 ありません。また、最近は身体検査基準も緩和され、裸眼視力は問われません。チャンスは平等にあります。もし、皆さんの中に、少しでも興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非挑戦してみて下さい。