先生への突撃インタビュー(その8) 逢坂先生

活性化委員会・広報委員会 委員長 長谷川和正

新企画の「先生への突撃インタビュー」もスタートして二年目になります。本企画は、教室とOBとの連携を強めることで、早稲田大学の応用化学科が今後ますます隆盛になってもらいたいと考えたOB会活動の一つです。
  企業の新製品開発などに役に立つ情報を教室側の先生方に提供していただき、大学と企業間の情報交流のキッカケが生まれてくるようにしたいと考えております。可能なかぎり専門外の素人に理解しやすいような内容とするように心がけてゆきます。

 8番手として、逢坂 哲彌教授にご協力をお願いしました。
  逢坂先生は昭和44年(新19回)早稲田の応用化学科のご卒業で、博士号を取得された後ポスドク研究員として米国ワシントンDCで二年間研究され、その後早稲田へ戻られ、現在までご出身の研究室で教授として大学の運営や若手研究者の育成に心血を注がれておられます。
  先生は関連する研究分野の学会賞を総ナメにされた外、早稲田応化の特徴である基礎研究から実用化までを一貫して取り組まれてこられ、産業界へも新製品・新技術で大きく貢献され、その成果として大学への高額の特許料収入でも貢献されておられます。

第8回 逢坂 哲彌教授 (応用物理化学研究室)

先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?
〜〜〜恩師に言われたサイドワークの湿式のめっき法への取り組みがキッカケ。〜〜〜

逢坂教授写真

恩師の吉田忠先生は、OBの皆さんよくご存知のように指導が大変厳しい方でしたが、自分が研究室を選んだ理由は吉田先生の物理化学、特に熱力学の講義が非常に美しくて、スマートでこれにあこがれて入りました。その後、博士課程から助手として大学に残ることになりますが、自分の家系には教育関係の人が多かったのであまり抵抗なくきたように思います。

学生時代から電子・原子レベルでの緻密な金属膜を湿式で作るための基礎研究に徹底的に取り組むことができ、これが自分の研究哲学の確立に役立つこととなりました。吉田先生からサイドワークとして研究に取り組むように言われた湿式のめっき法が自分のライフワークとなったわけですが、それも基礎的なことを徹底的に行うように指導を受けたのが良かったと思います。

時代の一端終わった仕事を全部ひっくり返しもう一度見直すことで、まったく新しい学問として取り組みその研究成果を産業界で実用化することで、めっきやエッチングなどの湿式の製造プロセスを再構築しました。現在の金属薄膜の形成方法には、湿式と乾式のプロセスがありますが自分達は湿式プロセスを中心に研究を行ってきました。湿式、乾式ともに良い点がありそれぞれ目的に応じた使い分けができると良いと思っています。特に膜質の特徴は、湿式と乾式ではかなり異なってきますので最終商品に必要とされる膜の特性を確保しやすいプロセスを選択すべきだと思います。

電気屋さんは比較的湿式のプロセスになじみが薄いように思います。所属する技術屋さんに化学系出身者が少ないせいかもしれません。自分達のような化学系の研究は当時は湿式が主流でした。

技術的内容で先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
〜〜〜電気化学的な手法を主体とした機能薄膜創製の基礎研究を重視。〜〜〜

磁気記録媒体

磁気記録媒体
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私の実用化を目指した仕事の最初の取り組みが無電解めっき法による磁気ディスクの研究開発でした。日本電気(NEC)からの研究依頼で、磁気記録の研究に取り組み始めました。めっき膜の再現性を明らかにするために基礎的な原因追求を徹底的に行いました。

  湿式のプロセスですから使用するのは溶液で、その溶液の不純物を除く精製を徹底して行ったわけです。当時はまだ半導体産業でも水の精製に本格的に取り組む以前でした。その後むしろ我々の精製プロセスが半導体の製造プロセスに利用されてゆきました。今では信じられないような話ですが、めっきプロセスに使用される水は井戸水の方が多摩川の水や水道水よりも向いているなどというような具合で水の検討も必要でした。

 化学的に不純物の存在がめっき膜特性を変えることを明らかにして金属薄膜の析出とめっき浴中の不純物の関係を調べて、めっき膜質を制御する地道な研究へ取り組みました。この基礎研究がもとで当時としてはIBMの製品以上の世界最高水準の記録密度を達成し、この方法がNECをはじめとする実用化生産プロセスとして採用されることになりました。それまでは各社ともにスパッターなどの乾式プロセスが採用されていましたが、当時業界全体の標準プロセスとして湿式プロセスの無電解プロセス法が主流となり約60%のシェアーまでになりました。しかし現在ではスパッターディスクに置き換わっています。

これからの研究の展望を聞かせてください。
〜〜〜21世紀は健康医療分野の研究活動を新たに展開。〜〜〜

これからの時代は自分達も含めシニヤー世代の人口が増えてゆくので、研究の分野も健康や医療の分野へもっと重点的な研究がされてゆく必要があると考えています。早稲田 では先端科学・健康医療融合研究機構を白井総長を責任者として大学全体で各分野の研究者をまとめて研究に取り組み始めています。自分達は電気化学ナノテクノロジーをもとにバイオセンシングシステムに半導体微細加工技術を応用して、ディスポーザブルマルチセンサーを構築することに取り組んでいます。

健康寿命を延ばすための研究に重点を置いて、アジアの人達の役に立つことを実際に行ってゆかないと、日本をアジアの拠点として認めてくれなくなってきているように感じます。アジアの人達は、日本は自分達の都合のよい時にしかアジアに貢献しないと見ており、したがってだんだん日本への信頼が薄れ、やはり米国へ顔を向けるようになってきていると思います。

自分も今まではガムシャラに研究や研究室の運営に取り組んできていましたが、残された大学での時間を自分が先頭に立つことばかりではなく、時としては若手に先頭に立ってもらい、むしろ自分は若手の人達が動きやすい環境を準備する側にまわることで、若い人達が大きく育っていってくれることを期待したいと思います。そうすることが世代交代を円滑にして応用化学科が今後も発展してゆく原動力となると考えています。

大学と企業の連携についてどういうことをお考えですか?
〜〜〜連携は一年の短期ではなく、四〜五年間の継続を前提とすること。〜〜〜

これは恩師の吉田先生から言われたことではありますが、自分もその立場になって企業との共同研究などに取り組み始めてから先生が言われた意味が良く理解できるようになってきました。
  短期の共同研究ではどうしても人材が育ちあがってきませんし、学校側でも基礎的な研究のレベルが不十分で、企業での実用化が始まるとその生産上のトラブルなどへの取り組みに重点がいってしまい、基礎をしっかり固め足腰を強くすることに時間を取りにくくなりがちです。

 しかしながら4〜5年間継続して共同研究を行っていければ企業も大学も人材が育ち、大学でも基礎的なデータの蓄積が十分に整い学問としても体系的に扱えるようになってきます。また企業の実用化に必要なさまざまな問題の解決にも有効に働くと考えています。 ぜひOBの所属する各企業でも大学との取り組みに際しては契約上も最初からはっきりと期間は複数年とされることをお勧めします。

応用化学会の活動への期待を聞かせてください?
〜〜〜いつの時代も若い人達をエンカレッジしていって欲しい。〜〜〜

誕生日祝い女子学生と

2006年7月の誕生祝い女子学生と
(写真をクリックすると拡大されます)

誕生日祝い男子学生と

2006年7月の誕生祝い男子学生と
(画像をクリックすると拡大されます)

OBの皆様の浄財で新たに奨学金制度を拡充していただいたことは大変ありがたく、若い人達には大きな励みになっていることと思います。若い人達にはいろいろな観点で刺激を与え、エンカレッジ(激励、奨励する)していってもらうと、きっと大きく成長していってくれることと思います。

 産業界で活躍された諸先輩が、直接に若い人達の育成のために力を貸してくださることがなによりも若い人達をエンカレッジしていると考えます。自分も若い時に先輩にしていただいたように、応用化学会と若い先生方とのお付き合いが密になり、OBの方々が次世代を担う先生方を支援していっていただけると教室も応用化学会も隆盛になってゆけるのではないかと思います。

 自分もひとりのOBとして必要なお手伝いはしていくつもりでおりますが、少なくともこの数年精力的に活動してくださったOBの皆様のお陰で、OB会としても新しい路線が動き出しているわけですからこの路線をぜひ継承していってください。

21世紀を担う皆さんへ、メッセージをお願いします。
〜〜〜情熱を持って取り組めることを早くに見つけ出してください。〜〜〜

若い人達が興味を持って取り組めることが見つけ出せれば、それは多少睡眠時間を削っても頑張ることができるものと思います。それも日曜も祝日もなく勉強ができるのはやはり自分が情熱を持って取り組めることだからだと思います。そのためにはまず徹底して勉強することが必要で、勉強が進みいろいろなことが理解できるようになると初めて興味もわき情熱を持って取り組めるようになるのではないかと思います。

(文責 広報委員会 委員 亀井邦明、取材日:2007/6/1)

逢坂先生の研究や経歴についてより詳細を知りたい方は以下のリンク先なども併せてご覧ください。

応用物理化学研究室(逢坂・本間研究室)ホームページ
 http://www.ec.appchem.waseda.ac.jp/INDEXJ.HTM
逢坂教授の紹介
http://www.coe.waseda.ac.jp/osaka/osaka-j.html
応用化学科 研究者向けウエブサイト内の逢坂先生の紹介
http://www.waseda-applchem.jp/lab/index.html?m=la
早稲田応化会文部科学省 科学研究費 特別推進研究(COE)の紹介
http://www.waseda-oukakai.gr.jp/letter/classes/research_coe.html
早稲田応化会文部科学省 私立大学学術研究高度化推進事業 ハイテクリサーチセンター整備事業
http://www.waseda-oukakai.gr.jp/letter/classes/research_hightech.html
早稲田応化会文部科学省 科学技術振興調整費 戦略的研究拠点育成プログラム
http://www.waseda-oukakai.gr.jp/letter/classes/research_strategy_base.html
早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構内の逢坂先生の紹介
http://www.waseda.jp/scoe/osaka.pdf
逢坂哲彌教授のトリプル受賞にあたって
http://www.ec.appchem.waseda.ac.jp/oldnews/award.htm
ISI HighlyCited.com (ここ20年間余りに最も引用され科学界に貢献した研究者のみのデータベース)
hhttp://www.isihighlycited.com/
日本化学会 機関紙「化学と工業」7月号 VOL60-7 July 2007 : 私の自慢