竜田邦明教授 第99回日本学士院賞を受賞
受賞題目:「糖質を用いる多様な天然生理活性物質の全合成」

 竜田邦明教授は、2008年6月の藤原賞、2008年10月の大隈学術記念賞を受賞されたのに引き続き、

2009年3月第99回日本学士院賞を受賞されました。


本賞は、1911年から日本学士院が学術上特に優れた研究業績に対して授与しているもので、学術賞として最も権威ある賞であります。
授賞式は天皇皇后両陛下の行幸啓を仰いで挙行され、過去の受賞者には、木村栄、高峰譲吉、野口英世各先生をはじめ、後にノーベル賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎、福井謙一、江崎玲於奈、小柴昌俊、野依良治各先生がいます。

本学理工学術院では初めての栄誉となります。
受賞題目 「糖質を用いる多様な天然生理活性物質の全合成

受賞理由:
竜田邦明氏は、天然物有機化学の研究で糖質を原料に用いる合成法を開拓して、多種多様な天然生理活性物質(天然物)の全合成を完成し、有機合成の重要な方法論として基礎を築きました。

抗生物質を始め自然界に存在する天然物の多くは不斉炭素原子を含み、ほとんどの場合その立体異性体は元の生理活性を示さないので、天然物と同じ立体配置を持つ化合物を合成し、天然物の構造と生理活性の確証を得るには、立体配置の確定している物質を原料として、立体特異的な反応を組み合わせて目的の天然物のみを合成することが重要となります。
同氏は立体配置が確定しているグルコースなどの糖質を出発原料(不斉炭素源)に選び、目的の天然物のみを合成する立体特異的合成法を開拓して、約60種の天然物の全合成(最小単位の原料から天然物そのものを化学合成すること)に世界に先駆けて成功すると共に、それらの絶対構造を決定しました。たとえば、特異な構造と活性により四大抗生物質群と称されるマクロライド、アミノグリコシド、ペニシリンおよびテトラサイクリン系抗生物質群のそれぞれの代表物質の全合成を世界で初めて達成しました。また、同氏は、天然物の全合成や関連物質の合成に有用な数々の新しい有機合成反応も創出しました。

これら一連の研究によって、糖質を不斉炭素源に用いる方法は多種多様な構造を有する複雑な天然物の合成に極めて有用であることを示し有機合成化学における重要かつ一般的な合成法として確立しました。
さらに、同氏の合成研究は、制がん剤や糖尿病治療薬を含む有用物質の創製およびペニシリン系抗生物質の工業的合成法の開発など、関連する領域の発展にも大きく貢献しました。