国立大学法人 北海道大学
創成科学共同研究機構 教授/研究企画部長
高橋 浩
1.応用化学科創設90年、おめでとうございます!
1)自己紹介
応用化学科創設90年、理工学部の再編、先進理工学部応用化学科として再スタートした年度に、応化OBとして一言書けるとは大変ラッキーである。
以下、日頃思っていることを書くにあたり、何故こういう事を考えるに至ったか、その背景説明の為、自己紹介をする。
生まれは、団塊世代の昭和22年、上石神井の学院を卒業し、入学は、学園紛争ただ中の昭和41年、卒業は昭和45年、西出 宏之教授と同期の「花の45年組」である。土田 英俊教授のご薫陶を得て、高分子化学を学び、三菱油化(株)(現三菱化学(株))に入社した。
ポリプロピレンの製造現場へ配属され、公害対策プロセス設計、技術輸出の手伝い等に従事、入社時に聞かれたモットー「新規一生」(将棋・升田九段の「新手一生」)のパクリ)をたてに上司との交渉の結果、目出度く企業研究者へ仲間入りし、それからは全て新規分野を担当した。
四日市の樹脂関連研究所で、新規高機能性樹脂、新規高性能樹脂の探索、材料及び用途開発に従事していたが、三菱化成との合併が決まり、合併準備の為本社へ転出、機能性樹脂、中間体事業等の技術及び全社研究関連を担当した。
平成14年に設立された北海道大学・創成科学研究機構の研究企画室長(当時)の公募があり、会社からの勧めもあり応募し、同年9月末日三菱化学を退職し、初代の研究企画室長として北海道大学へ赴任し、現在に至っている。
2.現在の応化、早稲田は大健闘中! でも10年後は?
1)アカデミアの世界から見た応化、早稲田
大学に身を置いて見ると、現在の早稲田は、各分野で良く健闘している。その根拠は、21COE及びその後継であるグローバルCOEを始めとする大型外部資金の獲得状況、統計的データは無いが卒業生が他大学での教授、准教授就任状況、小職の専門である高分子科学分野での研究の質の高さ、論文数等を尺度とした場合である。
2)産業界での応化、早稲田OBの活躍
小職は、会社時代、新規樹脂の材料開発、用途開発を通して、自動車、電気、情報、化学、重工業等日本を代表する企業の研究開発部門、本社組織等との付合いがあったが、そこで活躍している人材に早稲田OB、中でも応化OBが多いのは驚きであった。勿論、出身大学や専攻など最初から聞くことは無いが、これはと思う人材と深くお付合いし、たまたま話題にした結果である。これはと思う人材とは、「自分なりの物差しをきちっと持っている。決めたことはきちっと対応する。逃げない。」等である。
3)実社会から見た化学特に応用化学を身につけた卒業生の強み
前1)項及び2)で述べたアカデミアと産業界での応化OBの活躍状況を見て「何故か?」を考えて見たい。勿論優秀な個性豊かな学生が集まり、早稲田スピリットを持った先生方の教えを受けたのも大事な要因であるが、化学分野の持つ裾野の広がりの大きさも大きな要因ではないか?
国の科学技術基本計画の重点領域である生命、ナノテク・材料、環境・エネルギー、情報のいずれの分野でも、化学は基幹となるサイエンスである。従って基幹となるサイエンスを担う応化OBは、各産業分野でリーダーになる機会が多いのでは無いか?
また、数学・物理系に比べ、多様な価値観を持っている人も多いのでは?
4)でも10年後は? 20年後は?
早稲田出身者、中でも応化出身者には、今後もアカデミア、産業界でリーダーとして活躍して欲しいと思うし、そのポテンシャルのある人材が揃っていると信じている。しかし、ちょっと心配な事もある。それは、未熟でも良いから、自分の考え、自分の信念、自分の目標等で先輩に論争を挑む後輩が少なくなっているのでは? 言い負かされて傷つくのを恐れる後輩が多いのでは? 情報を集め、見事な評論は展開するが、自分でやり遂げようとしない後輩もいるのでは? 現在の自分の周りに、次の30年を担ってもらいたい早稲田及び応化関係者が少ないせいか、そう感じることが多い。
このことは、杞憂に終わって欲しいと思う。
早稲田の文化は、「不言実行」では無く、「有言実行」なのだ。
3.次の30年を担う皆さんへ
1)私立は、「志立」である
前総長の奥島先生が、「私立」は「志立」であると話されていると仄聞しているが、明言である。早稲田は、創立の理念、理工学部の設立理念から始まり、原点は何か、目指す物は、何かを追求して来た。先進理工学部・応用化学科のモットーは、「役立つ化学・役立てる化学」とのこと。目指すものが、誠に明快である。
これを個人にあてはめると、早稲田で学んだ一人一人も、よって立つところは、「志」を持ち、その志に向って前進し続けることにあるのでは無いか?
2)早稲田スピリットは、「信念を持ち続けること」では?
個人経験に基づく話は、普遍的真実ではないのは承知で話すと、若かりし会社時代、高分子学会東海支部の若手会立ち上げと活動に注力した。しかし、当時の上司の中に「学会活動をするような奴は、評価は最低だ」と宣告された。だが企業研究者といえども、ベースとなるサイエンスを学ぶには、アカデミアとの連帯が必要との信念で続けたことが、今では大きなネットワークになり、現在の自分を支えてくれている。
自分でこうだと思ったら、風を読み、逆風の時は密かに潜り、風向きが変わったら表に顔をだし、やり遂げるのが早稲田スピリットと思う。「時よ、時節よ、・・・」、これを忘れないで欲しい。
右:高分子学会賞・技術賞受賞記念写真、高分子学会からのご提供
左:同、日刊工業新聞ご提供
*写真をクリックすると拡大します。
3)情報を集めるのは、その情報を参考に決断する為
現在北大・理学研究院の博士課程修了生及びポスドクの産業界への就職支援活動をお手伝いしているが、強く感じることが有る。それは、企業情報を沢山集め、集めた段階で思考停止の傾向が強いことである。情報を集めること自体が目的で、その情報をベースに「自分は、どこの企業で、何をしたく、自分はこういう点で貢献出来る。」というロジック構築に役立てていない気がする。早稲田、応化の卒業生もこの傾向に陥っていないだろうか? 情報過多の時代、「情報を集めるのは、その情報を参考に決断したり、考えの基軸の部分修正が必要か否かを判断する為」という事を忘れないで欲しい。
4)慶應に見習っても良い点
北大へ赴任して、驚いたことがある。慶應出身の某社支店長から、「慶應出身の北大教員は、・・・・」と名簿が示され、「稲門会は?」と聞かれ、ハタと困った。仕事を通して、稲門会出身の教員が少しずつ分かったが、組織だった動きは無い。アカデミアでも産業界でも稲門会の話はあまり聞かないが、これは従来各個人が、己の力量で勝負してきた結果であり、あまり横のつながりを重要視して来なかった事に起因するかも知れない。個人の力量勝負は、早稲田、応化の良さとして残して行く一方、アカデミアも産業界も複合・融合分野に発展の可能性が大きい時代、もう少し縦と横の繋がりも大事にしても良いのでは?!
4.感謝
齢60になると、「花の45年組」を通した横の連携、高分子研究室卒業生の集まりである「高研会」を通した縦の連携の支えが、今日の自分を作り上げてくれたとつくづく思う。不器用で、言い出したらなかなか言うことを聞かない後輩に対し、三菱油化の応化出身の先輩方が精神面で支え下さった事に改めて感謝を申上げたい。末尾に諸先輩が北大へ後輩の教育的指導と慰労にお出で下さった時の写真を掲載し、筆を置く。
フレフレ応化! フレフレ早稲田!
以上