第11回 交流講演会の報告(速報)
日時 :2008年12月13日(土)15:00〜16:50
場所 :57号館202教室
講師 :岸本 信一氏
1978年応化卒(豊倉研)、1980年修士課程卒、
同年味の素(株)入社
現在、味の素(株)執行役員・コーポレート経営企画部長、工学博士
演題 :『アミノ酸系甘味料アスパルテームとともに』
−その発見から事業化、R&Dと特許係争を巡って−
下井交流会委員長の本日の講演会に関するご案内の後、河村応用化学会会長のご挨拶、豊倉研で2年先輩にあたる平沢教授よりのご紹介に続き、教員、OB、学生105名の聴衆を対象に、岸本信一氏による講演が始まった。
岸本 信一氏の講演要旨
- 講演会参加者へのお土産としてご持参頂いたアスパルテーム入りのフルーツカルピスおよび「パルスイート」の紹介が講演の導入としてあり、その後自己紹介と会社紹介、アミノ酸系甘味料アスパルテームについて、アスパルテーム事業化の技術的課題、甘味料アスパルテームの事業展開と、講演の主題のアスパルテーム(ジペプチド)の合成法から製造プロセス、競合会社との鎬(しのぎ)を削る闘い、特許係争と、アスパルテームを中心とした演者が係ってきたビジネスの現場のドラマチックな展開を講演頂いた。
- アミノ酸系甘味料アスパルテームは、1965年、G.D.サール社の研究者により偶然に発見された。L-フェニルアラニンと L-アスパラギン酸からなるジペプチドで、甘味倍率は砂糖の約200倍である。現在2万tが世界中で生産され、食添認可は125ヵ国以上、6000種類以上の食品に活用されている。
- 光学活性の原料アミノ酸の合成法と発酵法、また異性体等の不純物をなるべく含まないペプチド合成法の選択や事業化過程で成されたイノベーションについて、またその製法の変遷に関してもまとめて講演された。不断の努力により、後から参入してきた競合企業との「苦い競争」でも、最終的に勝利を収めることとなった。
- アスパルテーム事業化において、合成とともに製造プロセスでは、演者の豊倉研での研究テーマでもあった生成物の晶析プロセスがポイントとなった。アスパルテームの大きな結晶は、単結晶ではなく、束状晶であることが特徴であった。従来の撹拌冷却晶析で得られる針状結晶は、分離・乾燥負荷が大きく、これに対して、一般的な常識からでは考えられないことであるが、静置冷却晶析によって得られる束状晶の分離・乾燥作業性が大変良好であることを見出した。講演では、この詳細を後の特許係争でも活用したビデオを用いて説明頂いた。
- 静置晶析の特許化については、なるべく強い権利とすべく、装置特許にはしないで、プロセスクレーム(強制流動を与えない、冷却後結晶がシャーベット相を形成する濃度)および物質クレーム(電顕写真による束状晶という物質特許)とする方針で特許化した。論点としては、実験室における一般常識である「ビーカーの冷蔵庫内放置」との差別が求められたが、工業規模であるという限定(工業的静置晶析プロセス)を、工業晶析の世界的権威Mullin教授の理解と意見書、説明ビデオ作成により主張した。一貫してChemical Engineerとしての価値観で論じて、権利を勝ち取ったと演者は強調された。
- アスパルテームは、徹底的な安全性評価を経て、1981年FDA認可、1983年厚生省食添指定された。また甘味強度と安定性の関係、実質ゼロカロリーであること、非う食性であること、血糖値に影響しないことを示した。
基本特許切れを待ちHSC社が参入、コスト競争、特許訴訟、法廷闘争で鎬を削った。(G.D.サール社の後身である)NutraSweet社は自分の利益も少なくなるが、HSC社に利益が出ない価格政策を採った。この事業戦略の是非はビジネススクールの教材にも取り上げられているが、結果的には2006年HSC社を事業撤退に追い込んだ。
- 最近いくつかの新甘味料が登場してきているが、アスパルテームは世界でサッカリンを除けば、No.1甘味料の位置を保ち、さらに伸長している。
懇親会
引き続いて56号館 理工カフェテリアにて懇親会(17:00〜18:30)を開催。
木野教授の副会長ご挨拶の後、恩師の豊倉名誉教授から、ご挨拶と岸本氏の学生時代の紹介もあり、乾杯となった。岸本氏は奥様同伴で講演会に参加され、懇親会では奥様もスピーチされた。岸本氏は懇親会会場でも親しく学生諸君にも精力的に語りかけられ、賑やかな談笑の輪がいくつもでき懇親を深め、講演者と同姓の女子学生岸本紗知さんもスピーチされ、また講演会には間に合わず懇親会のみに駆けつけたOBもあって、会場は大いに盛り上がった。田中学生委員長の元気溌剌なエール及び平林副会長の厳かな締めにより、閉会となった。
(文責:河野善行)
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