第3回講演会報告 講演者:城戸 淳二氏

城戸 淳二氏
  • 講演者:城戸 淳二氏
  • 演題:「有機ELの展望と地域活性化」
  • 日時:2005年11月21日(月)17:00〜18:30、懇親18:30〜20:00
  • 場所:大久保キャンパス 55号館1階 大会議室
  • 略歴:新34回生、1984年卒業、工学博士、現在 山形大学工学部教授
    (経歴詳細と主な著書はこちらをクリックして下さい)
 


  1. 有機ELの展望

      ある種のポリマーが電気を流すことは25年以上前に分かっていた。有機物に電圧をかけて、光らせる研究は以前から続けられていた。1987年にAL系錯体を使って短い時間ではあるが「有機物を光らせる」ことに成功し、論文が発表された。それ以降、材料、デバイス化、量産技術の研究が重ねられてきたが、現在では波長によっては10万時間を越える寿命をもつ有機EL材も開発されている。更に長寿命化を目指して多層化(タンデム化によるマルチフォトン素子)の開発、発光効率を上げるべく蛍光から燐光材の開発、量産化技術の開発等が進んでいる。その結果 ディスプレイ類への利用が可能になり,有機ELにとって明るい未来が展望されつつある。

    1.    薄型ディスプレイへの展開
    2.   現在のディスプレイはテレビ、パソコン、携帯電話、PDA、デジタルカメラ、車載パネルと多いが、それらはブラウン管、液晶、プラズマ等の市場となっている。そのなかで有機ELによるディスプレイは携帯電話や車載パネル用に一部実用化され使用されつつあるが、ソニーで24"、セイコーエプソンでは40"の試作品も発表されており,長命化が可能になってきたことから、次世代のディスプレイ技術の本命と目される様になってきた。特に有機ELディスプレイは 競合すると思われる液晶やプラズマディスプレイに比較して優れた特性を持っていることから、最近注目され、市場で大きく伸びている大型の薄型フラットディスプレイ(主にTV)分野ではその有利性が注目されている。
      有機EL、液晶、プラズマを項目別に比較して、まとめると表の如くとなり、多少の身贔屓はあると思うが、あらゆる項目でその優位性は認められる。

      液晶PDP有機EL
      消費電力×
      応答時間
      大型化
      視野角
      寿命
      フルカラー
      コスト

        プラズマディスプレイは現在では大型ティスプレイに限られており、将来的にも小型ディスプレイに向かない技術と考えられている。
      ここでは特にディスプレイの殆どの分野で競合すると思われる液晶との比較に絞って見ると、

      • (イ) 消費電力は、有機ELは非常に少なく、今後大きな環境問題化する省エネ対策面では有利である。
      • (ロ) 応答速度では液晶はかなり問題がある。液晶の応答速度は有機ELに比べ かなり遅く(1000倍近く遅い)、そのために動きの速い画面では残像が気になる。
      • (ハ) 大型化に関してはコスト面との関連があるが、液晶は実用としては60"位が限界であり、これに比べ有機ELは印刷方式の開発等によっては200"位間迄の超大型でも可能性が大きい。
      • (ニ) 視野角でも液晶は斜めからは大変見づらくなる。有機ELでは斜めから見ても正面から見る場合と全く変わらない。
      • (ホ) コスト面では液晶ディスプレイはパネルに使用される部品類が有機ELの約2倍で、このことは将来のコストダウンに大きな障害となると考えられる。
      • 表にはないがその他の面では
      • (へ) 薄型化と重量で、液晶は自発光ではないため バックライトが必要となり、また2枚のガラスで 液晶をサンドイッチすることから どうしても厚くなってしまう。重量でも40"で40Kg位になり もはや壁掛けテレビとは言えない。その点有機ELでは極端な場合、ペラペラのフィルムでディスプレイ化することも可能であり、非常に軽量化が出来、薄型化ができる。更に画質であるが、液晶では輝度が低く、有機EL程のコントラストが得られないので 真白から真黒までのグラデーションの表現がかなり見劣りし 画面の見易さに於いて有機ELの方が優れている。
      以上の様にその特性から考えてディスプレイ分野における将来性は非常にあると思われる。

       それでは実際は何年頃から有機ELディスプレイを使用したテレビが世に出るのかというと、現在考えられている技術ロードマップからは2007年度には中型クラス、2008〜2009年には大型クラスが発売されると考えている。 そのためには現在使われている有機ELの真空蒸着法が点蒸着から線蒸着に変えるための大型リニアソース蒸着機の開発が待たれている。

    3.    照明への展開

        現在照明として使用されているものでは蛍光灯が圧倒的に多いが、蛍光灯には水銀が使われており、将来環境上大きな問題となると思われる。有機ELによる照明パネル化は10年前に私の研究室で白色有機EL素子の開発に成功し サイエンス誌上に発表し大きなセンセーションを起こした。それ以来アメリカのGEを始め多くの照明メーカが実用化の研究開発に取り組んでいるので、近い将来蛍光灯に代わる有機ELによる照明パネルが出てくると考えている。蛍光灯に変わる照明としてはLEDが既にあるが、LEDは粒状であり スポットライトかダウンライトとしては向いているが 、薄型で面状の光源としては有機ELのパネルが使われるようになると考えている。

      また将来的には消費電力が蛍光灯の1/2程度まで下げられると考えられており、省エネルギー効果が大いに期待される。そうなると有機EL照明が普及すれば国内消費電力の37%が削減されると試算されている。
      またフィルム化した照明パネルの発達の可能性も大なので、建物のアールに沿った照明も出来る様になる。照明の場合は1パネル当りの価格は安くなるが、テレビ等のディスプレイに比し使用量がはるか多くなる。それだけに高効率化と低コスト化が必要となるが、市場としての魅力は非常に大きい。

  2.   先端技術は何故韓国、台湾に追い抜かれたのか、有機ELの場合はどうか
  3.   今現在 有機ELの分野では技術的に圧倒的に日本が世界をリードしている。しかしながら韓国は既に多くの研究投資と人材を配置しており日本を追いかける体制が整いつつある。今迄の例だと半導体のメモリーや液晶ディスプレイのようにかつては日本が圧倒的に優れた技術を有していたものが、韓国、台湾にどんどん追い抜かれてしまった。このままだと将来性の豊かな有機ELの分野でも同様の事が起こりかねないと危惧されている。せっかく日本の国内で研究開発し実用化に市場を立ち上げても結局は技術力で日本に勝っているとも思えない外国にシェアをとられてしまうというのではなさけない。

      液晶のケースでみてみると最初は100%であった国内生産はどんどん低下して今では30%を下回っている。韓国や台湾で彼らが使っている材料も種々の部品も量産のための製造装置もほとんど日本製であり、パネル化の技術も日本から行き、技術者も日本の企業を辞めて彼の地で指導をしている。従って彼等の技術力が日本より優れているわけではないのに市場では負けてしまったのはなぜか。原因は経営の問題にあると言える。液晶は基板サイズでみると現在第6〜第7世代に入っており、韓国では第8世代への準備が始まっている。この間一世代ごとの製造ラインへの投資は1000億円を超えていることが多い。それが1〜2年のサイクルで続けられてきた。そうでないと多面取り、大型化に対応したコストダウン競争に勝ち残れなかった。

     景気の変動や17市場の伸びが順調でないときに逡巡して一旦投資を怠ると、その世代でのコスト競争で負けてしまう。日本の企業では状況の厳しいときに1000億円を超える投資を、社運をかけてでも決断出来る様な経営者はなかなかいない。韓国や台湾の企業はオーナー経営であるからその決断ができた。日本ではシャープだけが何とか頑張っているが、その他の電機メーカは液晶パネルの製造をあきらめるか、製造をしていても赤字の状態である。従って今後も1000億円の投資を続けてゆくことは不可能であるどころか、現在保有している肝心の技術力も低下し、分散してしまう。

     それが液晶のパネル製造で日本が抜かれた理由であって、経営トップの経営姿勢が全ての原因であると言える。更にもう1つの問題として、国の先端技術に対する支援に日本と韓国、台湾、中国との間に大きな差がある。例えば日本は法人税が非常に高いが、彼等は逆に税の優遇処置がある。

  4.   技術・製造の垂直結合と日本式産業連携の採用

  5. ―地域活性化としての山形有機エレクトロニクスバレー構想―

      日本で成功しているトヨタ等の自動車産業をみると、グループ内で部品の生産をおこなっている。ディスプレイ分野でも液晶分野のシャープ、プラズマ分野の松下が材料、パネル化技術、製造装置と関係会社を含めて自分達で一貫してやるべく努力して成功している。もし外部からの調達によるウエイトが高くなると、コストダウンへの対応が難しくなる。従って技術、材料、生産を垂直に統合することが出来れば 強い体制を維持することが可能になると思う。
     有機EL分野では幸い今のところ材料メーカー・パネル製造メーカ・量産製造メーカと全部国内に揃っており、垂直結合モデルをつくって上手く連携をとってゆけば、絶対外国に負けない産業として成長することが出来る筈である。もし、有機EL産業に携わる各企業や研究部門がバラバラだと半導体・液晶の二の舞になってしまう恐れがある。そこで山形大学が中心となって、日本式産学官連携の組織を作って既に活動を開始している。これが山形有機エレクトロニクスバレー構想である。

     日本ではこのようなプロジェクトに対して国からの援助は少なく、また経済産業省と文部省との連携も全く期待できないので、山形県から43億円/7年間の予算をもらいスタートしている。まず米沢の山形大学の側に有機エレクトロニクス研究所をつくり、そこに大企業からだけででなく中小企業も参加した共同経営体を構成した。中小企業からの参加は日本の産業を支えた物づくりの現場は中小企業が多いからであり、企業の大小でなく技術を持っている会社の参画をめざした。この共同研究は有機ELを中心とした有機半導体デバイスの研究開発であるが、基礎研究だけでなく実用化に向けて如何に安く製造するかという量産プロセスの開発による商品化までも研究内容としている。

     前項で述べた照明に関しても照明用有機ELの開発、実用化テーマも含まれている。有機エレクトロニクスバレーの立地条件として山形県米沢市は、大変恵まれている。これは米沢近辺でディスプレイ関連の工場や中小企業が多く精密加工技術や実装技術のレベルが非常に高い。したがって量産化のための装置の開発も有利に進めることが出来る。そうして有機エレクトロニクス研究所が中心となって山形県内の企業の力をまとめることが出来れば、革新的な量産装置をつくってコストの安い製品を作り出すと同時に、材料、部品から製造装置までの垂直統合モデルが出来、いずれ大企業の工場も集まってきて 地域活性化につながるものと確信している。

     他県にもバレー構想はあるが、いずれも工場誘致から始めており山形の場合とは順序が逆である。また基本的に国の予算でなく県の予算で運営されており、県が自腹を切って研究開発を進めている全国唯一のバレーである。有名なアメリカのシリコンバレーはスタンフォード大学の研究成果からスタートした技術発信型であるが、その意味でも山形大学、山形有機エレクトロニクス研究所を中心とした技術発信型のバレー構想という面でも他のバレーとは大きな違いがある。


質疑応答
質問1:有機エレクトロニクスバレーは何故山形か?
回答:地元山形には関連企業があり、大きなメリットになっている。
(最大のメリットは城戸教授が地元山形に在住し、山形大学の教授であること、そして山形県行政が資金支援していること)
質問2:有機ELの応用分野 太陽電池について、タンデムの技術による高効率化の工夫などにより、シリコンケ系よりも良いものができるんではないか?
回答:有機太陽電池には色素増感太陽電池(グレッツエル電池)、ポリマーブレンド、 色素蒸着系太陽電池がある。タンデムにすることにより、光の吸収量をあげるとか、いろんな波長を吸収して、高効率の向上は可能である。山形にある有機ELの装置で実験ができる。


懇親会:引き続いて行われた懇親会では講演者城戸教授は多数の同窓生の質問やら激励のエールがおくられ、賑わった。懇親状況は掲載写真をご参照してください。
講演会と懇親会写真(クリックで拡大)
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    城戸 淳二氏のプロファイル
  • 1984年3月早稲田大学理工学部応用化学科卒業
  • 1984年9月ニューヨークポリテクニック大学大学院Polymer Chemistry専攻入学
  • 1986年2月M.S.(工学修士号)取得
  • 1988年2月Ph.D.(工学博士号)専攻終了
  • 1988年3月山形大学助手 工学部高分子化学科
  • 1995年年5月助教授 工学部物質工学科
  • 1996年4月助教授 大学院工学研究科生体センシング機能工学専攻
  • 2002年11月教授 工学部機能高分子工学科
  • 1990〜 1992年 アメリカ ブルックヘブン国立研究所 客員研究員
  • 2003年〜 山形県産業技術振興機構 有機エレクトロニクス研究所所長
  • 2002年〜 経済産業省・NEDO「高効率有機デバイスの開発」プロジェクト研究総括責任者
  • 2004年〜 NEDO「照明用高効率有機EL技術の研究開発」プロジェクト 研究総括責任者
  • 2007年〜 教授大学院理工学研究科有機デバイス工学専攻(配置換えによる)


講演者の主な著書
「有機ELのすべて」
平成15年  日本実業出版社
「突然変異を生み出せ」
中村修二・城戸淳二共著 平成15年 日本実業出版社
「日本のエジソン城戸淳二の発想〜成功は成功を呼ぶ〜」
平成16年  KKベストセラーズ
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