先生への突撃インタビュー(その9)  西出先生

活性化委員会・広報委員会 委員長 長谷川和正

新企画の「先生への突撃インタビュー」もスタートして二年目になります。本企画は、教室とOBとの連携を強めることで、早稲田大学の応用化学科が今後ますます隆盛になってもらいたいと考えたOB会活動の一つです。
  企業の新製品開発などに役に立つ情報を教室側の先生方に提供していただき、大学と企業間の情報交流のキッカケが生まれてくるようにしたいと考えております。可能なかぎり専門外の素人に理解しやすいような内容とするように心がけてゆきます。

9番手として、西出 宏之 教授にご協力をお願いしました。
 西出先生は、昭和45年、新20回卒の応用化学科のご出身でまもなく還暦を迎えられますが、大学院博士課程を修了された後ポスドク研究員として欧州でも研究をされて早稲田大学へ戻られ、教授として新しい機能性高分子材料の研究と共に若手研究者の育成に取り組まれておられます。 現在、私学出身初めての第28代高分子学会長として、12000人を超える会員を擁する世界屈指の学会をリードされておられます。大変お忙しい中お時間を頂戴しました。

第9回 西出 宏之教授 (高分子化学研究室)

先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?
〜〜〜導電性高分子の次は有機高分子の磁性体をつくること。〜〜〜

西出教授写真

自分達が卒業した時期は、ちょうど学生紛争あり、オイルショックありの中、高分子化学の分野も合成方法などが一山越えたような状況にありました。「高分子には明日はあるのか」と関連する若手研究者も大変危機感を持ち、東大、東工大などの同世代の研究者と研究会を持ちながら夜を徹して高分子化学分野の将来について議論を行っていました。

早稲田では篠原 功先生、土田 英俊先生がこの分野を指導されておられましたが、東工大の神原 周先生が講義に定期的に来校されておられました。
田園調布のご自宅から大学までいつもお供をさせていただいており、その間に先生からいろいろお話を伺うことができた訳です。その中で後になってこれが研究の方向を決めるキッカケとなったのではないかと考えていますのが、白川先生がすでに導電性ポリマーを達成されてきており、これからは他人がやっていない高分子の磁性体を目指したらという神原先生のアドバイスがありました。
その時はなんの気なしに聞いていたように思いますが、当時、機能性高分子材料へのパラダイムシフトが起きていまして、分子式を描いて、設計し、そのポリマーをグラム単位で合成し、フィルムなどのモノとして機能を具体的に見ることができ、ワクワクした取り組みができました。

ビニル重合を学部時代に、大学院では土田先生から研究のご指示を受けて高分子錯体の研究にテーマを設定しました。自分での研究領域を明確にしたのはここ10年あまりのことで50歳近くになってからです。

技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
〜〜〜九割は合成で汗をかき、残り一割は機能の評価です。〜〜〜

西出研究室紹介

西出研究室紹介・機能性高分子
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ラジカルポリマーを開拓していますが、不対電子がどのように振舞うかで、磁性体としての機能を発現させることもできます。また不対電子を持ったラジカル分子の反応を、電子やホールの輸送・蓄積として見直してみると、電荷の数と移動度が極めて大きい特徴を持った有機材料でもあります。電池の電極材料や有機EL材料など純有機物で電子がひとつ足りない(またはひとつ過剰な)状態で応用できる訳で、電気的、磁気的、光的などあたかも金属のような機能の拡がりをみていくことが重要です。

  まず学生には合成の基礎的な手法を身につけさせ、伝統のある合成をしっかり経験しておくことが重要と考えています。九割は合成で汗をかき、残り一割は自分で物性や機能も直接見ることで全体としてバランスが取れると思います。合成はモノつくりですから、絶対に手抜きができません。口でいくらいろいろ言っても最後に目の前にモノを出さなければなりません。手足を動かしてポリマーを力ずくで合成することをしっかり経験し学生時代に苦労していると、社会人になっても多少のことではへこたれることなく自信を持って仕事にも取り組めると思います。

 出口側すなわち応用面は二次電池、太陽電池、燃料電池などエネルギー関連を中心にディスプレーや環境適合ポリマーも対象としています。生命医科学科へ移られた武岡先生も高分子化学研究室(第四回 先生への突撃インタビュー参照)の同門で、高分子化学の応用として人工血液などの医療関係に展開されておられるわけで、出口側は相補していろいろと考えられます。

応用化学科の中でもこの高分子化学研究室は高分子ワセダ学派を形成できるだけの大学関連者の同窓人数が一番多いのではないかと思います。これもひとつの特徴になっています。

先生の研究理念を教えてください?
〜〜〜これからの社会を切り開いていくのは元気なケミカル屋だ!(Chem−is−try)〜〜〜

単に自然を観察し理解を深めるにとどまらず、「無から価値を生み出す」のが化学だと考えています。「意志」を持って分子・物質を創りそれに基つく「価値」を生み出すことができるものだと考えています。それができるのが化学者で、化学者の「特権」であると同時に社会に提案し、供給してゆく「責任」があると思います。常にこのような研究理念を学生や若い人達へ語りかけ会話をして納得して研究に取り組んでもらっています。

新しい高分子はもう出てこないという人もいますが、高分子化学はそんな底の浅いものではないと私は考えています。まだまだ宝の山が沢山隠されていると思います。本当の技術革新は新しいコンセプトの材料創製からしか生まれてこないものと確信しています。

 過去の既存物質も見直してみてください。昔のモノももう一回見直してみるとまったく違った展開が見えてきて二巡目、三巡目で一気に開花するテーマも多くあります。同じモノや方向を眺めるにしても、ラセン階段を上って一廻り、二廻り上から見渡さなくてはいけないのだと思います。

特に大学のリーダーとしては志しを持って研究へ取り組んでいくことが重要なことだと考えています。10年後社会に寄与しうる研究、10年後に初めて認められるような新しい学術概念を目指して頑張って欲しいし、精神が高揚するような研究に信念を持って取り組んで欲しい。自分達の研究のポジショニングを厳しく見つめる一方で、日々の実験などへの取り組みで汗水を流す地道な努力こそが、誰が見ているわけではなくても一定期間が経つとその努力の結果は血となり肉となっていくものだと思います。

大学と企業の連携についてどういうことをお考えですか?
〜〜〜企業側の準備をさらに十分に行った上で大学側への依頼をして欲しい。〜〜〜

我々の研究室は博士課程の人が毎年多く最近では4人ぐらいが毎年卒業しています。したがって企業との共同研究でもしっかりした対応ができていると思います。当然企業との秘密保持契約などもかならず行い、3ヶ月単位で報告書も提出しています。このように大学側として共同研究を受ける以上は、先生、学生含めやるべきことはかならず実行していくようになってきていますので、企業側もそのつもりで会社の中での大学とのつき合い方について認識を新たにしていって欲しいと思います。

 たとえば共同研究が突然中止になったり、すでに発表されている内容を未調査のまま聞きにきたりでは大学側も困ります。会社の中での問題点を未整理のまま生のデータを持って問い合わせでは大学側へ十分な情報を伝えることができずにお互いに時間の無駄だと思います。企業側が大学とのコンタクトに際し十分な準備をしてきてもらえるとスムーズに次のステップに進むことができると思います。

 現在の大学では基礎研究からプロトタイプレベルでのモノつくりまでを、高度な測定装置やスーパークリーンルームなども揃えて対応しているので、それなりの対価を考える必要があると思います。

 逆に、企業の研究開発が世界の最先端で熾烈な競争を行っていることを、大学の先生方もそのレベルを含め認識することも必要と思います。
 少なくとも2〜3年間は継続して依頼をするつもりで企業の基礎研究部分を大学に依存し種まきをしっかりしておくことが大事だと思います。
 そこで大学と企業の連携ではお互いの信頼関係が最も大切なことと考えています。人間関係になりますので、あとでお話しますが応用化学会の特権を利用すべきと思います。

応用化学会の活動への期待を聞かせてください?
〜〜〜人と人とをつなぐ “信頼関係” がOB会メンバー間の強み。〜〜〜

今回の企画や種々のイベントなどを継続していっていただけることがありがたいし希望でもあります。

 大学と企業との連携にも関係してきますが、初対面でもワセダ応化会のメンバーであるというだけで、信頼関係のバリヤーを下げることができてしまいます。なにをするにしても人と人とを結ぶ人間関係を新たに構築するのに皆さん大変ご苦労される訳ですが、それが4年間以上ともに勉強し、青春の一時期をいっしょに過ごしたことですぐに打ち解けて話すことができる意義はお互いに非常に大きいものがあると思います。なにかあまりにもあたり前すぎて同窓のヨシミの良さがあまり感じられていないようです。講演会の講師なども皆さん手弁当で全面的に協力してくださることは大変ありがたいなと思います。

セミナー

セミナーにて
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西出研究室のゼミ旅行では3泊4日で軽井沢の大学のセミナーハウスで、OBも参加して現役の人達との直接対話の場を設けています。OB一人に30分程度会社の紹介をしてもらい通常ですと三人ないし四人の話をしてもらった後で、リラックスした雰囲気で質問ができるようにして直接先輩に聞きたいことを聞くようにさせています。同門のOBには会社のPRをする場に利用してもらってもいます。ゼミや忘年会ではできるだけOBにも参加をしてもらっており、現役の人達には顔見知りの人達なので就職活動などについても気楽にいろいろな質問もできているようです。

 研究室の単位でもそれぞれ現役とOBとの関係についてはいろいろな工夫をされていると思います。お互いに知っている研究室単位であればOBもまた研究室へ戻ってくる機会にもなると思います。教室側、応化会側共にいろいろな企画で学生達に対応してあげることが大切だと思います。

21世紀を担う皆さんへ、メッセージをお願いします。
〜〜〜自分の軸足をしっかり持ち、さらに隣接領域へ柔軟に踏み込んでゆくこと。〜〜〜

ミシガン大学
ミシガン大学にて
(画面をクリックすると拡大されます)

どんなことにもビクともしない体力と気力を保持し、まず自分の専門領域については軸足としてしっかり持つことが重要ですし、さらに分野融合で「化学がなすべき領域」がかなり拡大してきていますから、化学のまわりの領域である物理や電気、バイオなどまでにも柔軟に踏み込んでいってもらいたいと思います
 グローバルCOEに黒田先生も採択されましたが、早稲田大学では英語教育にも非常に重点を置き強化を図ってきています。
専門の化学の分野について相手を説得できるだけのレベルの英語教育を実施してきており、世界のどこに出ていってもまったくビビラないようになってきています。グローバルな戦いができる応化生を育てている訳で皆さん力をつけてきていると思います。
 大学ではいろいろなチャンスが用意されており、欧米の大学のキャンパスで勉強ができるカリキュラムもあります。自分の英語の論文を事前に提出しておいて添削してもらいながら専門分野での英語教育を受けるようなことも行っています。
 最後はどの分野でも人材が重要となっており、企業でもしっかりしたトレーニングされた人材の採用をしてきており、企業に入ってからもトレーニングは継続されますが、大学でもかなりのレベルまでの教育を受けしっかりした考えを持った人材として育っていって欲しいと思います。

(文責 広報委員会 委員 亀井邦明、取材日:2007/6/26)

西出先生の研究や経歴についてより詳細を知りたい方は以下のリンク先なども併せてご覧ください。

早稲田大学理工学術院 高分子化学研究室 Webサイト
 http://www.appchem.waseda.ac.jp/~polymer/index.html
  
応用化学科 研究者向けウエブサイト内の西出先生の紹介
 http://www.waseda-applchem.jp/lab/lab010.html?m=la
早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構内の西出先生の紹介
http://www.waseda.jp/scoe/06.html
リクルート進学ネット 早稲田大学の先生・卒業生内の西出先生の紹介
 http://shingakunet.com/gakkoustdguide/10991901/index.html
高分子学会会長就任への西出先生からのメッセージ
http://www.waseda-oukakai.gr.jp/info/niside/niside.html
高分子学会 ホームページの西出会長メッセージ
http://www.spsj.or.jp/