新企画の“先生への突撃インタビュー”もスタートして半年になります。本企画は、教室とOBとの連携を強めることで、早稲田大学の応用化学科が、今後ます ます隆盛になってもらいたいと考えたOB会活動のひとつです。 企業の新製品開発などに役に立つ情報を、教室の先生方に提供していただき大学と企業間の情報交流のきっかけが生まれてくるようにしたいと考えております。 可能な限り、素人に理解しやすいような内容とするように心がけてゆきます。
3番手として、竜田 邦明教授にご協力をお願いしました。
竜田先生は、皆様ご存知のように慶應義塾大学工学研究科博士課程を終了後、武田薬品工業に在籍され、その後慶應義塾大学のご出身の研究室に戻られ、教授になられました。9年前より、早稲田大学の教授に就任されておられます。その間、米国のHarvard大学、英国のCambridge大学、仏国のParis Y大学、日本の微生物化学研究所などで研究を続けてこられ、実験の現場で、若手の研究者の育成に力を注いでおられます。
1953年に、ワトソンらによるDNAの二重らせん構造が発表され、遺伝子の勉強をやりたいと、中学、高校の間に考えていました。バイオケミストリーの研究を始めるために、慶應義塾大学医学部へ入りましたが、当時の日本ではまだ環境が整っていないことに気づきました。そんな折、慶大工学部の恩師となる梅沢先生の「夢の新薬カナマイシンの構造決まる」という新聞記事がでました。そこで、話を聞きに行った結果、工学部に移ることになり先生の下で有機合成化学の基礎研究と新薬の研究開発に取り組み始めたのが、この分野での本格的な研究へのキッカケです。
天然から単離された生理活性物質を化学合成することの意味は、新しい合成法や概念の創出はもちろんのこと、合成によって初めて当該天然物の構造を確証することができることや、生理活性を確認できることです。それによって初めて境界領域の研究も動き始めます。私の行っている天然物の全合成(最小単位の原料から天然物そのものを合成すること;平均約50工程を要する)は最終目的ではなく、その後の展開が重要であると考え、医薬品になりうる生理活性物質の研究に限定しています。それでも、すでに4大抗生物質を含め90種類以上の有用な生理活性物質の全合成を達成し、対象の生理活性の範囲もどんどん拡がっています。その知見を活用して新薬もいくつか創製しました。
そこで、「すべては全合成から始まる」という概念を提唱しています。
竜田先生
お互いに利用の仕方がヘタで、もっとどんどん交流したら、お互いにメリットがあると思います。
過去には、企業で行っている研究分野には、大学では取り組まない方が良いという先生方の意見もありました。私は、むしろ企業の研究を尊重しており、最先端の研究がされていると考えていますので、これに触れることが、大学の中でも重要だと考えています。自分の過去の研究成果だけを、一方的に企業に提供しているだけでは、自分達の進歩もありません。
「人の役に立たなければ化学ではない」と考えておりまして、世の中のニーズを知る意味でも、企業が今一番希望していることを、基礎研究をやりながらも、無理してでも取り込んでいくことが大切だと思います。大学の中でも、企業と同じレベル、あるいはそれ以上のレベルの実用的研究に取り組むことができる環境を準備することが必要と考えました。
幸いにも応用化学科の先生を中心としたプロジェクトが21COEの「実践的ナノ化学教育研究拠点」として採用され、「実用」にも目を向けさせることにつながりました。 21世紀型の研究室として重点的に整備を行い、共同研究課題の実施により、人材の育成や、新分野の開拓につながる研究成果も出てきております。早稲田大学の内部に限定することなく、外部の大学や、さらには企業の方々など、広範囲の人々の集まる場として計画したものですので、OBの皆さんにも、ぜひ積極的に参加して欲しいと思います。それが、ポスト21COEにもつながる鍵になりますから。
早稲田の同窓会規模は、皆さんが考えられている以上のものがあると思います。 私は早稲田にも、慶応にも卒業生のOBを持っていますが、早稲田の応化のOBは、もっと積極的に早稲田の先生方を利用することを、意図的に行った方が良いと思います。
まず、最初に早稲田の先生にお願いして、企業の研究開発などの相談にのってもらい、窓口として、海外や国内の他大学の先生方の紹介を受けたら良いと思います。これが同窓の“よしみ”で、OBも先生もお互いに活用すべきだと思います。早稲田の先生の中には国際的にも高く評価されている先生も多いということを再認識していただければありがたい。早稲田のOBはシャイな方が多いようで、自分の母校へは距離を置いているように見えもったいないと思います。母校は母港ですから、もっと積極的に帰港してください。
同窓会活動も、従来から話はありましたが、行動が伴っておりませんでした。したがって、今回の活性化委員会の活動には大いに期待しています。
私は、化学で生命現象が説明できるのではないかと考え、この道に入った訳ですが、現在かなりの部分が解明されてきています。それも、化学すなわち分子レベルで、説明ができます。しかし、世の中では、化学のすばらしさがあまり理解されていないように感じています。
物理学や数学の分野では、次世代の社会への夢を語ることができる人達がおり、有名なエッセイストがおられますが、化学の分野にはおられないように思います。化学者はフィクションが書けないからかもしれません。
化学の現在の進歩が、20世紀の初期の頃と異なり、何となく理解できるために、感激が乏しくなっており、なにもビックリすることがなくなっているのではないでしょうか。実際には大変なことが連続して起っているのですが。
化学の進歩の意味と意義などについて、一般社会の人々に、平易な言葉でコメントすることができればと考えています。
将来の目標に向かって、多少寄り道するぐらいの余裕をもって、あまり直線的ではない方が良いかもしれません。その方が、幅の広い発想ができ、良い結果が得られるのではないでしょうか。
ちょっとしたことでもよいので、こだわりをもって生きていってもらいたい。自分で考え、自分でやりたいことを探し求めていくことが大切です。そして、これと思ったらとにかく愚直に熱情と執着心をもって成し遂げる。したがって、先生や先輩に言われたことを、ただやっているだけではダメです。自分の意志による最初の一歩が大切です。
(文責 広報委員会 委員 亀井 邦明)
竜田先生の研究や経歴について、より詳細を知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。