第15回 交流講演会速報
(画像をクリックすると拡大表示されます)
日時:2010年7月31日(土)14:30〜16:00 引続き 理工カフェテリアで懇親会
場所:63号館04, 05号会議室
演題:『JX日鉱日石エネルギーの新エネルギーへの取り組み』
|
講師 安達博治氏
- 1980年応化卒(菊地研)、1982年修士課程修了、同年日本石油(株)入社
- 現在、JX日鉱日石エネルギー(株)執行役員・製造技術本部製造部長
|
下井交流委員長の本日の講演会に関する案内の後、河村応用化学会会長の挨拶、恩師にあたる菊地教授よりの紹介に続き、教員・OB 66名、学生64名、合計130名の聴衆を対象に講演が始まった。
<講演の要旨>
- 本年7月1日よりJX日鉱日石エネルギー(株)となった。社名より「石油」が消えたことからも象徴されるように今まで石油に全て依存していたエネルギー・資源・素材領域の未来を如何に創り上げていくかが大きな目標である。安達氏は製造技術本部で全国11箇所となった生産拠点の操業を統括したり、今後の設備戦略を策定したりされている。
- 講演は、@JXグループの紹介。A資源の有効活用。B新エネルギーへの取り組み。という順序で進行した。
- JXグループ(JXホールディングス)は、石油精製販売事業(JX日鉱日石エネルギー(株))、石油開発事業(JX日鉱日石開発(株))および金属事業(JX日鉱日石金属(株))の各事業を併せもつ世界有数の「総合エネルギー、資源、素材グループ」を標榜している。所属するJX日鉱日石エネルギー(株)は、製油所の競争力強化、石油化学品の増産、海外潤滑油事業の拡大、新エネルギー事業の推進、LNG輸入基地プロジェクトの推進に注力している。
- ここ数年原油価格の上昇は続き、一昨年のリーマンショック前には147$/Bまで達した。近い将来の価格を推定すると投機資金も考慮してmax130$/B程度と考えるべきであり、90年代までの20$/Bには遠く及ばない。石油をカロリーとして使う発電は経済的に無理であり、素材として有効に活用することが今後のポイントとなると考えられる。
- 石油の確認埋蔵量と可採年数は2009年末で、世界で53年(OPECでは88年、非OPECでは27年)と考えられている。ただしオイルサンド(高粘度の重質油を含む砂や砂質岩)、オリノコタール(ベネズエラに存在する超重質油)、オイルシェール(石油の素となる有機物を含む堆積岩)等の非在来石油を含めると280年分はあるとの試算もあり、掘削技術や開発技術の発展も期待されるところもある。
- エネルギーの環境対策すなわち石油の高度化利用技術としては、サルファーフリー、高効率石油燃焼機器(燃費改善にもつながりディーゼルシフトによりさらにCO2削減に資する)、石油残渣(アスファルト)ガス化複合発電(IGCC)、高過酷度流動接触分解(HS-FCC)(プロピレン収率を従来法の4倍以上高める)が実用化に向けて進行しており、エネルギーの太宗を占める石油の有効利用は、安定供給および低炭素化のベースとなる重要な戦略と考えられる。
- 新エネルギーへの取り組み(エネルギーの環境対応技術)としては、安定供給と低炭素化がキーワードであり、バイオガソリン、バイオディーゼル、バイオジェット、燃料電池システム、水素、太陽光発電、風力発電、木質バイオマス活用等が検討されている。
- わが国の新エネルギー導入は、楽観的に考えると2005年と比較して2030年見通しで2.4倍(一方石油需要は34%減)となるが、一次エネルギー全体に占める割合はそれでも7.4%にしかならない。
- バイオETBEを配合したバイオガソリンの販売が2007年4月より開始され、2010年には84万kl導入予定である。以前のバイオエタノールとガソリンの混合物と異なり、バイオエタノールとイソブテンからなるバイオETBEとガソリンを混合することにより「質」を高めることができた。しかしながら現在世界で生産されている穀物と糖すべてをエタノール化しても全世界の必要エネルギーの僅か4%しか賄えないという試算となる。
- 前段の事情もあり、セルロース系バイオエタノールの技術開発を、トヨタ自動車、鹿島建設、JXエネルギー、東レ、サッポロエンジニアリング、三菱重工とバイオ燃料革新技術研究組合を設立し検討を進めるとともに、東京大学、農林水産関係研究機関とも共同研究を連携している。その他品質に優れた第二世代バイオディーゼル技術開発や微細藻類(ミドリムシ)を用いたバイオジェットも関係各社との共同開発を進行している。
- 天然ガス(CO2含有ガス)の有効利用のためのGTL(ガス液化)技術の実用化、水素供給・利用技術や太陽電池モジュールを用いたサプライチェーン構築に関しても数社とコンソーシアムを作り検討をしている。一般家庭用としてもENEOS、エネファームの仕組みも提案し一部販売も開始している。
- 環境配慮型低炭素社会のエネルギーネットワークとその戦略に関しても常にアップデートしていく必要がある。当該領域では従来型の変化を先取りするのではなく、変化に毎回対応し続けられる企業が勝利すると考える。いろいろなことにトライしダメならやめ、いろいろなことをやってみるという考え方が大変大切であると考えている。
- 質疑応答
- 講演終了後時間の制約があったが、2つの質疑応答がなされた。MTBE混合はどうなったかとの質問に対しては、日本では自主的に中止しETBEへと移行したこと、ただしMTBE製造設備は有効に活用されたとのことであった。石油が枯渇していくという事実を踏まえ、コストと環境の問題に関してどのように時間軸を踏まえて折り合いをつけるかとの質問に対しては、バイオガソリン等コストとの関係で導入されていくと考えられる。環境意識の向上もドライビングフォースとなると思われるとのことであった。
- 講演所感
- 今回の講演会には学生諸君の参加も多かったが、国家戦略の根幹ともリンクする企業活動のまったなしの現状および多くの分野での研究投資の重要性、また現在社会では大きな課題に対しては産・学・官を超えてコンソーシアムの重要性が指摘された。実社会におけるもの作りやビジネス現場で日々環境変化への不断の対応を担当された方からお考えや実感を生々しく聞くことが出来る良い機会であった。
<懇親会>
冒頭、平林副会長挨拶、菅原教授から化学オリンピックの紹介もあり懇親会が開始され、多くの聴講者が参加した。安達氏は懇親会会場でも親しくOB、学生諸君からの質問に精力的に答えられ、賑やかな談笑の輪がいくつもでき懇親を深めた。会社後輩の佐久間さんのエール及び校歌斉唱、岡本交流委員の挨拶で閉会となった。
スナップ写真集は → こちら
(文責:交流委員 岩井義昌、河野善行 写真:広報委員会)